まずトップバッターは雪穂から!他の2人と比べると素直になれない彼女が、彼にどう想いを伝えるのか?
ちなみにこの話は、
『非日常』第四章 第一話‐妹たち‐
『新日常』第44話 私、スクールアイドルをやめます
『新日常』第77話 ラブライブクエスト5~究極の選択
の内容を思い出しておくとより楽しめると思います。
※ここから個人回は雪穂、亜里沙、楓のそれぞれの視点でお送りします。
"ラブライブ!"の開催まであと3日となった。
もう間近にまで迫っている本番にμ'sのメンバーはというと、それぞれ三者三様の反応を見せている。お姉ちゃんやことりちゃん、凛ちゃんはやる気満々で、海未ちゃんや花陽ちゃんは緊張気味、真姫ちゃんはいつも通り落ち着いていた。
ちなみに私はやっぱり少し緊張。これまでアキバや学園祭など何度かライブをやってきたんだけど、"ラブライブ!"のような大舞台に立つのはこれが初めてだからね。既に1度舞台に立っているお姉ちゃんたちから励まされたりはしたけど、今まで観客席で見ていたあの大舞台に自分が立つと思うとちょっとばかり腰が引けてしまう。
だけど私とは対称的に、亜里沙と楓は"ラブライブ!"開催に胸を躍らせていた。
特に最近は"ラブライブ!"の話題が留まることを知らず、クラス中からも応援の声が集まっているせいか、2人の期待と興奮は更に熱を増している。緊張の"き"の字も知らないだからあの2人は……。なんか自分だけ緊張してるのがおかしく思えてきちゃったり。
そんな感じでμ'sが期待と若干の不安で沸き立っている中で、私はまた更に別の緊張と戦っていた。
それは――――――
「悪い雪穂、待たせたな」
「い、いえ!さっき来たばかりなので」
私が校門で待っていたのは零君。まさか、突然放課後に零君とデートをすることになるとは思ってもいなかったよ。
デートに誘われたのは本当に突然。最近は"ラブライブ!"に向け身体を壊さないよう練習時間が控えめで、そもそも練習がない日まで存在する。
そして今日がまさにその日。今日はお店の手伝いもないし、特に用事もないから家でのんびり休もうかなと思っていた時に、零君に声を掛けられた。『雪穂、今日暇だったら一緒にどこか寄り道しないか?』って。
誘われた時は正直嬉しかった。だってほら、私って素直になれない性格だから、中々自分から言い出せないし……。
最近零君とお話する機会は増えたけど、こうして2人きりで話をすることはあまりない。亜里沙や楓みたいに私も零君にグイグイ迫っていければいんだけど、どうしても気恥かしさに邪魔されちゃって……。
だからこれは絶好の機会かもしれない。同棲生活の時に近付いた彼との距離を、もっと縮めるチャンスだ。
「おい雪穂」
「えっ!?ご、ゴメンなさい、ぼぉ~っとしてました」
「大丈夫か?やっぱ"ラブライブ!"みたいな大舞台に緊張してるとか」
「それもありますけど……」
「けど?」
ここで『零君と一緒にデートできるから』って言えば、素直に気持ちが伝わるのになぁ~!!まだ私にはその勇気はないみたい。亜里沙や楓だったら簡単にやってのけそうなのに……でも焦る必要なんてないよ、2人きりの時間はまだまだこれからなんだから!!
「そ、それよりもう行きませんか?この時期は暗くなるのも早いですし……」
「そうだな、もういい感じに夕日になってるし。最近日が落ちるのホントに早くなったよな」
「そうですね、秋も本番ですから」
「よし、だったら早く行こうか。ほら」
「え……?」
私の目の前に、零君の手が……こ、これってもしかしてもしかしなくても、一緒に手を繋いでデートするってことだよね!?ど、どうしていきなりそんな……お姉ちゃんたちと手を繋いでいるのは見たことあるけど、それはお互いが恋人同士だからで私は違う訳だし……ど、どうしよう!?
「あれ?もしかして……いやだったか?」
「い、いえ、そういうことでは……」
「そうなのか?なんか凄く緊張してるみたいだったから、手を繋げば緊張も和らぐかなぁ~って」
それが余計に緊張するんですよ!!!!
