テツは仕事が忙しくコータローは自動車学校へ行っていて暇なユーヤはほぼ毎日、担任の大泉響子がいる教官室へ『質問』とかこつけて足しげく通っていた。今日も例外無く教官室へ向かうと、ゆかりが扉の前に立っている。よく見ると、聞き耳を立てて中の会話を聞いているようだ。
「なにやってんだ、ゆかり?」
「シーっ!声がでかい!教頭先生がいるの」
「なんで小声なんだよ?」
「いいから!」
中からゆかりの言うとおり教頭の柴田の声が聞こえる。
「・・・だからね。いい店なんです、行きましょうよ」
「遠慮します、教頭先生。何度も言ってますけど、わたし年上には興味ありませんから」
「また、またー。小泉君は年上だったじゃないか。俺もなかなかイケてると思うけど?」
「確かに小泉は年上だけど、教頭先生がイケててもわたしには何の関係もない」
「あーあ、今日もつれない返事ですねぇ。でも諦めませんよ」
「何度来られても一緒です。わたし寮生だから門限があるんです」
「先生は大人なんだから関係ないでしょう。それに間に合わなければうちに泊まればいい」
「それは下心丸見えです。教頭先生、そんなこと生徒や他の先生に言ったらセクハラで訴えられますよ」
「ばれましたか、参ったなぁ。また、誘いに来ますよ。響子先生は独り身じゃもったいないんですから!じゃぁ、また」
柴田が扉を開ける。二人は通りすがりを装うために数メートルあとずさっていたので、
「教頭先生こんにちは」
声を揃えて挨拶をする。
「こんにちは。もう高校生活は慣れたかな?」
「はい」
「そうか、頑張りなさい」
「ありがとうございます。失礼します」
香水と煙草の匂いを残して柴田は去って行った。
「響子先生、失礼しま~す」
ゆかりがノックをして教官室へ入っていく。ユーヤも後に続く。
「どうした?今日は二人か?」
「ねぇ、先生。今教頭先生から口説かれてたね」
「はぁ、聞かれてたか。しつこいんだ、このところ毎日。元旦那の先輩でもあるから、いろいろ知られててね」
「嫌いなの?教頭先生のこと?」
「興味がない。うちの父親と大して変わらない、オヤジだよ。煙草吸う奴も嫌いなんだ」
「きゃはは、オヤジだって。わたしもタバコは苦手」
「ところで何しに来た?葉山は特に何もないだろ?」
「なんでわかるんすか?」
「あんたの質問は、もうわかってて質問してるからね」
「なんだぁ、知ってたんすか?でも、これから毎日詰めてようかな?あんなセクハラオヤジ追っ払ってやるよ、俺が!」
「頼もしいねぇ。確かに生徒がいたらあんなこと言わないよな」
「でしょ。俺、マジで先生守るから!」
「この部屋防犯カメラついてるから何かあれば証拠になる。大丈夫、心配するな」
「先生!マジでなんかあったら俺に言ってくれよ」
「わかった、わかった。で、岩下は何?」
「うん。結婚について聞きたいんです。実はうちのお父さんにお見合いの話が来てて・・・」
「俺、部屋出てよっか?」
「いいよ、別に。聞かれてマズイことなんてないし」
「なら、一緒に」
ユーヤはまた柴田が戻って来てもいいようにこの部屋にギリギリまでいるつもりだ。
「なんで離婚歴のあるわたしにそんなこと聞く?」
「大人の意見を聞きたいの。おばさんから、あっ!親戚なんかでなくって、お父さんの上司の夫婦がいてね、その人たちにわたしたちはよくお世話になってるんだけど、その人たちの紹介なの。おばさんたちはお父さんがこれから独りで生きていくのはかわいそうだって言うの。そうなの?先生どう思う?」
「そんなの人それぞれだろうけど、わたしは今のところ独りでいい。だけど、そのおばさんたちの言うことも間違ってない。特に男の独り身は寿命が縮むって学会でも発表があったくらいだからね。あんたは、お父さんの再婚に反対?」
