いざかいてみると難しい。先人の偉大さを思い知ります。
さて、皆はでてくるバニラモンスター、どのぐらいまで知ってるかな?
「まずいまずい、遅刻しちゃう……っ」
舞網市の通りを、爆走する少女が一人。舞網第二中学校の制服をきた女子が、長い髪を靡かせながら通りを華麗なランニングフォームで大急ぎで走っている。
「えーとえーと、今通り過ぎた時計がああだから……うん! ギリギリ塾には間に合う! 今日は融合の応用編だから、遅れたら大変だわ!」
通り過ぎたビルの時計で時間を確認しながら、わき目もふらず爆走する少女。大急ぎで角を越え、信号が変わろうとする横断歩道に飛び出す。
だから、彼女は見落としていた。
まさかマラソン選手なみの勢いで角から飛び出してくる女子生徒がいるなんて思わず、ちゃんと左右確認した車がまっすぐ走ってきているなど。きがついた相手が急ブレーキを踏んでも、とうてい間に合わないという事を。
鳴り響く、車のブレーキの音。そこでようやく、彼女は自分が立たされている状況を把握した。
「……あ」
迫り来る、車のバンパー。そのナンバープレートを何故かしっかり数えながら、彼女は動くこともできずに、ただ呆然と目の前に迫る”死”を幻想した。
その瞬間の出来事だった。
「危ないっ!!」
どっ、と予想とは違う方向から衝撃がやってくる。背骨をうつ衝撃に息を詰まらせながら、少女は見知らぬ誰かが、自分を後ろからタックルし、そのまま抱き抱えるようにして車線から逃れようとしているのだと把握した。
しかし、車からは到底逃れられそうにない。恐らく、犠牲者が一人増えるだけだろうな、とぼんやり思う。そして、車が何故か大きく蛇行して、明後日の方に吹っ飛んでいくのをみて、あれ、と疑問に思った。
間違いなく車は突撃コースだったのに、今は変な方向へ吹っ飛んでいる。そのバンパーに、なにやら鋭すぎる爪痕のようなものが刻まれていたのが目に入った。
そういった、緩やかな時間の中で目にしたもろもろは、着地の衝撃によってかき消されて吹き飛び、あえぐように息をすれば、町の喧噪と、今までの時間の流れが帰ってきた。
「あ……」
今、自分が交通事故で死にかけた事が、遅れながら理解できて、少女の顔が青くなる。自分を押し倒すような形でかぶさっている男の懐から周囲を見渡せば、ショーウィンドウにつっこんで煙をあげている車と、大騒ぎする周囲の交通人の様子が目に入ってくる。
TVで何度もみた、大きな交通事故現場そのものの様子に、ごくりと息をのむ。
この男の人がかばってくれなかったら、私は今頃……。そんな事を考えながら、被さっている男の肩に手をかけたとき、少女はぬるりとした感触に反射的に手をすくめた。
触れた手を、おそるおそる確認してみる。
茶色にもにた、鮮烈な赤。見返せば、薄黒く汚れた襤褸をまとった男の体から、染み出すようにしてその赤はこんこんと湧き出てきて、少女の服もまた、赤色に染め上げつつあった。
悲鳴が、舞網市の一角に響きわたる。
その惨劇を、近くの信号から見下ろしている、一羽の鳥の姿があった。
茶色い羽毛に覆われた、鷲のようなその鳥は、赤色をともす信号の上で一声、クァ、と鳴くと、羽ばたいて舞網の空へと舞い上がり、青色に溶けるようにしてその姿を消した。
舞網市。
デュエル産業に特化した、デュエリスト達の町。
それは町並みにも強く現れ、そこかしこに様々な流派が、塾の看板を出している。
権現坂、ディアン・ケト、刻命館……。その種類は多岐にわたる。
だが、デュエル産業は塾のみにあらず。
アクションデュエルに使われる質量をもったソリッドビジョンは、当然多用途に運用が行われ……そんな中に、それはあった。
デュエルセラピー。
決闘のもたらす心理的効果を利用し、外科で治療不可能な領域の施術、すなわち”心の病”に対応する、新時代の医療である。
そんなデュエルセラピーが一つ、紫苑病院。
そこでは、今まさに一人の患者の治療が終わろうとしているところだった。
病院の庭で対峙する、白衣の男と、車いすの少年。その両者には、病院につかわしくないデュエルディスクが装備されている。
