史上最強の武偵   作:凡人さん

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読者の皆様お久しぶりです
講義が始まった上に、就活も忙しくなりこちらに対する集中が切れているので、一ヶ月近く時間を擁しましたがどうにか完成した続きです。

予定ではあと2話でアリア1巻の話が終わります。

そこまでをGW中……5月中には終わらせられるといいなと考えています。

前話の後書きに対してコメントを下さった皆様ありがとうございます。


名を継し者ども 中編

床に点々と灯る誘導灯を頼りに一階のバーに辿り着いた一向。その視線の先、シャンデリアの下に足を組んで座っている小柄な女性がいた。

 

キンジとアリアがその女性に近付き拳銃を向けると、ある事実に気が付いた。

 

女性の着ている服がフリルで過剰に飾り付けられた武偵校の制服だったのだ。またキンジしか知らないことだが、その服は授業後に台場に呼び出された際、理子が着ていた物だった。

 

「今回も、見事に引っ掛かってくれやがりましたねえ」

 

言いつつ、顔に被せていた特殊メイクを自らの手で剥ぐ。中から出てきた顔は見知った者の顔であった。

 

「やっぱり、か」

 

驚く二人を余所に、兼一1人だけ何の感慨もなくそう呟いた。

 

女性の顔の下にあったのは、東京武偵高校探偵科の峰理子だった。

 

「Bon soir」

 

手にした青いカクテルを飲み、キンジにウィンクを投げる。

 

「才能ってさ、けっこー遺伝するんだよね。武偵高にもそういう天才がけっこういる。そんな中でもお前の一族は特別だよ、オルメス」

 

「あんた……一体……何者……!」

 

オルメス、その単語を耳にしたアリアは体を固くし眉を寄せる。

 

稲光によって照らし出された理子の顔は口の端を軽く上げ笑っていた。

 

「理子・峰・リュパン4世ーーそれが理子の本当の名前」

 

理子の告げるその名前に、キンジは驚愕する。

 

教科書に載るほどに有名なフランスの大怪盗アルセーヌ・リュパン。理子はその曾孫であるのだ。

 

そこに至って兼一は、ようやく理子の抱えている何かの答えに辿り着き、アリアを狙う理由も真に理解した。

 

(理子ちゃん、君は君になるために『H』家のアリアちゃんを――いや違う、万全の状態のアリアちゃんを倒超えなきゃいけないのか!)

 

理子の心の叫びを聞きながら兼一はどうするべきか迷う。

 

この限られた空間において兼一が動けば、余程のイレギュラーが無い限り捕らえることができる。それこそこのタイミングで飛び出し投げ倒すなど、瞬き1つする間に終わらせれる。

 

けれど、それをして良いのか決めかねている。

 

アリアと理子、2人の思いが兼一に割って入ることを躊躇させている。

 

(武偵としては間違ってるんだろうな。けど、若いころの無謀は買ってでもしろって、長老も言ってたし、まあ何事も経験かな)

 

しばしの逡巡の後、結論を出した兼一はその場に正座をした。

 

直後機体が揺れ、それを合図に先端が切って落とされた。

 

荒事が専門である武偵は常に防弾服を着ている。そのため武偵法に縛られる武偵同士の近接戦闘において拳銃での攻撃は必殺の物とはなりえず、打撃武器に変わる。

 

そうなると装弾数が多い方が有利になるのは自明である。

 

アリアの持つガバメントの装弾数は2丁合わせて最大16発。それに対し理子の持つワルサーP99もまた16発。ここまでは互角である。

 

兼一は理子にもう1丁ワルサーP99があることを把握していた。そして、それだけで終わらないことも。

 

戦局は次の段階へと進む。

 

銃弾の尽きたアリアは、すぐさま格闘戦に持ち込む。そこに理子の拳銃に注意を払いながら、ナイフを開いたキンジが近付く。

 

「ここまでかな」

 

小さく漏れた音を拾うものはこの場にいなかった。

 

変化は突然だった。

 

「――アリアの双剣双銃は本物じゃない。お前はまだ知らない。この力のことを」

 

理子のツーサイドアップの、片方が意思を持つ別の生き物のようにナイフを持ちアリアに斬りかかる。

 

その一撃を驚きを浮かべながらもどうにか回避するアリア。だが理子には、双剣のもう一太刀が残っている。

 

