ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回も詩織さん襲来回第三弾。そして詩織さん編は一旦今回で終わりです。
 ちなみに今回は神崎家族がメインとなっているので、原作キャラ未登場なのはご了承を。


家族の食卓

 

 μ'sと母さんが会合した翌日、俺と楓は泊りがけで家に来ていた穂乃果たちと別れ、同棲生活終了と同様静かになった家に寂しさを感じて――――――

 

 

 は、いなかった。

 

 

「うぅ~!!μ'sのみんながいなくなっちゃったよぉ~!!もう毎日取っ替え引っ変えもふもふできなくちゃっちゃったよぉ~!!」

 

 

 こんな感じで、家は寂しくなるどころか余計に騒がしさを増していた。

 母さんがこのような性格なのは重々承知していたのだが、久しぶりに会ってみると引くぐらいに騒がしいのがよく分かる。

 

 

「いつまで嘆いてんだよ。とりあえず落ち着けって」

「これが落ち着いていられますか!!もう明日にはアメリカに戻らないといけないんだよ!?そうしたらまたいつみんなに会えるのか……」

「今度は定期的に練習風景の動画とか送ってやるから」

「そんなことをしたら余計に会いたくなっちゃうでしょ!?」

「じゃあどうすりゃいいって言うんだよ……」

 

 

 黙ってたら黙ってたで『どうして連絡して来ないの!?お母さん泣いちゃうよ!?』って文句言ってくるし、連絡したらしたで『零くんと別れたくないよぉ~!!』って嘆くし、俺が生まれて17年、未だにこの人の扱いはよく分からん。

 

 楓は今晩飯を作ってる最中だし、このクソ面倒モードに入った母さんを俺1人で相手にしないといけないのか……。

 

 

 

 

 すると、玄関が開く音が聞こえた。

 そしてリビングにまで聞こえる甲高い声が響く。

 

 

「みんなーー!!秋葉お姉ちゃんが帰ってきたよーー!!」

 

 

 あぁ、遂にやって来てしまったか。そして揃ってしまうのか神崎一家の女性陣が。

 母さんと秋葉は言わずもがな、楓も普段相当危ない(規制的な意味で)キャラなのだが、前者2人と比べればまだ可愛いもの。もう実妹で癒されるしかない。

 

 

「あっ、秋葉ちゃんが帰ってきた!お帰りーーーーーー!!」

「か、母さん!?」

 

 

 さっきまで泣き崩れていた母さんが、リビングのドアを殴り開けて玄関の方へ駆け出して行った。

 相変わらずテンションがコロコロ変わりやがる。だから周りから子供っぽいとか言われんだよ。

 

 

 

 

 リビングから出て玄関を覗いてみると、今まさに母さんが秋葉に飛びつこうとしている最中だった。

 

 

「秋葉ちゃーーーん!久しぶりーーー!!」

「お帰りなさいお母さーーーん!!」

「いやぁ秋葉ちゃんもっふもふ~♪」

「もうお母さんくすぐったいよ~♪でもこの感じ、懐かしいなぁ♪」

 

 

 大人の女性同士のマジなハグを見てしまった……この2人が会うといつもこんな感じだけど。そして多分、母さんのもふもふ攻撃に耐えることができるのは秋葉だけだろう。やはりこの2人は似た者同士共感し合えるんだろうな。

 

 

「零君もただいま♪」

「おう、お帰り。昨日帰ってこればμ'sのみんなに会えたのにな」

「だってしょうがないじゃん仕事だったんだからぁ~。あーあ、穂乃果ちゃんたちがお母さんに苦しめられる姿、見たかったなぁ~」

「その分ちゃんと私が堪能したから大丈夫大丈夫♪」

「もうお母さんずるい!!」

 

 

 似てる!!やっぱりこの2人、性格が激似だ!!