その両者の周囲には、無数の怪物……の幻影。デュエルディスクの展開する、ソリッドビジョンによるものだ。
と、ふいにそれらが消失する。モンスター達の姿が細かい粒子になって消えていき、あとには二人のデュエリストだけが残る。
「さあ、どうだい?」
「あ、ああ……。……動く。動くぞ、僕の足が!」
「ああ、ほらほら。焦らない。長い間麻痺していたのだから、いきなり動かさないの」
「はい、はい……! ありがとうございます、先生!」
車いすの少年が、子鹿のように足を振るわせながら、それでも大地に立つ。その様子を心のそこからの笑顔で祝福しながら、白衣の男性は彼に手を貸し、重たいデュエルディスクを受け取った。
「これで、デュエルセラピーは終了だ。あとは、一般の病棟でみてもらうといい。元々、神経系は再生していたのだから、あとは君の精神の問題だった。だがデュエルという極限状態にさらされた君のデュエリストとしての本能が、動けない足を動かした。恐らく、その気持ちを忘れなければ大丈夫だろう」
「はい! ありがとうございます!!」
「いえいえ、仕事ですから。……おーい、ジョン。ちょっと頼めるかい?」
白衣の男性が、病棟に向けて声をかける。
その声に答えて、一人の青年が姿を見せた。病院で使用している介護服に、髪の毛を適当にまとめたなんだか地味な感じの青年だ。その左手にはデュエルディスクが取り付けられており、彼もまたデュエリストであるのが見て取れる。
「何でしょうか、先生」
「彼を中央病院まで連れて行くから、その間、留守を頼む。多分、誰も来ないと思うが……」
「了解しました。何かあった場合は、メッセージを送っておきます」
「そこはラインかツイッターでいいんだぞ?」
「ああいうのは正直、苦手でして……」
「そうか。まあ、メールの方が確実だしな。お願いするよ」
「はい」
青年がうなずいたのを確認して、医者は少年につれそって車で病院を後にする。それを見送って受け付けに戻ろうとした青年はふと、空を見上げて感慨深げにつぶやいた。
「もう、一ヶ月か」
青年は呟く。
そう。
彼こそ、かつての交通事故で通りすがりの少女を救った襤褸の男。大けがをしていた彼は実家が病院であった少女に拾われた。
だが、彼は事故の影響なのか、記憶を失っていた。そんな彼を少女の父親である医者が不憫に思って雇い入れ、そして今にいたる。
そんな彼の詳細だが、デュエリストである、という事以外はいっさい不明。所有しているデュエルディスクにも個人情報が記録されておらず、困った少女によって「ジョン・ドゥ」と呼ばれて日々を過ごしている。
少女の父親の医者はデュエルセラピーであり、デュエリストである彼の問題を放置できなかったのだろう。そんな彼に、ジョンは心のそこから感謝し、しかし同時に申し訳なく思いつつも、その好意に甘える事にしている。
そして今日も、そんな彼はいつもと同じように、記憶の手がかりすらつかめずに日々を過ごす……はずだった。
突如として、病院のドアをあけはなって飛び込んでくる人影。目を丸くしたジョンの前で、二人の子供が、息を切らせながら彼に向かってまくし立てた。
「お兄ちゃん、助けてー!」
「大変だよー!」
「ブルー、ラズ。どうした? 何があった」
「お姉ちゃんが大変なの!」
「知らないおにーちゃんに連れて行かれた!!」
「……わかった。詳しく話してくれ」
数分後。
ジョンはかつての薄汚い装束に着替えると、デュエルディスクを手に町へと飛び出していった。
かつて栄えた、工場地帯。
だがそれはデュエル産業の発達と共に廃れ、今は無人の倉庫とかした工場跡が立ち並ぶだけとなっている。
そこで、二人のデュエリストが瓦礫に腰掛けながら時間を潰していた。彼らの足下には、なにやら人が一人入りそうなずた袋が、ぱんぱんになって転がされている。
「ねえ、兄貴。ほんとにうまくいくんですかい?」
「なぁに、デュエルセラピーといえば高給取りだ。娘を人質に、なんていえば、いくらでもぽんぽん出すに決まってるさ」
「いや、そういう意味じゃなくてですね……」
軽い感じで、物騒な事を話す二人。兄貴、と呼ばれた肥満体の男は、ふてぶてしく顎をなでながら、やせぎすの相方に鷹揚に笑って見せた。