「キンジくん! 反対側だ!」

 

一太刀目が動いた瞬間に発せられた兼一の声に弾かれ、アリアと理子の間に急ぎ割り込んだ。そのため、二太刀目はキンジの制服と、アリアの側頭部を僅かに掠めるのであった。

 

もしキンジが間に合わなければ、アリアの側頭部を深く切っていたであろう一撃。そのことに僅かばかりの恐怖を浮かべる。

 

キンジの動きに理子は驚く。今のキンジが、初見であるこの攻撃に対応できるはずがないのだ。そう、兼一の声が理子には聞こえていなかったのだ。

 

このカラクリは単純で、兼一がキンジに言葉投げる時声を超音波ビームというごく狭い振動にすることで、キンジにのみ届けたのだ。これを『肺力狙音声(ハイパワーソニックボイス)』と言い、無敵超人風林寺隼人の持つ108の秘技のうちの1つである。

 

だが、理子の驚きも一瞬のことで、髪を使い2人を押しのけるように左右に突き飛ばす。

 

思い切りよく壁に飛ばされた2人。キンジは衝撃を殺しきれてはいないがどうにか無事であるようだが、アリアは強かに背中を打ち付け意識を失った。

 

「アリア……アリア!」

 

キンジの叫びと理子の哄笑がバーに響き渡る。

 

「――理子は今日、理子になれる!」

 

悲痛なまでの叫びと共に止めを刺すべくアリアに近付く。

 

「誰だ!」

 

突然とてつもなく大きくなった兼一の気配がバーを満たしたことにより、その存在を知らない理子の動きが止まる。

 

「午前振りだね理子ちゃん」

 

暗がりから出てくる兼一に、理子は再び驚愕する。

 

「白浜!? なんでお前がここにいる! いや、どうやってここを知った!」

 

理子は叫ぶ。それもそのはず、不確定要素を徹底的に排除するために様々な手を講じてきた。百歩譲ってハイジャックを狙っていることに気が付かれるのは分かる。けれど、この便を狙っていることを知るのはそうできることではない。更に言えば、アテンダントに扮した自分の目をどうやって掻い潜り、この飛行機に乗り込んだのか。

 

「不本意ながら悪友の宇宙人が教えてくれてね」

 

兼一の答えに余計に分からなくなる。

 

「まあいいや。キンジくん、アリアちゃんを連れて退避して。時間はボクが稼ぐよ」

 

「お前が時間を稼ぐ? 笑わせるな! Sランクのアリアでさえ手も足も出なかった! 平凡なお前がどうするつもりだ」

 

そう言っているものの、兼一から目を離すことができず、キンジとアリアを見送ることとなった。

 

「そうだね。君たちはボクと違って才能にあふれてる。それに努力もしてるんだろうね。だからと言って負ける気は微塵もないけど」

 

構えを取る兼一の手に武器の類はない。対する理子は双剣双銃。仮にこの対決の勝敗で賭けをするならば、相当な物好きでもない限り兼一を選ばないはずだ。

 

傍目には圧倒的に有利な理子であるが、その内心は荒れていた。

 

(なんでだ! なんで当たる気がしない!)

 

銃口は兼一の体を捕らえており、距離も十分以上に近いため、普通避けられる道理はない。それにもかかわらず、なぜか当たる未来が見えないのだ。

 

睨み合いを続けること10秒余り、痺れを切らした理子が引き金を引き火蓋が切って落とされた。

 

 

 

アリアを先程の部屋にお姫様抱っこで運ぶキンジは、自分の無力さに歯痒い思いを隠せないでいた。

 

「アリア! アリア!」

 

「キン……ジ……っ」

 

か弱いながらも返事が返ってきたことに安堵の息を漏らす。

 

掠める程度とは言え、頭部の裂傷、それも動脈の1つ側頭動脈である。急ぎ武偵手帳に挟んでいた止血テープで塞ぐ。

 

「しっかりしろ」

 

キンジの声にアリアは力なく笑って返す。

 

「アリア! ラッツォ――行くぞ! アレルギーは無いな!?」

 

半分ほどキレ気味に武偵手帳のペンホルダーに入れている注射器を取り出す。

 

「な……い」

 

力の抜けた答えを聞くとセーラー服の胸元を開く。

 

