ソードアート・オンライン~竜殺しの騎士~ 作:nozomu7
「ねえ、それってどういう――」
「お、2人とも、お待たせ」
シリカの要領を得ない回答にリーファがさらに質問を重ねようとした時、キリトが再び起き上がった。
「お帰りなさい、キリトさん。ずいぶんと早かったですね」
「家族が夕食を作り置きしてくれてあったからな」
「そう……じゃあ、さっさと行きましょう」
リーファがそう言って立ち上がったので、2人もまた立ち上がってその背中に羽根を出した。
しかし、その時キリトの動きが止まった。
「? どうしたの?」
「いや、今、誰かに見られた気が……ユイ、近くにプレイヤーはいるか?」
「いえ、反応はありません」
彼女がそう言うのであれば、近くに隠れている奴らがいるということもないだろう。
「ひょっとしたら、《トレーサー》が付いているのかも……」
追跡魔法で、小さな使い魔を飛ばすことで術者に対象の位置を教えることができるのだという。
「それを解除することは、できないんですか?」
「トレーサーを見つけられれば可能だけど、術者の魔法スキルが高いと対象との間に取れる距離も増えるから……」
この森のような、隠れる場所が多すぎるフィールドでは、発見することはほとんど不可能であるらしい。
「気のせいってこともあるから、気にしなくてもいいと思うよ」
「そうか……」
その言葉に2人とも剣をしまったものの、シリカは嫌な予感を感じていた。
こういうときのキリトの感覚は、よく当たる。そのことを、以前から知っていたからだ。
しかし、彼女の《索敵》スキルでも発見できないことは事実であるので、一度気持ちを切り替え、空を飛ぶことに集中することにした。
「じゃあ、先を急ごう」
2025年1月21日。
アルヴヘイム中立域《ルグルー回廊》に彼らは突入した。
ここで魔法を使用したのは、珍しいことにキリトだった。
「おおー、暗視能力付加魔法か。スプリガンも捨てたもんじゃないわね」
「あ、その言い方なんか傷つく……」
「あと、使える魔法は暗記しといた方がいいわよ。得意なのは幻惑魔法くらいだけど。実戦ではあまり使えないけどね。まあ、スプリガンのしょぼい魔法が生死をわける状況だってないとも限らないし?」
「うわ~、さらに傷つく……」
しかし、彼女の言うとおり、スプリガンが不人気の種族なのは事実なのだから仕方がない。
ここで何か言いたいシリカであったが、ケットシーもまた人気種族の1つであるので、自分が話しても意味がないだろうと感じ、何も言えなかった。
「まさか、ゲームの中で英語の勉強のようなことをするとは……」
「頭が痛くなりそうです。ねえ、ピナ?」
この世界で魔法を使用するには、長ったらしいカタカナを完全に記憶しなければならない。そのことに、2人ともうんざりしていた。話自体は藍子と木綿季から聞いてはいたが、それでも苦手なものは苦手だ。それに、剣を持って近づいた方が早いと考えてしまう。
もっとも、あの木綿季のほうは魔法を覚えられず、ピュアファイターになっているらしいが。
「俺ももう、ピュアファイターでいいよ……」
「泣き言言わない! っと、メッセージが入ったから、ちょっと待って」
リーファの言葉に従って待機していると、
「……なんだこりゃ?」
その疑問の声に、シリカは彼女にメッセージの内容を聞く。
『やっぱり思った通りだった。気をつけて、s レコン』
メッセージが途中で切れていた。
「エス……さ、し、す……う~ん」
「きゅるるるるるる!」
リーファが考えていると、洞窟の中に入ってからシリカの頭の上に乗っていたピナが、鋭い鳴き声を上げた。
「キリトさん、何かが接近してきます」
「モンスターか?」
ピナの様子だけではそこまでは分からなかったが、ユイが捕捉を入れてくれる。
「パパ、違います。プレイヤーです。12人います」
「じゅうに!? ……嫌な予感がするわ。隠れてやり過ごそう」
「でもどこに?」
この辺りは一本道の洞窟なので、隠れる場所などない。そう思っていたのだが、リーファは不敵に笑った。
