学園アリス If   作:榧師

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救出③

 心臓の音が早い。ドクリドクリとまるで生き物の蠢きのようだ。蠢いた血液が痛みとともに背中から流れだしていく。

 頭を動かすのも困難だった。その動作だけで十分も経ったように感じながら、声をかけてきた人物を見上げる。柚香は声を紡ごうとしたが、無意味に息が吐出されただけである。それでも、彼女には通じたようだった。

 

「私がわかる? そうよ、月よ。昔あなたの『親友』だった小泉月」

 

 カツカツと靴音高らかに至近距離まで近づいていく。咄嗟に志貴が銃を向けようとしたが、ぴしゃりと月が声を上げる。

 

「動くとこの女はどうなるでしょうね」

 

 月は後ろに部下たちを従えていた。数人が廊下を走って行き、残りはぞろぞろと志貴と柚香を油断なく囲む。逃げる隙はない。

 

「あなたは殺せと言われているわ。でも、そう簡単に済ませてやるものですか」

 

 嗜虐心の満ちた声は、柚香の知る者ではなかった。

 

「月……あなたどうして、まだここに。まだ、あいつに縛られて」

「違うわ。私が望んであの方に従っているだけよ。ええそうよ、あなたとは違うわ! 初校長に執着されながら、それを拒んだあなたとは!」

「初校長は、あなたを利用しているだけよ。あなたじゃない、アリスだけを、見ているだけよ」

「初校長は私を認めてくれたのよ! 忌み嫌われた私のアリスを! 必要だと言ってもらえた!」

 

 月の顔が憎々しげに歪んだ。

 

「あなたがいなくなってすっきりしたわ。ようやく、ようやく私を見てもらえると思っていたのよ――あなたの娘が現れるまではね。親子そろって忌々しい」

「あの子を、知ってるの」

「何考えているのかわからない子だったわ。ああ、本当はあの子を捕らえるつもりだったのに、あんたが邪魔したお陰で逃しちゃったわ。どっか駆けまわっているでしょうから、危険能力系あたりが捕らえているでしょうね」

 

 いずれ捕らえることができる、という思いから月の余裕はきていた。しかし柚香が感じたのは不安だった。捕らえられてしまうという心配ではない。

 決着を付けなければ、蜜柑はそう言わなかったか。初校長と決着をつけると。それは、つまり。

 

「あの子を、止めないと……」

 

 初校長は自分が倒す、そう誓ったのではなかったか。それが果たせぬばかりか、娘が実行しようとしている――背筋がおぞけ出すのを、柚香は感じた。腕に力を入れようとした時、銃声が響いた。

 月が顔を強張らせた。その一瞬の隙をついて、志貴が動いた。瞬間移動で柚香のそばへ行き彼女を抱きかかえ、再度移動する。止める間もなかった。銃を持った集団が、廊下の向こう側から姿を表したのだ。廊下に緊張をはらんだ空気が満ちた。

 

「――柚香先輩!」

 

 志貴が移動した先には昴がいた。ぐったりした柚香の姿に、顔を強張らせる。

 

「とにかく、病院へ」

 

 頷いた志貴の腕を柚香が触れた。彼女の表情は必死だった。

 

「初校長室……蜜柑が、そこに」

 

 お願い、そこにいって。

 無言の頼みに、志貴は頷いた。

 

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