その日、俺は街のカードショップを訪れてみた。休みで手持ち無沙汰
というのも時間が勿体ない。といえど、誘える友人がいる訳でもない。
ので、ここくらいしか行くあてが無いのだ。ボッチで悪いね……
「へぇ……こうしてみるとここもなかなか品揃えがいいな」
ストレージ(ノーマルカードが無造作に入っているケース)を物色する。
すると中には使えそうなものもある。が、やはりここはスタンダード次元。
エクストラデッキに入るカードはここにはない。あるとすれば……
ショウケースの中だ。俺はそちらに目を向ける。そこには俺の居た世界より
遥かに高額な値が付けられたカード達が輝き、存在をアピっていた。
この次元で融合やシンクロ、エクシーズが普及したのはつい最近らしいから
希少価値があるのだろうか?
これ、俺の給料じゃ1,2枚買ったら吹っ飛んじゃうよ……。
「あれ、先生……ですか?」
知り合いのあまりいないこの街で背後から声を掛けられるとは思わない。
俺が振り返ると、そこには昌子がいた。
「あれ、どうしたの? って、そうか今日は土曜日か。買い物?」
「はい。少しデッキの調整に詰まりまして……私服の先生は初めてですね」
俺は今日はジーパンにポロシャツという如何にもラフな服装だった。
いつもがスーツオンリーなだけに目新しいのかもしれない。
「ハハ……安物だけどね」
実際、元の世界のユニ〇ロのようなところで買ったものなので安い。
しかしこういう場面は男は女性の服を褒めるべき……だよな?
「そういう君も……なんだ……似合ってる、な?」
ダメだスマートに台詞がでてこねぇ……めっちゃキモイ感じになってしまった。
「そそ、そうですか? そう言われるのは、初めてでよく分からないです」
そう言いつつ、俯かれてしまう俺。
「そうか。俺も女性の扱いがどうも……不快な事を言ったなら謝るよ」
「いえ! そういう訳じゃないんです。そう言えば、先生はここにはどういった
御用で? 買い物ですか?」
気を遣わせてしまったようで、話の流れが変わる。
「俺は、ただのウインドウショッピングだよ。家に居ても暇だしね」
「そうでしたか。なら……もしよろしければでいいんですが少しお時間
頂いても宜しいですか?」
デッキ強化に詰まったって言ってたしそれ関係だろうか。
「あぁ。いいよ俺でよければ」
「ありがとうございます! では、こちらです!」
そう言うと彼女は店を出ようとする。あれ? カード見るんじゃ……
「へ、カードは?」
「大丈夫です。さ、こちらです」
俺は言われるまま街道を進んでいく。
「ここ、は……?」
「はい。ここは父の友人の方が経営されているカードショップです。
さ、先生こちらです」
そこは、俺がさっきまでいたごくありふれたカードショップでは無かった。
何故なら佇まいが……これ、洋館だよね? オシャレというか英国チック。
そんな風貌の建物だ。てか、四階くらいあるけど全部カードショップなの?
「これ、舞踏会でもやってるのか……?」
「ふふ……先生、何を仰ってるんですか。さ、こちらです」
俺はその中へ足を踏み入れる。そこは――――
「ここが、カード……ショップ?」
「はい。そうです」
そこは俺の知っているような、デュエルスペースがあり、ショウケースが
あって、ストレージコーナーがあるものとは対極に位置していた。
店内(これを店内と言っていいのか既に変わらないが)には、ガラス張りの
まるで宝石ケースのようなものがいくつか置いてある程度だった。
デュエルスペースも無ければストレージもない。のに、広い。
「はッ! こ、これは栄家のお嬢様ではありませんか!
すみません! ご案内もせず……申し訳ございませんでした!」
そこに老紳士風の男が慌てたように走って来た。てか、今お嬢様って言った?
