史上最強の武偵   作:凡人さん

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edge catching

白雪襲撃事件からしばらく経ったある日の朝。兼一が日課である早朝の鍛錬を終え、部屋に戻るとそこにはにぎやかな住人の姿がなかった。

 

「そういえば、朝練するって張り切ってたっけ」

 

アリアによるキンジの調教――もといい訓練、その第一幕を飾るのが本日より行われることになった朝練である。それを思い出した兼一は、何をするのか聞いていないためその内容が気になって仕方がない。

 

「よし、見に行こう」

 

故に、即断即決、即行動。どこにいるのかなど知りもしないくせに部屋を出るのだ。

まあ、本人にしてみれば『気』を探るなりして探し当てることも、虱潰しに探し回って見つけることも容易にできるため何の問題もない。

 

家を出ておよそ三分。

兼一はアリアとキンジを見つけた。場所は武偵高の乗る人工浮島のはずれにある通称『看板裏』。上級生が下級生に教育的指導(物理)を行う際に使われているような名前である。

 

そして丁度朝練に動きがあった。

 

「十分経ったし始めるわよ」

 

そう言ってなぜかチアガールの格好のアリアは、キンジの前に立つと刃と峰を逆にしたいわゆる峰打ちの状態で刀を振り上げる。

どうやら真剣白刃取りの練習をしているようだ。

大多数の日本人がご存知の真剣白刃取りだが、見た目以上に難易度が高い。なにせ、頭上に加速しながら迫る刃を素手で止めるのだ、ほんの少しのミスで簡単に命を落とすことになる。そんな曲芸技をするくらいなら、避けた方が比較にならないほど安全である。

余談であるが、とある流派ではこの真剣白刃取りというのはできて当然の技であるらしい。

 

そんな達人技であるため、案の定ヒステリアモードでないキンジにこれができるはずもなく、

「っつ」

振り下ろされた刀は見事に頭頂部に直撃した。

 

「ちょっと、ちゃんとイメトレしたの」

「ああ、したさ。でもな、実際に成功してるところをこの目で見なきゃ、具体的なイメージなんて掴めるわけないだろ」

 

至極まっとうな反論であるため、アリアも口を噤み天を見上げる。

するとそこに答えがいた。

 

「良い所にいたわねケンイチ。ちょっと手伝ってよ」

 

アリアは看板の上で自分たちの様子を見ていた兼一に声をかける。

 

「ははは」

 

乾いた笑いを浮かべながら兼一は二人の元に下りる。

 

「見てたからわかるとは思うけど、真剣白刃取り(エッジ・キャッチング)なんだけど……できるわよね」

「うん、まあ、できるけど」

 

一緒に生活するうちに兼一の非常識さを理解してきたためか、当然のように尋ねるアリア。それに対して当然のように答える兼一であった。

 

「それじゃあ今から手本を見せてあげるわ。その後でまた十分のイメトレをして峰打ち(バック)でやるから」

「お、おう」

 

アリアはキンジにそう告げると兼一と向かい合う。

二人の間を風が吹き抜ける。

 

「ヤアッ」

――パシッ

 

一秒にも満たない時間で振り上げ振り下ろされる刀。

兼一はそれを涼しい顔で止める。

前述してあるとある流派程とまではいかないが、兼一にとっても白刃取りというのはできる技である。というのも『白刃折り三日月蹴り』という技を使用するうえで必要となる技術だからだ。この技は字面の通り刃を折るという動作があるのだ。そのため、一度振り下ろされる刃を止めることになる。

 

アリアは、兼一が見事に成功させたことに一つ頷くと、

 

「という感じよ」

 

それだけ言って、キンジにイメージトレーニングを促し、彼女はナイフや拳銃による演武をチアリーディング風のダンスと組み合わせたアル=カタ(女子たちはチアと言って憚らない)の練習を始めるのだった。どうやらアドシアードでそれをやるらしい。ちなみにキンジは、友人の武藤剛気と不知火亮らとでバンドを組みチアの後ろで演奏することになっている。

 

アドシアードとは年に一度行われる武偵高の国際競技会である。そこでメダルを取れば、武偵としての将来が約束される程度には権威のあるものである。

 