 しかもいいところが似ているならまだしも、性悪な部分だけが似ているってどういうことだよ。まさにこの親にしてこの子ありだな……。

 

 

 

 

 しばらく母さんと秋葉の謎の包容合戦を苦い顔で眺めながら時間を潰していると、リビングから楓がひょっこり顔を出した。

 

 

「もうっ!何してるのみんな!!晩御飯できたよ!!」

「あっ、楓ちゃんただいま~♪」

「お、お帰り……」

「おや~?もしかして久しぶりのお姉ちゃんに緊張してる?」

「してないから。玄関先でずっと抱き合っている2人に引いてるだけだから」

「相変わらずお姉ちゃんには辛辣な態度だね、楓ちゃんは♪」

「なんで嬉しそうなの……?」

 

 

 あれだけ学院で暴れている楓でも、こうして秋葉や母さんの前ではただの常識人ツッコミキャラにならざるを得ない。楓がまともなのか、それとも秋葉と母さんがブッ飛んでいるのか……これは確実に後者だ。

 

 

「お~いい匂い!帰国する時も、楓ちゃんの料理が久しぶりに食べられるからワクワクしてたんだよね♪」

「私も最近研究室で質素な物ばかり食べてから、ようやくまともな食事にありつけるよぉ~」

「2人共仕事や研究で忙しいのは分かるけど、食事くらいはちゃんと取ってよね。私やお兄ちゃんに迷惑掛けないで欲しいから」

「「分かってる分かってる♪」」

「ホントにぃ~……?」

 

 

 母さんと秋葉は家へ帰ってくるたびに毎回楓の料理を楽しみにしているらしい。

 正直毎日食っている俺としてはもはや胃袋を完全に掴まれて特別感はしないのだが、2人曰く楓の料理は"絶品"だとか。母さんなんて海外で活躍する女優なんだから美味い飯なんてたらふく食えるはずなのに、世界一の料理は楓の料理と言い張るくらいだ。

 

 

 

 

 そして俺たちは秋葉の帰宅で再び騒ぎ立てながらも、ようやく食卓につくこととなった。

 何気に家族で食卓を囲むのは久しぶりだから、俺もちょっぴり嬉しかったり。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「それで?μ'sの活動は順調?」

「すげぇ唐突だな……」

 

 

 俺、右隣に楓、俺の前に母さん、その左隣に秋葉という席順で食卓を囲んで飯をつついていたら、突然秋葉が俺と楓に質問を投げかけてきた。

 

 俺たちの目の前にはそれぞれ、デミグラスソースで身を包んだハンバーグにクルトン入りのコーンスープ、海苔を塗したツナパスタ、ほっかほかのライスが置かれており、大皿には色とりどりのサラダの盛り合わせがテーブルの真ん中を支配していた。ちなみにこれは楓の王道メニューであり、俺が一番好きなメニューでもある。

 

 俺はハンバーグ:コーンスープ:ツナパスタ:ライス:サラダ=2:2:2:2:2の黄金比を維持しながら食べる傍らで、秋葉の質問に答える。

 

 

「"ラブライブ!"の直前なのに、順調じゃなかったらダメだろ。つまり準備OKってことだ」

「最近は練習がない日もあるし、完全に準備期間だよね。ていうか、お姉ちゃんμ'sの顧問なのに何も知らないの?」

「あはは、最近忙しいからさぁ~ゴメンゴメン♪」

「謝る気あんのかお前……」

 

 

 牛肉の旨みが最大限に引き出された濃厚ハンバーグが美味すぎて黄金比を崩されそうになりながら、秋葉の言葉に呆れ口調で応対する。

 

 そういや9月に入ってから秋葉が俺たちの練習を見に来たことってあったっけ?いや、ないな。まあ初めから顧問の名を借りる名目だった訳だし、別にいなくてもいいっちゃいいんだけど。

 

 

「あーあ、私もμ'sが"ラブライブ!"で優勝する姿を見てみたかったなぁ~」

「安心してお母さん!この私がいる限り、絶対にμ'sの晴れ姿を海外に届けてみせるから!!動画でね♪」

「くっそぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!私は間近で見たいんだよぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「お母さんの分まで顧問の私が間近で見てあげるから♪」

「ちくしょぉおおおおおおおおおおおおおおお!!零くーーーん!2人が私をイジメるよ~!!」

「知るかよ……」

 

 

 俺はフォークでツナパスタを巻き取りながら、珍しく弄られる母さんに辛辣な言葉を投げつけた。

 どうせ慰めたところで調子に乗るだけだ、下手に触れない方がいい。それに楓はここぞとばかりに母さんに復讐して弄り倒そうとしているし、ここは俺も憂さ晴らしを兼ねて放っておこう。

