魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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第10話

 

 はやて、フェイト、シグナムの三人は現在の状況に戸惑っている。なぜなら、近藤が突然本局と連絡を取ると言い出したのだ。近藤は地上の局員、しかも一般局員であり三尉とはいえ犬猿の仲である本局に対し、はやてやフェイトのように特殊なパイプがあるとは思えない。

 だが、そんな考えを無視して近藤は本局と連絡を取ろうとする。

 そして、しばらくすると近藤ははやて達の方を向き、繋がりましたと言った。

 近藤はつながった画面をはやて達に見せるようにすると、その画面に映る人物は、意外な人物だった。

 

「はぁい、フェイト、はやてさん、シグナムさん」

 

 はやて達は画面から目が離せない。それは幼いころから自分たちが知る大恩人であり、現在の機動六課設立の影の貢献者。

 

「リ、リンディ統括官!?」

 

 そう、はやて達が小さいときからの、最も信頼できる人物、フェイトの義母でもある、リンディ・ハラオウン総務統括官である。

 どうしてここでリンディ統括官が出てくるのだ?彼女は機動六課設立に際して援助をしてくれたはず。つまりはこちら側の人間である、にもかかわらず近藤が連絡を取った相手。リンディがレジアス中将のスパイ行為を容認するとは考えにくい。

 はやては頭が混乱してうまく結論が出せないでした。

 

「リ、リンディ母さんが・・・なんで・・・」

 

 フェイトも動揺を隠せないようだ。はやて同様、地上側のスパイだと公言している人間と繋がりがあるなんて夢にも思わかったのだから。

 

「彼女がもうひとつの任務の責任者です」

 

 近藤は混乱する三人を置いてけぼりにし、平然と爆弾を投下し続ける。

 

「あら大輔君、もう皆に話すの?」

 

 大輔君?ピクリとはやての眉が動く。

 

「リンディさんが直に説明してくれた方が、皆さん納得してくれると思いまして」

 

 リンディさん?

 ・・・えらく親しそうではないか?自分達には仰々しい態度を取るくせに。なんだ?近藤は年増趣味か?

 リンディは本局において現在かなりの高位に位置する立場にいる。そんなリンディと、一般局員である近藤の接点がまったく見えないのである。いや、もしかしたらその接点のなさを利用してあえて近藤という人間を扱っているとも考えられる。

 はやては不意打ちを食らった事に悔しさを覚え、近藤に対し理不尽に不満を募らせた。内心おもしろくないと思いつつ、しかし決して表情には出さずに、冷静に説明を求める。

 

「リンディ統括官、こちらの近藤三等陸尉とは、どういうご関係で?」

 

 多少言葉にトゲがあるのは若さ故だろう。

 

「大輔君は小さい頃から何かと面倒を見ていたのよ」

 

 ニコニコしながら説明するリンディ統括官。成る程、それほど長い付き合いならばこの親しさは納得できる。

 

「それでは、説明をお願いします。近藤の言う”もうひとつの任務”とやらの概要を」

 

 そう言うシグナムはここに来ても冷静である。最初こそ意外な人物の登場に驚いていたが、すぐに冷静さを取り戻して情報の収集に努める。シグナムは歴戦の騎士であり、相手の特徴、傾向等を見抜く事に長けているし、不測の事態においてもすぐに冷静に対処できるように努めているし、染付いているいるのだ。こういう所を見習わなければ、と思うはやてだった。

 ちなみに、フェイトはリンディの登場に未だアワアワ言って取り乱している。本当にこの娘は優秀な執務官なのだろうか?

 

「そうねぇ、一言で言うと大輔君には二重スパイをしてもらってるの」

 

「二重スパイ?」

 

「そう、私からの任務を基にレジアス中将の所に潜入し、彼らの任務に従うフリをして機動六課に異動してもらう、といったところかしらね?」

 

「何故そんな複雑なやり方を?」

 

 シグナムは、わざわざそんなやり方をとらずにリンディ統括官の推薦で機動六課へ異動すればよかったのでは?と考えていた。それははやてやフェイトも同様に考えていた。何故そんな回りくどい方法を取るのだろうかと。

 はやては白魚のような指を顎にかけ、シグナムの意見とリンディの言った情報を吟味し、推理し始めた。

 