「なーに、大丈夫だって。デュエルセラピーなんぞ、デュエルのまがい物。俺たち本職のデュエリストに勝てるはずが……」
「まがい物が、なんだって?」
「誰だっ!」
突如として響く、第三者の声。とっさに反応したリーダーの男が声をあげると、それに答えるようにして、天井の梁から一人の青年が姿を見せた。
黒く汚れた襤褸マントを纏い、サングラスをかけた旅人のような姿の青年。だがその左手にはみたことのないタイプのデュエルディスクを装備し、ベルトには無数のカードがまるで予備マガジンのようにポシェットに収まっている。
ジョンだ。
だが、サングラスの下に輝く眼光は、少女や医者の知るそれとはかけ離れた、鋭い眼光を放っている。
強い意志の光。己のルーツが確かではない記憶喪失者の持つ輝きではない。
「貴様に名乗る名などない。ジョン・ドゥとでも呼べ」
「ああ!? きどった名前名乗りやがって、なんだてめえ!」
「ああいや、兄貴。あれは名無しの権兵衛って意味なんすよ」
「ほほう? そうなのか……ってそうじゃねえよ! 結局名乗ってないじゃねえか!」
「名乗る名などないといった」
無愛想に言い放ち、ジョンがデュエルディスクに一枚のカードをセットする。黄色みがかったフレームの、そのカードの名は。
「タクヒ、召喚!」
ヴォン、という効果音と共に、一匹の鳥獣族のソリッドビジョンが現れる。薄気味悪い雰囲気の、茶色い羽毛の猛禽。その鳥の足を”掴む”と、ジョンは高所から飛び降りた。
タクヒが羽ばたき、落下速度を減少させる。そしてそのまま、5m近い高さからジョンはひらりと舞い降りると、タクヒのカードをデッキに戻し、同時にソリッドビジョンもかききえる。
その有様を目の当たりにした男達が、そろって唖然と顎を落とした。
「な、なんだそりゃ!? アクションデュエルでもないのに、ソリッドビジョンに触れたぁ!?」
「なななな、なんですかおまえ!?」
「……貴様らこそ。その子をどうするつもりだ」
ジョンは、男達二人の足下に転がるズタ袋に視線を向けながら、鋭く問いただした。
子供達二人がつげに来たこと。それは、少女が身代金目当ての男におそわれそうになっていたという話だった。そして駆けつけてみれば、男の足下には少女一人が入りそうな袋が、ぱんぱんになって転がっている。気絶しているのか袋はぴくりとも動かないが、状況証拠としては十分だ。
だが、ジョンの指摘に男は状況を思い出したのか、むしろ意気揚々と、袋を背後にジョンにガンをとばしてきた。
「それがわかってるなら話ははぇえ。いいか、おとなしくしてないとこの子供がどうなっても……」
「デュエルアンカー!」
「何ぃ!?」
話の途中で、ジョンのデュエルディスクから突如として射出されたワイヤーが、男のもつデュエルディスクに突き刺さった。すかさずワイヤーが巻き取られ、ジョンと男のデュエルディスクが一本のワイヤーで結ばれる。
「な、なんだこりゃ!?」
「デュエルアンカーだ。これは、お前と俺がデュエルしない限り、決して外れない。そして敗北者か、あるいは無理矢理外そうとしたもののデュエルディスクを完全に破壊する。……迂闊に動くなよ? お前の位置関係上、少女に手をのばす……つまり、背を向ける行為を行えば、アンカーが貴様を逃亡者とみなし破壊を実行する」
「な、なんてもん仕掛けやがるっ!?」
「あ、兄貴っ! ならば私が!」
「あと、このアンカーは”決闘”用だ。第三者が利敵行為を行った場合、ジャッジキルとしてやはり荷担した陣営のデュエルディスクを完全破壊する」
「動くなよ! 絶対に動くなよお前!!」
「し、しぃません……」
すくみ上がって動きを止めるやせぎすの男。リーダーはジョンに向かい直ると、忌々しげに舌打ちをならした。
「くっそ、徹底してやがるな……てめえ、どこの紛争地帯出身だってんだ」
「……紛争地帯か。それならまだマシだったかもな」
「あん?」
「それよりも、どうする。デュエルするのか、しないのか」
「けっ。いいだろう、デュエルしてやる。もっとも……貴様のデッキが、俺に通じるとはおもえねーがな!」
