魔法少女リリカルなのはStrikers はじまりの魔法 改訂版   作:阪本葵

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第6話

翌日の朝、機動六課の隊長と副隊長は、八神隊長の部隊長室に招集されていた。

 

「どうしたのはやてちゃん?今日のミーティングは総ミーティングじゃなかったよね?」

 

 はやてに問いかけるのは、教導隊の白い制服を纏うサイドポニーの女性。柔らかい雰囲気の彼女は『管理局のエースオブエース』と呼ばれる、機動六課スターズ分隊隊長「高町なのは一等空尉」である。

 ちなみに総ミーティングとは、各分隊が総て集合しミーティングを行うことである。大体この総ミーティングは半月に一回程で行われている。普段は各分隊単位で隊長、副隊長が申渡し、スケジュール報告等を行い、それをもとに今日一日のスケジュールで訓練や事務を行うのである。

 

「実はな、今日からウチに転属してくる人が来るんや」

 

 その為の臨時ミーティングである、とはやては付け加えなのはに説明する。

 

「え、今頃転属?そんな予定あったの?えらく急だね」

 

 そう言う女性はロングの金髪が美しい、落ち着いた感じの雰囲気持ち、執務官の黒い制服を纏う、機動六課ライトニング分隊隊長「フェイト・T・ハラオウン執務官」である。

 

「いや、急遽地上本部からの異動や。ちなみに通知は昨日来た」

 

 はやてはそう言い苦笑する。

 そんな言葉に含まれる、諦めというか悩んでいるというか、そういった空気を敏感に感じ取り、ピクリと片眉を吊り上げ反応したのは、ピンク色の髪をポニーテールにした、意思の強そうな瞳を持つ女性、地上の一般局員が多く使用するブラウンの制服を纏う機動六課ライトニング分隊副隊長「シグナム二等空尉」は、はやてがそういった態度をとってしまう人物の名前を口にする。

 

「レジアス中将ですか?」

 

 シグナムのストレートな発言にはやては苦笑しながら首を縦に振り肯定する。

 すると、オレンジ色の髪を二つ、三つ編みにした子供のような容姿の、ブラウンの制服を纏う機動六課スターズ分隊副隊長「ヴィータ三等空尉」が、手を頭の後ろに組み呆れたようにため息をついた。

 

「・・・あのオッサンよっぽどウチが嫌いなんだな」

 

 自分たちに直接レジアス中将から隊員を配属ということは、つまり自分たちを監視させることが目的だということがアリアリと透けて見える。自分のところの忠実なイヌを機動六課に張り付かせ、アラ探しをして機動六課を解散させるつもりなのだろう。あからさまな人事異動になのはとフェイトは苦笑し、シグナムとヴィータは憮然としている。

 はやてはそれぞれの反応に苦笑つつも、とりあえずは臨時ミーティングの理由を告げる。

 

「それでや、とりあえずその人を紹介しとかなあかん思て、みんなを集めたワケやねん」

 

 はやての言葉に、四人は頷く。

 

「じゃあ、これから呼ぶけど・・・一つだけ言うとくで。気をしっかり持ちや」

 

 四人は、人差し指を立てて注意事項を言うはやての言葉の意味が分からずに、首を傾げる。

 

「見た目にビックリするけど、泣いたらダメです!」

 

 リインがはやての言葉に付け足すが、ますますわからず、はあ、とそれぞれ気のない返事をする。とりあえず注意はしたので、はやてはモニタを介して近藤を呼び出す。

 

「あ、近藤さん?うん、もうええよ。こっち来て。隊長達に紹介するから」

 

 なのはとヴィータは、はやての言った名前にピクッと肩を震わせた。

 

(・・・コンドウ?)

 

 コンドウ

 

 その名前は、自分たちにとって罪そのものであり、罰を受けるべき名。なのはも、ヴィータもその名前を一日たりとも忘れたことはない。

 自分たちのせいで人生を無茶苦茶にされた人。

 自分たちの罪を被せられた人。

 

 自分たちが助けられなかった人。

 

(・・・まさか・・・)

 

 ミッドチルダを含め、時空管理局が管理している世界では珍しい響きの名前。同じ姓であるという可能性もあるが・・・

 そんなことを二人が考え耽っていると、プシュッと軽快な音と共に、隊長室のドアが開く。

 

