ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はまったり過去のお話となっております。
 最近はハイテンションは話が多かった分、箸休め的な感じで読めるようにしましたのでくつろぎながらお読みください。

 時系列的にはことほのうみ3人との出会いから、ファーストライブ終了後までを、4人の回想という形でなぞっています。


 それではどうぞ!


名前を呼んだあの日

 9月中旬になると、音ノ木坂学院は毎年忙しなくなる。

 教室や廊下などの至るところに軽い装飾が見られ、普段は厳粛な学院もこの時期だけは華やかに見える。もちろん生徒たちも活気付いており、9月末の授業だけは居眠りしている生徒数が急激に減るとか減らないとか……居眠り常習犯の俺が言うのもアレだけど。

 

 

 つまり、言ってしまえば学園祭が近付いているということだ。

 今年もμ'sはその学園祭でライブを行うことになっているのだが、今回は"ラブライブ!"のリハーサルも兼ねているので参加するのは高校生組である9人のみ。大学生組の参加を求める声も多かったのだが、それはμ'sの今後の活躍にご期待をということで。

 

 

 そして只今放課後。

 どのクラスもあと数日に迫った学園祭を目の前に期待が高まっていた。もしかしたら、授業のある日中よりも放課後の方が生徒たちのやる気が満ち溢れているまである。それほど音ノ木坂学院の学園祭は毎年大盛り上りで、お客さんにも大盛況なのだから、みんなの気合が入らない訳がないだろう。

 

 

 そんな俺はμ'sのお手伝い――――ではなく、ことりたちが衣装を作っているであろう被服室へ向かっている。衣装と言っても"ラブライブ!"で着る衣装は既に完成しているので、今作っているのは学園祭の企画に向けての衣装だ。

 

 ちなみに俺たちのクラスはメイド喫茶、俺の威光と穂乃果とことりを唆してほぼ無理矢理決定した。でもみんなやる気は満々みたいで、俺も俄然テンションが上がっている。ちなみに当日の俺の役目は、穂乃果たちに下衆な目を向けた男を学院の地下に連れ込んで拷問――――ではなくて、恐らく料理と教室前での接客がメインになると思われる。

 

 

 おっと、話している間に被服室に到着したので、とりあえずここまで。

 

 

「おっす、やってるか~?」

「あっ、零君遅いよぉ~!穂乃果たちのこと忘れてるのかと思った」

「仕方ないだろ、教室で他の仕事も手伝ってたんだから。それに衣装作りなら、お前らの方が圧倒的に効率いいだろ」

「でも零くんもことりたちのお手伝いをしてくれていたお陰で、最近は裁縫も得意になってきたよね♪」

「そうですね。一年前と比べれば、段々と女子力が身に付いてきたようにも思えます」

「やめろやめろ!俺はどちらかといえば養われる側になりてぇんだ」

「それはそれでどうかと思いますが……」

 

 

 いつも通り何の生産性もない会話を繰り広げつつ、俺はことりの向かいに座ってミシンの用意をする。こうしてテキパキ衣装作りの用意ができるようになった自分が我ながらに恐ろしい。コイツらと出会う1年半前は、まさか自分が女の子が着る服を作るなんて思いもしなかったからな。

 

 

「でもこうして4人で衣装を作っていると、ファーストライブの前を思い出すよね。あの時は穂乃果も衣装作り初めてだったから」

「もうあの時から1年以上経ってるのか。この間、本当に色々あったな」

「そうですね。まさか零と恋人同士になるなんて、あの頃は思いもしませんでしたよ」

「ことりたちと零くんの出会いは、本当に突然だったからねぇ~」

「出会いとか、えらく懐かしい話題だなオイ……」

「零君との出会いって、廃校が発表された当日だったよね?」

「そうだな。あの時は確か……」

 

 

 思い出すのは俺が穂乃果たちと出会ったあの日。

 今思い返せば、あの時の出会いはマジで奇跡だったのかもしれない――――

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 そう、あれは丁度一年半前の春のことだった。

 2年生に進級して気分も心機一転しようと思っていた矢先、1年生が1クラスしかないという現状に、若干の不安を覚えた人がポツポツと出始めた時期でもあったんだ。

 

