史上最強の武偵   作:凡人さん

11 / 18
なんだかんだで分割します



名を継し者ども 前編

『武偵殺し』が過去に行った事件にはバイクジャックとカージャックの2つがある。けれど、それだけではなかったとすれば。

 

あくまでも可能性の域を出ない事件の中に、1つ奇妙な事件があった。

 

その事件、表向きには『浦賀沖海難事故』として処理されたものであるが、仮にこれが『武偵殺し』によるシージャックだとしたら。

 

確たる証拠はないけれど、兼一が自身の違和感を解消するにはこの事件を『武偵殺し』の犯行と仮定する以外に道はない。加えて、キンジの兄遠山金一が逃げ遅れたというよりも、犯人と直接対峙し敗れたという方が真実味はある。

 

今回起きた2件の事件を過去の犯行になぞらえているとすれば、次に予想される犯行はハイジャックである。また、シージャックの時と同様に武偵と直接対決をするはずだ。

 

『武偵殺し』の狙いは理解したが、飛行機など無数にある。そんな中どれに仕掛けるつもりなのか。これ以上の手掛かりが得られない状況で、兼一にターゲットとなる飛行機を見分ける方法はないのだった。

 

しかしそれに対する答えは、突然かかってきた電話が教えてくれた。

 

『よう、相棒。返事とか挨拶はいらねえ。前に情報を送ったアリアとかいう小娘、7時の便でロンドンに帰るみたいだぜ』

 

「頼んでないけど助かった」

 

気味の悪い笑い声とともに何か語るのを聞き流し通話を終えると、絶妙なタイミングでのアシストに僅かばかりの戦慄を覚えつつ、荷物片手に夜の街を風と化して駆け抜けるのだった。

 

そうして羽田空国第2ターミナルに兼一が付いたのは、キンジの数分後であった。

 

 

 

空港のチェックインを武偵手帳についている徽章で突破し、金属探知機の横を抜け、ゲートに突っ込む。そのままボーディングブリッジを走り抜け、閉じたハッチにつかまり、存在を知らせるように窓ガラスを割れない程度の強さで叩く。

 

「兼一さん!?」

 

するとそこには息を切らせ両膝を床についたキンジがいた。

 

キンジはどうにか体を起こしハッチを空ける。

 

「ここにいるっていうことは……君も?」

 

「ええ、ハイジャックですよね。それもアリアを狙った」

 

乗り込んだ兼一は、互いに答え合わせをするように話を繋ぐ。そこで兼一は疑問を持つ。

 

「キンジくん、誰からその情報をもらったの?」

 

「誰って、理子ですよ」

 

「……そっか。ボクはちょっと様子を見に行くよ」

 

そう言って兼一はその場を後にした。その背中には暗い影がかかっているようであった。そして兼一が向かう先は、彼が来る少し前にフライトアテンダントが向かった操縦室や客室のある2階ではなく、1階にあるバーであった。

 

キンジもまた立ち上がり動こうとすると、機体が揺れた。

 

「あ、あの……き、規則で管制官の命令無しでは止めれないって、機長が……」

 

戻ってきたアテンダントが、その小さな体を震わせながらキンジを見ていた。

 

(作戦を練り直すしかない)

 

後手に回った者の定めながら、悔やまずにはいられない状況でキンジはそう決断する。そして、震えるアテンダントを落ち着かせ、アリアの部屋に案内してもらう。

 

余談ではあるがこの飛行機の構造は普通の旅客機とは大幅に異なる。先にも述べているが、1階2階に分かれており、1階部分はバー、2階は、中央通路の左右に合計12のスィートクラスの個室が並んでいる。

 

ある時ニュースで取り上げられたこの飛行機は『空飛ぶリゾート』とも呼ばれているらしく、その名に恥じぬ造りである。

 

「……キ、キンジ!?」

 

案内された扉が開くと、目を丸くしたアリアが出てきた。

 

 

 

アリアと合流したキンジの一方でバーに向かった兼一は隠れていた。キンジとアリア以外に姿を見られてはいけないと何かが告げたのだ。

 

そして、機体が離陸する。こんな場所だから、当然シートベルトはない。けれど、兼一の体はぶれない。

 

機体が安定すると兼一はキンジとアリアに合流すべく動き出す。

 

(さて、アリアちゃんはどこだろう)

 

人の気配がないのを確認しながら探し進む。聴覚を全開にし部屋の中から聞こえる声を頼りに目当ての部屋に辿り着いた。

 

ノック3回。

 

扉を開け顔を出したのはアリアだった。

 

「けんい――」

 

驚きの声をあげそうになるアリアの口を押さえ、部屋の中に押し込む。

 

