#6 ~ナンバーシックス~   作:古波栗待

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ユーヤに手強い恋敵登場!


8.留学生と相撲観戦

 5月のある金曜日の朝、

「明日、暇な人いる?」

 と、アリスが困った声で聞いてきた。

「留学生たちのクラブで明日相撲観戦するんだけど、3人インフルエンザにかかっちゃって・・・。チケットが余ってるから誰か行かない?もし3人集まらなかったら、響子先生が行ってくれるって言ってる」

 ゆかり「わたし興味ないから行かない」

 ワコ「ゴメン、仕事があるの・・・」

 テツ「俺、空いてるぜ」

 ユーヤ「俺絶対行く!コータローは来なくていいぞ。響子ちゃんが来れなくなるからな!」

 コータロー「言うと思った。俺、レッスンだから元々行けないんだけどな」

「コータロー、なんのレッスン?」

 アリスがたずねる。コータローは少し自慢げに、

「俺、バイクの免許取ってんだ」

「じゃあ、コータロー君はもう16歳なんだ」

 ゆかりは上目使いでにっこりしている。

「あ、うん。4月生まれだから・・・」

「じゃあ、テツとユーヤとわたしと先生の4人で決まりね」

 アリスは、テツとユーヤに何かの冊子を渡す。

「相撲中継って夕方からしかしないけど、朝から取組はやってるの。これは、JCRAのみんなでまとめた研究ノートのコピーだからきちんと読んできて!明日はバスを借りてあるから10時に学校集合ね」

 冊子をぱらぱらと見たテツは、

「これ、スゲー本格的だな。ところで、JCRAってなんだ?」

「『日本文化研究会』の頭文字。わたしは会員兼通訳。月に一回日本を感じるクラブでね、先月は公園でお花見したの」

「なんか楽しそうね。いつかわたしも時間があるとき参加させてもらえるかなぁ?」

 ワコは興味があるようだ。

「うん。いつでも誰でも参加できるから待ってるよ」

 アリスはうれしそうにほほ笑んだ。

 

 テツとユーヤが学校に着くと、何人かの留学生が集まっている。髪の毛を覆うスカーフを被った女子、ハリーポッターの友達にいそうな赤毛の男子、2メートルはある北欧系etc.・・・アリスが響子と一緒に現れた。

「二人ともおはよう」

「おう!なかなかおもしろそうなメンバーだな」

テツは人好き

「そうなの。寮生だけじゃなくって、大学の人たちもいるの。もうバスに乗ろう、出発時間だから」

 アリスがみんなに声をかけてぞろぞろと乗り込む。ユーヤは響子の隣に座る。

「先生、英語得意?俺、全然だめなんだよなぁ・・・」

「知ってるよ。あの成績じゃ、そうだろうな。でも、わたしもそんなに得意じゃないからね」

「じゃあわかんないもん同士、一緒に行動しよう」

 隣にはテツと黒人の男子学生が座っている。何か話しているが、彼がフランスの出身だと言うことだけは理解できた。前にはアリスと、さっき見た『ヒシャブ』という布を被ったインドネシアの女子学生がクスクスと笑い合っている。日本語と英語とみんなの母国語が混じった会話はなかなか面白い。先っぽの『ぽ』と埃っぽいの『ぽ』は同じ意味なのかと聞かれたテツは、爆笑しながらその違いを熱心に教えていた。

 

 バスが会場に着く頃にはみんな打ち解けて、会場で食べられる焼き鳥について盛り上がっている。相撲を見に来たのか、焼き鳥目当てなのかわからないやつもいる。ユーヤと響子もジェスチャーと拙い英語で、なんとかコミュニケーションを図っている。

 

 会場に入ると、幕下力士が戦っていた。幕下はバラエティ豊か。髷が結えずオールバックの力士や、一般人並みに細身の力士。『ノコッタ~』と真ん中で言っている行司は煌びやかな着物ではなく、茶色のお百姓みたいな着物と裸足で坊主頭の中学生みたいな男の子だったりする。だけど力士同士のぶつかる『ドンっ』という音はものすごい迫力で、一同テンションが急上昇。息をのみ、土俵をみつめる。場内放送はよくTVでも聞くあの声で、なんだかとても『イケボ』なのだ。

 それぞれに観戦したり、何かを食べに行ったりで自由に過ごしている。名物の焼き鳥以外にも、相撲部屋が作ったというちゃんこ鍋もあって、縁日のよう。

「先生、これうまいよ。食べる?」

 ユーヤはちゃんこ鍋を響子に差し出す。

「ありがと。気が利くね、葉山」

「なんかさぁ、ちょっとデートみたいじゃねぇ?」

「はっはっは!デートね。相撲デートって、渋いわ」

「俺、先生と一緒ならどこでもデートなんだけど」

「ほんとにおいしいわ!」

 響子はいつも、ユーヤの小さな告白を無視する。だからと言ってユーヤは落ち込んだりはしない。

 

 横綱が登場して大興奮のうちに全部の取組が終わった。興奮冷めやらぬ留学生たちは母国語と英語のちゃんぽんで自分の興奮度を伝えあっているようだ。会場を出ると、今度は近くの居酒屋で今日の総括をするらしい。テツ・ユーヤ・響子も一緒に参加する。

