レクリエーションも無事に終わり、高校生になって初めての週末がやってきた。ゆかりの言う、トリプルデート!ユーヤ以外の5人は校門の前で待ち合わせて、ユーヤの店へ向かう。
「駅で集合でもよかったのに」
今日も大人っぽいワンピースのアリスが申し訳なさそうに言った。
「いいのいいの。若者は歩かなくっちゃ」
ショートパンツの足がまっすぐに伸びたゆかりが先頭に立って歩いている。
「テツ君コータロー君、このまままっすぐでいいの?今日はワコちゃんが忙しくなくってよかったね。いつもワコちゃんは土日いそがしいんだよねぇ」
「あ、うん。わたしの仕事はほぼ片付いたから・・・」
小さな声でワコが返事する。
「ワコちゃん、バイトしてるの?」
アリスが小さなワコの歩調に合わせるようにゆっくり歩きながらたずねる。
「うん。バイトではないけど、ちょっとね・・・」
「じゃぁ、おうちのお手伝いかなにか?」
「う、うん。そんなかんじ・・・」
「へぇ、ワコちゃんってえらいね」
「いや、趣味みたいなものだから・・・」
「お手伝いが趣味って、ワコちゃんいいお嫁さんになれるわきっと」
「いやぁ・・・」
ワコの歯切れの悪い返事はいつものことだから男子二人には気にならなかった。
駅前に近づいてきて人通りが増えてきた。1階に北欧家具のテナントが入る植物が壁に絡まる建物が見えると、
「その階段を上がって。もう、着いたよ」
コータローがゆかりに声をかける。
「じゃあ、レディファーストだな。お嬢様方どうぞ」
イケメンの声を作ったテツがドアを開け、マジシャンのように手を広げる。
「いらっしゃいませ。本日はお待ちしておりました。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
いつもはラフな格好で店に出ているユーヤが、今日はアイロンの効いた白いシャツに蝶 ネクタイでギャルソンエプロンとかなりかしこまったスタイルで挨拶した。
「うわぁ、素敵なお店!ホント、テツ君が言ってた通りだぁ。ユーヤ君もかっこいいよ」
ゆかりは店内をきょろきょろ見回しながら、声を上げる。
「そう実は俺、イケてんだよ。最初はみんな一緒の席がいいだろうから、こっちのテーブル席に座りなよ。今日は親父のおごりだから何食ってもいいぜ」
キッチンから悠造と母親のしおりが出てきた。挨拶と女の子たちの紹介が終わると、コータローとテツが同じタイミングでしおりに、
「マダム、いつ戻られたんですか?」
「こんにちは、きのう戻ってきたの。今日は女の子たちも来るって聞いたから、ちょっとだけ悠哉をきれいにさせたのよ。みんな初めまして、これからこの子達をよろしくね」
「いいねぇ、女の子は。みんなは彼氏とかいるのかな?いないんだったら今度おじさんとデートしよう」
「あら、こんなおじさんイヤよねぇ。でももしデートするんだったら、たくさんおねだりしちゃいなさい。おじさんは使いようよ。じゃ、ゆっくりしていってね」
しおりはまだ女の子と話したがる悠造を引っ張ってキッチンへ消えていった。
「ユーヤのパパとママ、素敵ね。仲もよさそう」
アリスが柔らかく笑って言う。
「そう、マダムがかっこいいんだよ。ムッシュがいつでも女の子ナンパしてんのに、軽くスルーしてんだろ。大人って感じだよな」
テツはこの夫婦が大好きだ。
「外で言うと怒られっけど、うちの中ではスッゲーカカア殿下で親父、尻に敷かれっぱなしなんだぜ」
ユーヤは声を小さくする。
「いいなぁ、きれいなお母さんと楽しいお父さん。憧れるなぁ・・・」
いつも元気なゆかりが、寂しそうに言う。
「どうした?いつもの岩下らしくねえな」
テツはいつも強気だけど、人の心の動きには敏感なのだ。
「この前も言ったけどわたしんちお母さんいないし、今お父さんとケンカしてるから・・・」
「ケンカかぁ。深刻なのか、ケンカの原因は?」
テツがゆかりの顔を見ずに聞く。
「深刻かもしれないし、そうじゃないかもしれない。でも今は、このことはどっかにやっちゃうよ。せっかくみんなと一緒にいるから」
「そうか。なんかあったら俺たちに相談しろよ。マダムだって相談に乗ってくれっから」
