魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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第3話

 近藤が目を覚まして3週間経った。現在は一般病棟へ移動したが、この病室には近藤一人しかいない、何ともさびしい空間であるが、しかし彼はあまり人付き合いが上手いともいえないので良しとしよう。

 彼はあの事件後、約2週間意識不明の重体だった。そしてようやく目を覚まし、意識がハッキリしてきて、自分の置かれている状況を理解、納得するのに1週間を要した。

 

 ―――まず、右腕がない。

 感覚はあるのに、そこにあるべき自分の腕がない。脳が理解を拒否する。

 俺の腕はどこだ?

 なぜない?

 人間は本来あるべき部位がないとどうなるかおわかりだろうか?

 脳が腕の欠如を認識しないのだ。だから、視覚的にないのに、脳内では認識してしまう。頭がおかしくなりそうになったが、義手を用意するということで自分を納得させることに成功した。

 

 ―――次に、右目が無い。

 これは、意外にもあっさりと状況把握し納得した。彼の右目には、何故か彼の所持していたストレージデバイスのコアがめり込んでおり、また何故かそのコアが彼の肉体と癒着、融合してしまい、剥離不能の状態だという。つまり、コアを無理に取り外せば、自分も死ぬということだ。だがそんな状況に、ああ、と近藤は納得する。

 

 近藤は重体の最中、情報の激流にのまれた。その情報は、ストレージデバイスから流れ出たものだったものである。自分が生きているのは、このコアが『自身』のブラックボックスを解放し、『自分』を生き永らえさせてくれているのだと。ストレージデバイスには人口知能・AIが無い。

 しかし、近藤にはストレージデバイスがこう言っているように思えてならない。

 

「生きろ」

 

 ―――と。

 

 ここで、デバイスの『ブラックボックス』について説明しよう。

 そもそも、デバイスには『コア(核)』というものがある。人間で言う、心臓や脳の部分に当たる。大体が宝石のような形状をしているそのコアはその形状を真似て待機状態にしている人が多い。

 実はこのコア、旧暦以前からなんら変わらない精製方法で作られている。これには諸説あるのだが、未だに生成方法が変わらないのは、ただ単にすでに合理的に確立された製法をこれ以上改善する必要がないというのが大筋の見解である。

 だが、これは言い換えれば、コアの中身は失われた旧暦以前の情報―――『空白の歴史』が入っている可能性がある。

 

 それが、『ブラックボックス』だ。ところがこのブラックボックス、非常に高等なプロテクトが掛かっており、このプロテクトを解いて解析を成功したと言う話は聞いたことが無い。それに、別に取り外してもなんらデバイスには支障もなく、デバイス技師たちには『なんだかよくわからないモノ』や、『ゴミ』などといわれる始末。最近の研究結果では、『旧暦以前のデバイス技師によるお遊び、もしくは消し忘れたゴミ』みたいなことが発表され、それが世間一般の常識となってしまったのである。

 だが、コアの精製方法は旧暦以前と変わらないというのは前述したとおりなのだが、これには一つ問題がある。コアを精製すると、必ず『ブラックボックス』という『ゴミ』がついてくるのだ。

目下、これがデバイス技師達の悩みの種である。

 次に、ストレージデバイスとインテリジェンスデバイスの違いだ。これの最たる違いは、量産か、オーダーメイドかの違いにある。インテリジェンスデバイスとは、その名の通り、人口知能が搭載されている。その人工知能が学習し魔導師の補助を自ら考え行うという優れものだが、如何せんコストが馬鹿高い。

 そして、これが結構コアの内容量を食う代物で、インテリジェンスデバイスを作る技師は大抵その『意味不明』のブラックボックスを取り外し、その空き領域に人工知能を埋め込む。ストレージデバイスの場合、量産のためコアについては一切手をつけず、ブラックボックスを入れたまま、一般局員に配布される。これは、ブラックボックスの取り除き作業には手間と時間がかかり、量産のストレージデバイスに対してそんなに時間をかけられないというのが本当のところだが。

 

 そして近藤はストレージデバイスを使用している。曹長と言う肩書きではあるが、実は彼、あまり魔法量は多くない。前回の魔力検定試験でも、ギリギリやっとAランクにアップしたところなのだ。