 

 

「お母さんは置いといて、零君」

「なんだよ」

「もう何人とエッチしたの?」

「ブッ!!お、お前食事中にいきなり何言い出すんだ!?」

「だってこうして会った時にしか聞けないじゃない。電話だと零君の恥ずかしがる顔を見られないしね♪」

「お前なぁ……って、え゛っ!?」

 

 

 相変わらず陰険な秋葉に呆れていると、隣の席から物凄い邪気が漂っているのを感じ取ってしまった。

 恐る恐るそちらへ目を向けてみると、楓が鬼のような形相で俺の顔を凝視していた。自分で作った自慢のハンバーグをナイフでザクザクと切り裂き、その先端からポタポタとデミグラソースが垂れている。

 

 楓は何も語らない。でもその雰囲気だけで"お兄ちゃんの貞操は実妹である私のもの"という狂気に満ちあふれた信念がひしひしと伝わってくる。このままコイツを見続けていると、いつかナイフが飛んできそうなので俺は再び食事へと戻った。

 

 楓自身、俺たちの交際を認めていない訳ではないのだが、やはり俺と穂乃果たちが不純異性交遊をすることには反対らしい。当たり前のことだが、コイツの場合理由が理由だからな……。

 

 

「し、してねぇよ……」

「嘘ね」

「へ……?」

「だって南先生が言ってたもん、最近ことりが零君とエッチをしてたんだって。ことりちゃんがそう言うのなら間違いなよね♪」

「くそアイツ何言ってやがるんだ……はぁ~ちょっとだけ、ちょっとだけだよ」

「フンッ!!」

「うおっ!?」

 

 

 楓はナイフをハンバーグに思いっきり突き刺した。普段から若干ツリ目がちな目が更にツリ上がる。女の嫉妬とは恐ろしい……もう流石にあんな事態は経験したくないが。

 でもことりの言った通り事実なんだから仕方ないだろ……。夏休みにも穂乃果やことり、にこと色々やったしな。もちろん本番は責任が取れる年齢になるまでだからまだだけど……。

 

 

「お母さんが知らない間に、零くんたちそんな関係になってたんだねぇ~。もしかして、もうすぐ孫の顔が見れちゃったり?この歳でもうおばあちゃんかぁ~……」

「いちいち気が早いって!!」

「そうそう、お兄ちゃんの子供を一番初めに身籠るのは私だから……フフ♪」

「お前そんなこと考えてたのかよ……」

 

 

 俺さえ話題に絡まなかったら楓も割と常識人のはずなのに、"お兄ちゃん"が絡むだけで暴走ヤンデレ天使楓ちゃんに様変わり。まだ目の前の2人よりは全然可愛げがあるだけマシだけど……。

 

 

「楓ちゃんもそうだけどさ、雪穂ちゃんと亜里沙ちゃんとはどうなの?」

「どうなのって言われても、関係は良好だよ」

「ふ~ん、手を出す準備は着々と進んでいる訳ね」

「なんか悪意のある言い方だな……」

「もうこのまま彼女にしちゃえば?9人もいるんだったら12人いても変わらないでしょ!それだけ可愛い女の子がいれば、私が帰国する楽しみも増えるし」

「結局自分のことじゃねぇか!!」

 

 

 俺のことを考えてくれているのは分かるけど、ちゃっかり自分の利益になるように誘導してるもんなぁ。その辺、秋葉と同じく抜かりがない。まあ応援してくれるだけありがたいんだけどね。

 

 

 

 

 そして俺たちはその後も、お互いの近況報告や他愛もない話しながら晩飯を食べ進めた。

 晩飯を食い終わってからもまた一波乱あり、折角母さんが帰ってきたんだから4人で一緒にお風呂に入ろうとか提案される始末。秋葉も楓もノリノリだったが、女の子好きの俺でも流石に楓以外と入る勇気はない。それ以前に恥ずかしいし。

 

 

 ――――とまあこんな感じで、家族の日常が騒がしく過ぎ去っていった。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 真夜中。