自由な右人差し指をつきつけて、リーダーの男はジョンをあざ笑った。
「はっきり見えたぜ、お前のさっきのカード! 枠の色からして通常モンスター、それも攻撃力1450の雑魚と呼ぶのもおこがましい屑カードだ! それをてめえは後生大事にデッキに抱え込んだ……つまり、そんな程度のカードで構成されてるクズデッキって事だ! そんなのに、俺様が負ける訳がねえ!」
「……御託はその程度でいいか? ならば決闘だ!」
「はっはっは、いいぜ、やってやる!!」
「「デュエル!!」」
ジョン LP4000
北川 LP4000
「先攻は、俺が頂くぜ。俺は手札から巨大ネズミを召喚!!」
ヴォン、と音をたてて、北川の場に巨大なネズミ……そうとしかいいようのないモンスターが現れる。見た目は本当にただのネズミ……だが、人の頭蓋骨をまるでボールのように抱えているところからも、その異常な大きさが見て取れる。
巨大ネズミ
効果モンスター
星4・地属性・攻1400・守1450
「こいつは戦闘で破壊されても、攻撃力1500以下の地属性モンスターをデッキから特殊召喚できる。きさまが迂闊に攻撃してきても、俺は好きなモンスターをデッキから出すだけだ。そんでもって、伏せカードを一枚セットして、エンドォ!」
●北川
手札三枚
□□■□□
□□■□□
「……俺のターン。ドロー。……俺は、手札から永続魔法、凡骨の意地を発動。モンスターをセット。さらに、魔法・罠ゾーンにカードを二枚セット。ターンエンドだ」
対して、ジョンは一枚の永続魔法を展開し、二枚の伏せカードをセットしただけ。
●ジョンの場
手札二枚
□□■□□
□□■■■
「なんだそりゃ、口では威勢のいい事いっておいて、その程度かよ! どうせバランスなんか考えずに上級モンスターいれたんだろうよ……俺のターン、ドロー! ……へっへっへっへ、来たぜ来たぜ。俺は!手札からビーストライカーを召喚!」
現れたのは、巨大な金槌をもった、イノシシの頭をもった獣人の姿だ。
ビーストライカー
効果モンスター
星4・地属性・獣族・攻1850・守400
「こいつは、手札からモンスターを一枚すてて、デッキからモジャってモンスターを特殊召喚できるのさ! 俺は、手札のキング・オブ・ビーストを捨てて、デッキからモジャを特殊召喚!! コーリング・ビースト!!」
ビーストライカーが、北川の声に併せて金槌を地面にたたきつける。その瞬間、スパークが生じ、光と共に黒い毛玉のようなモンスターがひょっこりと姿を現した。
モジャ
効果モンスター
星1・地属性・獣族・攻100・守100
「そして、墓地に送ったキング・オブ・ビーストの効果、発動! こいつは、フィールドのモジャをリリースして、墓地・手札から特殊召喚できるのさ! さあ、獣の王よ、今ここに!」
モジャが、急激に膨れ上がる。饅頭のようだった体が歪に膨れ上がっていき、もさもさとした毛がどんどん延びていく。その中から、骨のような巨大な足が四本突き出し、露出していた顔が、愛らしいあどけなさから凶暴な獣のそれへと変貌していく。数秒後には、そこには巨大で異様な獣の姿があった。
キング・オブ・ビースト
星7・地属性・獣族・攻2500・守800
「きたあ、兄貴の切り札! 生け贄も使わず、手札消費一枚で最上級モンスターを呼び出すなんて、さっすが兄貴ぃ! そこに痺れるあこがれるっ!」
「へっへっへ……さあ、バトルだ! ビーストライカーで攻撃!!」
「……俺のセットモンスターは、アブソリューターだ。守備力1400につき、破壊される」
アブソリューター
通常モンスター
星4・風属性・鳥獣族・攻1300・守1400
<相手を鏡の中の世界に吸い込むことができる>
「はっはは、なんだなんだその屑カードは!? さらにキング・オブ・ビーストと、巨大ネズミで貴様にダイレクトアタック! まずは巨大ネズミからだ……飢饉の牙! そしてキング・オブ・ビーストでアタック! グレート・ミキシング!!」