口を開こうとしたアリアだが、窓の外に雷が鳴り響くと口をつぐんだ。

 

機内放送が流れるがその声は誰にも届いていない。アリアは雷に怯え、兼一とキンジは意外な弱点を知って驚いていたためである。

 

「これでも見て気を紛らわせておけよ」

 

そう告げたキンジの選んだ番組は、たまたまやっていた御先祖様の活躍を描いた時代劇、遠山の金さんだった。

 

遠山の金さんもまたHSSのDNAを持っていたらしく、その引き金はもろ肌を脱ぐというものであったようだ。

 

 

「懐かしいなこの番組。長老の知り合いの活躍を描いたドラマらしいよ」

 

「そ、そんなの、ウ、ウソに決まってるわよ」

 

「……」

 

時折鳴る雷鳴に震えるアリアの言うとおり、普通なら嘘と断言するのが当然である。けれど長老こと風林寺隼人とは多少の面識のあるキンジは違う。その男風林寺隼人なら、そんなことがあってもおかしくないと思ってしまうのだ。だから、閉口するしかなかった。

 

 

 

和気藹々とまではいかないまでも、クラスメイトとして、あるいは友人としての様相を呈してきた時、雷とは違う音が機内に響いた。その音は兼一たち武偵高の生徒にとってなじみのあり過ぎるものだった。

 

すぐさま廊下に出たキンジに対し、アリアは雷に怯え、兼一はこの期に及んでも人の目につくのは不味いと判断し、部屋に残る。

 

「――動くな」

 

何かの落ちる音の後、キンジの叫びが機内に響き渡る。

 

「キンジっ!」

 

いつの間にか部屋から出てきたアリアが、目の前の光景に悲鳴を上げる。

 

何かが転がる音ともに気体が漏れ出す音。ガス缶が投げられた。

 

「――みんな部屋に戻れ! ドアを閉めろ!」

 

そう怒鳴りつけるように言うとアリアともども部屋に転がり込む。扉を閉じる一瞬前に、飛行機が大きく揺れると、機内の照明が消え、乗客たちは弾けるように悲鳴を上げた。数秒の暗闇の後、赤い非常灯が煌々と輝く。

 

「――キンジ! 大丈夫!?」

 

心配そうに声を大にするアリア。それとは対照的に兼一は無言で近付き、キンジの体に手を触れる。

 

「意識、呼吸、脈拍ともに異常なし。体のどこかに異常はないかい」

 

「大丈夫です」

 

キンジは唇を噛んでいた。

 

知識が多いからこそ、危険も熟知している。そこを逆手に取られた形である。

 

「『武偵殺し』だったよね」

 

確信に満ちた声とともに兼一の口から漏れる名前。アリアが息を呑んだ。

 

「そうです、その通りですよ。やっぱり、出ましたね」

 

「ちょっと待ちなさい。やっぱりって、なんで『武偵殺し』が出るってなんで分かったのよ」

 

「前にアリアちゃんが教えてくれたバイクと車の事件あったでしょ。でもあれの後にまだあったんだよ……シージャックが」

 

そこまで言うと、ベルト着用サインが注意音と共に点滅し始める。それを見た兼一は、持ってきた荷物を開き中にある衣装に着替えるため席を立つ。代わりにキンジが続けた。

 

「『武偵殺し』は3件目のシージャックで、ある武偵を仕留めた。それと同じように今度も自転車、バスと続いて同じ3件目のこのハイジャックでアリア、お前と直接対決をするつもりだ」

 

キンジの導き出した回答を聞き、推理の苦手なアリアは、掌で踊らされていた悔しさに歯を食い縛る。

 

そんな中、着替えを済ませた兼一がやってくる。

 

「1階のバーにいるみたいだね」

 

音と点滅は和文モールスを示していた。それを解読すると以下の通りになる。

 

『オイデ オイデ イ・ウー ハ テンゴク ダヨ 

 

オイデ オイデ ワタシ ハ イッカイ ノ バー ニ イルヨ』

 

「上等よ。風穴あけてやるわ」

 

眉を吊り上げたアリアは、スカートの中から左右の拳銃を取り出すと高らかにそう言った。

 

「今の俺が役に立つかは分からんが、一緒に行ってやる」

 

「来なくていい」

 

キンジの言葉をすぐさま拒否を示すアリア。けれど、近くで聞こえた雷鳴に身を縮める。

 

「……どうしよっか」

 

「……か、勝手にしなさいよ」

 

控え目に聞き直す兼一に、年相応の少女らしい声音で答えるのだった。




アリアのキャラで達人級っているんですかね?

いや、何名か心当たりはありますけどね
三巻のあの人はフォルトナ的扱いですかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。