 そして、その予感はすぐに現実となった。

 

 

「は、廃校……」

「今年の1年生は1クラス分の生徒しか入学者がいなかったのは分かりますが、急に廃校宣言をされるとくるものがありますね……」

「廃校……」

「最近お母さんが険しい顔をしていたのはこのせいだったんだ……」

「廃校……」

 

 

 この時だった、

 

 穂乃果

 

 ことり

 

 海未

 

 この3人を認知したのは。

 

 もちろん毎年春の恒例行事である可愛い子探しの時に既に目は付けてはいて、同じクラスであることも知っていたのだが、こうして3人の存在をしっかりと意識したのはこれが始めてだったんだ。

 

 

 穂乃果は教室でも元気いっぱいのハイテンションだから特に目立つ。その時は知り合いでも顔見知りかどうかも怪しかったけど、同じ教室ってだけでも元気を分け与えてもらっていたくらい活発な女の子だった。

 

 ことりは今では考えられないくらいぽわぽわしていて、おっとりしたイメージが強い。男子の一部界隈では天使と称されるだけのことはあると、同じクラスになって始めて分かったんだ。

 

 海未は同級生に対しても敬語で、物凄く固くて律儀な奴だと思ったな。それにその端正な顔立ちは、まさに大和撫子に相応しい。弓道部のエースでも有名だったし、本人にその気はないだろうが結構目立っていた。

 

 

 俺が当初イメージしていた3人はこんな感じだ。だが今思い返せばどこれもこれも、彼女たちと同じ空間に数分間一緒にいるだけで言えそうなイメージばかりだな。コイツらと恋人同士となった今、穂乃果たちのことを語り出せば話が丸々1話あっても足りないぞ。

 

 

「廃校……」

「ほ、穂乃果……ちゃん?大丈夫?」

「穂乃果がこの学院を誰よりも好きなのは知っていますが、とにかく落ち着いてください!」

 

 

 俺は彼女たちの後ろから、唐突に発表された廃校通知と彼女たちの綺麗な後ろ姿を眺めていた。どちらかといえば後者の方が強かったかもしれない。

 

 だって可愛い女の子たちの身体が少し前のめりになっていることで、若干お尻を突き出すようにして廃校通知を眺めているんだぞ、そんなの女の子のお尻にしか目がいかないだろ!!――――と、当時から俺は俺だったという余計なことも思い出してしまった。

 

 

 だがそんな至福の時間も束の間、さっきから廃校廃校と壊れた時計のように連呼していた穂乃果の身体が、急に後ろに倒れ出したんだ。

 

 

「あ、あぶねぇ!!」

 

 

 その時の俺は、考えるより先に身体が動いていた。俺は見ず知らずの人誰もかもに手を差し伸べるほど善人ではない。面倒事だったら知り合いでもきっぱりと断るし、そもそもこっちから願い下げだ。それはただのクラスメイトだった場合もそれに当てはまるはずだった。それに俺が動かなくとも、すぐ隣にいることりや海未が穂乃果の身体を支えるだろう。

 

 

 だけど、俺は動いていた。

 

 

 そして気付いた時には、俺の腕の中に穂乃果がいたんだ。俺は穂乃果の顔を見下げるように、そして穂乃果は俺の顔を見上げるように――――――これが、俺と穂乃果のファーストコンタクトだった。

 

 

「あ、ありがと……」

「あ、あぁ……」

 

 

 突然すぎて、俺も穂乃果も言葉に詰まっていた。そりゃあそうだ、だって穂乃果は話したこともないクラスメイトの男子に急に助けられ、俺も気付いた時には腕の中に女の子がいたんだから。だが俺の方は穂乃果の顔に見とれていたというのもあったけどな。こんな可愛い顔が間近にあったら、当時女の子に免疫力のなかった俺が戸惑っちまうのは仕方ない。

 

 

 そして、今だからこそ言えることがある。

 

 

 俺が穂乃果を助けた理由は、彼女のことを好きになっていたからだって。言うなれば一目惚れっていう奴だ。それは穂乃果だけじゃなくてことりと海未も同じ。3人が幼馴染だということは知っていたから、その幼馴染が倒れ込んでしまって、2人の悲しむ顔も見たくなかったんだ。