ラッツォとは、気付け薬と鎮痛剤を兼ねた復活薬である。そのため、心臓に直接打つ日必要がある。

 

トランプ柄の下着がさらけ出されると、キンジの鼓動が一段速くなる。

 

(なんでこんなにも可愛いんだよ)

 

不謹慎と理解していながらもキンジはそう思わずにはいられなかった。

 

胸骨から指2本分上、フロントホックの辺り、そこが心臓だ。

 

「アリア、打つぞ!」

 

迷いを払い殴りつけるように思い切りよく突き立てる。注射器の中にある薬剤が徐々に流れ込んでいく。

 

痙攣とともに、アリアの顔が苦痛で歪む。

 

けれど、確かに助かったのだ。

 

「良かった」

 

感極まってキンジはアリアを抱きしめる。その存在を確かめるように、離さないように強く。

 

「ちょ、ちょっと離しなさい! それより理子を――」

 

アリアの言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 

キンジを突き放そうとした時に機体が大きく揺れ、互いの唇が触れ合った。

 

その突然のことに2人の時間が止まった。

 

キンジは体の奥が熱く燃え上がるのを感じる。抗いがたい何かが体中を駆け巡る。

 

(やっちまった……でも、悪くない)

 

忌み嫌っているこの体質を、今回はなぜだか受け入れれそうな気がした。

 

驚きから止まっていたアリアが押しのけるまでの時間2人は繋がったままだった。

 

「すまないアリア。許してくれとは言わないし、責任も取るさ。でもその前に仕事だ」

 

「キンジ……あんた」

 

突き放されるとキンジは口を開いた。その落ち着いた様子にアリアはあの日のことを重ねる。

 

「この事件、解決するぞ」

 

 

 

時は遡り、バーにて理子が引き金を引く。

 

けれど放たれた弾丸は、兼一をすり抜ける。

 

「なっ!」

 

理子の声が漏れる。躱せるはずのないものを躱されたことに加え、姿を見失ったのだから当然である。

 

しかし、そこで手を止めるのは悪手だった。眼前に迫った兼一はその伸びている左腕を掴むと、理子の背中側に回し、自身の左腕を使い二の腕を右手で取り、関節を極める。

 

逃れようと無理に動けば、そのまま関節が破壊される。そのため普通の人間が相手であればこれで終わりだ。

 

けれど生憎理子は普通ではない。

 

自在に動く髪、そこに飼われている2匹の蛇が鎌首をもたげる。その直後、風を斬る音とともに2本のナイフが兼一を喰い尽くさんばかりに襲い掛かる。

 

(とった)

 

自身の一手、それによる必勝を理子は疑わない。が、理子の心の声は現実のものにはなりえない。鈍い光を放つ凶刃が、兼一を捕らえることはなかった。理子からすれば、完全に隙を突いたはずだった。しかしその実、兼一に隙などなかった。

 

理子の背中に嫌な汗が流れる。一端でしかないが、今触れた強さに心当たりがある。普段の兼一しか知らないため、実際にその力を目の当たりにしなければ誰もがその答えを即座に否定するに違いない。

今目にしている現実が、その答えをより確かなものに変えている。

 

「白浜、お前……達人級(マスタークラス)だな」

 

かくして理子は結論に辿り着く。爪や牙のような武器を持たない捕食される側の生き物にしか見えないにもかかわらず、人外と言って差し支えない強さを秘めているという結論に。

 

武偵高でその名を耳にした際、一瞬その可能性を思い浮かべた。けれど理子は、その人物を見てその可能性を切って捨てていた。そのことを今激しく後悔したが、後の祭りだった。

 

「そうだよ」

 

答え合わせは数秒もかからずに終わる。それと同時に、理子はこの状況が如何に絶望的かを改めて理解する。

 

達人という地上最強の種族と対峙した時のマニュアルなど、様々なマニュアル本を世に出している大学館からも出ていない。

 

(殺されはしないだろうから、どうにか逃げる術はある……が、どうやって使うかが問題だ。巧くいけばこのまま無傷で――)

 

ここに至って不可解なことに気が付く。階段付近には兼一が陣取り、ここは密閉された箱のような状態である。それにもかかわらず無傷。

 

(私が達人と対峙して無傷でいられるなんてこと、ありえなるわけがない)

 

理子は思考を始める。

 