本来の実力ならばBランク程度である。

 それでも彼は飛行魔法が行使できるという稀有な人間であった。大体飛行魔法は先天資質Aランク未満の魔導師が行使するということがかなり難しく、時間と金がかかるのだが、近藤は何故かすんなりと飛行魔法を習得できた。それは、日頃から魔法に対して研究を重ね、魔力の体内循環機能の見直しや、デバイスの調整、魔法の省エネなどを繰り返し、自身にできるある結論に到達した研鑽の賜物であることは想像に難くない。

 

「削れるところはとことん削り、使うところでガッツリ使い、魔力一滴残さずカスまで使い尽くす」

 

 その結論を、魔力の有効活用を、己の身で実践した。そしてその研究の中にブラックボックスの解析も盛り込まれていたのである。

 もちろん、一介の局員程度が長年研究者たちが解析できなかった問題を解析出来るはずも無い。だが彼は諦めることなく無限書庫へ行き、ありとあらゆる旧暦以前関連の書物を読み漁り、ブラックボックス解析の有力情報をかき集めていった。

 そして、あるひとつのキーワードが導き出された。

 『アルハザード』である。

 アルハザードとは、既に遺失した古代世界であり、卓越した技術と魔法文化を持ち、そこに辿り着けばあらゆる望みが叶う理想郷として伝承される場所である。現存を信じる者たちは少数ながらも存在し、彼らによる片道渡航の試みは後を絶たない。そういう場所なのだ。当然といえば当然の話で、アルハザードは一部の研究者からは『全ての魔法文化の始まりの場所』とまで言われている。

つまりブラックボックスを解析すれば、アルハザードの情報を得られる可能性がでてきたのだ。

 近藤は、何百というプロテクトをひとつひとつ、それこそひとつのプロテクト解除に1ヶ月なんてこともザラで、それでも諦めずに解除していった。そんな解除作業途中に今回の事件が発生し、天文学的確率で奇跡を手にし、残り約800(あくまで表面上)のプロテクトを全てすっとばして開放、さらに自身と融合してしまった。

まさしく結果オーライ、棚からぼた餅状態だ。

 

 ―――さて、現在の近藤はこれまた高町なのは同様、医師達が目を疑うような状況にいる。

 

 目覚めて3週間、骨折していた部分が完治までいかないにせよ、すべてくっついた。火傷も痕が残らず、綺麗に傷跡ひとつ無い。ただし、古傷、昔の次元犯罪者に斬られた傷は残っているが。内臓も回復し、点滴、流動食から一般食へと変わった。近々右腕に義手を付け、本格的なリハビリを開始する予定である。最初の包帯だらけから驚異的な回復である。

 実は近藤の体には異変が起こっている。なんと、デバイスコアと融合してしまったのだ。

 そのため、人体の新陳代謝の速度がより遥かに速い魔力自己修復機能、つまりデバイスが破損した時にコアが魔力を使用して自動修復する機能を近藤の体に使用しているのである。つまり、彼の体は人間の体でありながら、コアによる魔力補助を受けているという、いわば魔法生命体に近い存在となってしまってるのだ。魔法生命体、それは以前の闇の書であった時のヴォルケンリッターのような存在である。。

 

 ―――そして、近藤が目覚めてから1ヶ月。

 近藤の入院する病院に、二人の管理局の人間がやったきた。近藤の上司、ヤン・パオ三佐とリンディ・ハラオウン提督である。

 

 今更ではあるが、近藤はアカシックレコードを覚醒してから、まだ一度も使用していない。理由としては、自分の身体状況確認と回復に専念する必要があり、能力確認まで手がまわらなかったためである。

 だから、これから彼に下される現実と社会の残酷な仕打ちの事など、まだ知る由もないのだ。ヤン・パオ三佐と、リンディ・ハラオウン提督は、近藤の病室に着きベッドで横になっている近藤を確認するなり、前置きもなく彼にこう言った。

 

 ―――――――――

 

 ダイスケ・コンドウ

 

 戒告処分

 陸士113部隊から第46無人世界へ異動

 軍曹への降格

 

 ―――――――――

 

「・・・え?」

 

 いきなり処分だけを言われて少し混乱するが、すぐに考える。

 処分?

 何故?

 何故、処分を受けなければならない?

 俺は何かミスをしたか?

