自分で自分を褒めたい
質と量は兎も角として、現状更新が続いていることに
というわけで中編です
「――ドレイになりなさい」
そんなアリアの発言を受けたキンジの思考は、その発言の暴君っぷりに一瞬止まった。けれど、キンジの思考が差異化する直前別の動きが怒る。
「えーっと、午後5時57分、住居侵入の現行犯で逮捕ってところかな」
いつの間にかアリアの後ろにいた兼一はそう告げると、その容姿に見合った細い腕を掴む。アリアは顎が外れたかのように口を開いているが、そんな事を気にすることは当然ない。
「ちょ、ちょっと待ちなさい! あたしはキンジに招き入れられたのよ! だからお客様なのよ!」
「はいはい。言い訳は署でお願いします。気が向いたら聞くかもしれないからね」
気が向いたら聞くではなく、聞くかもしれないということはつまり、聞かないことを宣言しているようなものだ。
猫の様な犬歯をむき出し、威嚇せんばかりの鋭い視線で兼一を睨みつける。されどそんな視線どこ吹く風、一切気に留めないでいる兼一は、空いた片手で手錠の代わりになるものを探し自身の体を弄っている。
兼一が利く耳を持たないと理解するとアリアは実力行使に移る。強引に兼一の手を振りほどこうとする。そうして僅かに兼一の体が動いた時、自身を捕らえる手を掴み、投げる。
――が、兼一の体が宙に舞うことはなかった。力任せと言い換えてもいいような強引な技で、足腰を、虐めぬくという言葉ですら生易しい程に鍛え抜いた兼一が投げられるはずなかいのである。
フローリングの隙間を足の指でしっかりと掴んでいたのだ。
結果が伴わないことにアリアは再度驚愕する。事前の調査で、強襲科の面々からは「探偵科とは思えない凄みがある」と聞いていた。けれど、実力の方は「探偵科としてはできる」という評価であった。だからこそ、強引な手を打ったのだ。
「アリアちゃん、投げ技っていうのはね――こうやるんだよ」
そんな声とともに、アリアの視界が高速で揺れる。数瞬の後に投げられていることに気が付き手を放そうとする。そうして、投げられてから手を放し終えるまでの僅かな時間に十回を超える投げを受けていたのだ。
キンジは声にならない声を出す。
その技の名を『岬越寺 無限生成回帰』という。これは自身の腕が掴まれた状態からその腕を振り回して相手を投げ倒すというものである。そのため投げ技ではあるが、これが投げ技の代名詞だといわんばかりの兼一の言は些か問題がある。
余談ではあるが、生みの親である秋雨はこの技を用いて、同格の達人アレクサンドル・ガイダルの脳からの指示が運動神経に伝達されるまでのほんのわずかな時間に数回投げている。
本来なら碌に受け身を取れない速さの技であり、肉体の強度が高くないアリアが受ければただでは済まない。ただ今回は兼一がその力をじゃれつく程度に抑えていることが幸いし、大事には至らなかった。
「とまあ、こんな具合に相手の重心をきちんと意識して投げないとね」
目を白黒させているアリアに説明する兼一。言われたアリアは、現実の出来事なのにいまだに呑みこめないでいる様子ではあるが、安定の無視である。また、たとえ意識がはっきりとしていてもこの技を用いて重心の大切さを説いたところで伝わるはずもないだろう。
「それじゃボクはちょっと出てるから後はよろしくね」
爽やかな笑顔で部屋を立ち去り厄介ごとを丸投げしてきた兼一の行動に、頭を抱えたキンジはその背中を無言で見送るしかなかった。そもそも、走り去る兼一を捕まえれる気など爪の先程もない。
しばしの後に夕食のために兼一が戻って来ると、状況が愉快な方向に変化していた。
「ただいま」
「出てけ」
兼一が扉を引くと同時に、奥からアリアの声がした。何やらキンジとの話し合いがもめているようであった。そうしている内に、キンジの背中が兼一の視界に映る。
「おい待て、何で俺が出て行かなきゃならないんだ! ここはお前の部屋じゃないぞ!」
「分からず屋は外で頭を冷やしてきなさい! しばらく戻ってくるな!」