練習風景を見ることができたことで満足した兼一は、そっと場を離れるのだった。

さて、十分後に再チャレンジすることになったキンジであるが、当然のように成功を収めることはなかった。

 

 

 

その日の放課後、兼一はなぜか東京武偵高の『三大危険地帯』の一つ『教務科(マスターズ)』の一室にいた。

 

「なあ白浜ぁー」

「なんですか?」

「何で呼び出されたのか分かってんの?」

 

尋問科の教師綴梅子にそう言われた兼一は、目を瞑り考えること十秒。

 

「分からないですね」

 

そう結論付ける。

 

「それ、本気で言ってんのか」

 

気だるげな声でありながら、獲物を見つめる肉食獣のような視線で兼一を射抜く。

 

「まあいいや。話っていうのはさ、お前が何者なのかってことなんだよ。つい最近さー、向こうの島に飛行機があれしたじゃん。その事件に白浜、お前が一枚かんでるんだってなぁ。そんで、ちょーっと気になって調べてみたらさぁ『一人多国籍軍』ってあったんだよな。単刀直入に聞くけどさぁ、とてもそうは思えないんだけど、お前それだろ」

 

綴の言葉は確信を持ったものだった。

 

「ええ、まあ」

 

兼一はそれを肯定する。別段隠すつもりのないことであるし、自分から吹聴するようなことでもないから今の今まで殆どの者が知らなかったことだ。

 

「そーかそーか。なら話は早い、白浜、お前格闘術の教師やれ」

「お断りします」

 

綴の命令を兼一はバッサリと切り捨てる。

教師をするということは、それだけで多くの時間を奪われることになる。今の、とうよりも武偵になることを決意した兼一に、自身の鍛錬と調べもの以外のことに比重を重く置けるほど時間的、精神的余裕はないのだ。本来は指導する立場に就くことを無駄とは考えていないが、現状無駄なことと断ずるよりない。

 

「お話がそれだけならボクはこれで」

 

まさか拒否されるとは思ってもいなかったためか、あるいは兼一の放った語気に当てられたためか、綴は口を大きく開き咥えていたタバコらしきものを床に落とす。その間に兼一は席を立つと部屋を後にする。

 

兼一が出て行きしばらくしてもなお呆然といている綴であるが、控えめなノックによって我を取り戻したのだった。

 

 

 

(綴先生には悪いことしたかもな)

 

今日の分の鍛錬を済ませた兼一は、そんなことを考えながらぼんやりとした足取りで寮へと向かっている。彼とて出来ることなら力を貸したいと思っている。だが、今それをすることはできないのだ。ただでさえ要領の悪いこの男が教師の真似事などしようものなら、自身の目的の達成に大きな遅れが生じかねない。

逆に言えば、目的を達成することができれば教師をするというのも一つの可能性としてありえるということでもある。

 

ただし、兼一が教える場合生半可な覚悟では一日ともたないだろう。

なにせ、無理・無茶・無謀が大好物な師匠から、梁山泊入門時から死んだほうがましと思える非常識を超えた修業を受けてきたのだ。指導における基準がそれになってしまうのは仕方のないことだろう。

そのことを知っている人間がいれば、一命をとしてでも綴の提案を取り下げさせるだろうが、あいにくそのような人物はこの学校にいない。

 

そうしてぼんやりとしながら歩いても達人という生物の感覚は常人のはるか上をいく。

 

(誰か、見てる?)

 

近くに人影はないが、背後から視線を感じたのだ。

けれど見られているだけで、殺気や敵意を感じないため恐らく監視であろうその視線の主を積極的に探そうとはしない。相手が何者で目的が何であれ、気付いたことに気付かれないに越したことはない。

 

故に帰り着くまでの十数分の間、この奇妙な視線を背中に感じ続けるのであった。

 




どうもお久しぶりです。
五か月振り位くらいの更新ですかね?

原作確認してると時系列がよく分かんないんですよね。今回の話の曜日はおそらくGW前の土曜日だと思うんですよね。

というわけで、次の話がいつになるかは分かりませんがその時にまた
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