学園アリス If   作:榧師

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手がかり

不意に声が掛かったのはそのときだった。

 

「そこのチビたちなにしてんだ?」

 

 いきなりのことで、蜜柑と流架は跳び上がった。声を掛けた主は暢気な口調ではあったけれども。

 

「初等部はみんな待機じゃあねぇの?」

 

 蜜柑は振り返って、声の主の姿を確認できた。高等部の制服、長い黒髪のいかにもふざけた面の男。どっかで見たな、と考えこんで少し、納得した。

 

「殿内明良先輩、やったっけ。特力代表の」

 

 殿内は驚いたようだった。

 

「俺の名前知ってんだ?」

「翼先輩の先輩なんやろ? 聞いたことあるもん」

「翼の――?」

「ウチは佐倉蜜柑や。よろしゅうに」

 

 名を告げると、彼の目が見開かれた。いろいろ情報通だという彼は、噂について少なからず知っているのだ。こいつがあの、と雄弁に語っていた顔つきはすぐに笑みに取って代わった。

 

「へぇ、可愛い後輩じゃねぇか翼の奴」

 

 成り行きで初等部まで一緒に行くことになった。興味を持たれたのか、殿内が積極的にあれやこれや話しかけてきた。途中で流架が辟易したのに、少しだけ心が晴れる気がした。

 

「初等部の子がねぇ・・・・・・」今回の事件の顛末を聞いて、殿内が痛ましげな顔を作った。「ウイルス入りの銃子供にぶち込むなんて、Zの奴どんな根性しているんだか」

 

 元気出せよ、と頭に手を置かれた。それに蜜柑は曖昧に笑うことしかできない。このまま手をこまねいていたくない、という気持ちがさっきからずっとある。ウイルスの話を聞いてから、その衝動にも似た感情は高まりつつあった。何かしたい、どうにかして、蛍を助けたい。

 それに、あの女性のことも――。

 

「・・・・・・Zの奴ら、どっから侵入してきたんだろうな」

 

 ふと殿内が漏らした言葉に、蜜柑は顔を上げた。

 

「侵入?」

「あれだろ、学園には結界が張られていて、アリスを使ってもすぐばれるだろ。なのにあっさり侵入して、容疑者共々とんずらこいちまってさ。一体どんな手使ったんだか」

 

 言われてみれば、それは当然の疑問だった。学園側も厳重の注意を払っていたはずだ。にもかかわらず、侵入する隙があった。なんとなく引っかかりを覚えて蜜柑は頭を巡らせる。

 昔。母はどのように学園を脱走した?

 

「・・・・・・まさかねぇ」

 

 同じように考えていた殿内が不意につぶやきを漏らした。声を拾って蜜柑が顔を上げる。

 

「先輩、なんか言うた?」

「いや、なにも」

 

 誤魔化すように手を振るが、蜜柑はそのつぶやきを拾っていた。そしてそれは、活路につながる手がかりだった。蜜柑はそう悟った。

 

「・・・・・・佐倉?」

 

 急に立ち止まった蜜柑に、流架が訝しげに振り返った。

 

「ごめん、ルカぴょん。ウチ病院に忘れ物してもうたわ。ちょっととってくる」

「佐倉!」

 

 止める間もなかった。残された2人は、目を瞬かせて背中を見送るしかなかった。

 ――俺、何か変なこと言ったのか?

 殿内はひとり、冷や汗をかいた。

 

 

 

 翼は足早に本部の廊下を歩いていた。一人ではない。棗を追いかける形だった。棗の方は友好的とは言い難く、迷惑だという感情をむき出しにして睨んでいた。

 

「ついてくんなよカゲ」

「何言ってんだ俺はてめぇを連れ戻しにきたんだっつの!」

「一人で戻ってろよ」

「戻れるかってのあの中に・・・・・・」

 

 翼がぶるりと身を震わせる。まったく、表は特力のはずなのに、どうしてこんな会議には危力として声が掛かるのだろう。おかげで肩身は狭いわおかまのルイには気に入られるわ。さんざんである。本音を言えば、棗を言い訳にして抜け出してきたのだった。 抜け出したといっても、棗に目的地があるわけでもなかった。無言で2人は一定の距離を保ち淡々と歩き続けていたが、不意に足が止まる。

 

「おい、棗?」

「蜜柑」

「え」

 

 棗の視線の先は窓を越した向こう側だった。翼もよく知るツインテールの少女の姿と、もう一つ。

 今井昴だった。

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