「先生……少々大人げないとは思いませんか?」
結局デュエルは俺の勝ちだった。いや、勝ってよかったのか聞かれると
どうも……釈然としないわけだが。今も「うわ……アイツやりやがった」的な
視線を送られてるわけで。じゃあどうしろってんだ!
「――――すまん。熱が……入っちゃって。け、けど皆融合・シンクロ・
エクシーズとみて貰ったわけだが。次から早速やってくからなー」
「マジで!? 俺、シンクロやりてぇ! 先生、シンクロ覚えれば
強くなれるのか!?」
「それは自分次第さ。なぁに。原理さえ知ってりゃ後はどうとでもなるだろうさ。
――――というわけで、今日の授業はここまでだ」
そう言うと、それぞれわいわい言いながら帰って行った。
なんとかやり遂げたなぁ……疲れた。
「先生」
「ん? どうした、帰らないのか?」
俺も帰るかと思っていると声を掛けられる。相手は、デュエルしていた
昌子さんだった。
「……あの、私に――――融合召喚を教えてくれませんか?」
「どうした急に? 授業で追々扱っていくつもりだぞ?」
「それまで待てません。私はすぐにでも強くなりたいのです」
「そう言われてもなぁ……」
この子だけ特別って訳にもいかないしなぁ。
俺がどうしたものかと逡巡していると、彼女は上目づかいで見てくる。
うっ……そんな目をされると俺がいじめてるみたいじゃないか。
「なんでそんなに強くなりたいんだ? 俺の前の講師を負かしたって
いうじゃないか。君は今日を見ている限りだと頭も良いみたいだし、
そんなに焦る必要はないんじゃないか、十分強いだろう?
これから皆一緒に強くなっていこうじゃないか」
俺がそう言うと彼女の表情が少し陰る。
「……先生には関係ないじゃないですか」
「あーそうだよな、スマン立ち入った事聞いたな。
……よし。ならこうしよう」
「?」
「明後日も授業があるだろ? その時、少し早く来てくれ」
「そこで教えて頂けるという訳ですか? 融合を!」
「さぁ、そいつはどうだろうな」
「何ですかそれ! おちょくってるんですか!」
ここで教えるって言ってしまうと、色々規則に引っかかるんですよ。
講師ってのは様々な決まりごとがあるんだ。
「ま、強くなりたいなら来るといいよ。損はさせないさ」
「……分かりました。楽しみにさせて頂きます」
そう言って彼女も帰って行った。これでようやっと俺の初授業が終わった。
俺も事務処理を済ませ、家に帰ることにした。
「帰ったぞ~……疲れた」
初出勤で緊張していたのか、玄関に入った瞬間に疲れが襲ってくる。
まぁ本当の家では無いのかもしれないが……。
「ん、兄さん。お帰りなさい。初めての授業はどうだった?」
「どうって言われてもなぁ。まぁそれなりには何とかなったんじゃない」
「何そのあたり触りのない言い方。まぁいいや。さ、ご飯にしよ」
「……あー悪い、先に食っててくれ。俺まだちょっとやることがある」
「え? まぁ、いいけど……別に待ってたわけじゃないし」
え、何その薄いツンデレ。やだ、逆に申し訳なくなる。
「じゃあさ、なら手伝って貰ってもいいか。ちょっと探し物なんだよ。
それ終わったら一緒に食うってことでどうだ?」
「探し物?」
確かあのカードも部屋にあったはずなんだが……
俺は鏡花と再び部屋のクロゼットへ行くことにした。
「いつ見ても汚いわねぇ……片付けようとは思わないの?」
「と、言われてもなぁ。んじゃ、さっき言ったカードを探すのを手伝ってくれ。
見つけてくれたらうま〇棒買ってやるから、な?」
「たった10円で人を使おうってその魂胆が気に入らないわ、全く。
えっと……こっちかしら? 全く、なんでカテゴリーで分けたりとかそういう
整理整頓ができないの――――」
そう言いながらも手を動かす辺り、この子は凄く優しいのだろう。
だが、そんな子に俺は嘘をついていることになる。いずれは話さないと
いけないんだろうな。
「さて。宝探しと行きますか」
「けど、今更何に使うの? 《融合》の魔法カードなんて」
「授業に必用なんだ。ちょっとした特別授業にな……」
それからは2人であぁだこうだ言いながら探し物を探していった。
「ふぅ。あらかた揃ったな。しっかし、凄い量だな……
全部売ったら家が建つかもなぁ」
「自分で集めたのに何をいっているのよ。さ、ご飯にしましょう」
「あぁ……そうだったねぇ」
翌日はバイトは休みなので、俺は家事をやりつつごろごろ過ごした。
高校生だった時、平日は勿論。テストの結果次第では土曜日も学校が
あった。なので、平日に休みだとなるとどうしたらいいものかと悩む。
結果、家事だけをこなしTVと睨めっこを決め込むことになった。
『君もレオ・コーポレーション直営の《LDS》でデュエルを磨け!』
ストロング石島がCMキャラでなくなっていることに哀愁を感じた……。
そんなこんなで休日の時間の流れは速い。日曜日とか、
「……あぁもう6時半なのか。また明日から月曜日――――」
とついついサ〇エさんを見つつ思ったことは誰しもあるだろう?