 そして部隊長室にいたなのは、フェイト、ヴィータ、シグナムの四人は、入室してきた近藤を見て固まる。

 それは何故か。

 皆顔の右半分を隠すほどの眼帯と、鎧と見間違うばかりの盛り上がった筋肉にくぎ付けになったのだ。

 

 そして、近藤は前日にはやてに行ったのと同じ自己紹介をする。

 

「本日より!機動六課へ配属となりました!ダイスケ・コンドウ三等陸尉であります!よろしくお願いします!」

 

 ビシッと音が聞こえそうな敬礼をし、大音量の挨拶。はやては四人が予想通りの反応を取ったことに、満足そうな顔をした。

 

 フェイトは「ヒッ」と短く悲鳴をあげ、シグナムの背中に隠れる。

 シグナムは「ほう、なかなかいい面構えだ。ハキハキした喋りも気持ちいいな」と、好印象だ。

 

(・・・シグナム、あんた将来男で苦労すんで)

 

 そんなことを思う主のはやてだった。

 

 そして、なのはとヴィータは顔を真っ青にして震えている。

 

(・・・?)

 

 しかし、それははやての期待する恐怖という感情の震えではないような気がした。なんだ?と考えていると、リインがふわふわと浮かびフェイトをからかい始めた。

 

「フェイトさん、情けないですね~♪」

 

 リインはこれでもかというくらいニヤニヤしながらフェイトの周りを飛び、からかっている。シグナムが溜息を吐きつつ、リインに馬鹿にされながらもなお自分の背中に張り付いて隠れるフェイトに呆れた。

 

「何をしているんだ」

 

「・・・怖い・・・」

 

 カタカタ震え、涙目で短く答えるフェイト。まあ、それも仕方がないかもしれない。身近にザフィーラという体格の良い守護獣(男)がいるはやてでさえ、近藤にはビビッてしまったのだから。

 フェイトは優秀な執務官として様々な任務をこなしてきた。それこそ凶悪次元犯罪者と戦うことなどザラである。そんなフェイトでさえ、近藤の持つ鎧のような過剰な筋肉と、恐怖心を煽るかのような眼帯はインパクト抜群であり、凶悪犯罪者にもなかなかいない人物像なのだ。事実、フェイトは今まで近藤程のガタイの良い人間と接したことがない。

 前述したが、時空管理局の局員、特に武装局員の資質にはそれ程筋力というものを必要としない。それは、武力行使の手段が「魔法」であるが故である。

 体格の良い、鍛えられた肉体を持つものは確かに存在するし、実際地上の武装局員は半分以上がたくましい体を有している。地上の最高権力者と言われるレジアス中将などは、歳のせいか最近では腹が出て肥満のように見えるが、実はかなりの筋肉を持っていおり、現在も維持し続ける努力をしているのだ。若き日の彼と、かつての彼の親友との『ポージング対決』とプロの格闘家さながらの『拳での語らい』は当時地上本部の名物だったらしい。

 だがそれはあくまでトレーニングや任務で作り上げられたナチュラルな筋肉、肉体であり、一般常識の範疇での肉体である。対して近藤はその範疇を超えた筋肉なのだ。例えるなら、ボディービルダーだろう。

 魔法は万能である。肉体強化なんて魔法もあるくらいで、魔法行使能力=強者という図式が簡単に成り立ってしまうほどだ。武装局員に必要なのは、魔法を行使する際の高い演算能力と精神力、そして体力である。そこに、鎧のような過剰な筋肉増強は必要ない。

 そしてそれは次元犯罪者たちにも当てはめることができる。次元犯罪者、つまり違法魔導師達も、魔法行使能力=強者という図式を常識ととらえ(実際時空管理局が管理する各次元世界での常識である)、純粋な肉体強化など無視している。

 それになにより、近藤はいい意味でも悪い意味でも「男臭い」のである。フェイトやその親友、家族などの周囲にはこれほど男臭い異性などいなかった。義理の兄であるクロノ・ハラオウンは中世的で童顔、まあ家族ということもあるが、あまり異性という意識はなかった。親友であるユーノ・スクライアも同様である。

 そんなフェイトの常識から外れた男が目の前にいるのだ。執務官とはいえ19歳の小娘であるフェイトに、怖がるなと言う方が難しい。それを、リインはニヤニヤ顔をさらに強めフェイトをからかい続ける。

 

「も~、フェイトさんは弱虫さんですね~♪」

 

 はやては、前日のリイン自身の失態を棚に上げフェイトをからかう姿に呆れた。

 

「リイン、あんたも昨日泣いとったやないか」

 

