夢を掴む、その瞬間まで・・・   作:成龍525

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えーと……かなり間が空いてしまった更新となりました!
続きを楽しみに待っていて下さっていて方々、本当に申し訳ないです(泣)

さて、今回はパワプロ9でおなじみ?の”あのキャラ”が初登場となるお話の予定ですっ。


第6話~約束の日、その裏で~

 空はすっかり夏模様の、日に日に暑さを感じるようになってきた7月中旬のとある土曜日。

午後から恋恋野球同好会は活動を始めることになっていたのだが……。

 

「へぇ~、じゃあ矢野君は……鈴ちゃん、だっけ? その娘の応援に今から行くんだ?」

「うん、俺が最近野球上手くなってきてたのは、鈴ちゃんに教えてもらってたから」

お昼にはまだちょっと早い運動場の前、来ているのは今のところ、あおいと矢野だけだった。

「だからそのお礼も兼ねてってことで、それに今日が最終戦でもあるしねっ」

 

 今日は矢野と鈴、二人が交わした約束の集大成の日――。

そう、鈴の中学校生活最後の大会がある日。

 

 矢野は大会が始まってからずっと、一戦も欠かすことなく球場に足を運び声援を送っていたのだ。

「確かにっ! この二、三ヶ月で矢野君ずいぶんと成長したって感じだもん」

「ははっ、ほんと自分自身でも驚くくらいだよ」

軽く笑いながら語り合う二人。だが、話しているうちにあおいの様子が変わっていく。

「でも、ちゃんとどの球場でやるのか調べたのぉ?」

「へ?」

狐につままれたように唖然とする矢野へ、茶目っ気たっぷりにあおいはささやいた。

「キャプテンだけど、たまにポカるからね、や・の・く・ん・はっ♪」

最後の言葉だけ妙にいたずらっぽく、更にキュートなウインクのサービス付き。

「うっ、そこら辺は大丈夫だよっ、家出てくる時にも確認したし…………」

痛いところをこれ以上突かれる前にと――。

「それじゃ、そろそろ行ってくるよ! 悪いけど、後は頼んだよ!?」

「あ、逃げたな……」

わざとらしく慌てた風に腕時計に目をやり、あおいに同好会のことを任せて走り去っていく矢野であった。

 

 去り行く矢野を、その姿が見えなくなるまでずっと見つめていたあおい。

「はぁ~――――行っちゃった」

大きなため息をつきながら、どうしていいか分からず無意識に自分のおさげに手をやる。

どうしていいいか分からず……そう、このため息の理由すら今のあおい自身気付いてはいなかった。

「毎日のように二人だけで自主トレできる、かぁ。鈴ちゃん……」

 

 ちょっと羨ましいかも――。

 

 そう想い、はっとする。

「って! 何考えてんだろボクったら……だいたいっ! ボクだって毎日学校でも野球でも一緒じゃないっ」

相当恥ずかしいことを想ってしまった、口走ってしまったあおいのおさげが左右にブンブン揺れる。

それぐらい首を振って急上昇した顔の火照りをとろうと必死になっていた。

あおいの気持ちを察してくれたのか、陽の温もりを纏った風が優しくあおいを包み込んでいく。

ほんの少しの間、吹く風に体と、そして心を委ね――。

「――――うん! さてとっ、練習練習ーっ!!」

顔の火照りも丁度和らぎ、さぁ練習だ! と運動場への入り口にあおいは手をかけた。

「と、そう言ってはみたものの、同好会は人数が揃わないとここの鍵、使えないんだよねぇ………」

力無くぼやいて、その次の瞬間「あっ、そうだ♪」

何かを閃いたのか、あおいは目の前の入れない運動場を諦め、思い描いた場所へと駆けていく。

 

 軽やかな足取りでやって来た目的の場所。

ここは……ソフトボール部のグラウンド。

「うんっ、誰か来るまでここでストレッチとかやってよっと♪」

辿り着いた先であおいはストレッチを一人で始めることにした。

無論、ここの使用許可など得ているはずもないのだが――。

 

 あおいがストレッチを開始してから数分後。

そんな事情を何一つ知らない何者かがソフトボール部のグラウンドへ入ってこようとしていた。

「さて、今日はどのメニューでいこうかしら……ん?」

その何者かは視界に普段いるはずのない“異質な存在”を捉え、何やらぶつぶつと呟き出す。

(先輩達含めたって私よりも早く来るやつなんてウチの部にはいないはず………一体、誰?)