この場に、一種の矛盾が生じているのだ。武偵である以上殺すことはない。それ以前に理子は知らないが活人拳である兼一が間違っても人の命を奪うことはない。だから、生きていること自体は何ら不思議ではない。

 

だが、だからと言って、無傷でいられるはずがないのだ。仮に達人が戯れ半分で戦っていたとしても、その鍛え抜かれた手足から繰り出される、磨き抜かれた技は必倒の一撃である。

例を挙げるなら梁山泊の長老、無敵超人こと風林寺隼人である。彼は、その実力を完璧に五十万分の一まで落として修業をつけることがある。そんな加減をした状態でありながら、木を真っ二つに裂いたり、兼一と美羽の二人を相手取りほぼ完封したりと化け物じみている。

 

更に言えば、兼一の方から一撃たりとも打ち込んできていない。体を刺し貫かんばかりの気当たりは感じるが、それ以上がない。

 

「なんで一撃も打ち込んでこない?」

 

ふと湧いた疑問。その答えにここを突破する術があると理子は見た。

 

「ボクは女性を決して殴らない」

 

言い聞かせるように兼一は断言した。

 

それこそが、白浜兼一という武術家の根底にある活人と並ぶもう一つの柱だ。

 

ならばと思い、理子は意を決して一歩を踏み出す。この場を切り抜けるには死中に活を見出すほかない。

 

でも、と理子が動き出す際に兼一が漏らすと、纏っている気配が変容した。

 

瞬間、足を踏み出した理子は前に出た足で強引に床を蹴り後ろに下がる。女の勘がその場を離れろと言ったのだ。

 

「ちょわーーっ!!!」

 

そんな掛け声とともに寸前までいた場所に影が降って来た。影の正体は語るまでもないが、兼一である。

 

しかし、その様子が普段とは少し……いや大きく違っていた。ワキワキと手を動かし瞳を怪しげに発光させ、鼻息を荒くしている。

 

その様子を見た理子は嫌悪感とともに危機感を抱く。

 

嫌悪感の理由は、兼一の動きがまさにエロ親父を体現したこのようなイヤらしいものであったからである。それはそうだろう、なにせ今の兼一は彼の師の一人である馬剣星になりきっているのだから。そして、その馬剣星という男はエロ親父であり、そのエロモードを再現しているのだから。

 

危機感の理由は、兼一の動きが全く読めなくなったからだ。その理由は至極単純。今の兼一には攻撃しようというのではなく、ただ触ろうとしているのだ。これでは気当たりもへったくれもない。

 

勝ち目などないが、乙女の矜持としてとにかく迎撃をしようとする理子。けれどその、双剣による剣戟も双銃による銃撃も当然当たらない。それでも、どうにか触れられずに躱し続けていられるのは女のカンのおかげだろう。

 

そのやりとりも長く続くものではないのだが……

 

この場が無限に広がる荒野であればまだしばらくは逃げ続けられただろうが、残念ながらここには限られた狭い空間しかない。すぐに壁際に追い込まれ、逃げ場をなくすのだ。

 

(何かがおかしい)

 

そう思った兼一であるが止まる理由はない。そして、その予感が的中することとなるのは数瞬後のことだ。

 

理子の動きが止まる。

 

兼一の腕が理子を捕まえるために伸びる。

 

その腕が理子を掴む直前変化が生じる。

爆発音とともに、理子の背中にある壁がスプーンでくりぬかれたように抜けたのだ。

 

狙いをずらされた兼一の手が、豊かな理子の胸を強く押しやった。

 

飛行機の外に飛び出した理子が背中のリボンを解くと、不格好なパラシュートが出来上がる。

 

どうだと言わんばかりの理子の笑顔と入れ替わりに、飛来する影を兼一の瞳は鮮明に捉えた。

 

「ミサイルっ!!」

 

雪崩のように飛び出す酸素マスクやトリモチのような消火剤とシリコンのシートを押しのけ、兼一は飛ぶように後ずさる。地に足付いた直後、轟音とともに自信を思わせるような揺れが機体を襲った。




というわけで中編でした。

1万字行かなければ長くないですから……

あと、ケンイチから2名ほど敵キャラとして出すつもりです。1人は予想できる方が多いと思いますが、もう1人を予想できる方はほぼいないと思います。

2巻の話で1人、5巻の話でもう1人出てくると思いますので、期待しないで待っていてください。

ではではまたその内

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