ちまちま書き進めていたら芝刈り機がどうとか言い始めていた八雲のメイン回です。
「自由な時間くらいはそっとしておいてほしいものだな」
八雲は土手沿いを歩いていた。風花と凪は高校へ、霞は大学へ行ってしまったので屋敷に残っているのは自分と天晴だけ。仕方なく二人で修行をしていたが、天晴は休むことを知らず、全く息つく暇がないので、以前天晴が提案したかくれんぼを逆に提案して、天晴が数字を数えている間に逃げてきたのだった。
「タカ兄は忍術だけ学んでいればいいかもしれないが、俺は魔法も学ばなければならないのでな」
八雲は野球グラウンドが見えるところに座り、持ちだしてきた魔法の本を取り出した。魔法は忍術の力が不完全な自分たちにとって非常に大きな能力であると八雲は考えていた。天晴は一向に分かろうとしないが、それならそれで構わない。ただ、邪魔だけは困る。
読書をしている最中も八雲の頭の片隅には天晴がちらつく。集中できずにため息をつくと同時に子供のため息が聞こえてきた。八雲が振り向くと自分と同じように土手に座り込んだ少年がいた。野球帽をかぶっているので、おそらく目の前のグラウンドでプレーしていた子供だろう。以前は所詮他人のことだ、と声をかけることなどしなかった八雲だが、ニンニンジャーになってからというもの、落ち込んでいる人に話しかけるようになっていた。
「おい、どうした」
突然話しかけられた少年はビクッと身体を震わせるが、自分を心配してくれているのだと分かってくれたようで理由を話し始めた。
「友達と野球チームを組んでいるんだけど、いつも俺のせいで負けちゃうんだ」
その少年・淳が言うにはいつも自分のエラーで試合を落としてしまうのだという。チームメイトは励ましてくれるし、気分転換に色々なポジションにつかせてくれるのだが、どこを守っていても自分のプレーがきっかけで負けてしまうという。最近では、チームメイトの励ましにも以前ほどの気持ちが入っていないことに気づいてしまい、チームを辞めるべきかもしれないと悩んでいた。
話の途中で脱帽した淳のその帽子のツバに「プロになる」と太字で書かれているのを八雲は見つけた。
「お前、プロになりたいのか」
淳は少し躊躇しながらも首を縦に振る。
「一応、夢はプロ野球選手なんだけど」
口ではそう言いながら、言うのも恥ずかしいといった風だった。
八雲はフッと一息吐いて淳の肩を叩いた。
「実はな、俺も夢はプロサッカー選手なんだ」
「え?」
淳は八雲の顔を見る。
「でもなれなかったんでしょ」
そういって淳は再び顔を地面に落とす。なかなか痛いところをつく少年だ。
「……いや、なれなかったわけではない。今は別にやるべきことがあるんだ」
「やるべきこと?」
あぁ。八雲はそう答えてニンニンジャーとして戦い始めた日のことを思い出していた。
今思えばあの時既にサッカー選手になりたいという夢は忘れていたような気がする。だが、霞が大学の研究を両立して戦っていることや、もしかすると公務員になるために資格試験の勉強をしている凪にも触発されたのかもしれない。また挑戦してみたいという気持ちが芽生え始めていた。
「そのやるべきことが終わったら、再び挑戦してみたいと思っている。夢に手遅れなどないんじゃないか」
そう。サッカー選手の夢はいつまででも追いかけることが出来る。そのためにもまずは牙鬼幻月を倒すことが必要なのだ。少年と話すことで八雲は将来のビジョンを少し明確にすることができた。淳と会えて良かったな。
「そうかなあ」
首をかしげる淳。
「イージーだな。諦めなければいつか叶うさ」
「……うん。わかった。頑張ってみるよ」
「よし、それなら淳。俺とキャッチボールするか」
八雲が立ち上がろうとして手をついたとき、少し離れたところから子供の悲鳴が聞こえてきた。
「淳、ちょっと待っていろ。すぐに戻る!」
八雲は悲鳴のするほうへ駆けだして行く。するとガマガマ銃が鳴きはじめた。
「妖怪か!」