俺、講師になります。
『人生何があるか分からない』
あぁ。きわめてよく使われる言葉だな。俺も使うしみんな使う……よね?
人間、明日の朝日を拝んで朝食にパンをかじれるのすら奇跡と
思う人もいるだろう。まぁ、自分はご飯派なんですけどね?
っと、話が脱線した。
つまり何が言いたいかと言えば、人間ちょっと先のことなんて分からない
訳で……つまり今生きていることが奇跡なんだよ。
そんなことは置いておいて、目の前の光景がまさに『意☆味☆不☆明』
っていう感じです。はい。
『レディース&ジェントルマーンッ! ――――お楽しみはこれからだ!』
“うォおおおおおおおおおッ!!!!”
やや幼い青年の爽快な声、そしてそれに沸く声援。どこかのドームだろうか?
けど俺は知ってる。この光景を知っているんだが……既視感とかじゃない。
なんたって――――アニメで見た。2話辺りの遊矢君がペンデュラムを
決めたあたりだろうか? 相手の何とかってのも苦戦してるし。
そんなことより、
「なんじゃ、こりゃあ……」
俺は学校の帰りに行きつけのカード屋に寄ろうとして帰りに、え……?
だってあそこにいるの榊遊矢君でしょう? え、何が起きたの?
二次元に行きたい欲求が閾値に達してしまったの?
「ッ……思い出せねぇ」
ビリッとした頭痛が襲う。まるでそれは思い出すことを拒んでいるようだった。
あぁ、こういう時こそ冷静に且つ客観的に状況を見るんだ。
恐らく末城遊介こと俺は、超常現象の類に巻き込まれてアニメの世界に
来ちゃったんだな。うん。こまったなー「※巻き込まれません」ってコメを
毎週つける側だったのに。逆に巻き込まれちゃったかー参ったねこりゃ。
「笑えねぇ……」
どうすんのこれ。単純に考えて遭難するよりヤバいでしょ?
次元超えちゃったもん。帰れないよこれぇ!?
よく、「無人島に一つ物を持って行けるなら何を持っていく?」みたいな
質問あるじゃん? 俺はそう言う系に「家かな(笑)」って答えるクソ人間
だからこういう状況に置かれたときどうすれば……分からない。
とりあえずツ〇ッターで「異次元きたったww」とでも呟けばいいんか?
と思ったらスマホがねぇ! 代わりになんか変なPADがある!!!
「ってこれ、デュエル・ディスクじゃねぇか……ッ! 意外に軽いッ!」
……驚きのあまり微妙なとこにコメントしてしまった。
なんだよ「意外と軽い」って。そういう言葉は女の子に言ってあげたい。
「そんな事じゃねぇ!? あの! オジサン、俺はどうしたらいいの!?」
「知るかッ! お前、さっきから一人で悶えたり叫んだり鬱陶しいんだよッ!」
やはり遊戯王の世界の民度は低いみたいだ。
ブルブルブル……
「お、おぉッ!!? ディスクが震えてるッ!? 何ッ!? え、「鏡花」!
女の子かッ! そういや、これ電話機能あんだっけ? あ、はい? もしもし!」
『兄さんッ! アルバイトサボって何やってんのッ!』
「はぁ? アルバイト? そんなんお前……す〇屋のバイト昨日クビになった
ってかバックれたばっかだろうが。制服は郵送するからって……君誰?」
アルバイトって単語に反応して思わず喋ったけど、この人誰ぇ!?
しかもさっき俺のこと「兄さん」って言わなかったか?
『何言ってんのぉ! いい加減働けよ、働けぇえええええええッ!!!』
「ちょ、うるせッ電話で叫ぶなって習わなかったんかよ」
『折角《LDS》の講師のバイト受かったのに棒に振る気なの!」
「《LDS》ッ!? え、それマジ?」
《LDS》って言えば、この世界の大企業っていうか赤馬零児さんのアレだよな?
さっきから状況が分かんねぇんだけど。
『いいからさっさと行きなさいよッ! いいッ』
ブチッ
そのまま会話が終わる。えーなにがどうなってんの?
この世界の俺は、天下の《LDS》のバイト講師ってわけなの?