巨大ネズミが、見た目に違わず素早い動きで駆け回り、ジョンの首もとへと食いかかった。それを、ジョンは一顧だにしないまま、デュエルディスクで受け止める。そこへ、今度は地面を揺らしながら突進してきたキング・オブ・ビーストの足が振り下ろされた。流石に今度は受ける訳にはいかず、一歩下がって直撃を避けるジョン。
だが、質量のある攻撃を避けたところで、システム的にライフは守れない。無情にも、ニ体の連続攻撃で、ジョンのライフは一瞬にして風前の灯火となってしまった。
ジョン LP4000→2600→100
「ギリギリ生き残ったなあ、おい。これで俺が勝ったようなもんだな。おら、さっさとアンカーとかいうの解除しろよ」
「…………」
「おいてめえ、なんかいえってんだよ、ああん? ターンエンドだ!」
「へへっ、流石兄貴! びびって声もでないでやんすか!! 最初の威勢はどこいったんでちゅかー?」
北川の場
手札二枚
□■■■□
□□■□□
「……俺のターン。ドロー!」
野次にいっさいかまわず、ドローするジョン。その目が、引いたカードを前に、鋭く細められた。
「……何故、俺が伏せカードを発動しなかったと思う?」
「ああん?」
「必要なかったからだ。貴様には……貴様の攻撃には、信念というべきものが存在していない。その差を、今から教えてやる! 俺は、永続魔法、凡骨の意地の効果を適用! ドローフェイズで俺がドローしたカードが通常モンスターだった場合、それを相手に掲示することで、もう一度、ドローができる! そして俺の引いたのは、通常モンスター、閃光の騎士。故に、さらにドロー!」
「バカな、一ターンに複数のドローを可能とするカードだと!?」
「ドロー! 俺が引いたのは、通常モンスター、スカイ・ハンター! 続けてドロー! 冠を頂く蒼き翼、これも通常モンスター、ドロー! タクヒ、これも通常モンスターだ」
「あ、あいつ一体何枚ドローする気でやんす!?」
「はん。モンスターしか入ってないデッキならともかく、事実として伏せカードが何枚か伏せてあるんだ。そういつまでもドローできる訳がねえ。だいたい、通常モンスターなんてクソの役にもたたないもんを何枚も引いたってどうしようもねえよ」
「ドロー! ……こいつは、魔法カード、リロードだ」
「ははっ! どうやらこれで終わりみたいだな、さっさとドローフェイズを……」
「この瞬間、ドローした速攻魔法リロードの効果発動! 手札をすべてデッキに戻し、戻した枚数ドローする!!」
「んなあ!? ちょっとまて、まだドローフェイズは終わってないから、それってつまり……」
「手札七枚をデッキに戻し、七枚ドロー! さらにこのドローは、まとめて一回と見なされるため、その中に一枚でも通常モンスターが入っていれば、凡骨の意地の効果は適用される。俺は手札の通常モンスター、フーコーの魔砲石を提示して、さらにドローする! ドロー、通常モンスター、バードマン! ドロー、始祖神鳥シムルグ! こいつは効果モンスターだが、手札にある間は通常モンスターとして扱う! ドロー、再びバードマン! ドロー、通常モンスター、サファイアドラゴン! ドロー! 速攻魔法、リロード発動!!」
「あ、あがががが……」
「こ、コイツ、どんだけドローすれば……!」
すさまじい勢いで、ジョンの手札が増えていく。気がつけば、二十枚近く……デッキの半分ものカードが、ジョンの手札に収まっていた。
「ドロー! ……龍の鏡。流石にこれで打ち止めだ。ドローフェイズを終了する」
「ふ、普通じゃねえっす……! どんなドローちからでがんすか……」
「だ、だが虚仮威しだ! どんだけ手札があったって、召喚権利はたった一回。壁にもならねえ弱小モンスターを、いくら手札に抱えたって……」
自分を鼓舞するかのように理屈を並べ立てる北川。それに、彼には保険もあった。ちらり、と伏せたままの罠カードに視線をやる。
(俺が伏せているのは、罠カード、奈落の落とし穴! 召喚、特殊召喚されたモンスターの攻撃力が1500以上だった場合、破壊し除外する、最強クラスの召喚反応罠だ! あいつがなんらかの方法でキング・オブ・ビーストを越えるモンスターを召喚してきても、コイツで葬ってやる! 見たところ、やっかいなのはシムルグとかいう攻撃力2900だけ、それさえ始末すれば……!)