 母さんたちは風呂から出たあとも馬鹿騒ぎしていたせいか、ベッドに入るとすぐにぐっすりと眠ってしまったようだ。数十分前まであれだけ賑やかだった我が家も、ようやく休息の時を迎えたように静まり返っていた。

 

 こうして毎回家の中が静かになると寂しい気持ちになる辺り、俺もワイワイ馬鹿騒ぎするのが好きなのかもしれない。自分ではうるさいのは苦手だと思ってんだけどな。なんだかんだ言って、久々に母さんや秋葉と一緒に食卓を囲めて嬉しかったし……それに楽しかった。今頃みんなはさっきまでの賑やかさが嘘のように、ベッドの中で静かに寝息を立てている頃だろう。

 

 

 

 

 ちなみにそんな俺はと言うと、星がよく見えるとμ's内で評判のベランダにいる。

 だが目的は天体観測ではなく、晩飯の時に母さんに言われたことを自分なりにだが考えをまとめていた。ベランダの手すりに両腕を置いてもたれ掛かり、ぼぉ~っと星空を眺めながら。

 

 

「雪穂に亜里沙、そして楓との関係か……」

 

 

 母さんからこの3人との関係を聞かれた時、ありきたりな言葉で誤魔化してしまった感じが否めなかった。あの時は母さんがボケの方向に走ってくれたから話題もそっちの方向へ逸れたけど、あのまま真面目に3人との関係に話題を突っ込まれたら……俺はなんて答えていたんだろうか?

 

 

 

 

 また、答えを先延ばしにしている。

 

 

 

 

 そのせいで穂乃果たちが"ああなって"しまったことは今でも忘れない忘れるはずもない。俺はあの出来事を今後一生の教訓として、アイツらと向き合っていくと心に決めているから。

 

 

 だが同棲生活で雪穂たち3人の悩みを解決したあと、3人と何か進展はあったか?俺から一歩でも彼女たちに踏み込んだか?

 

 同棲生活以降、俺は彼女たちから鈍感(穂乃果たちからはそう言われる)な俺でもアプローチを何回も受けている。それに昨日、雪穂と亜里沙が母さんに弄られていた時のあの態度を見てみるに、俺への好意は誰が見ても明らかだ。

 

 

 

 

 もしかしたら俺は、彼女たちの方から歩み寄ってくれることに甘えているのかもしれない。

 

 

 

 

 恐らく、いや確実に俺がこのまま黙っていても、彼女たちは俺にアプローチをし続けるだろう。俺はその流れに乗ってこちらからも好意を伝えることで、何もかもが丸く収まる。晴れて俺たちは結ばれて、それで見事に解決。誰も傷つかない、みんなが笑顔になれる。不利益なことなど一切ない。

 

 

 

 

 だけど、本当にそれでいいのか?

 

 

 

 

 すると突然、ベランダの扉が物静かな音を立てて開いた。

 今日は風など吹いてないから扉が勝手に音を立てる訳がない。ということは誰かがベランダに入ってきたのだろう。てっきりもうみんな寝ていると思ったのだが……。

 

 

 俺はそっと後ろを振り返る。そこにいたのは――――――

 

 

「母さん……」

「よっ、なにこんなところで黄昏てるの?」

「寝てたんじゃなかったのか」

「なんだかずっと騒いで興奮してたから眠れなくって。でも秋葉ちゃんと楓ちゃんはぐっすり寝てるよ。2人仲良く並んでね。なんだかんだ言って、仲のいい姉妹だよあの2人」

「そうだな。風呂も一緒に入ってたし」

 

 

 ベランダに入ってきたのは母さんだった。夜に馬鹿騒ぎして眠れない辺り、やっぱり子供っぽい。これでも世界に羽ばたく大物女優なんだけど、俺の前ではひたすら幼い姿しか見せないから実感沸かねぇんだよな。

 

 

 母さんは俺の右隣まで来ると、両手に持っていたマグカップの1つを俺の手元に置いた。

 秋の肌寒い夜に、ホットコーヒーの暖かさが伝わってくる。

 

 

 どこかで見たシチュエーションだと思ったら、そういや同棲生活の時に真姫と一緒に天体観測した時とほぼ同じだな。コーヒーを持ってくるのが俺じゃなくて母さんになっただけで。

 

 

「もう秋も本番なんだから、そんな薄着で外に出てると寒いでしょ」

「そうだけど、そっちの方が神経を集中しやすくなるからさ」

「そう。でもあまり煮詰めすぎは身体によくないよ。お母さん特製コーヒーをお飲みなさい」

「母さんのコーヒーってあまり飲んだことないな。まあ、頂きます」

 

 

 俺はほどよく温まったマグカップに口を付けて、母さん自慢のコーヒーを一口流し込む。

 

 

 

 ――――――って、こ、これって!?!?