今度はきちんとゆかりの顔を見てテツが小さくほほえむ。アリスが感心したのか、
「テツは優しいんだね」
と、テツの方に体を向けた。
「こいつ俺たちの中で一番チビだけど、兄貴的存在だからな。実際にお兄ちゃんだし」
ユーヤがフォークを配りながら言う。
「チビは余計だ。俺、5人兄弟の一番上。だから、困ってるヤツがいるとほっとけねえんだ」
「それとこいつ、めちゃくちゃ頭いいからね。俺の記憶では、今まで100点以外取ったの見たことない」
コータローはスプーンを配る。
「お前の記憶以前から俺は100点以外取ったことねえ。たぶん、生まれてからのテストで満点以外はとったことねえ。」
「へぇー。人は見かけによらないんだね。わたし、理系が少し苦手なんだ。テツ君、教えてね。」
ゆかりが目を輝かせてお願いする。
「いいけど、俺厳しいからな。」
「えー、優しくしてよ。ちゃんとがんばるからさぁ。」
横で聞いているアリスとワコが笑う。
「大丈夫だよ。こんなこと言ってもテツは女の子に優しいから。俺も理系が苦手だから、俺と一緒だといいよ」
珍しくコータローがフォローっぽいことを言う。
「テツはいつもどうやって勉強するの?」
アリスが身を乗り出すようにしてきく。
「下の兄弟の面倒と自分の仕事があるから、時間を決めて集中して勉強はするようにしてんだ。集中力切れたらどんな作業も打ち切る。まぁ、そんなの滅多にねえけど」
「仕事って、テツもワコちゃんみたいにお手伝いしてるの?」
「俺は自分の生活費は自分で稼いでるから、手伝いじゃなくて仕事だな」
「生活費って、何?」
「俺の小遣いってとこか。遊びにいったり、服買ったり、仕事で使うパソコン関係のもの買ったりそういうやつだ」
「そういうのって、日本の学生は親からもらってるのかと思った。ほら、バイトしたら停学とかいうじゃない」
「まぁ、だいたいのやつが小遣いもらって生活してるはずだ。でもうち大家族だろ、少しでも家計の足しになればいいかと思ってな。得意なパソコンでいろいろやってたら、ちょっと小銭稼ぎができるようになったんだよ。それに、学校関係の費用も全部学校が出してくれっから、せめて自分のわがままで欲しいものは自分で稼ぐことにしてんだ」
「テツ君成績がいいから学校から奨学金で出てるんだ。すごいね」
ゆかりが目を大きくする。
「違うよゆかりちゃん。川原君は成績優秀者だから給付金だよ。奨学金は返済しないといけないけど、給付金は全く返さなくていいの。川原君は、そのままうちの大学に進学するの?」
今まで一言もしゃべらなかったワコが声を出した。
「よく給付金のこと知ってんな、渡。そうだなぁ、金もらってるからそのまま大学まで行くのが筋かもしんねぇけど、俺もいろんな世界知りてーんだよ。学費はよそに行っても給付金で賄えるだけの成績あっから、別に苦労はしねーんだろうけどな。今俺の悩みはそのことだな。」
メニューには載っていない料理がずらりと並ぶ。ユウヤの作った料理も並んでいる。
「きのうから仕込んだんだぜ、この赤ワイン煮込み。今月に入って作った俺の料理の中のベスト3に入るね。さあ、いっぱい食いな」
雑談に花が咲いていると、一人の女性客が店に入ってきた。
「こんにちはー。マダムいらっしゃいますー?」
「いらっしゃい。こっちのテーブルでいい?」
しおりが資料を手に持ち、客を6人が座るテーブルの隣に案内した。客が突然大きな声をだす。
「ワコ!」
「佐倉さん!」
ワコもいつもより大きな声を出す。客は常連のサクラだ。
「えっ!サクラさんとワコは知り合いなのか?」
ユーヤの声もいつもより高くなる。
「うん。こちらは佐倉咲良さん、わたしの秘書をしてくれているの。佐倉さん、今日はお休みだったよね」
「ほら、この前話した部屋のイメチェン、こちらのマダムに相談にのってもらおうと思って。そしたら、さっきマダムがフランスから戻ったって連絡もらったもんだから」
その場にいる中で一番速くに気づいたテツが興奮して言う。
「おい、渡!お前world conquestの社長ってことだよな。ってことは、デザインもお前がやってんのか?」
