学園アリス If   作:榧師

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蛍の転入③

「あんた、ここに住んでないでしょ」

 

 蜜柑の部屋に乗り込んで来るなり、蛍はそう言った。あまりに自然に、「今日の夕飯何かしら」というレベルで気軽に言ったため、一瞬意味を量りかねるほどだった。

 

「・・・・・・へ?」

「馬鹿面さらさないで。あんた、この部屋にろくにいないでしょ。普段どこで寝てるのよ」

 

 ベッドは敷かれておらず、椅子は動かされた形跡がない。本棚も机もしかり。夕食後はすぐに瞬間移動していたため、使っていないのは本当だ。愛着も湧いていない。だがそれを馬鹿正直に言う馬鹿がいるか。

 

「いや、それは」

「誤魔化さなくていいわよ。知ってるから」

「へ? 知ってる? なんで?」

「馬鹿面はやめて。撃つわよ」

 

 蛍さん待ってその武器みたいなものはなんですかいつの間に作ったの構えないで。構えないで!

 

「私を甘く見ないでちょうだい。三日で盗聴器&盗撮器を作ってさらに三日でそれを貼り付け設置して一日で情報を整理したんだから」

 

 一週間何をしていたのかと言えばそんなことをしていたのか。ぞぞーっと鳥肌が立った。

 

「が、学園にばれるやん?」

「平気よ、私のメカを嘗めないでちょうだい。そんなちゃちなもんじゃないから」

 

 ・・・・・・恐るべし今井蛍。もう蜜柑は諦めた。彼女に逆らってはならない。というより無意味だ。

 

「どこまで知ってるん?」

「あなたのアリス、家族構成、初校長のお気に入りであること、普段どこに住んでいるか。あと・・・・・・」

「もういいですそこまでっていうかプライバシーは!? ウチの個人機密!」

「そこまで大事じゃないでしょ。減るもんでもないし」

「減るわ! 大いに減る!」

 

 うわーじーちゃんお母さんお父さんウチに今危機が迫っております鬼蛍さんがウチの秘密を・・・・・・!

 

「うるさい」

 

 バカンッ!

 撃たれた。痛い。怪我はしてないけど痛い、涙が出るほどに。

 

「バカン砲。もっと命中率と威力を上げたいわね・・・・・・」

「いやそれでええやろ、てか何に使うの」

「それより――身体、大丈夫なの」

 

 急に心配そうな顔で言ってきた。いきなりそんなになると、こっちも態度に困る。眉をハの字にして、頬を搔いた。

 

「まあ、今のところは。というか、そこまで知っちゃったんか」

「あなたが定期入院をしているという話はね。最近は薬も飲んでいるらしいじゃない」

「まあ、ほんま大丈夫やよ。初校長ウチのことは敏感すぎるほどやし、治癒の石いっぱいもらっとるし」

「いつまで、このままでいるつもりなの。あんた、初校長の下を離れる気ないでしょう。そう見えない」

「うん、あらへんよ」

 

 どうして、と問うてくる。蛍も学園によって苦労させられてきたのだろう。複雑そうな目だ。

 

「あの人はな、ウチがおらへんとあかんのや。壊れてまう――ううん、もう壊れておるのかもしれんな。けど、もっと壊れてしまう。きっともっと、危力の生徒を使って、それ以上に、一般生徒も巻き込んだり、アリスを持つ子供を強引に学園へ連れてくるようになる。でも、ウチがおるから。だからあの人はまだ平気なんや」

「まるで自己犠牲ね。馬鹿みたい」

「――放っておけるわけないやん。あの人、ウチが初めて倒れたとき、偉い形相してたんやって。目ぇ醒めて病室にいたのもあの人で。もう偉い必死な目で、死ぬな、死ぬなって言うて、仕事もあるのにウチが言うまで離れようとしなくて。ウチがちっとでも咳をすると慌てふためて、調子はどうか聞いてきはって」

 

 まるで子供だ。親離れできない子供、あるいは、赤ん坊のまま放り出されてしまった子供。全く本当に黒くてずるいお方や。最初は、憎もうと思った。初校長だけを憎めばいいと。せやのにあんな様子を見せられては、憎むよりも先に哀れに、放っておけなくなってもうた。

 

「馬鹿ね」じつにずばりと蛍が言ってのけた。「馬鹿。本当に馬鹿。お人好しにもほどがあるわね」

「あんたも同じやろ。ろくに知らんウチにこんなに関わりおってからに」

「・・・・・・あんな顔されたら、たまらないじゃない」

 

 ――佐倉蜜柑。

 クラスではずっと笑っていた少女。人の輪の中心にいて、どんな奴もそこに引き込んで、いつの間にか中心から離れている。脳天気なのに、単純そうでアホなのに、とらえどころのない。ちぐはぐな印象。そこで盗聴から彼女の事情を知って。託された手紙を渡すことを蛍は決めたのだ。彼女の祖父が、両親と被っていたのも理由だった。蛍の両親はずっと、幼い頃に学園へ行った兄へ手紙を書き続け、来ない手紙を待ち続けている。

 手紙を渡したとき、蜜柑の本当の素を見た気がした。ずっとずっと、押さえ込んでいたのだろう。祖父に会いたい、帰りたい。その本音が手紙を見た瞬間、何層もの殻を落として露わになった。ぼろぼろと5年分の涙を流しきって、それでも流し足りない涙を押し込めてしまった。手紙を灰にして笑ったあの笑顔は、決意とあきらめのそれだった。

 ――そんな顔で、我慢をして、学園を過ごしていこうなんて。ここまで知って放っておくなんて、できるわけがない。

 そう思う自分も、酷くお人好しだ。蜜柑の言う通り。やや自嘲気味に思う。

 

「顔?」

「いいえ、気にしないで。なんでもないわ」

 

 きょとんとする蜜柑に、蛍は答えようとしなかった。

 




捏造だらけな蛍編終了。
どうしよう、ストックがだんだん減ってきた・・・・・・
とりあえず次は誘拐編です、原作要素が今までで一番濃くなる(ほど濃くならないか?
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