「妖怪、そこまでだ!」
遊園地に到着した五人を代表して天晴が叫ぶ。
「お前たちニンニンジャーか」
「そうだ。みんな変化だ」
天晴が仲間の顔を見回すが、風花の姿がない。ついさっきまで横にいたはずなのに。
「え? あ、おい!」
妹を探して首をキョロキョロさせていた天晴は正面、ムジナの元へ走り出している風花を見つけ、呼び止める。しかし、もう既に風花は聞こえない場所まで辿り着いていた。
「あの妖怪は私が倒す」
四人から出遅れている風花は少し焦っていた。自分はもしかしたら足手まといなのかもしれない。そんな不安を払しょくするには自分の力で妖怪を倒すことが必要だった。
勢いよく駆け出していく風花だったが、その視界の隅に泣いている少女が映った。少女は時計の柱にもたれかかるようにして泣いていた。
風花は迷った。先に少女を助けるべきなのか。しかし距離的にはムジナのほうが近い。ムジナもまだ少女に気がついてはいないように見える。それならムジナを攻撃してから少女を助けたほうが。
めまぐるしく回転する頭だったが、そのとき風花の動きが止まった。ムジナはその一瞬を見逃さなかった。
「隙あり」
光線が放たれた。風花は自身が狙われていることに気付いたものの既に遅く、目の前に光線が迫っていた。やられる……
「危ない!」
その時、彼女の目の前に桃色の装束が現れた。
「霞ちゃん!」
霞にタックルされる格好になった風花は倒れ込んだまま叫んだ。そしてすぐに起き上がり霞の元へ駆けよる。幸い今の攻撃による負傷はみられない。相手の攻撃が大したことがなかったのか。
風花はそんなことを考えていたが、そこでようやく霞の様子がおかしいことに気付いた。いつもならここで、心配する風花に優しく声をかけてくれるはずなのに、今日はそれがない。
「霞ちゃん?」
風花が不思議に思っていると、霞は彼女に向かって忍者一番刀を振り上げた。
「え?」
何がなんだかわからない風花は再び止まってしまう。しかし、今度は天晴が彼女を助けた。兄に腕をつかまれて攻撃から逃れた風花だったが、天晴は右腕に傷をつくっていた。
「どうなっているのさ」
風花と同じく意味がわからない凪もうろたえていた。
「わからない。が、まずはあそこにいる少女を助けて態勢を整えた方が良さそうだ」
八雲が水の術で辺りを霧で覆う。その霧の中で凪は素早い動きをみせて少女を助け、天晴は風花を連れて、その場から退散した。
疲れてしまい、屋敷に戻った風花はそのまま意識を失ってしまっていたらしい。目を開けると布団に寝かされていた。二三度目を瞬かせたあと、先ほど自分たちに何が起こったのか思い出した風花はバッと布団から起き上がった。その音に、天晴たち三人が振り返る。
「風ちゃん、大丈夫?」
凪が駆け寄ってくる。大丈夫。風花は口に出したつもりだったが、凪の耳まで届かないほどの小さな声だった。いつもの元気がない様子に天晴も妹の顔を覗き込む。その右腕に包帯が巻かれていて風花はますます落ち込んでしまう。
そこに少女の声が聞こえてきた。そうだ忘れていた。彼女は無事だったのか。良かった。けれど彼女を助けようとした自分を霞は。全て私の責任だ。
愛は風花と天晴の父である旋風と話していた。少しでも不安を取り除こうと試行錯誤している父の様子がよくわかる。聞けば彼女も大事な人を妖怪に操られてしまっているのだという。風花よりも10個は幼い少女の不安は計り知れない。
「全部私のせいだよね」
掛布団を強く握ったまま風花は呟いた。
「私が不注意だったから。自分のことばかり考えていたから」
「そんなことはないぞ」
と八雲。
「そうだ風花。お前のせいじゃない。責任があるとすれば霞を守れなかった俺たち全員の責任だ」
「そうだよ。風ちゃんは前向きでいてほしいな」
男性陣に励まされて、風花の気持ちも少しは戻って来た。
自分の取り柄は何かと考えてみる。凪の言うように前向きなところだろうか。忍術ではおそらく四人に敵わないけれど、私が皆に勝てるところは。霞が言いかけた私の良さ、とは一体何だったのだろう。
うん。うん。心の中で何度も頷き、自分の気持ちを整理する。
「そうだね。ありがとう」
まずはとにかく前向きに。とにかく霞ちゃんを助けよう。
「よし、行こう」
風花は腰を浮かせた。