「今日も淳の守備で負けちゃったなあ」
「でもあいつが下手なわけではないんだよ」
「そう。頑張ってはいるんだけどなあ」
淳より一足早くグラウンドを後にしたチームメイトたちが歩いていた。常に淳のせいで負けてしまっている野球チームではあるが、淳のおかげで試合になっていることは間違いなく、彼を責める気持ちは毛頭ない。けれど、試合は必ず淳のミスで負けてしまう。彼らもどうしていいかよくわからなかった。
「ん、なんだあれ」
少年の一人が目の前に立つ変な人を見つけた。いや、それは人ではなく妖怪だった。
その妖怪は掃除機にシュリケンが刺さって誕生したノヅチという妖怪であった。ノヅチは右腕の掃除機のパイプのような吸い込み口から人々の怖れの感情を吸い込んでいた。怖れは人の身体から霧状に噴き出し、それを吸い込まれてしまった人は気力を失ってその場に倒れ込んでしまうのだった。
少年たちが見つけたノヅチの後ろには既に気力を失った人々が大勢、地面に突っ伏していた。
「うわああ!!」
勿論気力を吸い取られているなんてことが少年たちに分かるはずもなかったが、その場の異様な雰囲気と、人が倒れているという光景に恐怖を感じ、悲鳴をあげてその場を立ち去ろうとした。しかし、所詮子供の脚力が妖怪に敵うはずもなく、あっという間に追いつかれ、三人もまた気力を吸い込まれてしまった。
「遅かったか」
悲鳴をききつけ、駆け付けた八雲だったが、既に彼の目の前に少年たちが倒れ込んでいた。八雲はノヅチを見つけたが、ノヅチはこの辺一帯の人々をほとんどその手にかけたらしく、別の場所へ移動しようとしており、未だ八雲に気が付いてはいなかった。
気が付かれていない今が好機と八雲は忍者一番刀を取り出す。
「みんな!」
その声に驚き、後ろを振り向く八雲。そこには淳がいた。淳は八雲の教えを聞かず、後を追いかけてきていたのだった。
幸い、まだノヅチに気付かれてはいないため、八雲は静かに彼をその場から逃がした。
「今は一旦逃げるんだ」
「でも!」
「お前の友達を助けるチャンスは絶対に来る。だから今は待つんだ」
八雲が何度も繰り返し励ますと、淳もようやく少しは落ち着きを取り戻したようだった。しかし、落ち着きを取り戻した分、淳を恐怖が襲った。自分はあの怪物から友達を助けることができるのだろうか。
できるはずなどなかった。口に出さなくても淳がそう思っていることは八雲にもわかった。
「そこで何をしている」
妖怪は怖れを求める。だから淳の恐怖に気がついた、というわけではないだろうが二人はノヅチに見つかってしまった。
「くっ」
八雲は咄嗟に忍者一番刀で斬りかかった。
「とにかく、安全な場所へ避難するんだ」
淳にそう言って、八雲はシュリケン変化してノヅチと交戦を始めた。
「……ニンニンジャー」
淳は驚いて、自分でも気づかぬうちに呟いた。
「シュリケン忍法、水の術」
水が渦状になり刀から飛び出しノヅチを襲う。しかし、右腕のパイプがこれを吸い込んでしまう。
「そんな使い方もできるのか」
ならばと、今度は木の術でツタを伸ばして攻撃するが、それは左腕のノズルがカッターのようにして切り落としてしまった。その後もことごとく八雲の攻撃はかわされてしまう。
また、吸い込んでばかりではないといわんばかりにノヅチはパイプから風を噴射。その風力で八雲は吹き飛ばされてしまった。
至近距離でその攻撃を受けてしまったため、八雲はダメージでなかなか動くことができなくなってしまった。その時、未だ状況を見守っていた淳が見つかってしまった。
「まだ子供が残っていたか」
ノヅチはじりじりと距離を詰めていくが、淳は恐怖で足がすくんでしまっていた。
ノヅチのパイプが淳に向く。淳は諦めて目をつぶった。
しかし、しばらくしても何も起こらないのでゆっくりと目をあけた。そこには自分を庇って気力を吸い取られてしまった八雲がいた。
「お兄さん!」
「……イージーだ。とにかくお前は逃げてくれ」
そう言って八雲は倒れ込んでしまった。ようやく動けるようになったとはいえ、淳に八雲を置いて逃げることはできなかった。だが、戦って勝てる相手でもない。
絶体絶命のピンチであったが、そこに天晴たちが駆け付けた。
「おい八雲、どうした。あ、そういえばお前、かくれんぼ逃げただろ」
天晴は八雲を抱きかかえた。
「……そういえばそうだったな。まぁ俺は大したことない。すまんが、タカ兄。こいつを守ってやってくれ」
「お、おう。わかった」
「じゃあタカちゃん、僕たちがあいつを食い止めておくから」
凪が風花、霞とともに向かっていく。
「四対一か。これは少し分が悪い。一時退散させてもらおう」
そう言ってノヅチは攻撃を喰らう前にパイプから煙を噴射させた。その中に凪たちは突っ込んでいくが、煙が消えた頃にはノヅチの姿はどこにもなかった。