学園アリス If   作:榧師

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初校長②

 初校長の体内から出てくるアリスは二つあった。一つは白、黄色、オレンジの混ざり合ったもの。それに触れるとじんわりとした温かさがあった。なんだろう、よく知っているような、懐かしさは。

 もう一つは酷く禍々しい闇色だった。一体どんなアリスなのか。

 

「これは、私を憎んだ奴が入れた石だ。この二つによって、私の身体は逆成長を続けている――私は、本当は子供でないのだ」

 

 これからも頼むよ、と初校長は蜜柑に笑いかけた。初校長は優しい。けれど高校長と違って不気味だった。どうしてそんなアリス石を入れられたのか。どうして、それらを――特に明るい色の石を、恐ろしい形相で睨み付けるのか。分からなかった。

 初校長からアリス石を取り出すことと並行して、もう一つの仕事を蜜柑は命じられた。本部の地下にいる人たちから、アリスを盗ったり、入れたりすること。その意味を蜜柑は知らなかった。ただ命じられるまま、やった。

 

「――ひっ」

 

 アリスを盗った瞬間、男の人の顔がゆがむ。首へ手をかけて、苦しんでいる。彼は蜜柑を見て――口を動かした後、倒れた。

 

「あ、あ、あ――」

 

 ペルソナが男の人の脈を測る。「死んでいる」

 死。

 死んだ。

 

「これしきのことで死ぬとは。使えないな」

 

 初校長、どうしてそんな平気な顔をしてはるの。死んだのに。死んでしまったのに。誰のせいで。ウチや。ウチのせいで。

 

「気にしてはいけないよ、蜜柑。これからまだまだ仕事は残っているのだから」

「い、いやや」

 

 蜜柑は後ずさった。じわじわと、殺してしまった事実が心を蝕む。足下に暗闇が差し迫ってきている。

 

「いやや。ウチ、こんなこと、やりとうない。殺したくなんて」

 

 不意にうなじに衝撃が起きた。一瞬意識がなくなる。気づけば床に倒れ込んでいて、初校長がのぞき込んできていた。

 

「殺す? 違うよ、蜜柑。これは不慮の事故だ。気にすることはない――お前はただ、私のいう通りに動けばいいのだよ」

 

 頬をなでられる。ぞわりと悪寒が走る。運びなさい、と命じる遠い声。これは、悪魔の声だと蜜柑は悟った。

 

 

 

 分からない。

 どうして初校長は自分にアリスを盗らせる? 入れさせる? そのせいで人が死んでもなぜ笑っていられる? どうして、月は蜜柑を敵視する?

 

「初校長からよ。早く良くなるようにと」

 

 治癒のアリス石を渡される。蜜柑は寝込んでいた。風邪をこじらせたのだ。身体が熱っぽくて、だるい。アリス石を握ると、少しだけ身体が楽になったような気がした。

 蜜柑を見下ろす月の顔は、嘲りに満ちていた。

 

「こんなガキのことを心配するなんて普通はないのよ。初校長は多忙であられるんだから。そうよ、あんたじゃなければこんなことには――」

 

 月の白い手が蜜柑の首に伸びる。ひやりとあてがわれた手。力んで、長い爪が首に食い込んだ。痛い。そのまま、首を絞める――

 すぐに手は遠のいた。時折月はこのようなことをする。蜜柑への恨みを募らせるあまり、それは暴力へつながる。腕、脇腹、首。気づかれにくい箇所には、うっすらとアザができた。

 

「・・・・・・初校長のお気に入りじゃなければ、もっとやってやれるのに。感謝しなさいよ、あの方に」

「どうして」

 

 こんなことをするの。

 初校長に執着されているの。

 こんなところに――部屋にいなければならないの。

 どうして。なぜ。分からない。

 

「そうね、あんたは何も知らなかったわね」

 

 その日の夕方、月は夕食とともに一つの石を蜜柑の手に握らせた。黄緑色のアリス石。

 

「タイムトリップのアリス石よ。それで過去でも見てきなさいよ」

 

 使うかどうかはあんた次第よ。

 もう限界が来ていた。分からないままで閉じ込められ、暴力をふるわれ、仕事を強要されることに。理由が知りたい。その一心で蜜柑はアリス石を握りしめた。

 

 

 

 全てを知ったとき、蜜柑の頬には涙が流れ落ちていた。

 




次話からは8歳までとびます。
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