「そこはお任せよ?」
彼女はそう言うと、2人を連れて洞窟の壁にできている窪みの部分に入り込んだ。そして、呪文を唱えると、目の前に薄いベールのような壁が発生する。
「喋るときは最低のボリュームで。魔法が解けちゃうから」
「もうすぐ視界に入ります」
ユイの言葉に、固唾をのんで闇の奥に目を凝らす。
すると、キリトが声を上げた。
「あれ、何かな?」
「え? まだ何も見えてないけど?」
「赤い蝙蝠みたいなモンスターがいます」
どうやらSAOで鍛え上げられた《索敵》でようやく捉えることができたようだ。2人は《
すると、リーファがいきなり通路に飛び出す。
「お、おい、どうした?」
「あれは高位魔法のトレーシング・サーチャーよ!潰さないと!」
魔法で風の刃をとばすと、リーファが蝙蝠を消滅させた。
そして、一同は一斉に駆け出す。
「また隠れるのは駄目なのか?」
「トレーサーを潰したのはもう向うにもバレてる。それに、あれは火属性の使い魔。てことは」
「サラマンダーですね!」
わき目もふらず、彼らは一心に走る。
リーファによると、この近くには湖に囲まれた中立の鉱山都市があるらしい。橋を渡ることでしか中に入れないそうだが、そこまで逃げ切れば安全なのは間違いなかった。
「もう少し……!」
橋の上を駆けていると、目の前に街の入り口が見えてくる。しかしその時、頭の上を何かが通り過ぎて行った。
そして、街の入り口をふさぐように巨大な土壁が発生する。
「おおおっ!」
キリトが剣を思い切り叩き付けるが、びくともしなかった。
「ムダよ。これは土魔法の障壁だから物理攻撃じゃ破れないわ」
「もっと早く言ってくれよ……」
「壊せないんですか?」
「攻撃魔法を沢山打ち込めば壊せるけど……」
しかし、そんな時間を与えてくれそうにはなかった。
シリカも、補助魔法を2つ程度覚えただけであって、この場で役に立ちそうなものはない。そしてすでに、後ろからはガチャガチャと金属音が鳴っている。
「湖に飛び込むのはありか?」
「無理よ。ここには超高レベルの水竜型モンスターがいるの。ウンディーネの援護なしに飛び込むのは、自殺行為よ」
「なら、戦うしかないな」
「ええ。でも、これだけ高レベルの土魔法をサラマンダーが使えるってことは、よっぽど手練れのメイジが混ざってるわ」
サラマンダーたちは追いついて来ると、前の分厚い鎧やタワーシールドで固めた重戦士3人と、残りのローブ姿のメイジに別れた。
「俺が先陣を切るから、シリカは後に続いてくれ。リーファは、後ろで援護を!」
キリトは剣を構えて突撃する。そして、一列に並んでいるタンク部隊を飛び越えようとして、後ろから放たれた魔法に直撃した。
そして、シリカの体にも炎が直撃する。
「きゃあああっ!」
キリトのHPをリーファが、シリカのHPをピナがそれぞれ魔法とブレスで回復した。
そして、再び突撃。今度の狙いは、盾を構えているタンク部隊。そのHPを一気に削り取る。
だが、後衛のメイジ部隊がやはり回復魔法を施し、そして後ろから再び魔法の攻撃を受ける。
(このままじゃ、キリトさんも私ももたない……)
リーファのMPにも限界がある。
「シリカ……大丈夫か?」
「大丈夫、ですけど……」
あの世界の戦闘に比べたら、本当に大したことじゃない。シリカはそう思う。
だが、状況は絶望的だった。
「2人とも、もういいよ!」
リーファが、声を上げる。
「またスイルベーンから何時間か飛べば済むことじゃない! もう諦めようよ!」
仮想世界の戦闘においても、痛みは受ける。《アミュスフィア》よりも感度が高い《ナーヴギア》を使っている2人は、なおさらだ。
そして、この世界はデスゲームでもなんでもない。だから、やり直すことは可能だ。
だが。
「嫌だ!」
「嫌です!」
2人は、同時に叫んだ。
諦めるなど、できるはずもないのだから。
「俺が生きている間は、パーティーメンバーを殺させはしない! それだけは絶対に嫌だ!」
「仮想世界だからとか、そんなことで諦められることではないんです!」
しかし、その時。
ドォン!