「わーっ!はやてちゃん、しー!しー!」

 

 女三人寄れば姦しいとはよく言ったもので、段々部隊長室が賑やかになってきた。そこに話題の人物である近藤がポツリとはやてに質問した。

 

「あの・・・自分の顔は、そんなに怖いんでしょうか?」

 

 ショックを受けたように落ち込んでいる近藤の姿が。どうも、昨日挨拶に来たときは若干緊張していたようで、周りの反応をわかっていなかったようである。今まで近藤は周囲の人間から怖いなどと言われたこがなかったので、衝撃の事実だったのだろう。そんな落ち込む近藤に、はやては慌ててフォローに入る。

 

「いや、ちゃうねん!顔が怖いんやないねん!ただ・・・その、眼帯と・・ゴリマッチョが・・・」

 

 はやてのその言葉に、なのはとヴィータは眼帯という単語でビクッと体を震わせ、青い顔を苦痛に歪めたが、それに気づく者はいなかった。

 

「申し訳ありません。これは事故での怪我でして。あまりお見苦しいものは見せることも憚れますのでご容赦ください。あと筋肉は任務の賜物です」

 

「ああ、そうなんか。苦労したんやな近藤さんも。でもごめんな、私らあんまり近藤さんみたいなタイプの人に耐性無いから、過剰に反応してしもうて」

 

 申し訳なさそうに謝罪する近藤に、はやても謝る。確かに、先天的にしろ事故や病気にしろ、近藤の眼帯で怖がるというのは失礼極まりないし、お門違いなのは確かである。

 筋肉については・・・仕方ない。うん、仕方ないのだ。そこは諦めてもらおう。

 正直はやてはあまり筋骨隆々に興味がない、というかヴォルケンリッター唯一の男性であり守護獣であるザフィーラをも凌ぐあまりのゴリマッチョ具合にむしろ若干引いているのだが、そこは「子狸」と呼ばれる持ち前の精神力で顔には出さないが。

 

 はやてはなんとか空気と気持ちを変えようと、無理矢理話しを変えることにした。

 

「ああ、ちなみに近藤さんは私らと同じ地球の日本出身やから」

 

「ほう、そうなのか」

 

 はやての付け加えた情報に、シグナムが意外といった顔で近藤を見た。地球、つまり第97管理外世界は、言葉の通り『管理外』であるため、ミッドや関連次元世界との接点は限りなく薄い。なのは達のように偶然魔法技術や時空管理局と出会うくらいしかないのである。同郷出身と聞き、なのははより体を強張らせるがはやてたちは気づかない。

 

「ええ、まあ。自分は小さい頃にミッドに来たので地球の記憶はありませんが」

 

 無暗にプライベートに踏み込むほど親しくないのでそれ以上のことは聞かなかったが、シグナムは主であるはやてと同郷という男により興味が湧いたようだ。さらに時空管理局ではまず見ない鎧のような筋肉と、シグナムのような武人だからこそわかる、滲み出る『強者』の雰囲気に心なしかそわそわし始める始末。そう遠くない未来で、シグナムは近藤に模擬戦を申し込むことは容易に想像できたので、はやては苦笑した。

 

「そ、それでやね、近藤さんの部隊への配置なんやけど」

 

 なにやら話が逸れたので無理やり戻すように言うはやては、チラッとフェイトを見て、言った。

 

「ライトニング隊の副隊長をしてもらおうかと、思いまして」

 

 言った途端フェイトの顔が絶望の色に染められる。

 

「・・・っ!?・・・っ!!」

 

 声にならず口をパクパク金魚のように開け、首を左右に物凄いスピードで振るフェイト。

 当初はやては近藤を自分の管轄であるロングアーチに配属させることも考えていた。近藤の異動を指示した人物は、自分たちの部隊を快く思わないあのレジアス中将である。近藤のこんなナリを見て忘れがちだが、レジアス中将から送られたスパイである可能性は否定できない。だからこそ自分の手元に置き近藤の行動を監視しようとも考えたのだが、現状それを行うにも部隊の稼働が思わしくないのだ。稼働が思わしくない、つまり人手が足りないのである。ヘルプとして他部署から局員をレンタルしたりしているが、それでも十分な機能を果たしているとは言い難い現状なのだ。現在の機動六課は、それこそ猫の手も借りたい状況であり、スパイ容疑がかかっている近藤でさえ使わないとダメな状況なのである。特に、ライトニング部隊が一番芳しくない。当初の予定していた半分ほどの稼働率なのだ。