……
「はぁ……バイトか今日」
この次元に来て3日目の夕方がやって来た。午前は相も変わらずだらだら
と掃除、洗濯をこなし、デッキの調整を行っていた。今後様々な状況があるかも
知れないと考え、他にも3つほどデッキを組んでみた。
まぁ主人公サイドから離れている俺が何かに巻き込まれることは無いだろうけど。
「よし。行くか」
鏡でネクタイのズレを直す。今日は例の約束があるので、早く行く。
目的のカードも鏡花に手伝ってもらって見つけられたし。準備は完了だ。
「先生。来ましたけど」
《LDS》の教室。授業開始まで1時間はあるが、そこに昌子さんがやって来た。
「来たか。よし、時間もないし早速始めようか。――――融合の特別授業を」
「教えて、頂けるんですか!」
その顔は年相応の女の子の顔で、改めてそういう反応をされると照れる。
「まぁそういう事だ。だが、一つ約束してくれ」
「なんですか?」
「このことは誰にも言うな。これは俺の一個人としての善意でしかない。
けど、上に知られると面倒なんだよ……色々。分かるよな?」
彼女は「約束します」と真顔で了承してくれた。
毎回こう素直だといいな。きっと最初は試していただけだと思いたい。
「よし。ならこれを渡すよ」
「これが……《融合》の魔法カードですか!」
「そうだ。じゃあ次に融合召喚についてだ」
俺は黒板にカードの絵を3枚描く。
「まず、融合について知っていることを教えてくれ。なんでもいい」
「え、そうですね……2体以上のモンスターから新たなモンスターを召喚
する。ですか? 後は、《融合》の魔法カードが必要なんですよね?」
「まぁ、及第点か。今はその認識で構わないさ。詳しいことは授業で、な」
俺は1枚のカードに《融合》と書入れる。そして、他の2枚を
渦のようなものでグルグル囲う。
「融合召喚は基本的に《融合》の魔法カードを使用する。だが、この類の魔法カード
にも多種様々な物があるな」
「先生が私との決闘で使った、《ミラクルシンクロフュージョン》……ですね?」
「あぁそうだ。他にもHERO専用のもの、ドラゴン族専用のもの……etc。
他にも、罠カードで融合できる場合もある」
ジェムナイトのサポートであった《廃石融合》などだろうか。
まぁこの辺はごっちゃになるから省くか。
「兎に角融合については下手に説明しだすと、枚挙に暇がないから今日は
《融合》の魔法カードを使用する場合のことだけ教える」
「よろしくお願いします」
「あぁ。じゃあ時間もないし早速始めるか。っと……忘れてた。
肝心なヤツ渡してない。はら」
俺は用意してきたもう1枚のカードを渡す。
「これは?」
「君のデッキは《サイバー・ドラゴン》が中心のデッキだろう?
そいつは、《サイバー・ツイン・ドラゴン》。サイバー・ドラゴン2体で
融合できる融合モンスターだ」
「これも貰ってしまっていいんですか?」
「好きに使ってよ。どうするかは任せるから、さ」
どうせニートの部屋で腐ってたであろうカードだし、3枚くらいあったし。
いいだろう。なら必要としている人が持っている方がいいしな。
「実際、決闘しながら説明しよう」
「分かりました」
俺たちは決闘場へ移動することにした。
決闘が3戦目を数えた時だった。状況は俺の優勢で、彼女の場には
《サイバー・ドラゴン・コア》がいる状況だ。
未だに融合は成功していない。が、今回はどうだ。
「私のターンですね」
「あぁそうだ。君の場にはコアが一体。俺の場には攻撃力2100の
上級モンスター《スクップブレイカー》。この状況で君が勝つには――――」
「引きますわ。あのカードをッ! ドロッーー!!! 来た!」
俺は無言でうなずき、「手順は把握してるな?」という。
「勿論です! 私は魔法カード《サイバー・リペア・プラント》を発動!」
《サイバー・リペア・プラント》魔
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が存在する場合、以下の効果から1つを
選択して発動できる。
自分の墓地に「サイバー・ドラゴン」が3体以上存在する場合、両方を選択できる。
「サイバー・リペア・プラント」は1ターンに1枚しか発動できない。
●デッキから機械族・光属性モンスター1体を手札に加える。
●自分の墓地の機械族・光属性モンスター1体を選択してデッキに戻す。
「墓地には《サイバー・ドラゴン》が一体。私は上の効果を使いますわ。
デッキから、《サイバー・ドラゴン》を手札に加えます! そして――――
魔法カード《融合》を発動ッ! フィールドの《サイバー・ドラゴン・コア》、
今加えた《サイバー・ドラゴン》を融合!」
2体の機械竜(コアは竜か定かではない)が混ざり合う。そして、
「二頭を持つ機械竜、《サイバー・ツイン・ドラゴン》を融合召喚ッ!」
サイバー・ツインが咆哮を上げる。
《サイバー・ツイン・ドラゴン》☆8 融合
「サイバー・ドラゴン」+「サイバー・ドラゴン」
このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない。
このカードは一度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。
「よくやったぞ! 成功だッ!」
「これが……融合召喚――――私にもできた……!」
「さぁ、来い! まだ決闘は終わってないぜ!」
「あ……はいッ! 行きます、《サイバー・ツイン・ドラゴン》で攻撃ッ!
<エヴォリューション・ツイン・バースト>ッ!!!!」
1つの頭からの奔流にブレイカーが飲まれ、もう片方が俺に直撃する。
当然俺のLPは0になる。
「うッ――――……今の感覚忘れるなよ?」
「先生。ありがとうございました」
「よし。今日の授業はここまでだ! はぁー疲れたな」
今日も働いた働いた。帰って――――
「先生、まだ授業はやってませんよ?」
「あ」
講師ってのはなかなか大変だが、俺はその日講師としての喜びというか
楽しみを実感していた。