 テツは数人の留学生と仲良くなったらしく、すっかり馴染んで昔からいるメンバーのようだ。ユーヤと響子は輪の中に入らず、ぼんやりとテツのやりとりを眺めていた。アリスとイケメン白人男性が二人の前に座った。

「僕はここの代表のパトリックです。アリスから聞いてますよ。大泉先生と、ユーヤ君だね。今日はどうでしたか?」

 とても流暢な日本語で話し、名刺を差し出す。思わずユーヤが、

「日本語めちゃくちゃうまいっすね」

「勉強したんだ。いっぱいね」

 パトリックがウインクをした。

「大泉先生は物理の先生なんでしょう?僕も物理専攻だったから色々お話したいなぁ。今僕は、日本の文化を学ぶために大学院で勉強してるんです。日本のポップカルチャーについて論文を書いているのですが、10代と20代の女性は学生から話をきいていろいろ情報はわかるんですよ。でも、その上の世代はなかなか知り合いができなくて少し悩んでいたんです。大泉先生はセンスが良さそうなので、僕にレクチャーしてもらえませんか?」

 以外に真面目ではないか、パトリック。

「わたしでわかる事ならお手伝いしますよ」

 響子がいつもとは違う言葉づかいだ。

「じゃあ、明日デートしましょう!」

 パトリックのいきなり過ぎる誘いに

「ごめんなさい。明日はテストの問題を作らないといけないから行けません。時間が取れるときにアリスから連絡させますので、それまでお待ちいただけませんか?」

「はい。お仕事の邪魔はしませんから。でも、必ずお話聞かせてくださいね。アリス、連絡係頼んだよ。では、僕はメンバーたちを回ってきます」

 コータローよりも、もっとモデル体型のイケメンは颯爽と席を離れて行った。

「見たらわかるけど、パトリックはモテモテなの。わたしあんまり隣にいたくないんだ。女子のやっかみがひどいんだから!」

 アリスは少しほっとしているようだ。響子も

「確かに!ハリウッドスター並みだわ。身のこなしも軽いから、気をつけないとね」

 

 3人で大皿の料理をつついていると、東アジアの女子学生がやってきた。台湾から来たという彼女も響子が気に入ったらしく、アリスと3人でファッションブランドの話で盛り上がっている。暇を持て余したユーヤは行きたくもないトイレに席を立った。とりあえず手を洗っていると、パトリックが入ってきた。

「君は響子のことが好きなんだろ」

 ユーヤはきょとんとして、鏡越しにパトリックを見る。

「君はずっと響子のことを見ているから、バレバレなんだよ」

「そんなに俺は見てるのかぁ・・・確かに先生のこと大好きだけど、何か?」

「忠告だよ。今すぐに諦めるんだ」

「はっ?なんで?」

「もうすぐ響子は僕のものだから」

「ちょっ、なんで今日初めて会ってそんなことになる?」

「インスピレーション!僕たちはそういう運命なんだ」

「響子ちゃんの事、何も知らないくせに何言ってんだ!」

「じゃあ、君はどれだけ知ってるんだい?いくら生徒と担任と言ってもプライベートの隅から隅までは知らないはずだよ。僕と大して変わらないだろ。君はいくつだい?」

「15歳、もうすぐ16歳だ。プライベートなんてどうでもいいだろ!」

「ほら、まだ若すぎるんだよ。年齢のバランスが取れていない。それに、もし付き合ったとして、デートの費用は誰が出すんだい?」

「・・・・そんなの、なんとかなるだろ!」

「甘いよ。高校生同士のカップルじゃないんだ、相手は大人の女性なんだよ。君じゃ全然物足りない。満足させられないんだよ。そうだ、君SEXしたことある?」

「なんだよ、今度はセクハラ発言か!」

「ククク、ムキになってるとこ見ると、まだチェリーってとこかな?もう、その時点で君の負けなんだよ。あんなに素敵なレディを、ただ前と後ろに腰動かして満足させられると思ってるの?経験値も足りない、お金も無い、完敗だろ?だから、さっさと帰りなよ、お坊ちゃん」

「あんただってただの院生じゃないか。経験なんて、これから積めばいいんだよ!」

「僕は会社も経営してる。毎月きちんとした収入もある。残念だったね。どうしてそんなに負けレースに出たがるの?君じゃ響子を幸せにはできないんだよ。悪いこと言わないから、諦めてクラスメートにでも恋をしたら?」

 パトリックはそう言い残してトイレを出て行った。ただ、ユーヤに諦めろと言いに来たのだ。

 ユーヤはバシャバシャと顔を洗った。ムカついた!でも、ほとんど言い返せなかった。帰りのバスはあいつからとにかく離れていよう!そう思いながら、響子の席の隣が空いている事を念じてトイレを出て行った。

 




日本語を日々使っている私達は「っぽ」の使い方に特別な注意を払わずしゃべっています。だけど、日本語を学ぶ人には文法的な活用があるのか?と疑問に思うらしいです。
5月の日本的行事、相撲か歌舞伎か迷って相撲にしてみました。最近、人気あるし!

妄想キャスティング・・・・
パトリックは・・・アンドリュー・ガーフィールドがいい!(アメイジングスパイダーマンの主人公)日本語しゃべれんけど。
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