 そこで、仕方なく近藤をライトニング部隊の副隊長という位置に据え置くという処置を取った。優秀な執務官であるフェイトならば、近藤の不審な行動も見抜けるであろうという考えもあるし、副隊長という位置に置くことにより何かと隊長や部隊長と接点を持つことになり、そう易々と不審な行動を取ることもできないと考えたのである。

 まあ、副隊長はそれなりに高い立場であるため機動六課の機密に近づく機会を与えることになるが、そこは副隊長での制限をかければ問題ないだろう。という目論見があることを隠しつつ、はやてはフェイトに対し別の理由を言った。

 

「いや、フェイトちゃんが言いたいこともわかるで?でも、ライトニング隊副隊長のシグナムは、なんやかんやで結構留守が多いから、穴を埋めるには丁度ええ思うんやけど。フェイトちゃんの負担も減るやろうし」

 

「そうだな。私もこの部隊に配属されながらも外回りが多く、テスタロッサや主はやてに負担をかけなんとかしなければと思っていたところだ。幸い近藤は中々骨のある奴みたいだし、私の代行も任せて良いと思うが?」

 

 シグナムが外堀から固める形ではやてに援護射撃を送る。しかし、シグナムの中では近藤の評価はうなぎ登りである。それでもフェイトは抵抗する。

 

「で、でも、きっとエリオもキャロも怖がるよ!きっと泣くよ!?」

 

 なんとか回避しようと必死である。

 

「んー、時間をかければ大丈夫やと思うけどなー?」

 

 そんなフェイトとはやてのやりとりを蚊帳の外で見ていた当事者の近藤は、ますます落ち込む。

 

(そうか・・・俺ってそんなに外見が怖いのか・・・)

 

 ここ数年他人との接触が極端に少なかった近藤にとって、この事実はショックだった。

 

 

 

 フェイトははやてとシグナムの攻撃に進退極まり、結局近藤がライトニング隊副隊長になるのを渋々ながら、本当にゴネにゴネて渋々、了承した。はやてが手をパンパンと叩き、皆の注目を自身に向ける。

 

「よし!じゃあ、紹介もしたし、分隊の配置も決定したし、これで、今朝の臨時ミーティングを終わろか」

 

 軽快な声でこの場を終わらせる。

 

「じゃあ、みんな、今日もお仕事ガンバってや!あ、近藤さんは今日は隊舎の中を誰かに案内説明させるから、ロビーで待っててくれるか?」

 

「了解しました」

 

 そう言い敬礼をすると、フェイトががっくり肩を落とし、シグナムがそれをなだめながら仕事をするために部屋を出て行った。しかし、ヴィータとなのはは動こうとしない。二人は未だに顔を青くして所在なさげに視線を漂わせていた。なのはとヴィータは新人フォワードの朝練があるのに一向に動く気配を見せないので、はやてがまだ何かあるのかと思い二人に聞いてみた。

 

「どないしたんや?なのはちゃん、ヴィータ。あの子らの朝練あるんやろ?」

 

 はやてが訝しんでいると、徐にヴィータが俯き加減だった顔を上げ、はやてを見てこう言った。

 

「・・・なあ、はやて。・・・その・・・近藤・・・三尉の隊舎案内だけどさ・・・あたしが案内していいかな?」

 

 少し挙動不審なヴィータが遠慮がちにそう言うので、はやては怪訝な顔でヴィータを見る。

 

「いや、それはべつにええけど・・・どないしたん?」

 

 案内はいいが、フォワードの訓練はどうするのだろうかと考えていると、許可を取ったと判断したヴィータの行動は早かった。

 

「い、いや、なんでもないんだ!じゃあ、あたしがこいつ案内するよ!ああ、ひよっ子達の訓練は忘れてないから安心していいよ。ほら行くぞ!なのはも来い!」

 

 なにやら慌てた風にヴィータは近藤となのはの手を取り部屋を出て行ってしまった。

 

「・・・なんや?あれ?」

 

「・・・ヴィータちゃんああいうのがタイプなんですかね?」

 

 びっくりした顔で、おもわずリインの方へ顔を向けるはやて。

 

「・・・言うたら悪いけど・・・趣味悪いんちゃう?」

 

「それ、ほんと失礼ですよはやてちゃん。でも言いたいことはわかるです」

 

 あの眼帯と筋肉がなあ・・・

 

 とんでもなく失礼なことをハモるはやてとリインだった。


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