 

 だがその時の俺は恋愛の"れ"の字も知らないウブな思春期男子だったから、自分自身彼女たちに惹かれているなんて思いもしないどころか意識すらしていなかっただろうが。

 

 

 そこで穂乃果は俺の身体から離れ、体勢を立て直す。当時、自分の身体から穂乃果の温もりが消え若干寂しい気持ちになったのは、やはり彼女に惹かれていたからだと今思い出して気付く。

 

 

「大丈夫か?崩れるように倒れてたけど……」

「うん、ありがとね。助かったよ!」

「私からもありがとうございます。えぇ~と、あなたは確か……」

「ことりたちと同じクラスの神崎くんだよね?」

「神崎零だ、よろしくな。高坂、南、園田」

「あれ?穂乃果たちの名前知ってるの?」

「え゛っ!?あ、あぁ、そのぉ~ほら!3人共結構教室で目立つから……ハハハ」

 

 

 この時は言えなかった。始業式の日の恒例行事で、俺の可愛い子リストに登録するために名前からスリーサイズまで徹底的に調べていたことなんて……今なら笑い飛ばせるだろうが、この状況で言ったら間違いなくドン引きされるだろう。

 

 

 こんな感じで、俺たちのファーストコンタクトは唐突に巻き起こったんだ。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ――――と、俺はミシンを動かしながらちょっとした昔話をしたのだが……。

 

 

「へぇ~零君が穂乃果たちのことをねぇ~♪」

「まさかことりたちのことを一目惚れだっただなんてねぇ~♪」

「意外と可愛いところもあったんですね♪」

「くそっ、話すんじゃなかった……」

 

 

 コイツら……いい笑顔してやがって!!今まで恥ずかし過ぎて暴露できなかったが、もう恋人同士になったしいいかなと思ったらこれだよ!!普段俺がコイツらを馬鹿にすることが多い分、ここぞとばかりに反撃に出やがって……まぁ自分で暴露しちゃったから自爆なんだけども、なんか悔しい。

 

 

「その頃はまだ穂乃果たち、零君のことを"神崎君"って苗字で呼んでたんだよねぇ。久しぶりに思い出したら懐かしくなってきちゃったよ」

「まああの頃は親しい間柄でもなかったし、他人行儀なのも当然だろ。正直女の子を下の名前で呼ぶのは俺も恥ずかしかったから」

「だったら尚更私たちがこの関係になったのが驚きですね。僅か1年半で親友どころか恋人同士になるなんて……もう人生何が起こっても驚かなくなるくらいには、衝撃的な1年でした」

「なんか年寄りくせぇ言い方だな……」

「感傷に浸るくらいいいではありませんか」

 

 

 こうして『冗談を言う』⇒『適当にあしらう』のサイクルができるようになったのも、俺たちの心が隣同士にあるからだろう。これまでねじれの位置にあった俺たちの道が、ファーストコンタクトによって交差し、そして告白によって全員の道が一本となった。コイツらと出会ってから、今までなんとなくて過ごしてきた日常が劇的に変化した瞬間でもあったな。

 

 

「零くんと出会ってすぐだったよね、穂乃果ちゃんがスクールアイドルをやろうって言いだしたの」

「A-RISEの歌とダンスを見ていたら、穂乃果の中でビビっときて『これだ!!』と思ったんだよ」

「そうだったな。でもその時俺とお前らはまだ名前程度しか知らない仲だったし、スクールアイドルって聞いても『ふ~ん』みたいな反応しかしなかったのを今でも覚えてるよ」

「それでも私たちがスクールアイドルをやると知っていたってことは、その時から私たちのことを気遣ってくれていたってことですよね♪」

「なにその笑顔!?お前そんなドSキャラだったっけ!?今まで弄られてきた分の復讐か何か!?」

「いえいえ。出会った頃から私たちのことを見守ってくれていたと思うと、嬉しくなってしまいまして♪」

 

 

 海未の奴、俺がウブだった過去をいいことに、ここぞとばかりに俺の羞恥心を攻めてきやがって……いつか絶対倍返しにして羞恥をあじあわせてやるからな!!