 

 訳がわからない。

 リンディ提督は無言のまま、混乱しつつも状況把握をしている近藤を悲痛な面持ちで見つめている。近藤は、まず聞かなければと、ヤン三佐に問いかけた。

 

「どういう事ですか?何故自分が処分を受けなければならないのですか?」

 

 冷静に言ったつもりだが、声が少し震えていた。

 

「貴様の作戦ミスによる高町なのは教導隊員負傷に対する処分だよ」

 

 近藤の問いに、ヤン三佐は眉間にシワを寄せ、不機嫌だということを隠しもせず吐き捨てるよう言う。

 

 作戦ミス?

 なんだそれ?

 高町隊員の負傷が俺のせい?

 なんだよそれ!?

 

「ちょっと待って下さい!作戦ミスってなんですか!?自分はその高町隊員との合同任務のときはいち隊員であり、作戦など立てておりません!それに高町隊員の負傷というのがあの戦闘時での負傷ならば、アンノウンとの交戦によるもので自分も高町隊員を救出した際に負傷しています!」

 

 近藤は事実をヤン三佐を述べるが、しかし、それをヤン三佐はフンと鼻をならし、腕を組みバッサリと切り捨てる。

 

「貴様の怪我は自業自得ではないか」

 

 そして続けざまに、おかしなことを口にしだした。

 

「よくもまあそうスラスラと嘘がつけるものだな。近藤軍曹」

 

 見下すようにヤン三佐はコンドウを見て、顔をしかめる。

 

「あの若さでAAAという天才魔導士をキズモノにし、彼女の経歴に泥を塗っておきながら、なお自分の保身に走るか!」

 

 ヤン三佐は突然怒鳴りちらすが、当然近藤はわけがわからない。そんなヤン三佐に反して、リンディ提督は目を閉じ、眉間にシワをよせていた。

 

「貴様がいくら自分に都合のいいデタラメを述べようと、こちらには証拠がある!」

 

 ヤン三佐は近藤を指差し唾を飛ばすほど叫ぶ。

 

「証拠?」

 

 近藤が聞き返すと、リンディ提督の眉間のシワがより深く刻まれ、なにか痛みに耐えるかのような表情をしている。しかし今の近藤にそんなことを気にする余裕もなく、証拠という言葉に怪訝な表情をする。

 すると、近藤の前にモニタが現れた。なにかの映像を流し見せるようだが、証拠というのが映像なのだろうか?

 そして、近藤は目の前に映し出される映像を見て絶句する。

 

 映像には、自分が無茶な特攻をアンノウンにかけ、そして無惨にアンノウンにやられ、それに高町隊員がとばっちりを受けて一緒に墜落していくという映像だった。

 

「これはあの作戦時の他の隊員達のデバイスに残っていた映像記録だ。全員にこれと同じ映像が記録されている」

 

 ヤン三佐は無表情で告げ、言葉を続ける。

 

「この映像が動かぬ証拠で、今回の件の全てだ」

 

 吐き捨てるように言う。

 そこまで言われて近藤はわかってしまった。ヤン三佐は事実を知っている。そして知りつつも、近藤を叱責し罵倒する。それで導き出される答えは一つ。

 

 ―――ヤン三佐は俺を切り捨てるつもりなのだ、と。

 

 高町隊員の経歴に汚点を残さないために、今回の件を全て俺のせいにして治めてしまおうという魂胆だ。先程流された映像もコンピュータグラフィックスで作られたフェイクで、恐らく隊員全員のデバイスに残されていた映像記録も消去、もしくは改ざんされているだろう。そしてあの作戦時の隊員全員に箝口令を敷けば、真実は闇の中だ。

 つまり、トカゲの尻尾切りである。

 

 近藤は驚愕の事実にショックを受け俯き、身体を震わせる。もともと色白な顔が今は真っ青になっていた。黒く長い前髪が垂れて目元を隠し、表情が伺えないが容易に想像できる状況だ。手や背中から汗が吹き出て、握っているシーツに力を入れ、より多くのシワがよる。

 

「・・・そんなに・・・高町隊員の経歴が大切ですか・・・」

 

 声が震えている。あれだけ信頼を寄せていた上司に、こうもアッサリ切り捨てられるとは思ってもみなかったため、ショックが隠せない。嘘だといってほしかった。

 しかし―――

 