信頼する罠カードを確認し、北川はジョンの場に注目する。
だが、彼は気がついていない。
ジョンが何故、聞いたこともみたこともない、弱小カードをデッキに加えているのか。その理由を、もっと建設的に彼は考えるべきだった。彼が掲示したモンスター達、そのパラメーターだけでなく、効果、もっといえばその枠の色に注意すべきだった。
だが、もう遅い。
ジョンの勝利のピースは、すべて集まった。
「俺は! 手札のスケール7、閃光の騎士と! スケール2、フーコーの魔砲石で、ペンデュラムスケールをセッティング!!」
「「ペ……ペンデュラムスケールだとぉ!?」」
デュエルフィールドに、突如として差し込む二柱の光。それぞれに、光り輝く鎧を纏った騎士が、ペンデュラムを振り回す機会仕掛けの存在が、それぞれ収まっていく。
「まてまてまて! なんだそれ! そいつら、さっき通常モンスターだって示してたじゃねえか!? 大体、なんでお前がペンデュラムモンスターなんかもってるんだ! あれは、あのサカキユウヤとかいうガキだけがもってるんじゃなかったのか!?」
「前者の質問には答えてやる。こいつらは、通常モンスターとペンデュラムスケールを併せ持ったモンスターだ。故に、通常モンスターであることしか条件にあがっていない凡骨の意地は正常に適応される」
「そんな、インチキだろ!?」
「これで、レベル3から6までのモンスターを、同時に召喚可能となった。現れろ、我がしもべ達よ!」
二つの光の柱。その間に開かれたゲート。そこから、複数のモンスターが光となって降りてくる。同名のモンスターを含んだ、五体ものモンスターの一斉展開だ。タクヒが二枚、ハーピィ・レディが一枚、アブソリューターが二枚の大軍勢。
タクヒ
通常モンスター
星4・風属性・鳥獣族・攻1450・守1000
<このトリが現れた時は、何か不吉な事が起こる前ぶれ>
ハーピィ・レディ
通常モンスター
星4・風属性・鳥獣族・攻1300・守1400
<人に羽のはえたけもの。美しく華麗に舞い、鋭く攻撃する>
(こいつら、ねらったように全員攻撃力1500未満じゃねえか!? これじゃ、奈落の落とし穴が発動できねえ!!)