激しい音がした。そして、同じ方向から声も。
「お姉ちゃん、もう1回!」
再び、轟音が鳴り響く。そして、それが繰り返された後、突然土壁が街のある側から壊され、そこから1人の少女が飛び出した。
細剣のようにすら見える華奢な片手剣を構え、その
(速い!)
リーファもかなりの剣士だったが、あの少女は間違いなくそれ以上だろう。もしかすると、アスナにも迫るかもしれない。
「構わん、撃て!」
再び、魔法攻撃が発生する。しかし、少女はそれを見ても不敵に笑みを浮かべるばかりだった。
「バカ、直撃するぞ!」
キリトは、先ほどの自分の行動も忘れて叫ぶ。
そして、少女の目の前に炎が迫り……そして、彼女はその炎弾を
「「「バカな!」」」
サラマンダーたちが、常識外れの光景に目を見張る。
「てぇい!」
少女らしい高い声とは裏腹に、その斬撃はどこまでも速く、そして鋭かった。
瞬く間に、驚愕で一瞬気を抜いた1人の盾が弾かれ、その隙に再び少女の剣が重戦士を幾度も切り裂く。
さらに、その後ろから援護の魔法攻撃が飛ぶ。インプの少女は好き勝手動いているようにしか見えないのにも関わらず、その魔法は少女がいない場所を的確に狙って攻撃していた。
「えっと、その青い子竜、シリカさんで合ってますか?」
優しい声がした。
後ろから出てきた
その声を、彼女は知っている。
「もしかして、あい、いや、ランちゃん!?」
「はい、そうです。まったくユウキったら、挨拶もせずに飛び出しちゃうんですから」
その間、キリトはサラマンダーの体勢が崩れたのをいいことに、ユウキと共にサラマンダーたちを蹂躙していた。その光景に、リーファはただ唖然としている。
「あ、待って! 1人は残しておいて!」
その言葉で、2人は慌てて攻撃をやめて拘束にかかった。
「本当に、いいタイミングで来てくれたな。サンキュー、2人とも」
「ようやくこっちで会えましたね。こっちでははじめまして。ウンディーネの《ラン》です」
「ボクはインプの《ユウキ》だよ! といっても、ボクたちは《レネゲイド》だけどね」
彼らは、こちらの世界での自己紹介を終える。その様子を見ながら、リーファは驚愕していた。
「も、もしかして……《絶速剣》コンビ!?」
「「《絶速剣》?」」
初めて聞いた言葉をキリトとシリカが口に出すと、ランとユウキは苦笑いをしていた。
「えっと……私たちとしては、あまりその名前は好きじゃないんですけれど」
「レネゲイドとして、しかも特別仲が良い訳でもないウンディーネとインプが一緒にいるもんだから、そんな二つ名がついちゃったんだよねー」
のんきに話をしているように見える彼らであるが、実際には生かしておいたサラマンダーの男1人を、5人で取り囲んでいる最中である。
「し、《シルフ五傑》1人に《絶速剣》に、訳の分からない強さを持つ新入りスプリガンとケットシー……か、勝てるわけがねえ……」
その言葉を聞いて、シリカは苦笑いをした。
リーファ・ラン・ユウキは見る限りかなりの実力者であることは間違いないし、それに加えて自分とキリトはSAOで2年間の命懸けの戦いを経験しているのだ。土台となる戦闘経験の質も量も桁違いだろう。
こんな彼らに勝ちたいのであれば、キリトのようにもともとVR適性が高く、かつかなりのネトゲマニアでなければならないと思う。
キリトは笑って、自分がゲットしたサラマンダーたちのアイテムを彼に全て譲渡することを提案する。すると、メイジ部隊の男はぺらぺらと情報を話し出した。
それによると、サラマンダー上層部からの命令で彼ら3人を狙ったらしい。その理由は、何かの作戦の邪魔になるから、だということだ。
そして、大人数の軍隊が北に向かっている。
「……下っ端の俺が知っているのはこんなところだ」
「そうか。じゃあ、これがさっき言っていたものだ」
サラマンダーのメイジはキリトからアイテムやユルドを受け取ると、嬉しそうにこの場を去っていった。
そして、その様子を見ながら、リーファは思う。
(……本当にこの人たち、何者なのかしら?)