「当たり前だ。貴様のような、掃いて捨てる程いるBランクの凡人よりも、彼女のような何もせずにAAAの天才のほうが大事に決まっているだろう」

 

 無情にも現実は残酷で。

 

「彼女はこれからの管理局を支えていく大事な存在だ、貴様と違ってな。そんな彼女に小石による躓きなどあってはならんのだよ」

 

 言葉の刃が近藤の心を刺し貫いていく。

 近藤は顔を上げることができない。それを見たヤン三佐は、フンと鼻を鳴らしもう話すことはないとばかりに病室を出て行こうとする。しかし、何か思い出したのかピタリと立ち止まり、振り返りもせず言った。

 

「貴様の荷物は退院まで隊舎に置いておいてやる。さっさと退院して引き取りに来い」

 

 そう吐き捨て、病室を出て行った。

 

 

 

 

 ヤン三佐去った後、広い病室には近藤とリンディ提督の二人しかいない。しかし、お互い口を開こうとせず、ただ無言の重い空気だけが流れる。

 近藤の元々華奢な体が、うなだれている姿が今にもポッキリと折れてしまいそうな、そんな危なげな雰囲気が漂う。近藤は俯いたまま動かない。

 リンディ提督もそんな近藤を痛ましげに見つめるだけで、喋ろうともしない。

 ・・・どれ程無言の時間が経っただろうか。近藤が力無くポツリとしゃべりだす。

 

「・・・リンディ提督・・・」

 

「・・・なにかしら?大輔君」

 

 近藤を大輔と呼ぶリンディ提督。

 実は、近藤が6歳の時の事件の時、保護したのはリンディ提督の船「アースラ」だった。そして、ある男性局員が近藤の保護責任者として名乗りをあげた。その男性局員はアースラのクルーであったため、近藤もリンディ提督とは顔見知りであり、リンディ提督にも近藤と歳の近いクロノという子供がいたため、小さい時は母親変わりとして接していたのである。ちなみにであるが、近藤は普段は地球での名前である「近藤大輔」で通しているが、書類や正式な場などではミッドの方式を採り「ダイスケ・コンドウ」としている。

 

 そんな近藤が、管理局の勝手な都合で未来を潰されたのだ。リンディ提督は俯き力無く話す近藤の姿に心を痛める。なんと儚い姿か。今にも折れて、消えてしまいそうな希薄な姿に、リンディ提督は息を呑む。

 

「自分のしたことは間違っていたんでしょうか・・・」

 

「いいえ。あなたは間違っていないわ」

 

 近藤の問い掛けに優しい口調で答えるリンディ提督。

 

「自分がもっと強かったらよかったんでしょうか・・・」

 

「いいえ。たとえ大輔君に力があったとしても、あの時のアンノウンに勝てたとしても、現状が変わっていたという保証はないわ」

 

 近藤がシーツを握る手に力を込める。

 

「俺は・・・切り捨てられるために・・・管理局に入ったんですかっ・・・!」

 

「―――っ、いいえ!違う!」

 

 悲痛な叫びにも、そう答えるしかできなくて。

 

「じゃあ!なんで!なんで!!俺がこんな仕打ちを受けなきゃならないんだ!!」

 

 近藤は叫び、涙を流しながらリンディ提督を睨む。リンディ提督は苦しそうに顔を歪め、揺れる瞳で睨むコンドウを見据える。

 

「ごめんなさい」

 

 そして、深く頭を下げて謝った。何を言っても言い訳になる。言えば余計に近藤を傷つける。なんとか助けたかった。でも助けられなかった。自分の力が足りなかった。

 そもそも、リンディ提督は時空管理局の「本局」と呼ばれる次元世界(そら)の管轄でる。対して近藤は時空管理局の「地上部隊」と呼ばれる各主要地上世界(りく)の所属なのだ。この本局と各地上主要世界には大きな軋轢が生じている。ここでは多くは語らないが、つまりは同じ時空管理局とはいえ、本局と各主要地上世界は犬猿の仲なのだ。そんな本局所属のリンディ提督が、地上所属の近藤を弁護しようとしても、それは無意味。そもそも本局預かりの高町なのはを巻き込んだ元凶とされる地上の近藤を、本局の提督という要職についているリンディが弁護すること自体が異常なのだ。結果、リンディの弁護は意味をなさず、近藤を守ることができなかった。