「反対って訳でもないけど、してほしくはないの。だってお母さんがかわいそうだもん」
「お母さんねぇ・・・もしわたしがお母さんの立場なら新しい恋人は作ってほしいよ。まだお父さんだって若いからね。死んですぐは嫌だろうけど、あんたのお母さんは亡くなって10年だろ。もう、あんただっていろいろ理解できる年齢だもんな。ただ、あんたの気持もよくわかる。なんか辛いよな」
「おばさんたちの前ではすごく怒っちゃって、ちょっとへこんでるの。お父さんのことも、あれから無視しちゃってるし・・・」
「そうかぁ。あんた、その相手知ってるの?」
「写真で見ただけ」
「会ってみろ」
「えぇぇーっ!」
「お父さんよりも先に、おばさんに頼んで会わせてもらえ。それでいい人ならあんたが友達になればいい、年の離れた友達。ダメならお父さんとのお見合いは断る。新しいお母さんなんて思うからダメなんだ。お母さんは一人しかいないんだから、家族としての関係性よりも一人の人間として向き合えばいい」
「さすがはアネゴ!意見が大人だわ。でもちょっと勇気がいるんだけど・・・」
「おばさんが力になってくれるよ。それと、お父さんのことは無視するな。将来の独りよりも今の独りを考えろ」
「うん、わかった。帰っておばさんに連絡してみよう。ところでさぁ、なんで離婚したの、先生?」
「あぁ、それ?元旦那が宗教にはまってね、無理やりわたしを入信させようとしたから別れた」
「何それ?家族って別の宗教でもいいの?」
「当たり前だ、日本は法律でも認められている。それなのに、このわたしを『教祖様が宙に浮く!』なんて嘘くさい宗教に勝手に・・・。今でも腹が立つ!」
黙って聞いていたユーヤが心配そうに
「そういう時って、簡単に別れられないんじゃないのか?先生大丈夫なのか?」
「そう、かなり苦労した。親やいろんな人にも迷惑かけたよ。今でも怖いから、変な奴が近寄れないように学校の寮に入れてもらったんだ」
「確かに学校の寮はセキュリティー厳しいもんな。でも先生、学校の外に出られるのか?」
「そういえば、引っ越してから一人で学校の敷地内から出たことないな」
「先生、引きこもりなんだね。なんか、かわいそう・・・」
ゆかりは少し涙ぐんでいた。
「引きこもりって、特に用事がないから外に出ないんだよ。用があれば出るから、勝手に涙ぐむな」
「お買いものにも行けないなんて、かわいそうだと思って・・・」
「必要なものはネットで頼む。食べ物は寮にたくさんあるし、全然困ってないんだよ」
「ほんとに?」
「寮は面白いよ、毎日女だらけのパーティ。本当に独り暮らしでなくてよかった。もし独りだったら、今頃ヤバかったな」
「そうか、アリスちゃんもいるもんね。よかった。先生がヤバくならなくって!」
「わたしの心配はいいから。あんたたちは自分の心配をしな、もうすぐテストだよ。わたしの問題は難しいからね」
「俺は大丈夫。毎日質問聞きに来るからな!」
「えぇ、ユーヤ君ズルイ」
「先生っ!女だらけのパーティーって、何だ?メチャクチャ響きがいいんだけど」
ユーヤは目が輝いている。
「あんた、何考えてるんだ?それは女子寮の秘密だな。」
大泉はもったいぶった顔でユーヤの顔を見た。
妄想キャスティング~・・・
柴田教頭先生・・・石田純一さんか高橋克典さんか風間トオルさん。
お笑いやと、今田耕治さんか板尾創路さんか雨上がりの宮迫さん辺りもつぼ!
高校の教員をしてる友達に聞いた話によると、学校の先生達は意外とディープな恋愛をしているそうな。いつかそんな話も書いてみたいなぁ。
個人的に響子先生はいいキャラをお持ちなので、スピンオフ的なのもいいかも!その時はきっと、ユーヤは出ない大人の恋だろうな・・・がんばれ、ユーヤ!