 

 話を戻すと、スクールアイドルに関しては全く興味がなかったのは本当だ。それにスクールアイドル以前に、アイドルなんてもの自体にすら疎かったからな。

 そんなことで廃校を阻止できるのかよと、心のどこかで若干馬鹿にする気持ちもあったが……なんだろうな、スクールアイドルをやろうと言い出した穂乃果からはただの女の子にはない、不思議な魅力を感じ取れた。不可能を可能にしてしまいそうな、そんな雰囲気が。

 

 同時に俺も廃校を阻止できないかと色々解決策を考えたり、当時から因縁があった笹原先生からアドバイスを貰おうと動いていたのだが、どれもこれも改善の兆しすら見えなかったんだ。

 

 そして迷走中の俺の耳に、穂乃果たちがスクールアイドルを始めるという噂が入ってきたんだったな。自分1人なら無理かもしれないけど、この3人と力を合わせればもしかしたら――――という、どこか根拠のない自信が湧き上がってきたんだ。

 

 

 そこから俺は、穂乃果たちのスクールアイドルの活動に首を突っ込むようになった。

 

 

「でも驚きましたよ。突然零が弓道場に来た時は……」

「あの頃の海未ちゃん、ことりたちとスクールアイドルをやるのは反対だったもんね。それで活動を手伝ってくれている零くんにそのことを話したら、海未ちゃんを説得するために弓道場に行っちゃうんだもん!ビックリしたよ!!」

「あの時は海未と一緒にいた時間は全然短かったけど、その短期間でも伝わってくる海未の魅力があったんだよ。俺はそれをありのままにお前にぶつけただけさ」

「自分のことをあそこまで褒めてもらえるなんて、あの時が初めてでしたよ。まだ出会っても間もないのに、私のことをあそこまで……」

「だから言ったろ、それだけの魅力がお前にはあるって」

 

 

 まだあの頃は付き合いが浅くて、海未を外面的にしか捉えていない部分も多かった。まるで遊園地の中に入らず外観だけを見て中の感想を言っているみたいに、ありきたりのことしか言えなかったような気もする。そんな俺の言葉でも、海未が自信を持ってくれたからあの時の言葉が失敗だとは全く思っていない。

 

 

「それからだよね、零君と穂乃果たちが仲良くなったのって。曲を作るために真姫ちゃんを説得したり、どのような衣装にするか考えて、そしてその衣装を作ったり、ダンスの振り付けを考える時もずっと零君と一緒だった気がするよ!」

「自然とお前たち3人の仲に溶け込んで、ファーストライブ前のお祈りまで一緒にしたっけか」

「ファーストライブかぁ~……あれも今となったらいい経験と思い出だよ。当時は穂乃果、舞台の上で泣きそうになっちゃったけど、零君の言葉のお陰で立ち直ることができたんだったね。あの言葉は今でも覚えてるよ♪」

 

 

 穂乃果、ことり、海未の3人で挑んだファーストライブ。いざ講堂の舞台に立ってみたら、お客さんは俺やヒフミ除けば後にμ'sに入る仲間だけで、それ以外は"0"だった。俯いて暗い顔をする海未、目を見開いて絶望することり、今にも泣き出しそうになっていた穂乃果、そんな3人の悲愴な表情を見て、俺はこう思ったんだ。

 

 

 彼女たちに、こんな表情をさせたくないって。

 

 

 そこからだったかもしれない、彼女たちの笑顔を見たいと思うようになったのは。そして、その笑顔を守ってやりたいと思ったのは――――――

 

 俺が咄嗟に彼女たちに掛けた言葉は、僅か数秒で言い終わるような短い言葉。だけど周りが静寂に包まれ過ぎていて、時間の流れがとてつもなく長く感じたことを今でも覚えている。

 

 

 

 

『見せてくれ!お前たちの3人の笑顔を俺たちに!!穂乃果!!ことり!!海未!!』

 

 

 

 

 俺が、初めて3人のことを名前で呼んだ瞬間だった。

 無我夢中だった。1人だけでは廃校を阻止することは愚か、その策まで考えつかなかったから。でもこの3人と一緒なら、絶対成し遂げられると信じていたんだ。だから、ここで諦めたくはなかった。