「だ、だが、そんな屑モンスターでなにができる!」
「俺は、さらにニ体のアブソリューターと、ハーピィ・レディでオーバーレイネットワークを構築する!」
「?! エクシーズ召喚!? バカな!?」
「時の流れに取り残されし者達よ! 革命者の後を追い、鉄の意志で翼を束ね、鋼の強さで天を裂け! エクシーズ召喚……ランク、4!! RR(レイドラプターズ)ライズ・ファルコン!!」
三体の通常モンスター達が、突如発生した闇色の渦に光の玉となって吸い込まれていく。直後、その渦が爆発し……中から、巨大な機械のような体を持った鳥のモンスターが姿を現した。
RR ライズ・ファルコン(OCG版)
エクシーズモンスター
ランク4・闇属性・鳥獣族・攻100・守2000
鳥獣族モンスター×3
「な、なんだ、偉そうな口上の割に、攻撃力たった100かよ……」
「ライズ・ファルコンの効果発動。オーバーレイユニットを一つ消費し、相手フィールド上の、特殊召喚されたモンスター一体を選び、その攻撃力分だけ自分の攻撃力をアップする!」
RR ライズ・ファルコン
攻撃力100→2600
「げげぇ!? 俺のキング・オブ・ビーストを上回っただとぉ!?」
(なーんて、な。それでも俺のライフはぜんぜん削れない。だったら、次には間違いなく、手札のアレをアドバンス召喚してくるだろうさ)
「さらに俺は、フィールドのタクヒニ体をリリース! 手札から、始祖神鳥シムルグをアドバンス召喚!」
「ひゃっはー! かかったな、罠発動、奈落の落とし穴! てめえのシムルグなんちゃらは攻撃力2900、破壊して除外する!」
北川の言葉通り、シムルグは召喚された瞬間、足下に開いた穴へと落ちていった。直後、巨大な神鳥は無数の粒子となって弾けて消滅する。
「残念だったなあ! せっかくの切り札がよぉ!」
「……ああ。そんな事だろうと、思ったよ」
「何……?」
「始祖神鳥シムルグは、風属性モンスターのみをリリースしてアドバンス召喚できた時、相手フィールド上のカード二枚をバウンスする事ができるが……今回、それは使わない。使う必要もない。俺は、場に伏せていたトラップを発動する。永続トラップ、決戦の火蓋! 墓地にあるモンスターを除外する事で、手札から通常モンスターを召喚する事ができる。俺は、墓地のタクヒニ体と、RRライズ・ファルコンのオーバーレイユニットとなっていたハーピィ・レディをゲームから除外し、手札のバードマンニ体とサファイアドラゴンを通常召喚する!!」
バードマン
通常モンスター
星4・風属性・鳥獣族・攻1800・守600
<マッハ5で飛行する鳥人。その眼孔は鷹より鋭い>
サファイアドラゴン
通常モンスター
星4・風属性・ドラゴン族・攻1900・守1600
<全身がサファイアに覆われた、非常に美しい姿をしたドラゴン。争いは好まないが、とても高い攻撃力を備えている。>
「そして、バードマン二体で、オーバーレイネットワークを構築! 時の流れに忘れ去られし者達よ! 今こそその翼を羽ばたかせ、流浪の射手の引き金を支えよ! エクシーズ召喚……ランク、4! 鳥銃士カステル!」
鳥銃士カステル
エクシーズモンスター
ランク4・風属性・鳥獣族・攻2000・守1500
レベル4モンスター×2
「そして、鳥銃士カステルの効果発動! オーバーレイユニットを二つ使い、相手フィールド上の表側表示のカードを一枚、デッキに戻す! 俺は、ビーストライカーを指定! さらに、墓地のバードマンを除外して、手札から二体目の閃光の騎士を召喚する!」
閃光の騎士
通常・ペンデュラムモンスター
レベル4・光属性・戦士族・攻1800・守600・スケール7
「あ……ああ……!? 二体目のエクシーズ召喚だと?! そ、そんな!? 俺の戦術が、全部読まれていたってのか!?」
「バトルだ!! まず俺は、サファイアドラゴンで巨大ネズミを攻撃!」
北川
LP4000→3500
「くそがっ! 俺は巨大ネズミの効果発動! デッキから、巨大ネズミを特殊召喚する! これでなんとか……」
「だが無意味だ! ライズ・ファルコンは、相手フィールド上のすべての特殊召喚されたモンスターに攻撃できる……ブレイブクロー・エヴォリューション!! キング・オブ・ビーストと、巨大ネズミを引き裂けぇ!」
「なんだとぉぉおお!?」