 

 

「にがっ!!おいこれブラックじゃねぇか!!俺が黒のまま飲めねぇって知ってるだろ!!」

「いやぁ~まさかまだ克服してなかったとは♪」

「いや明らかに確信犯だろ!!」

「あはっ♪でもこれで心が軽くなったんじゃない?」

「……まあな」

 

 

 いつもは騒動の元凶となる母さんだが、こうして隣にいてくれると何故か心が落ち着く。自分の母親って、こういうものなのかもしれない。心の(わだかま)りを優しく包み込んで消し去ってくれる、そんな存在。

 

 

 そしてしばらくの間その暖かさに浸って心を落ち着けていると、母さんがいつになく真面目な口調で口を開いた。

 

 

「全部聞いたよ。秋葉ちゃんから」

「……具体的には?」

「去年、零くんと穂乃果ちゃんたち9人の間で起こった出来事。そして数ヶ月前、みんなで同棲生活をした理由……主にその2つかな」

「そうなのか。全くアイツ、ペラペラ喋りやがって」

「秋葉ちゃんも零くんたちのことが心配なんだよ。それだけあなたたちのことが大好きなんだね。大好きなモノにはとことん熱中する、それがあの子の性格だから」

「μ'sの顧問になる前もなった後も、何気に俺たちのことをしっかり見てたんだな、秋葉の奴」

「そうそう。大好きな人が困っているなら手を差し伸べる、秋葉ちゃんも零くんも全く同じだよ♪」

 

 

 そっか、俺が気付いてないだけでしっかりとそういうところも似てたのか。言われてみないと気付かないもんだな自分の身内のことって。それが分かる母さんはすげぇよ。

 

 

 それより、俺たちのいざこざが母さんの耳に入っていたとはな。話す手間が省けたというか、俺から話したかったというか……。

 

 

「雪穂ちゃん、亜里沙ちゃん、楓ちゃんのことでしょ?今悩んでたのは」

「え……?」

 

 

 母さんは俺の心を読み通しているのか?さっきから俺の考えていることが母さんにドカドカ的中されているんだが……これも母親がゆえってことなのか。読心術ではないけど元々母さんはそのようなことが得意だから、今更驚くことでもない。だがここまで見事に読まれると、どこか気恥かしさを感じてしまう。

 

 

「よく分かったな」

「晩御飯の時の返事が適当だったからね。そのことで悩んでいるのかなぁ~って思っただけだよ。たったそれだけ」

「敵わねぇよ、母さんには」

「そりゃあ母親ですから!」

 

 

 我が母親の渾身のドヤ顔を見て、この2日間で母さんのことが一番頼りになると思った瞬間が訪れた。まるで今までが茶番かのように思えてくるな。

 

 

 でも、何故か心が落ち着いてしまうんだよこれが。

 

 

「だけどこうして見ると、もう悩みはある程度吹っ切れてるみたいだね」

「あぁ、母さんが来てくれたおかげかもしれない」

「れ、零くんがデレた!?明日は大雪!?雹!?あられ!?」

「大袈裟過ぎんだろ」

 

 

 いつもは呆れ返って流すようにツッコミを入れてしまうのに、今は自分でも分かるほど嬉しそうにツッコミを入れていた。これも心の整理ができて落ち着いたからかもしれない。

 

 

「俺、今度は自分からアイツらに向き合うよ。雪穂、亜里沙、楓の3人に……」

「そう。私や秋葉ちゃんはいつでも応援してるから、手を差し伸べてあげることだってできるんだよ」

「あぁ、今日で母さんと秋葉が如何に俺たちの面倒を見てくれているのかがよく分かったよ」

「でしょ?」

「だけど」

「?」

 

