「転入生が来まーす。みんな仲良くしてあげてねー」
9月に入ったばかりのことだった。未だ残暑は続いており、初等部B組の生徒たちはだれきった顔つきで座っていた。
クラスのみんながざわざわとさざめき出す。中途半端な時期に来る転入生、今年に入って転入してきたのは棗と流架の二人だけだった。流架も少なからず興味があるらしいが、棗はつまらなそうな表情で窓の方を向いていた。
「佐倉蜜柑でーす! ほなこれからよろしゅうに!」
聞き覚えのある声に棗は教卓の方を見た。せわしく揺れるお下げの髪、太陽のように明るく笑う陽気な関西弁。
夏服に身を包んだ少女は、確かに病院で話した少女だった。
クラスを見渡し、蜜柑は棗と流架を見つけ、にこりと笑った。二人とも驚いた顔をしとる。ドッキリ大成功、そのつもりはなかったけれども。
「蜜柑ちゃんはどんなアリスなんですかー?」
「無効化のアリスやよ」
「珍しくて見つけにくいアリスだからね、今までは外で暮らしていたのをこの学園に来てもらいました。始めのうちは慣れないだろうから、みんな助けてあげてね」
担任の鳴海の声に、クラスのみんなは元気よく返事をした。
ホームルームが終わると、委員長を始めとする子達がどっと蜜柑のもとへ押し寄せる。閉鎖的で人の入れ替わりが激しくないアリス学園、転入生は大きな刺激だった。みんなが自分のアリスを披露していったり、委員長が丁寧に学園の制度を説明したりした。
「星階級?」
「アリスの強さで待遇が変わってくるんだよ。シングルから始まって、ダブル、トリプル、スペシャル」
「へぇー」
「飛田くんはトリプルなんだよ、蜜柑ちゃん」
「へぇー! すごいやん、委員長」
委員長が照れ笑いをする。穏やかそうな良い子だ。野々子ちゃんやアンナちゃんなどとも仲良くなれそうや。
「『すごいねんなぁー、ウチもなれたりするんやろか』」
「!?」
「あ、僕心読みだよー」
ぬっと現れた笑う無表情。そいつの頭をはたいて、黒髪パーマ女がきっと睨んだ。まるで般若みたい。
「新入りがトリプルとかそう簡単になれないわよ。せいぜいシングルなんだから」
「誰?」
「パーマだよ」と心読み。パーマが彼をきっと睨んだ。
「だ・れ・がパーマよッ! あたしには正田スミレっていうれっきとした名前があるんだから!」
「パーマはダブルなんかー」パーマの制服の襟に付いた星バッチは二つ。「それってすごいん?」
「だからパーマじゃないって言ってるでしょー!?」
「しょ、正田さん、落ち着いて・・・・・・」
キィィ、と叫ぶパーマを委員長が必死になだめている。その間に心読みが説明をしてくれた。
「ダブルはまあいるけどねー、トリプルは初等部では2,3人だったかな。スペシャルに至っては1人だけ」
「1人だけでもいるんやね。ここのクラス?」
「うんそう。ほらあの子、棗君」
くるっと振り返って、窓枠に乗っかかっている棗を指さす。視線を感じてか、目があった。赤い目。燃えるような色なのに、誰も入ってくることを許さない氷のような冷たさ。
ずいぶんと印象が違うなぁ、と蜜柑は首をひねる。裏庭で会ったときはもっと柔らかかったような。会話もたぶん、楽しんでくれていたと思うし。
何となく手を振ってにこりと笑いかけてみた。ついでに流架にも。真っ赤になった。可愛い。棗はちょっと目を動かしただけでそっぽを向いてしまった。
過剰反応をしたのはむしろ周囲だった。ざわざわっと教室がざわめく。委員長や野々子ちゃん、アンナちゃんも目を丸くしていた。
どうしたん、と言う前にパーマがくわっと詰め寄ってきた。
「ちょっと新入り! あんた棗君達と知り合いなわけ!?」
「え・・・・・・まあ、友達?」
「友達ですって!?」
あれ、なんか視線を感じる。窓の方から。なんか睨まれているような気がするんやけど。言ってはだめだったのだろうか。
「あー・・・・・・じゃあ、知り合い? 顔を見たことがあって、ちょっと話した程度?」
「いったいいつ!?」
「つい最近? たまたま」本当は二ヶ月前である。
「棗君は、滅多に誰とも喋らないから・・・・・・喋るとしても流架君とくらいで」
「へぇ」
「近寄りがたい雰囲気でしょう? 蜜柑ちゃん恐くないの?」
蜜柑は曖昧に首をかしげた。数年間初校長の管理下にいる蜜柑としては、彼やペルソナ、月よりもずっと接しやすい。彼らよりもずっと感情が見えるし、何も考えず話してもいいのだから。同い年を久しぶりに見たという親近感もあるのだろうけれど。
もう一回窓に目をやったけれど、いつのまにか二人はそこにいなかった。