ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は真姫回、しかもちょっぴりヤンデレな真姫ちゃんの個人回です!
 前編の前半は真姫視点、後半からは零君視点でお送りいたします。前編も次回の後編もまさかの真姫ちゃんづくし、是非お楽しみください!


零と真姫、鎖繋ぎの2人(前編)

 

 珍しく、私は部屋の片付けをしている。

 元々普段から部屋を綺麗にしているし、することと言えば軽い掃除くらいのもの。海未や絵里から見たら当然と言われ、穂乃果や凛から見たら何故か異常だと言われたこともある。唯一散らかってしまうものと言えば、作曲の途中に片手間に書いていたメモ帳くらい。それも捨てることはなく、今後の作曲のヒントになるかもしれないから、例え殴り書きであるメモ帳でもきちんとファイリングしてある。

 

 

 だったら、私が何故部屋中を片付けしてるかって?

 理由は単純。

 

 零が来るから。

 

 彼を部屋に招くのは初めてではないけど、その時はμ'sのメンバーがいたり、応接室で話すことも多かった。だから零と2人きりで、しかも私の部屋でなんて恋人同士になってから初めてだったりする。

 

 2人きりと言っても特に用事がある訳ではなく、所謂自宅デートというものなのかしら?私も零も外出はそれほど好きではないから、満場一致で私の部屋でデートをしようと決まったって訳。彼の家には何度もお邪魔してるけど、私の部屋に彼を呼んだことはないからという理由もあるけどね。

 

 

「これで粗方終わったかしら……?」

 

 

 一応いつもより丹念に掃除機を掛け、この前にこちゃんにオススメされた100円アイテム『ホコリ取り』を駆使して、机周りから目に見えない棚の上まで隅々掃除をしたつもり。やっぱり自分では綺麗だと思っていても、案外部屋は汚れているものなのね。このホコリ取りがなかったら気付かなったかも。正直100円アイテムを舐めてたわ……。

 

 

 まあそんなことはいいとして、次はタンスの中を片付ける作業に入る。

 別にそんなところまで片付けなくてもいいと思うけど、タンスの中とかを見られるのって恥ずかしくない?そんなところを見る人なんていないと思う人が大半だろうけど、零はそういう奴なのよ。私が飲み物を取ってくるために部屋を離れた時、こっそり引き出しやタンスを覗くような趣味の悪い性格してるし。

 

 

 私はタンスの下段、一番下の引き出しの取っ手を両手で掴んでゆっくりと引っ張る。その引き出しは私が小学生の頃以来ほとんど開けたことがなかったから、長年封印されてきた棺を開けるかのように重々しい。

 

 

 なんとか中身が見える位置まで引っ張ると、子供の頃に遊んでいた玩具の入ったカゴが目に入った。

 

 

「あっ、懐かしい。これこんなところにあったのね」

 

 

 このタンスの引き出しなんて全然開けたことがなかったから、この玩具たちの存在すら忘れていた。小学生や中学生へ進級するにつれてピアノや勉強に集中するようになり、そして高校生になってμ'sの練習や作曲をするようになってから毎日が忙しく充実していたからかもね。

 

 

「ん?これなにかしら……?」

 

 

 1つ1つ玩具を取り出して懐かしんでいると、カゴの底に銀色で一際キラリと輝くモノがあった。

 手首が通るくらいの2つの輪っかあって、それが一本の鎖で繋がれている――――――そう、手錠だ。あまり使ってなかったのか、そもそも使ったり貰った記憶さえ怪しいけど、他の玩具と比べると汚れが一切ついてない。

 

 私はその手錠と隣に置いてあった手錠の鍵を手に取って、怪しい白銀の光沢を放つ拘束具を、その輝きに吸い寄せられるように凝視する。

 

 

 何故だかは分からない。

 片付けのことなんて一瞬で忘れ去り、私はその手錠を眺めていた。まるでその怪し気な輝きに心を奪われてしまったかのように……。

 