「黒瀬さん。ごきげんよう。父がよろしくと仰っていました」
「い、いえ! 勿体ないお言葉! 私こそいつも御贔屓に――――」
え、これ俺の知ってる世界じゃないんじゃ……
完全に取り残されてる。俺を置き去り2人は世間話に花を咲かせる。
その間にも「パーティー」がどうのとか、「総会」がどうの聞こえる。
やっぱり昌子ってお嬢様なのか……
「――――ところで、こちらの男性は?」
「そう言えば紹介がまだでしたわ。先生?」
「はい?」
「黒瀬さん。こちらは《LDS》での私のクラス担当の先生です」
「え、あ……末城遊介いいます! お、おみしりしおきいッ……」
場の空気が凍る。俺にはその一瞬が永遠にも感じられた。
「先生……」
「はっはは……随分愉快な方のようだ。どうも末城様。私は、当店の
オーナーを務めています、黒瀬と申します。お見知りおきを」
「……お見苦しいところを見せてしまい申し訳ないです」
「いやしかし講師という割に随分と若いようですね。失礼でなければ
お歳の方を伺ってもよろしいでしょうか?」
俺は、一瞬昌子の方を見てから答える。
「あー、すみません。生徒の前で個人情報は――――」
「これは! すみません、配慮が足りずに」
「いや、完全にこちらの事情ですから。
実は休日一緒ってこの状況もだいぶグレーなんです。すみません」
「そこは大丈夫ですよ。ね? ……黒瀬さん?」
「はッ! このことは不肖黒瀬に変えて御内密にさせて頂きます!」
一瞬圧のようなものを感じたが……
はーなるほど。これが“権力ってやつか……”
その後は黒瀬さんの案内で店内を見て回ることにする。
「は……《ミラクルシンクロフュージョン》が――――12万ッ!?」
「はい。こちらはとても優秀な上、希少価値も高くなっております。
もっともシンクロモンスターがあまり普及していないので、こちらも
そう出回っておらず、必然的に希少となっております」
嘘だろ……俺は夢を見ているのか……今デッキケースに入ってるこれ
売ったら8万くらいにはなるよね? てかそれをさも当然のように
クローゼットに無造作に入れてるこの世界の俺の金銭感覚が危ぶまれる。
「先生はこのカードを使ってますよ。ね、先生? 先生?
指折り何をやっているんですか?」
「はッ! すまない。ちょっと勘定を……」
もしかして、これ全部売れば家が建つってあの発言は……嘘じゃない?
他のカードも割と高価なのがありそうだったし、俺も元の世界からカード
持って来てるし。
「次にこちらですが……」
「なるほど、これは素晴らしですわ!」
次に黒瀬さんが見せてくれたカードは、《パワーボンド》のカード。
お値段、8万円。先ほどの衝撃か安く見えてしまう。おかしい……
俺の知ってるパワボンは再録もされて今やストレージの住人の筈だ。
「こちらは機械族専用の融合カードとなっておりまして――――」
黒瀬さんのカード紹介が入る。昌子はそれをふんふん聞いていた。
サイバーデッキ使いとしては惹かれるカードの一つだしな。
「このように、非常に強力なカードとなっております」
「が、このカードにはリスクがある。使ったターンのエンドフェイズに
召喚した融合モンスターの元々の攻撃力分のダメージを負う。確かに出した
モンスターの攻撃力は2倍になる。が、同時にそのターンである程度の決着を
付けなければ逆にこっちが不利になる。諸刃の剣ってやつだ」
「流石は、《LDS》の講師というわけですな」
「いや、まだまだですよ俺なんて」
黒瀬さんの世辞に否定を入れておく。ただの雇われバイトだしな。
「決めました!」
「何を?」
その間に何かを悩んでいた彼女は声を上げる。若干嫌な予感が……
「黒瀬さん。こちら、頂きますわ」
「うぇッ!?」
「かしこまりました。ただいまご用意いたします」
ちょちょちょっとまて、御嬢さん!?
「待て! は、8万だぞ!? 8万!? 大丈夫か? 800円じゃないぞ!」
「え、えぇ……先生、顔が―――近いです」
「だって、え? 8、え!? 8万とか、俺の給料より上だぜ……?」
「……今の一言は聞かなかったことにしますね」
金持ちは怖いなぁ。
「こちらになります」
やがて鍵を持って来て、商品を出した黒瀬さんがやって来る。
「ありがとうございます。これで私のデッキも強くなりますね、先生!」
「確かにそうだ。が、そうとも言えない」
先ほどのショックから立ち直った俺はその解説を始める。
「まずだ。コイツはさっきも言ったがリスクがある。使用するタイミングの
見極めが重要だ。そしてリスクヘッジも考えないとならない。ただ闇雲に
使って強いカードじゃないんだ。場合によっては相手に塩を送ることになる」
特にサイバーエンドを出して除去されたら一瞬でゲーム終了だ。
こいつを使った時点でダメージを受けることは決定しているからな。
「が、逆に言えば逆境を覆す正に切り札とも言える1枚だ」
「なるほど。――――では先生、早速やりましょうか」
「決闘か?」
「えぇ。そうです。切り札も手に入ったことですし。黒瀬さん」
「はッ! ただちに手配します。少々お待ちください」
俺が次に連れて来られたのは、店の地下だった。そこにはまるでBARのような
大人の雰囲気が漂っていた。実際カウンターなんかもある。ミルクでももらおうかな。
きっと夜ここで客たちが飲みながらデュエルしてるのだろうか?
