Z幹部御原は、スクリーンの中に新たな人影を認めた。分断されたうちの3人が、着々とこちらへ近づきつつあるようだった。
蜜柑と別れてしまった棗達はアジトの奥へと歩みを進めていた。蜜柑を探そうにも罠はすぐに失せてしまったし、あてもない。彼女の無事を信じて、とにかくにも進むしかないという結論に達したのだ。
アジト内は迷路のように入り組んでいるわけでもなく、一本道が続いている。延々と続くかとも思われるのは、襲撃すらなくひたすら歩いているからだろうか。あまりにもあっさり進むことが、3人の背筋を薄ら寒くさせていた。
幾度目かの扉を、翼が開け、うかがうように部屋を覗いたとき、彼がはっと背中を強張らせた。それをみて流架と棗も身構えた。何も言われずとも、その先に敵がいると察したのだった。
「・・・・・・ようこそ、アリス学園の方々」
もったいぶった挨拶に翼が一瞬うんざりした表情を見せた。
だたっぴろい空間にたたずんでいたのは、サングラスをした男だった。その横には男女が一人ずつ。そのさらに後ろに黒服が十数人、控えていた。
「私はZの幹部御原。一応名前を覚えて置いてもらいましょうか。せっかくここまできたのだから、学園に帰るなどもったいない」
「あいつはどこだ」
鋭く問うたのは棗だ。他の2人も険しい目線を向けるが、御原にたじろいだ様子はない。
「少し大人しくもらっています。いずれ再会できる」
「今すぐ返せ。でないと」
「でないと、どうすると」
御原が笑みを浮かべた。胡散臭いとしかいいようがない、到底好感など持てない笑みだ。
「アジトには幾人もの部下がいる。私が合図を出せばすぐさま飛んでくるだろう。対してあなたたちはどうか。アリスといえど、来るとすれば役立たずの少女ひとりだけ。大人しく屈した方が身のためだ」
棗の返答は炎で返された。床をなめ御原のもとへと迫るが、志貴の結界が彼を守った。二つのアリスが拮抗し、境界線を造りだしている。
「捕らえろ」
御原の命令で黒服が動き出した。ばっと棗を捕らえようとするのを阻止したのが翼の影だった。相手の影を踏み動きを止め、そのまま固定させる。
状況が変わったのは、急に少女の声が聞こえたためだった。蜜柑だった。牢屋の鍵が開いていることに気づき、そのまま出てきたのだ。誰の仕業かは、自明の理だった。
「――棗、ルカぴょん、翼先輩・・・・・・!」
「蜜柑、お前無事か!」
蜜柑は翼の方へ駆け寄ろうとしたが「来るな!」と叫ばれる。部屋はすでにZの者で一杯だった。新たに来た蜜柑にも黒服達は狙いをつけようとしたが、炎によって阻まれる。
棗は蜜柑の襟首をひっつかんで自分の後ろへと立たせた。ここにいろ、無言の要求に蜜柑も無言で頷いた。実戦経験のない蜜柑は足手まといだ。流架も翼のそばにいる。
それにしてもこの状況、とても弄ばれているとしか思えない。自身もアリスで、大人数の部下がいるのならば、蜜柑達を捕らえることはたやすいはずだった。しかし御原はただ悠然とサングラス越しにこの状況を傍観するだけである。サディスト、という言葉がよぎる。とんだ、性根の腐った奴だ。
相手が侮っている中で、なんとか隙をつけないものだろうか。
ポケットの錠剤を握りしめながら考えていると、御原の表情が変わった。嗜虐的な笑みは失せ、無表情ともいえるものになっている。
「そろそろ茶番は終わりにしましょうか」
御原は志貴を呼び寄せ耳元で何かささやく。一体何をするつもりなのか、いちいち不安を煽ってくる。棗の強張った横顔を、蜜柑は見た。
不意に流架の悲鳴があがった。蜜柑達3人は息を吞んだ。瞬間移動した志貴が流架を羽交い締めにし捕らえている。全員の意識が、そちらに傾けられた。
翼が駆け出そうとしたが、彼の腕を必死で引っ張る者がある。カゲ、と必死に叫ぶ声は流架のものだった。
「違う、幻覚だ・・・・・・!」
また悲鳴が上がった。流架のではない。棗のすぐそば、蜜柑の口から。時すでに遅く、振り返った先に蜜柑の姿はない。
「子供は馬鹿ですねぇ」
蜜柑を捕まえ戻った志貴を満足げに見やり、御原は笑んだ。そしてゆっくりと、サングラスへ手をかける。
「この子供は、私のアリスを防ぐ唯一の切り札だったというのに」