史上最強の武偵   作:凡人さん

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どうにかこうにか連続更新中

読んでくれる人がいるってこんなにも励みになるんだなと思いましたね


強襲科に戻って最初の一回 前編

翌日、キンジとそれに付き合うこととなった兼一は、強襲科にやって来た。『明日無き学科』とも呼ばれるここは、卒業時生存率97.1パーセントという全員が生きて卒業することができない学科だ。

 

その強襲科専用の施設の中では、発砲と剣戟の音が止むことなく流れ続けている。その音を聞きながら、2人は装備品の確認と自由履修の申請を済ませた。

 

もっとも、兼一の本来の戦闘時の服装は道着の下に日本刀と同じ製法で浮くられた鎖帷子を着込み、カンフーパンツにカンフーシューズ、ムエタイのバンテージにおそろしく頑丈な手甲である。それらは、自室のタンスの中に大切に仕舞われている。

 

さて、キンジとしては拳銃の練習程度のことをしておきたかったのだが……結局それはできなかった。なぜならば、キンジが戻ってきたことを喜んだ強襲科の面々が死ね死ねというこれまた強襲科特有の挨拶をしてきて、それに対して1人1人に同じ挨拶を返していたからである。

 

「兼一さんはこの後どうしますか?」

 

「少し走ってから帰ろうかな」

 

(俺等から見れば絶対に少しじゃないよな)

 

火薬のにおいに包まれた連中をあしらい強襲科を出たところで2人は別れる。夕焼けの中待っている小さな影の元に向かうキンジを見送った後に、兼一は動き出すのだった。

 

走り始める兼一。

 

当然いつもの地蔵などは装着している。

 

(今日は空き地島の方に行こうかな)

 

そう考え当然のように海を走る。『空き地島』とは、『学園島』のレインボーブリッジを挟んだ北側にある、同じ形の人工浮島である。どちらの島も東京港湾の再開発に失敗してたたき売りされていた土地であり、未だに空き地であることからそう呼ばれている。

 

さて、そんななにもない所で兼一は何をするのかというと……

 

「せりゃ、はっ、とう」

 

どこから運んできたのか、あるいは引き上げたのか分からないような岩を砕き始める。いや、砕くという表現は誤りである。正しくは粉塵に変えている。一体どんな殴り方をすればそんなことができるのかは分からないが、それをやってのけている。

 

それが一段落すると、今度は風車を腕だけで登り始める。凹凸などほとんどない、命綱も身に着けずそれを行うという無謀すぎるこの行為。人が見ていれば卒倒ものであることは間違いない。けれど、事実として人はいない。兼一がどれだけ過激なことをしても、人さまに迷惑がかかることはないのである。

 

その後、人智を超える数々の荒行を済ませ寮に戻ると、何とも言えない表情のキンジが『レオポン』というタグのついたぬいぐるみを握っているのだった。

 

 

 

翌朝、事件は起きた。

 

「キンジくん、のんびりしてるところ悪いけど時間ないよ」

 

時計の示す時刻は、午前7時44分。7時58分のバスに乗るには余裕がある。それにもかかわらず、兼一はそう告げる。

 

「何言ってるんですか兼一さん。まだ時間はありますよ」

 

だから、キンジがそう返すのは当然のことである。しかし、兼一は何か確信を持ってキンジの言葉を否定する。

 

「わざとやってるのかと思ったから特に言わなかったけど……家の時計5分遅れてるよ」

 

そう言ってテレビをつけると、丁度アナウンサーが今の時間を告げた。

 

『――まもなく7時50分になります』

 

「ちょっと待ってくださいよ」

 

一体誰がこんなことをやったのか見当がつかないが、何の目的でやったのかは予想できる。

 

7時58分のバスにキンジを乗らせないためだ。その奥に潜む動機は分からないが、数年に亘って染みついた武偵としての性が反射的に体を動かす。

 

「バスを止めさせます」

 

大粒の雨が降り始めるバス停に向かい、キンジは駆けるのだった。

 

(どこの誰が何のためにこんなことを)

 

そんな思いを呑みこみ、バス停に着くと普段では見ない人だかりができていた。その最後尾には、見慣れたツンツン頭があった。

 