 

 

 

 ここで、私に1つの欲望がよぎる。

 

 

 

 

 零と――――繋がってみたい……と。

 

 

 彼と2人きりでいる時間は非常に限られている。家が離れているとかそんな物理的な問題ではなく、彼には9人もの彼女がいるという私たち特有の問題。

 

 当然だけど、彼が私たちに平等に愛を注いでいるかと言われると、本人はそうしているつもりだろうが多少差異は出てくる。特に穂乃果やことり、にこちゃんは常に零とベタベタしているし、凛や花陽、一年生組まで最近積極的で、恐らく私は零との絡みが少ないμ'sメンバーワーストランキングなら上位にランクインできる自信がある。

 

 

 

 

 だけど今日は、誰にも邪魔されず彼と2人きりになるチャンス。

 私だって零の恋人。彼の隣にいたい、彼に寄り添いたい、彼と離れたくない――――――そんな欲求が、私の中で大きく渦巻く。彼と一緒にいたいという恋人同士ならごく自然な欲求なのに、その欲求が欲望となって私を侵食していくのが分かる。

 

 

 穂乃果やことりたちに圧倒されて、零の隣にいられないことに悔しい固唾を飲んできたこともあった。もちろん彼女たちも私の大切な親友であり仲間、恨んだりなどは一切していない。

 

 

 だけど、この欲望だけは抑えきれない。

 

 

 彼と2人きり、それも今日一日中ずっと隣にいられる絶好のチャンス。これで彼と私を繋いでしまえば、私が外さない限り、永遠に彼と一緒――――――

 

 

 

 

 私は怪しく白銀に光る手錠をギュッと握り締め、そのままポケットへ入れる。

 

 

 

 

 いつもはμ'sの誰かに彼を譲っているんだもの、今日くらいは、彼と一緒に――――――

 

 

 

 

 繋がりたい。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ひっさしぶりに来たけど、相変わらずデケェ家だなオイ……」

 

 

 毎回来るたび来るたびに西木野邸に圧倒されているような気がする……。

 今日は真姫に誘われて彼女の家へやって来た。真姫からデートに誘ってくるなんて珍しいこともあったもんだ。しかも今回は自宅デートという奴らしい。まあ真姫の家ならそこらのホテルよりも優雅にくつろげそうではあるがな。

 

 

 無駄に装飾が豪華絢爛な門を開き、庭に舗装された白石の道を進む。インターホンまでの道のりが遠すぎぃ!!と思いながらも、もう少しで真姫と2人きりであんなことやこんなことができると思うと足が弾んでしまう。傍から見たらニヤニヤしながらスキップモドキをしている不審者にしか見えねぇな……。

 

 

 そんなこんなでこれまた豪華なお屋敷の玄関に到着し、これまたお高そうなインターホンのボタンを押す。

 

 

 

 

 すると、玄関の扉が勢いよく開いた。しかもインターホンを押してから扉が開くまで数秒あるかないか。まるで扉の向こうで待ち伏せをしていたみたいに――――――

 

 

「こんにちは、零」

「よ、よぉ真姫……」

 

 

 俺はてっきり使用人か真姫の母親が出てくるものとばかり思っていたため、突然真姫が眼前に現れて少々驚いてしまった。しかも彼女、満面の笑み。それだけ俺との自宅デートを楽しみにしていてくれたのだろうか。それも家の玄関で待つほどに――――普段は大人びた彼女だが、やはり年相応の可愛いところもあるもんだ。

 

 

「こんなところで立ち話なんて時間がもったいないわ、早く行きましょ」

「あぁ、なんかお前、楽しそうだな。そんなに俺が来るのを待ち望んでたのかぁ~」

「えぇ、もう我慢できずに一時間も前から玄関の周りをウロウロしていたんだから。私を待たせた代わりに、今日はうんと楽しませてもらうわよ」

「あ、あぁ、もちろん!!真姫と2人きりなんて久しぶりだしな」

「そうね、久しぶりね。フフッ」

「……?」

 