 

 

 

「これは俺たちの問題なんだ。だから最後まで、俺たちの手できっちりとケリを付ける。母さんたちは手を出すなとは言わないけど、見守るだけにして欲しいんだ。俺と穂乃果たち、そして雪穂や亜里沙、楓との関係が一段落付く、その時まで。母さんたちに頼るのは本当の最終手段。俺たちは去年のあの事件や同棲生活の出来事を機に少し大人に成長したとは思うけど、まだまだ子供の域を抜け出せていない。だからどこかで知らず知らずの間に道を踏み外してしまう可能性もある。その時はもしかしたら頼るかもしれない。本当に本当の最終手段だけどさ」

 

 

 これは俺たちが自分たちで選んだ道なんだ。最後がどこか、ゴールなんてあるのかすら分からないけど、だったら穂乃果たちと一緒にゴールを模索すればいい。ゴールがないなら、一緒に手を取り合って歩いていけばいい。だが俺たちはまだまだ未熟、またどこかで道を違える可能性もあるだろう。もし修正不可能な事態に陥った場合は、助けを求めればいい。俺たちを応援してくれている人がいるってことは、絶対に忘れはしない。

 

 

 

 

「そっか。成長したね、零くんも。私が海外へ行く前よりずっと……」

「自分でもそう思うよ。それもμ'sと出会えたから……かな?」

「フフッ、本当にお似合いねあなたたち♪」

「その言葉、素直に受け取っておくよ」

 

 

 母さんが飾りのない言葉を言ってくれるなんて、それこそ俺がデレるより数十倍も珍しい。

 でもやっぱり、背中を後押ししてくれる存在というのは心強い。さっきも言ったけど、俺たち自身の問題を全部俺たちで抱え込む必要はないんだ。穂乃果たち、そして雪穂、亜里沙、楓を笑顔にできるのなら、母さんたちの力も存分に借りるさ。もちろん俺たちが全力を尽くすことが前提条件だけど。

 

 

 

「それじゃあ、私はそろそろ寝ようかな?」

「そっか……ありがとな」

「お礼を言われるほどでもないよ。私は零くんの母親なんだから♪それじゃあおやすみ」

「ああ、おやすみ」

 

 

 母さんはベランダのドアを静かに開けて家の中へと戻っていった。

 ふと星空を見上げてみると、さっきぼぉ~と眺めていた時よりも星たちがより輝いているように見えた。まるで俺の心を具現化しているかように……。

 

 

「よし、そうと決まったら早速行動しないとな」

 

 

 今まで雪穂たちの好意に甘え、彼女たちに対して受身の対応しかしていなかったけど、もうそんな"待ち"の体勢は絶対に作らない。これからは俺が攻める。もう二度と先延ばしにしないため、彼女たちに俺の今の想いをぶつける。

 

 

 彼女たちに伝えなければならない気持ちが、俺の中に確固として存在するから。

 

 

 

 

 そこで決意を胸に秘めて意気込んでいた俺は、手元に湯気がゆらゆらと揺れるマグカップが置いてあることに気が付いた。

 何故だかは知らない。だけどふと、一口だけで終わっていたブラックコーヒーに再び口を付けてみた。

 

 

 

 

「にっが……」

 

 

 

 

 やっぱり、ブラックは苦手だ。

 

 




 今回で詩織さん襲来回は終わりとなります。
 初めはギャグメインだと思っていた方も多かったでしょうが、本来の目的は『新日常』としての話を動かす先駆的な扱いだったのです(笑)
特に最近は雪穂、亜里沙、楓の恋愛についてはほったらかしだったので、ようやく話を動かすことができて私自身とても安心しています。『新日常』の主軸となっていたハーレム問題は既に秋葉との対決で解決しているので、あとはシスターズとの恋愛にどうケリを付けるのかが、『新日常』の大きな枠組みとなってきます。もちろんいつも通り馬鹿騒ぎな回もたくさん執筆していく予定ですがね(笑)


 次回からは3連続でシスターズ回です。雪穂、亜里沙、楓の3人の個人回を1回ずつ計3回+αで一旦この章は終了です。つまりしばらく真面目な回が続く模様。それが朗報か悲報かはその人次第!?


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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