はじめは、ただの初心者だと思っていた。
しかし、そのくせ2人とも異様な強さを持ち、そしてキリトには限定配布であるはずのナビゲーションピクシーが、シリカには小型とはいえ竜種のテイムモンスター(回復能力つき)までついている。
さらに、ALOでも屈指のプレイヤーである《絶速剣》コンビと知り合い。しかも、先ほどの様子を見る限りリアルでの知り合いで、自分がログアウトしていた間に、という訳でもなさそうだった。
いくらなんでも、幸運すぎるのではないか。
だが、リアルのことを詮索するのはマナー違反だ。そう考えて、リーファはそれ以上の疑問を胸の中に押しとどめた。
そんなわけで、彼らは鉱山都市の中に入ることに成功した。
洞窟の中であるので外は薄暗かったが、街の中は明るく暖かな光に包まれている。
しばらくは街の中を楽しく観光していたが、ふとリーファがレコンからメッセージが途切れていたことに気が付いて、彼女は一度ログアウトすることにする。
「ようやく、合流できましたね」
「ああ。ここからが、本番だな」
ランの言葉に、キリトが力強く頷く。
当初の予定では、リーファにはランたちと合流するまでを案内してもらう予定だったのだが、彼女はそのためにかつてのパーティー仲間と決別し、さらに塔の場所で脱領宣言までしてしまっている。そんな彼女を見捨てる選択肢など思うこともなく……というか、キリトもシリカも、最初に双子と合流するところまでを案内してもらうことだったのを忘れて、一緒に《世界樹》まで連れて行く気まんまんだったりした。
その一方、ユウキはピナ……だけでなく、シリカも一緒に思い切り抱きしめていた。ケットシー特有の猫耳が好きであるらしい。
「ふわふわだ~!」
「ちょっと、ユウキちゃん!?」
「きゅるるるる!?」
彼女の自由奔放な様子に驚くシリカであったが、それでも嫌な様子を感じるようなものではなかったので、大人しく抱かれている。ランも「嫌がることはするんじゃないわよ」と口では言いながらも、その様子をほほえましげに見ていた。
そんな中、リーファが戻ってくるなり突然立ち上がって叫ぶ。
「行かなきゃ!」
その様子に4人が驚いていると、リーファは彼らに頭を下げた。
「あたし、急いで行かなきゃいけない用事ができちゃった。説明してる時間もなさそうなの。……たぶん、ここにも帰ってこられないかもしれない」
「じゃあ、移動しながら話そう」
キリトは真剣な表情に戻ると、すぐにそう言った。
「え?」
「どっちにしろ、ここを出ないといけないからねー」
ユウキも、一緒についてくる気まんまんである。
「多分だけど、シルフ関係なんでしょ?」
「え、どうしてそれを!?」
「なんとなく、かな」
「行きましょうよ、リーファさん!」
シリカに押されて、リーファを先頭に全員は走り出す。
彼女の話によるとサラマンダーがシルフとケットシーの同盟を邪魔しようとしているとのことらしい。
「一つ聞いてもいいか?」
「どうぞ」
「サラマンダーがシルフとケットシーの領主を討った場合のメリットは?」
「まず、同盟を邪魔できる。それが、シルフ側から漏れた情報となれば、シルフとケットシーで戦争になるかもしれない。……それと、領主館に蓄積されてる資金の三割を入手できる。そして、十日間街を占領して、自由に税金を掛けることが出来る」
領主を討たれた場合、それほどのペナルティが課せられるのか、とシリカは驚いた。
種族間で仲良くすることなどできないのも、無理はないと思う。それだけのことをすれば敗者は落ちぶれ、そしてもう勝者はますますグランドクエスト達成に近づくのだから。
すると、リーファが言った。
「だからね……これは、シルフ族の問題だから……これ以上、みんなが付き合ってくれる理由はないよ。この洞窟を出ればアルンまではもうすぐだし、多分会談場に行ったら生きて帰れないから、またスイルベーンから出直しで、何時間も無駄になるだろうしね」