 

 

 

 

「あの時は、急に名前で呼ばれて驚きましたよ。舞台の上では緊張で自分たちのことばかりしか考えられませんでしたから」

「でも零君の言葉がすごく心に響いてきて、ここまで頑張ってきたのは穂乃果たちの力だけじゃない、零君や曲を作ってくれた真姫ちゃん、舞台をセッティングしてくれたヒフミのみんな、その他色々な人のお陰でこの舞台に立てたんだって思い出すことができたんだ」

「その時からだったよね、ことりたちが自分たちのためだけじゃなく、みんなのために踊ろうって思ったのは。もちろん自分たちが笑顔で楽しむことも忘れずにね♪」

 

 

 穂乃果たちは人の少ない講堂で、見事に自分たちの曲を披露した。いくら音楽知識のない俺でも分かる。お世辞にもダンスや歌が上手いとは思わなかったし、素人目から見ても改善点だらけだったということは。

 

 でも彼女たちにはとびきりの"笑顔"があった。あの時講堂にいたお客は俺やヒフミだけではなく、絵里や希、にこ、真姫、花陽、凛……その全員に彼女たちの魅力と笑顔が伝わったと思う。単純にダンスや歌の上手さではなく、彼女たちの"想い"が。

 

 

「そしてファーストライブが終わった後だったよね。穂乃果たちと零君の距離がぐっと近付いたのって」

「そうだな。それは今でも時々思い返すよ。俺たちの今が関係になる、第一歩だったから」

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

 ファーストライブ終了後、俺たちは夕日に彩られた道を歩きながら、軽い打ち上げをするため俺の家へと向かっていた。

 

 そもそも年頃の女の子を家にすら上げたことがなく、しかもその一発目がついさっき仲が急接近した3人。ファーストライブとは別の緊張が走っていた。あの頃は本当にウブだったからなぁ~俺。

 

 

 今日のライブについて仲良く談笑している穂乃果たちの少し後ろを歩いていると、突然穂乃果が後ろを振り返った。その時の穂乃果は、普段の活発な彼女にしては珍しく若干よそよそしかったんだ。

 

 

「ん?どうした?」

「あのね……今日はありがとう!!」

「お礼なんていらねぇって。むしろこっちから顔を突っ込んだんだ、最後まで役目は果たすよ」

「それでもここまで付き合ってもらったことに関しては感謝しかありません。ありがとうございます」

「講堂で掛けてくれた言葉、とっても嬉しかったよ!ありがとう♪」

「高坂、園田、南も……」

 

 

 こうして俺が3人の苗字を口走った時だった――――――

 

 

 

 

「それ!!どうして苗字なの!?」

 

 

 

 

 突然穂乃果が俺に詰め寄って、まるで尋問のような体勢になったのは今でも鮮明に覚えている。そして初めてのライブで緊張したのか疲れたのか、女の子特有の汗のいい匂いも感じられて――――って、それは今はどうでもいっか。

 

 とにかく大きな声を出されてビックリしたから、なにかデリカシーのないことを呟いたかもとここ数秒の記憶を遡っていたんだ。もちろんその頃の俺に女性の気持ちなんて分からなかったから、全く無駄な時間だったけども。

 

 

 そして穂乃果が話を続けたことで、俺は再び現実に引き戻される。

 

 

「講堂で穂乃果たちの名前を呼んでくれたのに……」

「あれは……勢いというか、無我夢中だったからな……」

「でも心の距離がうんと近くなったような気がして、とても嬉しかったんだよ。まだ出会って数週間しか経ってないけど、ここまで一緒に頑張ってきたんだもん!もう友達じゃなくて親友だよね!!」

 

 

 夕日に照らされた穂乃果の明るい笑顔が俺の瞳に映る。

 そして続けてことりと海未も俺の元へと歩み寄った。

 

 

「出会って数週間だけど、ことりはあなたと一緒にいた時間はとても楽しかったよ!明日はどんな話をしようかなぁって、無意識で楽しみにしちゃうくらいにね♪」

「こんな短い期間で、ここまで濃密な時間を過ごしたのは初めてでした。それだけこの4人で一緒にいることが、私たちにとっての日常になってしまったのでしょう」

 