「だれか、教えてくれよ……」
そんな呟きは虚しく、絶叫にかき消された。
「もう嫌だ。帰りたい。働きたくない」
今、この世界に「ペンデュラム」が現れ決闘界震撼って状況の中。
俺は《LDS》へやって来た。近くに転がってた鞄に俺の証明書とか財布、
デッキが入っていたのだ。元の世界の誰かと入れ替わったのか、それとも
この世界に俺という存在がぱっと現れたのか。そんなことは分からないし、
考えても無意味な事だろうからやめた。
とりあえず《LDS》へ行くというフローチャートがある以上、従わないわけには
いかないだろう。……さっきの妹?怖そうだし。
「え、あぁ……今日からお世話になるって話の末城ですが?」
「え、あぁ! スイマセン。今日は休みになったので明日また来てください!」
「は? え、……は?」
受付の女性はそれだけ告げるとそそくさ何処かへ行ってしまった。
俺、え? どうすればいいの?
「あの、今日からここで講師をやる予定なんですけど……?」
「あッ!? あんた何言ってんだ! それどころじゃない!」
「うッ……すいません」
え、なんで今日こんなに皆気が立ってるの? やっぱ遊矢君の「ペンデュラム」
の出現っていうビッグニュースで決闘界があわただしいのかね?
「しゃーない。帰るか」
俺は、手帳に記載されていた住所をポリスマンに聞いて帰路へ着くことにした。
「た、ただいま……?」
俺は、まるで他人の家に入るような心境で玄関をくぐる。外装や内装はごく
普通の一軒家だ。日本にありそうな2階建てだった。
「ちょっとぉおおおお! 何、帰って来てんのぉおおおおおおッ!!!」
「え? ぐぉぉおおおおああああッ!!!」
「え?」から1秒、俺の腹に2本の足が突き刺さる。瞬間、腹痛というか
なんというか激痛に襲われる。吹っ飛ばされる瞬間に見えたのは俺の
腹に直撃しているスラっとした女の子の足。世の男性諸君。これがご褒美
なのでしょうか? 僕には理解できません。
更にその先。スカートから覗……ご期待の光景は見えませんでした。
「うぎぎぎいいいい……腹が、われ、割れる!!!!」
「ふんッ! 割れてればいいわ」
一体、今日は何なんだ? まるで夢を見ているようだ。
支離滅裂な事ばかり起きる。
「兄さん。あんた状況ってもんを分かってないようね」
「え、あ? そうね……別の世界に飛ばされて、意味の分からない状況に
揉まれて挙句、妹と思しき人物からドロップ食らわされたってのは今把握したよ」
「はぁ? 何言ってんのぉ?」
凄い。俺は一人っ子だったからわからないけど妹って存在は兄をまるで
ゴミのように見るのか。初めて知った。いや、知りたくなかった。
「今日の兄さんは、変。いつも変だけどまるで別人みたい」
「いや、まぁ別人だし」
いつも変って酷いな。とりあえず俺はこの妹にありのままを語った。
勿論。俺が本物の兄ではないことは隠したが……
その日の夜。この家のことを大抵把握した。ウチの両親は今、2人で
海外へ出ているらしい。はい出たー。両親不在のラノベ展開だーって
思った人。いいんだ……俺もそう思った。
で、さっきの妹と俺の2人で暮らしているらしい。で、問題は元の俺の職業。
――――ニートだってさ。
「俺、元の世界じゃただの高校生だったんだぜ……」
どうやらこっちの俺は高校受験に失敗し、そのままニートをしていたらしい。
ただ決闘の腕は立ったので、それなりに功績を残してはいたらしいのだが、
俺からしてみればただのニートである。鏡花ちゃんの話では相当の屑だった
ようで、まるで自分が罵倒されているような気分になりました。悔しいです。
まぁその決闘の腕を買われて《LDS》でとりあえずバイト講師ってことで雇って
貰えたようだが……
「はぁ、明日から頑張ろう。しかし、俺が講師……」
人前でモノ教えるとか分かんねぇよ。
「今でしょ?」みたいなこと言っておけばいいの?
とりあえずまだ何一つ状況が飲み込めていない。が、やることは目の前に
ある。今はそれをこなしていきたいと思ってる。
「っしゃ、やってやるか」
《末城 遊介》 男 17歳 高校生
超常現象か、神の悪戯か。何かに巻き込まれてスタンダート次元に
入れ替わる形でやって来た青年。
元の世界の遊戯王OCGでは【スクラップ】を好んで使用していた。
フェイバリットカードは《スクラップ・ツイン・ドラゴン》。
《LDS》のバイト講師として働くこととなる。
次はあの《LDS》の三人組がでるかな。遊矢君らとの絡みは後々かと。