彼女はそこまで言うと、立ち止まってしまう。
「……ううん、もっと言えば、世界樹の上に行きたいって目標の為なら、君たちはサラマンダーに協力するのが最善かもしれない。この作戦が成功すれば、サラマンダーは十分以上の資金を手に入れて、万全の態勢で世界樹攻略に挑むと思う。君たちの腕前なら傭兵として雇ってくれる。だから、今君たちがここであたしを斬っても文句は言わないわ」
それだけ言うと、彼女は目をつぶってしまった。ここで斬られる覚悟をしているんだろう。
「……所詮はゲーム。殺したいから殺し、奪いたいから奪う。そんなことを言ってるやつを俺は知ってるし、俺も昔はそう思っていた」
「そうですね。確かに、そんな人を私も知っています。何人も。一度はそんな人たちに目を付けられて、危険な目にあったことだってありました」
キリトの言葉に、シリカも《タイタンズハンド》や《
かつて一度、自分は危険なプレイヤーたちに目をつけられ、そして恋人となった人に命を救ってもらった。
「仮想世界でも、いや、どんなことでも許される仮想世界だからこそ、守らなければならないんです」
「そうだ。俺たちは、それを大切な人たちから教わった」
この世界での罪は、確かに現実世界で問われることがないのかもしれない。
しかし、仮想世界での体験は、現実世界に還元されていく。
プレイヤーとキャラクターは一体。
逆に、技術の進歩によって、仮想世界と現実世界は徐々に近づいて来ていて、現に、画面の中にあったそれを、脳で直接感じ取れるようになっているものの、同時に、仮想世界はどこまで行っても、人間の手で生み出された仮想のものに過ぎない。
現実世界と仮想世界は異なる。
そこが『世界』と『プレイヤー』の違いだと、彼らはよく知っている。
世界がどんなものであっても、人間は変わりない。
「……キリト君、シリカちゃん」
「しまった、時間を無駄にしちゃったな。悪い癖なんだよ」
感極まった様子のリーファに対し、キリトは慌てた様子になっている。
「ユイ、走るからナビよろしく! 3人とも、しっかりついて来いよ!」
「え? は、はい!」
「はい!」
「りょーかい、キリト!」
3人が返事をすると、キリトはリーファの手首をがっしりとつかんだ。そして、一気に駆け出す。
「きゃああああああああああ!?」
出現したMobも無視して、彼らは洞窟の外へと飛び出した。
「時間短縮になっただろ」
「寿命が縮んだわよ!」
言い合いをしているが、シリカは目の前の光景に気がついて言った。
「キリトさん、あれ!」
そこには、天空までそびえる白い巨大な木があった。
「《世界樹》……」
「はい。そのふもとにあるのが《アルン》です」
シリカの言葉に、ランが言った。
「だけど、その前に領主会談の方が先ね。場所は?」
「あっちの山の方よ」
「時間は?」
「あと、20分……」
「……間に合えよ!」
全員が、一斉に速度を上げた。
しばらく飛んでいると、ユイがキリトの胸ポケットの中から顔を出して叫んだ。
「プレイヤー反応です。前方に大集団、60人。おそらくサラマンダーの強襲部隊です。さらにその向こうに14人、シルフ及びケットシーの会議出席者と予想します。双方が接触まで後……50秒です!」
彼女の言うとおり、遠くに赤い集団がいるのが見えた。
すると、リーファが言う。
「間に合わなかったね。ありがとう。ここまででいいよ。君たちは世界樹へ行って……短い間だったけど楽しかった」
「……ここで逃げ出すのは性分じゃないんでね」
「え?」
彼女の感謝の言葉を受け入れずに、キリトは下向きに角度をつけ、一気にダイブを始める。
「な、何よそれぇ!」
リーファが叫びながらその後を追いかけるのを見て、他の3人もその一触即発の状況の中に突入した。