 

 ことりと海未の綺麗な笑みが、俺の脳裏に焼き付けられる。

 この時なんとなく分かったような気がしたんだ。なぜ穂乃果たちに目を付けて、ここまで一緒に頑張ってきたのか。俺と同じ廃校阻止という志を持っていて、そしてなにより、彼女たちのこの笑顔に惹かれたからなんだ。

 

 

 

 

 だから俺は、この先も彼女たちと――――――

 

 

 

 

「廃校阻止への道のりは途方もなく長いかもしれない。でも俺1人だけじゃなく、みんなの力が合わさればきっと廃校を阻止できる!廃校と聞いて暗い雰囲気に包まれている学院を盛り上げて、みんなを笑顔にしよう!だから、これからも一緒に頑張ろうぜ!!よろしくな穂乃果、ことり、海未!!」

 

 

 

 そして、彼女たちもにっこり笑って――――――

 

 

 

「うん!これからもよろしくね!零君!!」

「ことりもよろしくお願いします♪零くん!」

「えぇ、今後共よろしくお願いしますね、零!」

 

 

 

 

 これが俺たちの、お互いを名前で呼んだ初めての日だった。

 

 

 

 

~~~~~

~~~~~

 

 

 

 

「懐かしぃ~!!もうだいぶ前のことのように感じられるよ」

「名前で呼ぶことになってから、普段の学院生活も4人で一緒にいることが多くなったよね♪」

「笹原先生から要注意人物として挙げられる4人になるくらいだもんな」

「そこは誇らしげに言うことではないでしょう……」

 

 

 俺たちは衣装を作りながら、昔懐かしい話をして感傷に浸る。

 これ以上昔話をしてしまうと、真姫たちの話題となってそれこそ衣装作りの手が止まってしまうため、それはそれでまたの機会ということで。μ'sの活動としてはここからの話が本番なんだけどな。

 

 

「もうすぐ学園祭かぁ~。そしてそれが終わったら"ラブライブ!"。う~ん!テンション上がってきたぁあああ!!」

「テンションが上がる前に手を動かしてください。このままだと学園祭までに間に合いませんよ」

「ぶ~!折角いい気分だったのに……海未ちゃん空気読めぇ~!!」

「まぁまぁ……」

 

 

 穂乃果がボケて、海未がツッコミ、ことりが仲裁に入るのはもはやお決まりのパターン。今やそこに俺がいると思うと――――――うん、やっぱり楽しいわ!コイツらと一緒にいると、自然と笑顔が溢れてしまうほどに。

 

 

「もう廃校も阻止したし、"ラブライブ!"優勝という夢も叶えたけど。俺たちはそこで立ち止まらない。次の目標は新生μ'sで"ラブライブ!"優勝だ。それに向けてラストスパート、頑張っていこうぜ!!」

「「おーーーーー!!」」

「お、おぉ~……!」

「海未ちゃん空気読めぇ~!!」

「突然だったのですから仕方ないでしょう!?」

 

 

 そんな感じで、多少の齟齬はありながらも彼女たちと共に歩んできたこの1年半。だが俺たちはまだ未来の入口に立ったに過ぎない。これからも穂乃果たち、そしてμ'sのみんなと共に、笑顔で未来を歩んでいけたらいいな。

 

 

 いや、歩んでいくんだ!!

 




 今回は零君たち3年生組の懐かしい過去話でした。
 元々アニメ準拠で書いていない分、読者様から"出会いの話を書いて!"と過去編を求める声が多かったのですが、今回満を持して採用させてもらいました。待っていた方は長らくお待たせしましたということで(笑)

 彼らがお互いに恋愛というものを意識しだしたのは、回想であった通り名前で呼び合ってからとなっています。もちろんその時は、4人共まだ芽生え始めた恋心には気付いてないですがね。

 また機会があるならば、他のメンバーの出会いの話も書きたいなぁと思っています。それこそアニメ沿いになってしまうので、本編が一段落付いてからになりそうですが。


 次回はTwitterのアンケートで好評だった、真姫ちゃん回の予定です。


現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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