上手くまとまっている気がしないのですが、新年度が始まったということでとりあえず投稿しました。
キンジとアリアによる白雪のボディーガードが始まって数日が経過した。
慌ただしく過ぎた四月は気が付けば終わり、五月が始まっていた。
キンジ、アリア、白雪、この三人の間でいくつかの小さな事件はあったもののそれ以外はつつがなく、いっそ不気味なほど静かに流れて行く日々の中にアリアの警戒する
そんな状況であるから、元々このボディーガードに乗り気ではなかったキンジは早々に『ごっこ』と判断すると、形だけのボディーガードと化していた。
立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花を体現している白雪が近くにいることは、キンジにとって歓迎すべきことではないのだが、形だけとはいえそれでも続けているのは依頼を受けたアリアの意向を汲んでのことだろう。更に言えば、白雪を狙っていると目される魔剣はアリアの母親に罪を被せたとされている人物の一人であるとアリア本人に聞かされたのも大きな理由だろう。
……もっとも、さぼったらアリアからお仕置きと称しての風穴祭りの開催や、兼一から肉体言語による話し合いがなされかねないという恐怖も続けている理由に挙げられるだろう。
アリアはアリアで彼女の第六感が危険が迫っていることを告げている中、真剣実の足りないキンジへの苛立ちを日に日に募らせていた。
もっと言えば、第六感が告げることを論理立ててキンジに説明することのできない自分自身にもいらだちの矛先は向いているのだった。
普段であればそんな二人の仲立ちをし、まとめ上げている兼一はというと、ボディーガードが始まった当初こそ気にかけていたのだが、最近は遅刻や早退、欠席をしながら忙しくあちこちを回っているためそんな余裕はなくなっていた。
白雪のボディーガードに励むアリアとキンジの間に少しずつ溝ができる一方で、兼一はあちこちを回りながら痕跡を探していた。
それは、白雪を狙う
であるが、それだけではない。もっと兼一の根幹に関わることことを調べていた。
「久し振り……と言ってもそこまでではないね」
「そうだね兼ちゃん。そう言えば知っているかもしれないけど、神崎かなえの公判は延期になったよ」
都内某所の喫茶店で幼馴染である朝宮龍斗と数日振りに会っている。それは何も旧交を温めるためというわけではない。
二人のいるテーブルの上には圧倒的な存在感を放つ茶封筒が置かれている。
「それで、電話で教えてくれた件だけど……本当なのかい?」
「ああ。彼女の件に関してイ・ウーという組織が絡んでいることは十中八九間違いはないよ。君が各地を駆けまわっていろいろ調べていたみたいだから薄々は気が付いていただろうけどね」
龍斗はからかうようにそう告げる。
彼の言う彼女、それは今は亡き兼一の思い人である風林寺美羽のことである。
彼女が亡くなってから五年が経とうとしている今、あの新島でさえ掴みえなかった事件の手掛かりが奇跡的にも見つかったのだ。
今まで名前すら知らなかった組織について調べて行くと点と点が繋がるようにして、少しずつではあるが自身の追い求めている真相に近づいて行っている。
けれど兼一はその知らせに対して懐疑的であった。
あの現代社会の申し子にして情報戦の達人とも呼べる男が、五年弱という時をかけても毛の先ほどの情報を探すことができなかったというのに、たった一つの情報から芋づる式のように、まるでお膳立てされているかの如く都合よく繋がり始めたのだから仕方がないだろう。
そのことは当然龍斗も承知している。
「一応、僕の調べた情報はここにまとめているから君の望むようにすると良いさ」
承知し、自身も訝しんでいるため、最終的な判断は兼一に任せる。そのための材料として茶封筒の中にある数枚の用紙を取り出し見せる。
「ありがとう」
小さくそう告げると、紙上に目を走らせる。
そんな兼一を優しげな瞳で見やりながら、少し冷めたコーヒーに口を付ける。
数分の時が過ぎた。
時を刻む音とゆったりとしたBGMだけが響く店内に、静かな衝撃が走った。
「ごめん龍斗、ちょっと急用ができたから帰るよ」
唐突に告げると注文した分の代金をテーブルに置くと兼一は席を立ち、店を後にした。龍斗が調べ上げた成果を置いたままにして。
「こんな大事なものを忘れて行くなんて、余程のことなんだろうな」
そう言いながら、忘れ去られた資料をまとめると茶封筒に入れる。その際一番上にあったのはイ・ウーのメンバーについて記されているものだった。
『おかけになった電話は現在――』
「キンジくんもダメか」
店を出た兼一は走り出すとすぐに携帯電話を取り出し電話を掛けた。しかし電話の相手であるアリア、そしてキンジも電話に出ることはなかった。
兼一の顔にはらしくない焦りの色が見えていた。
二人が電話に出ないことが、言葉にならない不安を大きくしていく。
兼一の焦りの理由は先程の邂逅にて知ったとある情報が理由にある。
その情報の一つは、魔剣が実在するというものであった。
龍斗からもたらされたその情報を一刻も早く伝えるために電話という手段を選んだのだが、こういう時に限って役に立たない。
平日の昼間、それもアドシアードの準備中であるのだから当然校内にいるだろうと当たりをつけて、急ぎ武偵高へと向かう。
もう間もなく、学園島に辿り着くという時であった。
一瞬ではあるが、兼一は自身に向けられた視線を感じた。
その視線は白雪のボディーガードが始まったあの時に見つけたものとは違う、兼一の行動を監視する視線であった。慌てて周囲を確認するが、気取られたことに気が付いたのか既に何も感じることはなかった。
どうするべきか迷ったものの視線の主を探し出すことは困難であると判断し、先に進むことにした。
しかし、その足はすぐに止まることとなる。
それは、背後に懐かしい気配を感じたからだ。
不覚にも背後を取られたことを悔やむような表情をしつつも、兼一の口元はわずかに緩んでいた。
「久し振りですね、兼一さん」
「そうだね、カナちゃん」
振り返るとそこにはある種の美の完成形のような人物が立っていた。
それではまたその内
サブタイトル和訳『求めよ、さらば与えられん』