“異質な存在”が何なのかを確認。気配を殺してゆっくりと忍び寄り――。

 

「――ちょっとアンタ! 誰の許可があってここ使ってるのよ!?」

 

 突然背後から大声で咎められたことにびっくりしたあおい。

「えっ? あ……」

「……」

無言の威圧が視線と共にあおいに突き刺さり、あおいはそれ以上の言葉を発せられないでいた。

それでも何とか声をださなくちゃ――その一心で喉元でつっかえていた言葉を絞り出す。

「……ゴメン。でも、人数が揃うまで向こう使えなくって…」

いつも使っていた練習場の方を指差して、自分の事情を説明しようとする。

「ふーん、だからって人様のとこ無断で使っていいとでも?」

「そ、それは…そう、だけど……」

取り付く島もない。とは正にこのことか、しどろもどろのあおいを更に睨み付ける。

尚も睨んでくる突然の来訪者のことを、あおいは俯きながらも上目で見てその姿を視界に入れてみる。

「……」

膝にはサポーター、半ズボンの下にはスパッツ、胸元にはピンク色の文字で“恋恋”。

更に視線を上げてみると、バイザーを被り、そして白いハチマキを額に巻いていた。

あおいが目撃したのは紛れもない――。

正真正銘の恋恋高校ソフトボール部のユニホームを着た、燃えるような赤い髪の女の子だった。

 

 その来訪者はずっと無言のままであったが、何かに気付くとハッとした様子で言葉を再び発した。

「アンタ、もしかして早川あおいかしら?」

「そう、だけど…」

以前の倉橋彩乃の件もあり、そんなに自分の存在が目立つのだろうか? そう思いながら少し警戒気味に答える。

「へぇ、アンタが早川……悪いことは言わないわ、女の子で野球は止めといた方がいいわよ?」

あおいとそう大差ない背丈の来訪者、だが威圧感すら漂わせる腕組み姿勢で言い放つ。

しかし、あおいにはそれが面白くなかった。

何より会うなり自分にとって禁句に等しい言葉を浴びせられ、さすがにカチンときたのだろう。

「ムッ、どうして初対面のキミにそこまで言われなくちゃいけないの!?」

頭に血が上り、一転して来訪者に詰め寄らんばかりの勢いで思いをぶつける。

「それに出来るか出来ないかは、やってみないと分かんないじゃない!」

「――そう、こっちは親切心で言ってあげたのに。何を言ってもムダみたいね」

来訪者はあおいに背を向けゆっくり、だが、しっかりとした足取りで歩き出した。

10mをちょっと過ぎた辺りで立ち止まり、右肩に掛けてあったエナメル製のスポーツバッグを無造作に下に置く。そしてそのバッグの中からおもむろに黄色い球体を取り出しあおいの方に向き直る来訪者。

「しょうがない、実力行使――させてもらうわ!」

仁王立ちに近い状態から一瞬で前屈みになり、黄色い球体を持った右腕を背中側へと大きく持ち上げる。

 

「え!? ちょっ、ちょっと待ってよ!!」

「問答無用! この球、捕れるかしら!?」

 

その言葉と同時に右腕は枷が外れたかのように、下に弧を描きながら加速。右腕の動きに合わせて左足で大きく前方へステップを踏んでいく。ステップが生み出した勢いも加わり右腕は頭上をも越え、風車の如く一回転した後、黄色い閃光が走った――。

 

「――っ」

「……」

咄嗟に出した左手に鋭い痛みを感じるも、それでもあおいはその痛みに負けじと声を荒げる。

「ちょっと! いきなりなにするのよ!? 危ないじゃないっ」

(何今の……浮き上がって、きた?)

未だ痺れる左手には黄色い球体――ソフトボールに用いられる公式球が握られていた。

「捕った……ですって?」

野球では見ることのない独特な投球フォーム、ウインドミル投法から放たれた球。

腕の振りの加速、ステップの勢い、幾つものエネルギーを乗せたその“浮き上がる”一球を捕られた。

その目の前の事実に目を見開いて驚く来訪者。

「……アンタの逃げなかった勇気に免じて、特別に今日のところは見逃してあげるわ? アンタんとこの仲間が来るまで使ってても構わないから」

まだ少し納得いかなさそうな感じの来訪者だったが、スポーツバックを拾い上げ「じゃあ」と、短い言葉を残して、額に巻いたハチマキをなびかせながら去っていく――。

 

(早川、次はこうはいかないから。私は、野球を――)

 

「もぅ! なんなのよいったいーーーーっ」

結局最後まで敵視されていた意味もわからないいまま無言で見送ったあおい。

であったが、今さっき起こった事について冷静に考えれば考えるほどわけが分からなくなり、思わず叫ぶ。

思いの丈は青々とした空の彼方へと消えていった。

 




はいっ、”あのキャラ”とは、あのキャラのことです!
ゲームやっていた方はもう何となく(というか確実に)誰か気付いたかもしれません。
彼女の正体は近々明かされるので、それまで謎は謎のままに!(笑)

で、次回からは10話目にしてやっと試合回となります。
野球経験ほとんどない作者なので、かなーりあやしい展開となってるかもですが…
頑張って書き上げたいと思います!!

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