 

 なんか俺の思っていた反応と違うな……いつもの真姫なら俺の煽りに対し激烈なツンデレを発揮するのだが、今日は素直に俺の言葉に乗ってきやがった。やっぱりそこまで俺と2人きりになれるのを楽しみにしていたのか。それでもやけに素直な気もするけど。

 

 でも、素直に好意を伝えてくれる真姫も可愛いから問題ナッシング!!むしろ素直になってくれた方が、あんなことやこんなことを期待できたり!?穂乃果やことりじゃあるまいし、流石に夢見すぎかな。

 

 

 

 

 そして俺は真姫に導かれるまま、彼女の部屋へと案内された。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「…………」

「どうしたの?私の部屋、落ち着かない?」

「い、いやぁ俺はどんなところでもくつろげるタイプなんだが……」

「なんだが……?」

「すげぇ近いなって思って……」

「そう?」

 

 

 真姫の部屋は、テレビや漫画でよく見るお姫様ベッドがあるお嬢様部屋――――なんてことはなく、案外普通の部屋だった。女子高校生らしく人形も飾られており、穂乃果の部屋を綺麗にしたら真姫の部屋と同じようになるくらいには普通だった。

 

 そんなことはいいとして、問題は俺が部屋に入って彼女が飲み物を取りに行き、戻ってきた直後からだ。これが問題と言うべきなのかは怪しく、むしろ心躍ることなんだけど、やたら真姫が俺の身体に寄り添ってくる。まるで普段の穂乃果やことりのような、部屋に案内される時も手を握られていたし、今日のコイツはかなり積極的だな。

 

 

 でもここまで近付かれると、真姫の高貴でかつ甘い香りが漂ってきて、今にも彼女に飛びついてしまいそうだ。だが流石にまだ早いよな……?部屋に到着して数分で女の子を襲うとか男の風上にも置けない。重要なのはムードだムード!!

 

 

 だが、そのムードさえぶち壊しそうなくらい、積極的な真姫にドキドキしているのは事実だ。だって――――さっきからずっと顔を見つめられてるんだもん!!目が合うとニッコリと微笑んで、目を離すとシュンとして……くぅ~~!!こんなの襲わない方が男じゃねぇだろ!!

 

 

「零!!」

「うおっ!?ど、どうした……?」

「さっきから何度も呼んでるのに、気が付かなかったの?」

「悪い、ちょっと煩悩を滅却してた。お前の出番はまだ早い!!ってな」

「フフッ、そうね。まだお昼だものね」

 

 

 えっ!?やっぱり今日の真姫は羞恥心というものがないのか!?いつもなら『ぼ、煩悩!?あなたまた変なこと考えてるのね!?本当に意味分かんない!!』とか、顔を真っ赤にして言いそうなものなのに……。真姫の慌てている表情を見られなくてつまらないと思う反面、ここまで従順だと夜の期待が高まってくる。

 

 だが真姫も2人きりの時は冗談交じりの会話を含め、若干小悪魔っぽいところがない訳ではないので、もしかしたらコイツの掌の上で踊らされている可能性も無きにしも非ず……もしそんなことをされた場合、コイツに一生忘れられないくらいの快楽をブチ込んでやろう。

 

 

 あぁ、そんなことを妄想してたら多少だけどムラついてきた。自分磨きをするほどではないけど、このままだと真昼間から真姫を襲いかねないので、トイレで用を足しがてら心を落ち着かせるとするか。

 

 

「ちょっとトイレに行ってくるわ。トイレってどこだっ――――」

 

 

 俺が真姫にトイレの場所を聞いた。まさにその時だった――――――

 

 