「恐らくやけど、レジアス中将はホンマにスパイを送ろうとしとったんやと思う。そこへ、リンディ統括官の息のかかった人物(近藤さん)が自分が行くと進言でもしたんか、行かされるように情報操作でもしたんやろ。リンディ統括官が最初から近藤さんを機動六課に寄越そうとしとったんかどうかはわからんけど、近藤さんがレジアス中将からのスパイとして機動六課に来ることにより、ホンマのスパイを来させん上に、リンディ統括官の指示で動ける人間がなんの問題も無く機動六課へ来ることができる。まさに一石二鳥。そんなところやないですか?リンディ統括官?」

 

 機動六課設立の話は、なにもパッと出てすぐに設立したわけではない。何年も前から綿密に計画し打ち合わせし、手回しする。

 レジアス中将は本局のそんな計画を知り、いい気分ではなかったのだろう。どうにかして妨害、もしくは自分も介入して規模縮小を目論んだ。だが、機動六課設立のバックにはレジアスとて慎重にならざるをえない人物たちがいた。査察など理由を付けて難癖付けることは可能だが、それは所詮付け焼刃でしかない。結果レジアスは指を咥えているだけしかできなかった。

 そこへ機動六課へ潜入させる”何らかの機会”が発生した。どういう経緯か、どんな理由かはわからないが、レジアスはそれをチャンスと捉え潜入スパイとして近藤を送り込んだのだ。

 はやての推理に画面越しにニコニコしながら拍手するリンディと、はやての横で目を丸くして拍手する近藤がいた。

 

「スゴイわね、はやてさん。あれだけの情報でそこまで考察出来るなんて!」

 

「さすが八神隊長です。概ね推理通りです。素晴らしい!」

 

 リンディからの賛辞に照れるはやてだが、その表情は微妙である。

 

「いや、なんてことないですよ、こんなもの。でもなんでやろ・・・近藤さんに褒められるとなんや、バカにされとるような気が」

 

 照れ隠しに頬をポリポリかきながらジト目で近藤を見るはやて。

 

「いえ、決してバカになどしていません!」

 

 必死に弁解する近藤。

 

「大輔君、もしかしていつもそんな固い態度とってるの?」

 

 リンディのその言葉に、はやてはピクリと眉を上げる。

 どうやら近藤は親しい人間に対してはこれほど硬い態度は取っていないようだ。現にリンディは意外そうな顔で近藤を見ているのだから。

 これは意趣返しのチャンスとばかりに、はやてはリンディに訴えた。

 

「そうなんですよ!最初なんかこの怖そうな顔と固い口調に驚きすぎて、リインやフェイトちゃんなんか泣いとったんですよ!それはもう号泣!」

 

 事実に多少の嘘を織り交ぜつつ、近藤の行動を報告する。

 

「わー!?何言い出すのはやて!?泣いてない、泣いてないよ私!」

 

「涙目だったではないか」

 

「泣いてないもん!泣きそうになっただけだもん!」

 

「一緒だろうが」

 

「もう!シグナムは黙っててよ!」

 

 フェイトが顔を真っ赤にして取り乱し、的確に突っ込みを入れるシグナム。リンディはそんな我が義理の娘であるフェイトの姿に、執務官になったとはいえまだまだ子供だなと思いクスクス笑う。

 

「わかりました。大輔君、これからはもう少し態度を柔らかくしなさい。そんな態度では相手に壁を作っているのと同じよ。何事もお互い歩み寄らなければ、ね」

 

 ウインクするリンディに、はぁ、と諦めたような気のない返事をした近藤に対して、はやてはいたずらが成功したことを喜ぶ子供のようににんまりと笑みを向けた。

 

「とにかく、私の指示した任務はそういうことです。それから皆さん、近藤大輔三等陸尉は信頼に足る人間です。必ず皆さんの力になるでしょう、それは私が保証します」

 

 強い意志の宿る目でリンディは三人にそう言うと、パチッとウィンクする。

 

「だから、ビシバシコキ使ってあげてね!」

 

 リンディのこの冗談半分の言葉が、後に近藤を労働地獄へと叩き込むことになるとは、このとき誰もわからなかった。

 


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