「どうしたんだキンジ? 傘もさしてねえし鞄も持ってねえじゃないか。慌てるにはまだ時間があるぞ?」

 

そのツンツン頭こと武藤は当然の疑問を投げる。

 

「今整理してるから少し待ってくれ」

 

苛立つように時計を見ながら返す。時間を戻す手間を惜しんでいるため、その針は5分遅れのままだ。それを目にした武藤は

 

「時計遅れてるぞ」

 

キンジの慌てた理由の一端をそこに見出した。そして、その理由の先には想像も及ばない何かがあることを鋭敏に感じ取った。

 

「知ってる。ていうか、俺の部屋の時計が全部ずらされてた。犯人は分からんが、次のバスに何か仕掛けられてると思う。だから、次のバスを少しでいいから止めたい」

 

「ったく、なにもなかったらお前が責任とれよ」

 

何時になく真剣なキンジの物言いに武藤は承諾の意を示し、前にいる生徒達に声を張って告げる。

 

話しを聞いた生徒達は、最初は訝しむものの切羽詰った表情で電話をするキンジを見ると渋々と言った様子で承諾する。キンジの電話の相手だが当然アリアである。

 

「事件だ。家の時計がずらされた。7時58分のバスに何かあると思う」

 

『分かったわ。すぐに向かう』

 

電話を受けて即座の反応を示すあたり手馴れているものである。

 

そして、問題とされるバスがやってくる。

 

運転手に一言謝りを入れると生徒達はバスを検める。車内に異常がないことを確認すると、次は屋根の上を見る。そこにも何もない。そして最後に車体の下。

 

「おいおい、マジかよ。プラスチック爆弾が仕掛けられてやがる」

 

確認していた生徒が頬を引き攣らせながら告げると、その一帯の緊張が高まる。

 

「……外すぞ」

 

意を決したかのように手を伸ばした時。

 

「 その 爆弾に 触れやがりますと 爆発 しやがります 」

 

気味の悪い合成音とともに、バスの車体に穴が開く。

 

「 10秒以内に 出発 しやがらない場合も 爆発 しやがります 」

 

バスの数メートル後ろに、真っ赤なルノー・スポール・スパイダーが無人の座席にUZIを載せてあった。音声は誰のか分からない携帯電話から発されていた。

 

武藤とキンジが咄嗟に乗り込むと、武藤はアクセルを踏み発信させる。

 

 

 

「 速度を落とすと 爆発しやがります 」

 

「なんで野郎と2人きりで命がけのドライブしなきゃなんねえんだよ」

 

携帯から流される音声に、悪態を吐きながらもバスを走らせる武藤は、一歩間違えれば命を落とす状況での運転をしている。乗り物と名のつく物なら何でも運転できると豪語するだけの腕前である。

 

『キンジ、状況報告』

 

「今、青海南橋に向かってる。後ろには赤のルノー・スポール・スパイダー。爆弾は車体の下だ」

 

『分かったわ。もうすぐ着くから』

 

電話越しでアリアと話をつけるとキンジの耳にヘリのモーター音が届いた。

 

そして、屋根の上に落下音が2つ。その直後に発砲音が響き、後ろをつけている真っ赤な車体が回転しながら橋の下に落ちていく。

 

「や、キンジくんに剛気くんお待たせ」

 

そう言ってバスに乗り込んできたのはC装備であるTNK(ツイストナノケプラー)製の防弾ベスト、強化プラスチック製の面当て付きヘルメット、無線インカム、フィンガーレスグローブで身を固めた兼一。その後ろからアリアも入って来た。

 

「ボクの仕事はこれを届けることだけだから」

 

そう言って背中にくくりつけてある同じC装備2つを下ろす。

 

「剛気くん運転変わるから早くそれ装備して。ボクじゃ君みたいに運転はできないから」

 

そう言って運転を代わる兼一。ヘルメットに隠れていて見えにくいが、その瞳は揺れていた。

 

「 ホテル日航の 角を 右折しやがれです 」

 

一瞬の減速の直後、指示が出される。その指示に従い道を進む。

 