 右手首に何やら金属の冷たい感触がした。

 もしかしてと思い、恐る恐る自分の右手首に目を落としてみると、まさにビンゴ。俺の想像と全く同一のモノが手首にはめられていた。俺の手首に白銀の輪っか、それが一本の鎖で繋がれていて、その先へと目をやってみると、今まさに真姫がもう1つの輪っかを自分の左手首にはめているところだった。

 

 

 そして、また金属音が鳴る。

 

 

 一本の鎖によって、俺たちが繋がった。

 

 

「お、おい!?何してんだお前!?」

「なにって……手錠をはめているんだけど?」

「いやいや手錠って普通は両手首にはめるものだろ――――って、手錠の解説はいいんだよ!!どうして俺を手錠で拘束したのかって話!!」

「えっ、零と一緒にいたかったからだけどそれが?」

「いやいや、そんな『お前何言ってんの当たり前じゃん』みたいな顔されても……」

 

 

 真姫はごく自然な顔で、キョトンとしながら俺の顔をジッと見つめ続ける。でもそのとぼけた表情が、無邪気な子供っぽくて可愛い――――とは言い出せない。言ってしまったら最後、この状況が悪化しそうだから……。

 

 手錠のひんやりとした感触に若干怖気が走りながらも、"あぁまたか"で自己完結する辺り俺も俺で相当毒されてるな。だって穂乃果やことり、にこから同じようなことされそうだし、ことりからは実際にされたこともあるし……。(※第67話『狂気の南家』参照)

 

 

「私はあなたと一緒にいたいの。ずっとあなたの側で、こうしていたい……」

 

 

 真姫は更に俺の身体に寄り添い、自分の頭を俺の肩に預ける。更に手錠で繋がれた左手で、俺の右手をギュッと握り締めた。

 

 そして彼女は顔をゆっくりと上げ、俺の瞳を寂しそうな上目遣いで見つめてきた。

 

 

 

 

「ダメ……?」

 

 

 

 

 ぐふぅうううっ!!そんな瞳で俺を見るなぁああああああああああああああああああああああ!!

 

 普段は羞恥心に阻まれてこんなことを絶対しないような奴なのに、何で今日はこんなに積極的で乙女チックなんだよ!?しかもちょっと首ちょっと傾げ、頬が赤く染まっているのも相まって大人っぽいというより子供っぽい。いつもの冷静沈着なクールさはどこにもなく、可愛さとあざとさにステータスを全振りしてやがる!!

 

 ダメだ!!そんなことを考えていたら、余計に俺の妄想が真姫に侵食される。無邪気に俺を求めるこの瞳、寂しそうな表情と俺を甘く誘う声、そんなことをされたら俺は……俺は――――!!

 

 

 

 

「いいよ」

 

 

 

 

 こう言うしかねぇじゃねぇか馬鹿野郎!!

 だってしょうがないじゃん、男だもん!!こんな幼気な女の子を、まして恋人を、拒否する理由があるだろうか?いや、ないね!

 

 

「やった!今日はずっと一緒よ♪」

「あ、あぁ、そうだな……」

 

 

 そうだよ。真姫のこの笑顔さえ見られるのであれば、一日の拘束くらいいくらでもしてやっていい。まんまとコイツの作戦にハマってしまったのかもしれないが、それはそれで普段とは違うギャップ萌えを感じられるのでプラスとして受け取っておこう。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「零」

「なんだ?」

「呼んでみただけよ」

「そ、そうか……」

 

 

 俺たちが一本の鎖で繋がれてから早数分、真姫は嬉しそうに俺の身体に自分の身体を預け、俺たちは他愛もない話を淡々と続けている。

 

 元々真姫との会話は彼女の性格上淡々としていることも多いのだが、それはそれで俺も真姫も楽しいからつまらないと思ったことは全然ない。むしろそんな会話こそが俺と真姫の日常となっているくらいだ。

 

 

 だが今日はいつもの真姫とは違って、淡々としているがどこかノリノリで、口調も嬉しさの余りかなり弾んでいる。例えば、

 

