学園に通うことになっても、蜜柑は相変わらず本部の部屋に住んでいる。まあカモフラージュのために寮にもシングル用の部屋をもらった。そこから瞬間移動で帰っている。できるだけ普通の生徒として暮らしたい。蜜柑の望みだった。
瞬間移動のアリスは、まるで自分自身のアリスであるかのようになじむ。母親自身がそのアリスだったから、相性が良いのだろう。
「おかえり、蜜柑」
蜜柑は初校長の部屋にいた。夕食を食べてから来たのだ。
「どうだったかい、入学初日は」
「楽しかった! みんな賑やかな子っちやなぁーB組は」
久しぶりに同年代の子供と交流できて興奮しているのだろう、はしゃぎ気味に今日のことを話す。
「ウチ星階級シングルなんやね?」
「私からすればスペシャルでもいいが、それは望まないだろう?」
「だって目立つのはいややし。無効化だけやとおかしいやろうしね」
「あと、能力別クラスもあるが」
「なんやそれ」
アリスを能力別に、潜在系、体質系、技術系、特力系、危力系に分けたクラスもあるらしい。無効化と盗み。分類的には特力に入るのだろうか?
「お前は危険能力系在籍にしてもらうよ」
あ、今の初校長すこし黒い。要するにあまり混じらせたくないんだ。危険能力系、その裏は学園の裏仕事を行う生徒達の集まりであり、初校長が最も目を光らせることができるクラスなのだ。何度か見かけたことのある生徒は、みんな危力系だった。
「担当はペルソナだ」
「あー、ペルが? ならいいや。誰がおるん?」
「明日授業がある、そのときに紹介してもらえ。ああだが、初等部からは1人いる」
「誰や?」
「日向棗だ」
あいつ危力やったんかい。どうりで二ヶ月前、病院にいたわけだ。あれは、任務でもなんでもやってできた傷だろう。
「まだ8歳やで?」
「あいつの能力は天下一品だ。大人に負けないほど強力で、きちんとコントロールできている。加えて、炎のアリスは任務向きだ」
これ以上ないほどの優秀な人材だ、と初校長が笑う。
「さらに、あいつは私には逆らえないよ。彼には妹、それに親友がいる。この学園にね」
教室での彼を思い出す。荒んだ目、誰も――流架以外信用していない目だった。あの年でも壊れていない彼は、強い精神をもっているのだろう。けれど決して、打撃を受けていないはずがないのだ。人質を取られて、任務をさせられて――
「無理はさせんといてな」
「同情か? ずいぶんと気に入ったのか」
「同じクラスやし、同い年やし。そら気になるやろ」
初校長が手を伸ばして蜜柑の頬をなでた。蜜柑は拒まなかった。アリスを盗っても、逆成長した彼の身体はまだ子供の姿だ。これから、ゆっくりと時を戻していくのだろう。
「お前もそろそろ仕事をしようか」
まるでお姫様にするみたいにエスコートをする。そう、お姫様。初校長は蜜柑に執着している。過去の事も、アリスのことも含めて。それ以外にも、3年間で積み重ねた情もあるのかもしれない。
「お前は決して、私の元を離れてはいけないよ」
ああその、頼りない子供のような、ひとりぼっちの子供のような言葉。それに絡め取られる自分は愚かなのかも知れない。お人好しにもほどがあるだろう。
でも。
「わかっとるよ」
過去を知って、恨みも怒りも恐怖も感じて――それでも最後に残るのは、悲しみ、哀れみだった。彼は弱い。逆成長で、精神と身体にどんどん差異が生じて、そのストレスを発散する術を知らなくて。彼の精神はいびつなものになってしまったのだ。その事実は蜜柑しか知らない。ペルソナも月も、誰も知らない。
彼から離れられない。彼をおいていこうと思えない。
「ウチは、あんたを見捨てたりなんかせえへんよ」
蜜柑が笑うと、初校長も微笑をこぼした。どうしてか、安堵の笑みに思えるのだった。
初校長がかなり捏造入っているかもしれない。