俺は川原哲。高1で5人兄弟の長男。自慢じゃねぇけど、成績は全国トップクラス。どんな模試でも1位しか取った事はねぇ。
日曜の昼下がり、カラオケボックスに向かって歩いている。誰と行くかって?カワイイ女の子に決まってんだろ!と言いたいとこだが、残念ながら目つきの鋭いオッサンが今日の相手だ。
仲間のコータローやユーヤには適当に言ってるが、俺はクラッカー。世間一般にはハッカーってやつだ。依頼人に情報提供をして金を稼いでいる。依頼は個人から企業、官公庁のやつもある。そこらへんを歩いているサラリーマンよりひと月の稼ぎは多い。だから、俺の父さんよりも多い。
ガキの時に小遣いとお年玉を貯めてパソコンを買い、すぐにクラッキングの技は完全に網羅した。強い奴と戦いたくて、大人ばかりが参戦しているいろんな大会に無理やり出させてもらった。どの大会でも、俺はダントツに強かった。ある会場に目つきが鋭い、身なりのいいすましたオッサンがいた。今日のクライアントだ。このオッサンは、俺に提案をしてきた。
「お前ホワイトハッカーを名乗れ。表向きにみんなの味方です!ってな。そしたら、いろんな仕事が舞い込むぞ」
そう言って、オッサンは仕事を俺に持ち込んできた。そのうち噂が噂を呼び、オッサンだけでなく他の依頼も入ってくるようになった。仕事は、面白い。そしてとりあえず、俺はみんなの味方って事になっている。
着いた。受付で「おひとり様1時間パック、飲み物はいらない」といい、部屋に通してもらう。適当に係員の言うことに相槌をうって、さっさと追い返す。ソファにぼんやり座っていると、ドアをノックしてオッサンが入ってきた。
「よう、テツ。少し脚が長くなったんじゃないか?」
「嫌味か、それ。ほら、これ」
極秘文書が入っているようには見えないよう、妹からもらったミッフィーの便せんに入った情報をテーブルの上に置く。オッサンは白い封筒と引き換えに、そいつを懐に入れる。
「ミッフィーじゃないか」
「知ってんのか?」
「ああ、娘が好きでな。そういえば、お前と同じ高校に入ったぞ。A組とか言ってたな」
「はぁ?同じクラスじゃねぇか。名前は?」
「岩下ゆかりだ」
「おい、おんなじグループだぜ。きのうも一緒に飯食ったぞ。あっ、ケンカしたんだろ。仲直りしたのか?」
「あいつはなにしゃべってんだ。きのうちゃんと謝ったぞ。娘をよろしくな」
「そんな顔してるくせに、娘には甘そうだな」
「当たり前だろかわいい一人娘だし、たった一人の家族だぞ。俺が現場に出ない部署にばかりにいるのはあいつの為でもあるんだ。流れ弾にでも当たって俺が死んだらあいつ一人きりになっちまう。大事な娘なんだ」
「はいはい、お父さん。けどよぉ、警察ってそんなに危険か?」
「いやぁ、万が一ってことだ。それよりお前、日本版CIAの噂聞いたことあるか?」
「あぁ。あれって、どこの所属なんだ?」
「内閣直轄か、公安か、外務省か防衛省か、まだウロウロしているみたいだ。公安の同期が妙な噂持ってきてな、どうも人選がすでに始まってるらしい。目ぼしい奴を監視してるらしいんだ。その中に学生も入っててな、どうやらお前もその対象者みたいだぞ。成績や、クラッキング技術からお前にピンが刺さったんだろうな」
「気持ちワリぃんだよ、監視とか!犯罪者みてぇじゃねぇか」
「そいつが適任か調査するための内偵だな。だが、もしなると報酬はすごいぞ。噂だとMI6やCIAは月収が二千万はくだらないらしいからな。じゃあ、もう行くとするか。言っとくが、プロの監視は撒けねえぞ。それと、俺たちの関係はゆかりには黙ってろよ、俺も言わないから。また、頼むな」
岩下のオッサンは出て行った。言われてみれば、あの親子は似ている。細身のところ、黒く真っ直ぐな髪質。相手の懐に素早く入ってくる人懐っこさ。岩下には気をつけないとマズイな。刑事の娘だ、それなりに勘も鋭いだろう。
それよりも俺が監視対象者って、なんなんだよ!まだ高1で民間人だぞ。勝手に俺の将来決めんなってんだよ!007のジェームズ・ボンドはいつも美人なボンドガールとエッチできてかっこいいけど、あんなの空想じゃねぇか。どんな国の情報機関だって軍人並みに体鍛えたり、国家機密を守るため軟禁状態に置かれる。そんなもん、俺にだって想像つく。俺は家族が好きだし、コータローとユーヤは死ぬまで友達だと思っている。そんなかけがえのない存在を月二千万の為に無くすとか、マジで話になんねぇ。くだらねぇことしたり、イイ女の話で盛り上がったり、人らしい生活ができねぇなら死んだ方がマシだろ。
俺は決めた。出来るだけ長く学生でいることにする。せっかくどっかの神様が授けてくれた天才の脳みそだ。フルに使ってやろう。世界の全ての学問を学ぶ。そうやって長く、自由な時間を過ごす。スゲー爺さんになったら、この国に少しは貢献してやってもいいだろ。フリーター兼学生を一生続ける。クラッカーの仕事は一生できるはずだ。食うのに困りはしねぇ。ヤル気なさそうにノロノロ生きてる奴なんか、お堅い役人さんは気に喰わねぇだろう。いつか監視も外れるはずだ。
メールがきた。岩下のオッサンからだ。
≪言い忘れたが、お前の監視は人選のためだけじゃない。反社会分子からの接触を監視する目的もある。こっちの正義の世界で有名なら、あっちの黒い世界でもお前は有名ってことだ。0円のボディガードがついてると思え。≫
マジで、勘弁してくれ!なんでテロリストとやくざにまで狙われるんだ?家族は狙われねぇのか、心配になってきた。これからは、仕事の選ばないとヤバいな。ミスも許されねぇ。
さっき決めたばっかなのに、揺らぐじゃねぇか。家族丸ごと守ってもらえるなら国に貢献してもいいだろう。とりあえず、まだ卒業まで3年の時間がある。それまでは監視つきで十分遊ばせてもらう。いくらなんでも、中卒を国が雇うとは思えねぇ。
岩下のおっさんと一緒で、おれも家族が大事だ。今日feuilleには寄らずにまっすぐ帰ろう。いつもはうるさくて堪んねえけど、みんなの声が聞きたくなった。一番下の弟、ジンの赤ちゃんっぽいにおいが無性に嗅ぎたくなった。抱っこして、いっぱい遊んでやろう。
岩下父は、警視長くらいの役職の設定。なかなかなエリートですね?大沢たかおさんがイメージで、絶対にカッコいい系ですね。
CIA日本版は近い将来できるでしょう。もしかしたら、本当に水面下で人材発掘の動きがあっているのかも!
なにせスパイと一緒だから、もしその職業についてる人でも「俺CIAっすよ」なんていう馬鹿はいないはず。身の回りにそんな人がいたら驚きだな・・・