『零』⇒『なんだ?』⇒『今日は絶好のデート日和ね』⇒『そうだな』

 

 これだけで会話が終わったとしても、とても中身の濃い会話をしているような、そんな感じがしてしまうのは普段の真姫に陽気さプラスされているからだろう。

 

 

 誰にも見せない彼女の一面を、俺だけが見られるのはもちろん嬉しいんだけども、やはり真姫のこのギャップに対しては少々戸惑いもある。

 

 

「零」

「……なんだ?」

「どうしてもっと私に寄り添ってこないの?私はこんなにもあなたに抱きついているっていうのに……」

「あのぉ~……正面から抱きつかれているのに、これ以上どうやって寄り添えばいいって言うんですかねぇ~」

「そんなの、心と心でも繋がるに決まってるじゃない。今のあなたの心、少しだけだけど私の心から一歩後ろに引いている感じがするから」

「そりゃお前、昨日までツンデレ極めてた奴が、今日突然デレデレになってたら驚くだろ」

「だったら私が心の距離を詰めてあげるわね」

「うおっ!?」

 

 

 もうこれ以上抱きつきようがないってくらい真姫に抱きつかれてたけど、彼女は脚すらも俺の腰の下へ回して俺の身体に絡みついてきた。

 

 これは……俗に言う"だいしゅきホールド"という奴だ!!ま、まさか真姫自らこんなことをしてくるなんて……彼女の全身に密着するのは何気に初めてかもしれない。

 

 

 真姫の身体って、こんなにも柔らかかったんだな……しかも彼女特有の癖っ毛から放たれる、お高いシャンプーの香りが俺の鼻を刺激する。もう身体の感触とこの匂いだけで魅惑の虜にされてしまいそうだ…………おっぱいもめちゃくちゃ当たってるし。

 

 

「零」

「なんだ?」

「キスしない?」

「…………いいよ」

 

 

 もう俺は真姫の魅惑に取り付かれてしまったのかもしれない。でもまぁいっか、いつもは俺から攻めている訳だし、彼女にその気があるのならば今日はコイツの好きにさせてやろう。

 

 

 俺は真姫の顔と真っ直ぐ向かい合って、唇を重ねる体勢を作る。

 だが体勢が整ったその瞬間、真姫はその時を狙ったかのように勢いよく俺の唇に飛びついてきた。

 

 

「んっ……はぁ、んっ」

「はぁ……あぁ、んんっ……」

 

 

 いきなり真姫の顔がドアップで迫ってきた驚いたが、もはやこの程度のキスなら慣れっこだ。右手は手錠で拘束されているため、真姫の身体を左手で優しく抱きしめて彼女の唇を受け入れる。

 

 まだ自宅デート開始から数十分しか経過していない。だからいきなり激しいキスをするのはどうかと真姫も分かっているようで、ひたすら俺の唇をゆっくりとなぞるように自分の唇を動かしていた。

 

 

「ふぅ、っ……はぁ、ちゅっ……んっ……んんっ、ちゅぅ……」

「はぁ……あっ、ちゅ……ん……んっ、ちゅっ……」

 

 

 僅かに唾液の卑猥な音を漏らしながら、俺たちは2人だけの世界で愛を確かめ合う。

 結局どんな真姫でも、俺は彼女が大好きなんだ。ツンな彼女もデレな彼女も、自らの欲望に忠実となる彼女も俺に従順となってくれる彼女も、どんな彼女も全部……そうでなきゃ、こんな気持ちのいいキスなんてできない。

 

 

「ふぅ、っ……んっ、はぁ……んっ……ちゅっ、ちゅぅ……」

「はぁん……あっ、ちゅ……もっと……んっ、もっと、ちゅぅ……もっと♡」

 

 

 自分から一心不乱に吸い付いてくるのにも関わらず、"もっと"とは……もっと俺から来いってことか?