 だがリンディ提督は何も言わない。近藤にとって、そんな過程は関係ないのだから。だから、ただ、謝罪するだけ。

 

「ごめんなさい」

 

 近藤は、リンディ提督のその姿を見ると、ガックリと力無くうなだれ、ポツリとつぶやく。

 

 

 

「・・・アルハザードの知識を手に入れても、これじゃあ・・・」

 

 

 

「・・・え?」

 

 

 

 リンディ提督はおもわず顔をあげる。

 近藤はこの一言が、まさか自分の運命を時代の大きなうねりの中へと導くということを、この時まだ知るよしもなかった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 近藤とリンディ提督のやりとりから2ヶ月後、病室でヴィータがなのはに”あの事件”の顛末を話した。とはいえ、ヴィータがなのはに話した内容は、知る限りの事件の全容とコンドウの容体のみであるが。

 話を聞き終えたなのはは、悲しみに顔を歪めていた。

 

「私のせいで・・・近藤さんがそんな大怪我を・・・」

 

 なのはは今にも泣きそうな顔をしている。自分の体調がもっと良ければ。自分が無茶をしなければ。自分にもっと力があれば。なのはの頭にはそんな後悔の念ばかりが浮かぶ。

 

 ヴィータはそんななのはを悲しそうな顔で見つめる。なのはのそんな顔は見たくない。なのはには笑っていてほしい。でも、なのはには強くなってもらいたい。今回の出来事を乗り越えてもっと強くなってもらいたい。だからこそこの話はどれだけつらくても聞いてもらわなければならないのだ。

 ヴィータはそんなことを考えていると、カツカツと靴の音が近づいてきた。

 

「あら、どうしたのかしら?そんな暗い顔して?」

 

 病室の入口から聞き覚えのある声がしたので、なのはとヴィータは声のした方に振り向くと、そこにはリンディ提督が立っていた。

 

 

 

 

 

「―――どうしてですか!?」

 

 なのはは声を荒げ、リンディを睨む。

 

「そうだ!あいつはなんも悪くねー!!」

 

 ヴィータも大声をだし、リンディ提督に詰め寄る。しかし、リンディ提督は少しキツイ口調言い放つ。二人が激昂する理由、それは近藤の処分である。

 

「それが組織なのよ。理解しなさい。それに、これは決定事項。もう覆らないわ」

 

 すでに彼は軍曹に降格し異動しているしね、と付け加え、二人を相手にしない。

 なのはもヴィータもそんな言葉で納得できる訳がない。なのはを庇い、大怪我をした挙げ句、なのはのミスをなすりつけられて、降格、左遷だという。それなのに、なのは自身はお咎めなし。

 さらに今回の事件が一週間後にはマスコミに情報公開されるらしい。管理局にいいように捩曲げられた捏造情報を、正式な情報としてである。白いものでも黒と言えば、それは黒になる。それが組織であり、今の管理局である。

 

「それが大人の世界、あなた達のいる世界なのよ」

 

 淡々と感情のない言葉が、理不尽な世界がなのはの心に突き刺さり、とうとうなのはは泣き崩れた。

 

「―――っ!そんなのってないよーっ!」

 

 叫びながら泣き続けるなのは。

 なんて理不尽な世界だろう。

 なんて身勝手な組織だろう。

 なぜ自分には力がないのだろう。

 なんて無力なのだ、高町なのは。

 ただ泣くしかないなのは。

 

 ヴィータは身体を震わせ、握っていた拳に力を入れ、やり場のない怒りにダンッと壁を叩く。

 

「―――ちくしょー!!」

 

 自分のふがいなさを責め、憤慨する。

 

 親友を救えず、親友の恩人も救えず。

 なんなんだ、あたしは。

 くやしい、くやしい。

 くやしい!

 でも思いは届かず、

 ただ、ただ叫ぶしかなかった。

 

 リンディ提督もそんな悲しみ絶望するふたりをただ見ているしかなかったのだった。

 

 

 

 

 そして物語は8年後へと移り、彼等は未曾有の事件に巻き込まれる。

 

 

 それは、運命か、神の悪戯か。

 

 

 想いが交錯し絡まりあう。

 

 

 すべては原初の魔法が導く物語なり。


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