アリス祭、前期試験と終わると、優等生賞が待っている。一週間の帰省、セントラルタウンの商品券など、選ばれた者に与えられる権利はとても豪華だった。
「じゃあみんな。行ってくるね」
それに選ばれた委員長は、今まさに実家へ帰省しようとしていた。久方ぶりに家族に会える喜び、とりわけ幼い妹を目にできるということに頬を上気させている。その様子に送り出すこちら側も自然笑顔になった。
「楽しんできてな!」
「うん。一週間後にね」
「おみやげもよろしくー!」
わいわいと賑やかに送り出されて委員長は実家へ帰って行った。実に和やかな後悔だった。
「およ、翼先輩?」
夜、本部で出くわしたのは、ニット帽を被りほくろのように星印をつけた少年――安藤翼だった。ちょっと特殊な立場で、表向きは特力系だが裏では危力系に属し、任務を行っている。かれこれ二年前のアリス祭で知り合って以降の関係だ。
久しぶり、と手を軽く上げ快活な笑顔を見せた。
「というかまだ起きてるのかよ。深夜だぜ?」
「お散歩やよ」
「子供はもう寝る時間だぞー?」
怒った表情を作ったかと思えば、いたずらっ子の顔つきで蜜柑の頭をぐしゃぐしゃとかき回す。「先輩やめぇ!」蜜柑の抵抗虚しくあっという間にツインテールは崩れてしまった。
「そらそら、さっさと寝た寝た。送ってってやるから」
2人で本部の廊下を歩く。見送りと行っても蜜柑の部屋まではいけないのだが。
「任務大丈夫やったん?」
「もう何年やってると思ってんだ、心配することねぇって。それこそお前らチビはどうなんだ」
「ウチはいつもどーり。棗も、最近は調子ええみたいやよ」アリス石が効いたかな、とそこはほっとしている。
短い時間で互いの近況を話す。その中で不意に翼がそれについて口に出した。
「そういや、噂を聞いたか?」
「アリス紛失事件やろ? 今日先生が話しとったよ」
つい数日ほど前からだろうか、外部のアリス保持者のアリスが、突然なくなるということが相次いでいるとか。アリスをアリスたらしめる力についての噂だ、学園も心穏やかではいられないらしかった。
「まだ学園内でこのような事件は起きていませんが、今後の成り行きは予測できない状況です。皆さんも、自分やお友達に異変があればすぐに知らせてください」
と鳴海がB組に話したように、翼のいる中等部でも同じように教師から説明されたのだろう。
「少なくとも自然消滅とかではなくて」
「人為的、もしくはウイルス。まあ、理由がわからねぇって学園も困惑してるみたいな。お偉い方は見当つけてないのか?」
「ウチに言われてもわからへんって。翼先輩はウチが何でも知ってるって、勘違いしとるわ」
蜜柑は苦笑って手をぱたぱた振った。さすがに機密情報を漏らすなど、初校長やペルソナは絶対にしない。なんとなく、彼らが考えていることは分かるけれど、蜜柑は推測を口にしなかった。
「まあお前はもともと学園から出ないからあまり心配なさそうだけど、気をつけろよ」
翼と分かれ、部屋に戻りながら蜜柑は己のアリスについて考えた。母親から受け継いだアリスの方を。
「盗みのアリス――・・・・・・」
それからさらに数日経った。その日は委員長が里帰りから帰ってくる日だ。みんな今か今かと雁首そろえて待ちかまえていた。
「ただいまー」
『おみやげらー!!』
――委員長のおみやげを。
少し涙ぐみながらもそれでも委員長は健気で誠実だった。きちんと一人一人、福岡土産などを手渡していく。
不意にパーマが叫び声を上げた。
「私の買ってきてもらった人形が・・・・・・!」
無惨にマーカーでメイクされた人形を手に犯人を捜す。すぐに見つかった。心読みとキツネ目を捕まえ、パーマは委員長へと突きだした。
「委員長、こいつら幻覚でこらしめてやってよ!」
「僕がっ!?」
パーマの般若のごとき迫力に勝てず、委員長は手を組んだ。あまり恐くない奴をちょっとだけ・・・・・・。
「――あれ?」
違和感。おかしい、と思ってもう一回手を組み直す。おかしい、おかしい。
「委員長? どうしたん?」
みんなの視線が委員長に集まる。賑やかだった教室が不自然な沈黙に包まれた。訳も分からない不安がせりあがってくる。
それは、的中した。
「アリスが・・・・・・出ないんだ」
呆然とつぶやく委員長の顔は、白かった。
Z編の始まり。
翼先輩がようやくでました。けれどペンギーだせなかった・・・・・・オリ展開しちゃったあとで原作組み込むのって難しい。
すっとばしてしまったアリス祭も、いつか暇があったら番外編として書きたいです。