 

 欲望の歯止めが段々効かなくなってきたのか、真姫は俺の口内に舌を侵入させ、唾液を絡め取ったあと自分の口内に引っ込める。同時に真姫の甘い唾液が俺の口内にねっとりと流れ込んできた。

 

 俺たちは顔と顔を、唇と唇を更に密着させ合う。身体と身体も余すところなく抱きつき合っているので、もう俺たちとの心と身体の間には隙間など一切ない。心も身体も唇も……俺たちは全て繋がっていた。そして手錠の鎖で物理的にも繋がっている。もう真姫から離らなくなっちまいそうだ。

 

 

 しかしキスがディープになりすぎてそろそろ息苦しくなってきたため、仕方なく真姫の唇からそっと自分の唇を離す。その時一瞬垣間見えた真姫の寂しげな表情が、俺の心にチクリと刺さる。

 

 分かってくれ真姫、愛を深めすぎて窒息死なんて報道の笑いものになるだけだから。

 

 

「真姫。お前いきなり盛りすぎだろ……」

「言ったでしょ、心の距離を詰めてあげるって。どうだった?私からの愛は……?」

「たっぷりと、身体全体が支配されるくらいには注がれたよ。たまには女の子からしてもらうってのもいいものだな」

「でしょ?いつも零は攻める側だから、私にもちゃんとあなたへの愛があるってことを証明したかったのよ。これからもずっとあなたの側にいて、こうして毎日でも愛を確かめ合いたいわ。この鎖のように、永遠に途切れぬ愛をね……フフッ」

 

 

 真姫は左腕を持ち上げて、俺たちを繋ぐ手錠を俺に見せつける。

 うん、これはやはり……ことりと同じヤンデレの素質があるな。ことりよりかは全然軽いけど、そのこじらせると面倒ではありそう。いつもとみんなの性格が違うとビビる時もあるのだが、これも俺を想いに想ってくれての愛情、俺も全身全霊で受け止めてやる。

 

 

 それに……ヤンデレな子って、一途で可愛いじゃん!!

 

 

 

 

 そんな呑気なことを考えていると、突然真姫が身体をモジモジし始めた。

 

 待て待て待て待て!!まさかもうヤっちまうのか!?まだ真昼間なのにいくらなんでも早すぎだろ!?やはりそういう行為は、真夜中の静まり返っているムードが一番だと思うんだ。しかも俺たちは手錠で繋がれているから、まずはそれに慣れてからじゃないと満足にできないぞ!?

 

 

「真姫、流石の俺でもそこまで獣じゃない。だから――――」

「お花……」

「へ……?」

「お花を摘みに行きたくなったんだけど……」

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………

 

 

………………え?

 

 

 

 

「え゛ぇえええええええええええええええええ!?!?」

 

 

 

 

 

 

To Be Continued……

 




 今回は、ちょっぴりヤンデレな真姫ちゃんのお話でした!
 久しぶりにヤンデレキャラを書いたのですが、やっぱり可愛いですねぇ~!!普段とは違う一面が見られるというのもありますが、ヤンデレって良くも悪くも好きな人に一途なので、そのキャラにグッとくるというのが一番です!『新日常』の読者さんの中にはヤンデレが苦手だったり、『非日常』は読んでないよという方もいらっしゃるようで、私はなるべくその人たちにもヤンデレμ'sの可愛さを伝えていけるようにしたいと思っています。

 特に今回のヤンデレは非常にマイルドなので、苦手な方でも読みやすかったのではないかと思われます。


 次回は鎖つなぎの2人の後編です。もちろん真姫ちゃんづくし!個人回でここまで掘り下げるのは何気に初めてですね。


 現在、『新日常』のアンソロジー企画小説として『ラブライブ!~μ'sとの新たなる日常 Anthology~』が『新日常』と同時連載中です。ハーメルンのラブライブの作家様たちが集まって『新日常』の話を執筆してくださったので、そちらも是非ご覧下さい。
投稿日時は11月1日から23日まで、3週間近く毎日21時に投稿予定です。


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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