「そう、デザインはわたしがしてる。社長だけどわたしがまだ学生だから、経営や財務は佐倉さんや他のスタッフがしてくれてるの」
「うそでしょう!ワコちゃんの仕事って、デザイナーなの!わたし、world conquestが大好きでいつも着てるのよ。こんなに近くにすごい人がいるなんて、ああ、どうしよう・・・」
アリスが顔を真っ赤にして、両頬をてのひらで押さえる。
「ありがとうございます。このワンピースもうちのものですね。とっても良くお似合いで、わたしもうれしいです。ワコ、またひとりファンが増えたね」
サクラが小動物でも見るような優しい顔でワコを見る。ワコも顔をほころばせ、
「うん、ホントにうれしいよ。頑張った甲斐があるよね。入学式のときも、アリスちゃんはうちのスーツ着てくれてたんだ」
椅子に座って話しを聞いていたしおりがサクラに向かって
「ねぇ打ち合わせだけど、せっかくならワコちゃんも一緒のほうがいいんじゃない?」
「いいんですか?わたしは今日一日フリーだけど、ワコのお楽しみ会があるからなぁ。終わってから合流させてもらってもいいですか?」
「そうしよう。じゃサクラちゃん、若者の邪魔しないようにあっちへ行きましょう。ワコちゃん、ゆっくりしていいからね。わたしたちのことは気にしないで楽しんで。あとで、ビジネスのお話しましょう。」
大人の女性二人はカウンターへ向かっていった。
「サクラさん、タメ口だね」
コータローがワコに話しかける。
「うん。わたしは名義上社長なだけで、みんなチームの一員だからスタッフに上下関係はないの。フラットだからタメ口なんだ」
今度はゆかりにコータローが話しかける。
「ゆかりは前から知ってたの?」
「うん、わたしたち幼なじみだもん。ワコちゃんは小さい時からおしゃれさんだったんだよ」
「でも、渡の着てる服ってworld conquestのじゃねえよな」
テツは気になる。小さなワコは、大抵アイドルグループが着るようなチェックでひらひらのスカートが多い。アリスが着るようなクールで大人っぽい感じではない。
「うん。わたしの憧れるイメージをworld conquestに詰め込んでるの。わたしの身長じゃ服に着られちゃうし、顔も似合わない。だから、アリスちゃんみたいなきれいな人が着てくれると、本当にうれしくって!服たちもよろこんでるよ」
おとなしかったワコがしゃべりだした。慣れてきたのもあるだろうけど、仕事人としてのワコが表れてきたのだ。
「なぁサクラさんって、サクラサクラさんなんだな。名前すごくねぇ?」
ユーヤの素朴な疑問。
「結婚する前は武者小路咲良さんだったの。こっちの名前もすごいけど」
「確かに!」
「佐倉さんはよく来るの?」
「ああ。週に2回くらい来てくれてるかな」
「佐倉さんをよろしくね。あの人、一番仕事量が多いの。わたし佐倉さんがいないとやってけないから。ここにはリセットしに来てると思うんだ。だから、ホントによろしくねユーヤ君」
「おう、まかせとけ!俺がサクラさんを癒してやっからな」
お互いのことをたくさん話して『お楽しみ会』はおわりの時間になった。アリスの寮の門限が近づいてきたのだ。
「わたしは打ち合わせをするから、まだ残るね。じゃあ、みんな月曜日」
ワコとユーヤを店に残し、4人は学校へ向かった。アリスを送るため。
「わたしまだ興奮してる。だって、あのworld conquestだよ、あのワコちゃんだよ!早くボリスに言わなくっちゃ!」
アリスは興奮のあまりに何かのダンスステップを踏んでいる。そのままターンして宙に浮きそうだ。
「アリス!あんまり浮かれてると車にひかれるぞ」
テツの兄貴面。踊り続けるアリスは、
「わたしワコちゃん大好き~♪」
「わたしもワコちゃん大好き~♪アリスちゃんも大好き~♪」
ゆかりも隣で踊りだした。
「何やってんだ、お前ら。ユーヤといいお前らといい、なんでテンション上がると踊るんだ?」
ぼやいているテツの横で、コータローは踊るゆかりをぼんやりとみつめた。
ユーヤの母しおりは、天海祐希さんや真矢みきさん辺りの元宝塚男役がいいかなぁ・・・。背が高くて、強めの方がいい!
ユーヤが作ったメイン料理は、牛ほほ肉の赤ワイン煮込みです。