如何にも高そうなデュエル台にデッキを置く。
「ルールはどうしましょうか?」
「そうだな。LPは4000点でいいだろう。先後攻はコイントスで決めよう」
「分かりました。黒瀬さん。ジャッジをお願いしてもいいでしょうか?」
「勿論でございます! お嬢様と、《LDS》の講師殿との決闘。間近で見れるとは
この黒瀬、感激でございます。喜んで務めさせて頂きましょう」
黒瀬さんは快諾。俺たちは互いにデッキをシャッフルし準備は完了だ。
「では、コイントスを――――裏の場合は末城様。表ならお嬢様の先攻となります。
それでは、ご注目」
コインが宙を回転し、卓に落ちる。そのコインは表だ。
「私が先攻、ですね」
「そうだな。じゃあ始めようか」
「えぇ。手加減なんていりませんからね?」
「そんな器用な事いつ俺がしたんだ? それに今日はオフだぞ?
……本気で行かせてもらうさ」
「「デュエル!!」」
「私の先攻。私は、《カードカー・D》を召喚します」
《カードカー・D》
攻800/守400 ☆2
このカードは特殊召喚できない。
このカードが召喚に成功した自分のメインフェイズ1にこのカードをリリースして
発動できる。
デッキからカードを2枚ドローし、このターンのエンドフェイズになる。
この効果を発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。
なるほど、ドローソースを入れていたか。
「私はさらにカードを1枚伏せます。そして、カードカーの効果でこのカード
をリリースし、2枚ドローします。これでエンドですわ」
「なるほど。攻撃できない先攻を生かしたいい手だな。んじゃ、俺のターンだ。
ドローして、メインに入る。俺はこいつを特殊召喚だ、《太陽風帆船》」
《太陽風帆船》
攻800/守2400 ☆5
自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚
できる。
この方法で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。
また、自分のスタンバイフェイズ毎にこのカードのレベルを1つ上げる。
「太陽風帆船」はフィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。
「上級モンスターなのに、リリース無しですか?」
「こいつは自分の場にモンスターがいないと特殊召喚できるのさ。ただし、
ステータスは半分になるけどな。が、それは些細な問題だ。俺は、チューナー
モンスター《カラクリ小町 弐弐四》を召喚。さらにコイツの効果で俺はもう一体
カラクリモンスターを出せる。《カラクリ忍者 九壱九》を召喚する」
《カラクリ小町 弐弐四》
攻0/守1900 ☆3
このカードは攻撃可能な場合には攻撃しなければならない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、
このカードの表示形式を変更する。
このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、自分のメインフェイズ時に
1度だけ、自分は通常召喚に加えて「カラクリ」と名のついたモンスター1体を召喚
する事ができる。
《カラクリ忍者 九壱九》
攻1700/守1500 ☆4
このカードは攻撃可能な場合には攻撃しなければならない。
フィールド上に表側表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、
このカードの表示形式を変更する。
このカードが戦闘によって相手モンスターを破壊し墓地へ送った時、自分の墓地に
存在するレベル4以下の「カラクリ」と名のついたモンスター1体を選択して表側
守備表示で特殊召喚する。
「凄い、一気にモンスターが3体並びましたぞ……」
「俺はレベル5の《太陽風帆船》にレベル3の小町をチューニング。
シンクロ召喚ッ! 絡繰り仕掛けの大将軍、レベル8ッ!
――――《カラクリ大将軍 無零怒》ッ!」
《カラクリ大将軍 無零怒》
攻2800/守1700 ☆8 シンクロ
チューナー+チューナー以外の機械族モンスター1体以上
このカードがシンクロ召喚に成功した時、自分のデッキから「カラクリ」と名の
ついたモンスター1体を特殊召喚する事ができる。
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在する「カラクリ」と名のついた
モンスターの表示形式が変更された時、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
「いつものデッキとは違うのですか?」
「まぁ、ね。今日のデッキは【カラクリ】さ。んで、無零怒の効果でデッキから
《カラクリ参謀 弐四八》を特殊召喚する。弐四八を効果で自身を守備表示に変更」
《カラクリ参謀 弐四八》
攻500/守1600 ☆3
このカードは攻撃可能な場合には攻撃しなければならない。
フィールド上に表側攻撃表示で存在するこのカードが攻撃対象に選択された時、このカードの表示形式を守備表示にする。
このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上に存在するモンスター1体
の表示形式を変更する。
「この時、武零怒の効果で一枚ドロー」
「なるほど、戦線補強に加え手札補充……すばらしいコンボですな」
「そして、今出したモンスターはチューナーですわ」
「あぁ、今度はレベル4の九壱九にレベル3の弐四八をチューニングッ!
絡繰り仕掛けの鎧武者、レベル7《カラクリ将軍 武零》ッ!」
「シンクロモンスターが2体……!」
「さて、少しばかり俺も楽しませてもらおうかなっと」
俺は大人げなく笑んだ。若干、黒瀬さんが引いていたのは気にしない。
今回はカラクリデッキを使用。カラクリデッキもスクラップ同様好きなテーマと
なっております。要は、シンクロが好きです。