剛速球で言葉を投げつけるアリアは、その勢いのままキンジを部屋の外に押し出す。事情を知らない兼一も何か得体の知れない圧力に負けて、キンジとともに外に出ていた。
アリアは思い切りよく扉を閉めた。
「……なにしたの? キンジくん」
「俺が聞きたいですよ」
男二人の哀愁漂う声が、まだ冬の寒さがかすかに残る春の夜空に溶けていった。
「それで、あの後どうなったの?」
凍った空気を溶かすために兼一が口を開く。
鍵を閉められていないのだから部屋の中に入ればいいものの、なぜだか入ってはいけない気がしたため2人はそのまま外にいる。
「それは――」
キンジの話を要約するとこうだ。アリアはキンジを強襲科でのパーティーに誘ったが、キンジにその気はない。そもそも自分は武偵をやめようと思っていることを伝えるも、聞く耳を持たない。その内に日が暮れ、帰るように言うと、首を縦に振るまでは帰らないと言い放った。
「アリアちゃんは何をそんなに急いでるんだろうね」
話しを聞き終えた兼一の口から零れたのはそんな言葉であった。その言葉を聞いたキンジも改めて考えてみると確かにそうだと思う。
考えてもみてほしい、ただ仲間にしたいのであれば後日出直し改めて説得に当たればいい。また、いくら実力があるとはいえ女性が見ず知らずの男性宅に泊まるというのはリスクが大きいことだ。にもかかわらずそうするというのは、出直す時間すら惜しむ理由があるということだ。
「まあ、その辺はおいおいってことで」
そう言った兼一は急に口を閉じる。訝しむキンジにはわからないが、こちらに向かって人がやってきているのだ。そして、兼一にはその人物が誰であるかもわかっているために声を殺したのだ。
「キンちゃん、それに兼一さんこんばんわ」
やって来たのは巫女装束姿の白雪だった。その手には何かの包みを持っていた。
「こんばんわ白雪ちゃん。何か用かい?」
突然の白雪の来訪に動揺を抑えることに必死なキンジに変わり、兼一が尋ねる。まあ、聞くまでもなく分かることではあるが……
「はい、あの、お夕飯にタケノコご飯を作ってきたんですけど……」
消え入りそうな声で白雪は答える。時間が時間だけにもう食べてしまっているかもしれないという思いもあるからだえおう。
「今から買いに行こうと思ってたから、ありがたくいただくね」
兼一は柔らかな笑みを浮かべそう答える。こんな時間に外にいることへ、内心不審に思っている様子であることを見通した、無難な回答であると言える。
「朝といい、ありがとな」
キンジも感謝をするが、兼一と違い既に夕食を終えているため複雑な気持ちでいるのだった。
その後、適当に世間話をした後キンジに白雪を送らせると兼一は部屋に入る。白雪は途中、何度となく部屋の外にいる理由を聞こうとしたが、二人があの手この手を使って丸め込んだのだった。
部屋の中では湯気を漂わせるアリアがソファーに座り、桃のような形をしたあんまん『ももまん』を貪るように食していた。
「な、なによ」
入って来た兼一をアリアは怯えながらも睨みつける。そんな様子に頬を掻いて曖昧な笑顔を浮かべる兼一であるが、そもそもの原因は自身にあるので自業自得である。
ただ、それで兼一が止まるわけがない。
「アリアちゃん、君は何を焦っているんだい」
「あんたには関係ないでしょ」
取りつく島もないアリア。しかし、兼一は躊躇することなく斬りに行く。
「『武偵殺し』として捕まった――」
「ただいまーっと」
が、振り上げた刀は寸での所で止められた。
「あれ、早かったね」
「白雪のヤツ下まででいいって聞かなくて。すんません、ちょっと寝ます」
戻ってきたキンジはそう言ってベッドに向かう。
「そっか」
短く返した兼一は白雪から受け取った包みを手に、テーブルに向かう。
「あんた……一体」
蚊の鳴くような声で漏れたアリアの言葉に反応はない。
この日の夜はこうして更けていくのだった……
というわけで、中編でした
原作であるラキスケなんてそうそう起きるわけがないんです。強者でありながら弱者でもある兼一くんの勘は凄まじいのです
ではでは、また次回
いつプッツン来てもおかしくない作者がお届けしました