炎の鳥と貸したライズ・ファルコンが、キング・オブ・ビーストの巨体と、ついでとばかりに巨大ネズミを貫く。ライズ・ファルコンの効果が明らかになった今、巨大ネズミで何かを呼び出しても無意味だ。北川は巨大ネズミの効果を発動させず、しかし、フィールドのモンスターの攻撃力の合計値に顔を蒼くした。
「バカな……俺は最初から、全部コイツの手のひらで踊らされて……」
北川
LP3500→3400→2400
「そして! 鳥銃士カステルと、閃光の騎士でダイレクトアタック!!」
北川
LP2400→400→0
「うぎゃあああ!?」
怒濤の猛攻撃によって、ライフをゼロにされた北川がふっとぶ。が、デュエルアンカーでつながれていたため彼は壁にたたきつけられる事なく、ジョンによって引き留められた。が、その瞬間、アンカーのギミックが発動。高圧電流によって、北川のデュエルディスクを破壊した。
長年の相棒を破壊された北川が、黒こげになったディスクを手に慟哭する。
「お、俺のデュエルディスクが……!?」
「あ、兄貴ー!?」
「くそ、貴様、一体なんなんだ! どうしてペンデュラム召喚を使える!? それに、エクシーズ召喚って……」
「……俺としたことが、少し暑くなりすぎた。お前たちには余計な事を見せすぎた……」
「へ……」
「フーコーの魔砲石、ヤレ」
召喚された巨大な歯車仕掛けのモンスターが、主の命令に従って北川とその弟分に迫っていく。ぶんぶん振り子を超高速回転させて迫り来る表情のない怪物を前に、北川達は抱き合ったまま震え上がった。
間違っていた。
俺たちは、こいつの相手をするんじゃ……
「ひ、ひ、ひぃいいいいいいいい!?」
工場地帯に、誰も聞かぬ悲鳴が響きわたった。
「あ、ジョン、お帰りなさいー!」
「おかえり兄ちゃん!」
「遅かったね!」
「……これは、どういう事だい?」
工場地帯で不審者二人を葬った後、病院に戻ってきたジョンを迎えたのは、子供二人と、探しに行った少女その人だった。
あの後、男二人を倒しズタ袋を探ってみれば、そこに入っていたのはただのマネキン。おかしい、と思って一度戻ってきてみれば、肝心の少女が病院で優雅にお茶しているという有様。
首を傾げるジョン。少女は捕まったのではなかったのか。
「あはは。ごめんね。あの後、なんとか逃げ切れて……それで、遠回りして戻ってきたら、子供達がジョンが私を助けにいったって……」
「入れ違いなのー」
「でもまた入れ違いになったら困るから待ってたのー」
「……そうか。それなら、よかった」
「あら? ジョン、どうしたの? すごく疲れてるみたいだけど」
「ああ、いや。大丈夫さ。君が無事なら、いい」
「ねえ、兄貴ぃ」
「なんだ弟よ」
「……あっしら、なんでここにいるんでしたっけ」
「……奇遇だな。俺もよく覚えていない。なんだかとてつもなく恐ろしい目にあった気がするんだが」
「「うーん……?」」
オマケ
主人公は、現実世界出身。第四の壁を突破して遊戯王世界に落ちてきて、よりによって落ちてきた処がハートランドだった(この時、現実から持ちこんだペンデュラムカードは全部ただのバニラになり、ナンバーズは白紙になってしまってデッキパワーが超落ちた。さらに、もともとのガチデッキではなくそれこそ不審者リスペクトのネタデッキだった)。鳥獣使いという事で不審者さんと仲良くなるも、融合世界の侵攻によってレジスタンスとなる。その後、ユート達本隊を逃がすために囮となっていた処、次元を越えた先で覚醒したペンデュラムの影響をうけて手持ちのカードがかきかわった(ナンバーズは相変わらず白紙)。
ペンデュラム召喚で追ってを倒すも、それによって開いた次元ゲートに巻き込まれて舞網市へ。二度も無茶な次元の越え方をしたせいで、現実世界基準のメタ視点と記憶を失っている。あと不審者とユートには死んだ者として扱われている。
アンカーを駆使した強引な決闘は、人海戦術でずっと俺のターンをやってくる融合世界への対処法として編み出した。基本的に不意打ちで、隊列の後ろから一人ずつ消していくような闘い方をする。
「次元をまとめるという事は、各次元に存在する災厄をも一つにしてしまう」という融合世界の目的の危険性を恐れている。
もし連載版になった場合、LDSからイグナイトを提供される事になると思われる。