「すんません、代わります」

 

それから少しの後、装備を固めた武藤が再び運転席につく。

 

「あたしが潜り込んで解体を試みるから、キンジはサポートをお願い」

 

言うが早い、アリアは返事を確認することなく車体の下に潜り込むために割れた窓枠に足をかける。が、早々うまく事が運ぶわけはない。反対車線から2台目のルノーが現れ、バスの横に回り込んできたのだ。

 

「伏せて!」

 

アリアの叫びに即座の反応をキンジは見せる。その直後バスの窓を薙ぎ払うかのように銃弾が発射された。

 

「大丈夫か武藤!」

 

キンジの呼びかけに左手の親指をあげ答えるが、そこに力はなかった。運転のために回避することができず、左腕に被弾したため一時的に麻痺しているようだ。

 

「 有明コロシアムの 角を 右折しやがれです 」

 

無情にも指示を続ける合成音に答えるように武藤はハンドルを切る。

 

「お疲れ」

 

その横には何時の間に移動したのか兼一が立ち、ハンドルを引き継いだ。

 

「キンジくん、アリアちゃん。ボクじゃそんなにもたないから早めに処理して」

 

心の奥からの叫びであった。兼一はあくまでも武術の達人であり、きわめて不器用な人間でもある。そんな兼一にとってバスの運転、それも高速での運転は未知のものである。故にこの叫びは、紛れもない事実である。

 

武藤は力なく座席に移動し横たわる。

 

そしてそれに答えるようにアリアが2度目のトライ。併せて、キンジが2台目のルノーを撃退する。

 

高速で移動するバスは、豪雨を切り裂きレインボーブリッジに突入しようとする。

 

「おい、アリア大丈夫か」

 

『どうにかいけそうだわ』

 

その言葉に安堵の息を漏らしたキンジ。だが、兼一は叫ぶように伝える。

 

「まだ、終わってない!」

 

その言葉の直後、3台目のルノー・スポール・スパイダーがバスの後方にいたのだ。

 

運転に集中している兼一がこの存在に気が付いたのは、弱者の勘のお蔭だろう。

 

「……!」

 

息を呑み引き金を引くが、焦りのために狙いがそれる。

 

「バカ! 伏せなさい!」

 

声とともに、アリアがその小さな体をキンジにぶつける。

 

被弾音が2つ、車内に響いた。

 

キンジの視界を赤色が染める。

 

「アリアっ! 大丈夫か! なんで」

 

兼一は秘かに唇を噛む。自分の不甲斐無さに怒りを覚えている。けれど、怒りに呑まれるという未熟は犯さない。

 

「キンジくん、後ろの車を片付けて! 爆弾の方は何とかなるから!」

 

指示する兼一の声は確信に満ちている。だからキンジは迷わずに引き金を引いた。

 

バスの後ろで爆発炎上するのを目視で確認した時、

 

『――私は一発の銃弾』

 

抑揚のない声がインカム越しに聞こえた。声の主は狙撃科の麒麟児レキのものである。

 

レインボーブリッジの真横に武偵高のヘリが並走し、大きく開かれたハッチからバスを狙う、線の細いショートカットの少女レキがいた。

 

『銃弾は人の心を持たない。故に、何も考えない。ただ目標に向かって進むだけ』

 

詩のような呟きの後に、レキの構える銃口が3度光る。

 

(相変わらずすごい腕をしてるよ)

 

兼一には何が起きているのか見えていない。だが、何が起きたかを理解している。

 

銃声がなる度に、バスに伝わる着弾の衝撃。

 

それとともに爆弾が部品ごとバスから分離され道路に転がる。

 

『――私は一発の銃弾――』

 

再度聞こえるレキの声とともに、分離された爆弾は宙を舞い、そのまま下の海に落ちていく。

 

轟音と共に水柱が上がるのを確認すると、兼一はバスを止める……ことなく病院に走らせるのだった。




達人の体内時計は原子時計並みに正確ですよ……きっと
ついでに、日の傾きとかからも時間を計れますね……きっと

そんなわけで原作から色々と変化のあったお話でした。

次はシリアスになるのかな?
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