天然でやっているのか狙ってやっているのかは知らないけど、でもこれは偶然にも積極的になれるチャンスなのかもしれない。自分から零君に踏み込みづらいなら、まず彼の誘いに乗って少しずつ彼に近付いていけばいい。
そ、それに零君の好意を無駄にはできないしね!!そうそう、ただ緊張を解すためなんだから!!
私は差し出された零君の左手に自分の右手をそっと重ねる。すると零君は私の目を見て微笑んだあと、私の手を優しくギュッと包み込んでくれた。
零君の手は大きくて暖かくて、緊張した私の心がみるみるうちに解れていく。緊張で震えていた私の心まで、彼に優しく抱きしめられているかのよう。彼の手に触れてから本当に一瞬の出来事、手を握られただけなのにここまで心が落ち着くなんて……お姉ちゃんたちが零君の側にずっといたいという気持ち、それがまた分かった気がするよ。
「女の子の手って、すごくちっちゃいよな」
「なんかイヤラシいこと考えてます……?」
「なんでそうなるんだよ!?考えてないから!!」
「どうだか……」
「あのなぁ~……まあいっか、いつものお前に戻ったみたいだしな」
「あっ……」
確かに言われてみれば、さっきの一連の会話って私と零君がいつもしている日常会話そのものだった。私も気付かない間にいつもの会話ができるくらい、さっきまでの緊張が嘘のように解れていた。やっぱり落ち着くかも、零君の隣は。
「よしっ、雪穂の調子が戻ったところで行くとするか!」
「そうですね」
ほんの数分前まで"ラブライブ!"やデートのことで緊張していたはずなのに、今では自分でも分かるくらい私は笑顔になっていた。これが大好きな人と一緒にいるってことなのかな?
大好きな人……もう自然とその言葉が出てしまうくらい、私の中で彼の存在が大きくなっている。今までだったら勘違いで済ましていただろうけど、亜里沙も楓も積極的になってきているんだ、私だけがうかうかしていられない。
それに、言わなきゃ絶対に伝わらないから。そう、"あの時"のように……。
この時、私は決意した。
私が秘めている零君への想いを、今日は全部伝えるんだって。
~※~
私と零君は学院を去り、2人並んで街中を歩いていた。
この時間帯になると学校帰りの学生が多く、友達同士であちらこちらに寄り道をしている光景が伺える。そんな私たちも並んで手を繋いでいるものだから、もしかして周りから見たら私と零君って恋人同士に見えちゃったりするのかな……?
そう思うと解れてきた緊張がまた復活してきたよ。さっきは周りに人がいなかったからね……。
でも零君はそんなのお構いなしに堂々としている。やっぱり彼女9人持ちの精神はやわじゃないってことか。
そう言えば寄り道で思い出したけど私、今からどこへ行くのか全く知らないや。零君は足を止めることなくどんどん歩いてるけど、私は手を繋いで連れられているだけだし……。
「あのぉ、どこへ向かってるんです?」
「さぁ、どこだろうな?」
「はぁ!?用事があるからって私を呼び出したんですよね!?」
「確かに用事があるのは事実だけど、どこへ行くとは一言も言ってないだろ」
「なんですかその子供みたいな理屈は……」
「まあまあ。とにかく俺は雪穂と2人きりで話せればそれでいいんだよ」
「私と、ですか……?」
私はてっきり零君の行きたいところに振り回されるとばかり思ってたのに、零君も私と同じ目的だったんだ。それだったら私も想いを伝えやすいのかな?でもどっちが先に話を切り出すかという駆け引きが…………あぁ、また私難しいこと考えちゃってるよ。私にも亜里沙や楓みたいにグイグイいける図太い性格があればいいんだけどなぁ。
「"ラブライブ!"の本番までに、お前に伝えておきたいことがあるんだ」
「私に……」
「ああ。だけど歩きながらだと集中できないし、どこか2人きりで話せるいい場所ねぇかなってさっきから見て回ってるんだよ。どうせなら飲み物でも飲みながらゆっくりとと思って街中に来てみたけど、学生も多いし失敗だったな」
零君は笑いながら髪の毛を掻いた。
私に伝えたいことがある……そう聞いてから私の心が激しく鼓動していた。その伝えたいことってもしかして私と同じことなのでは、と妙に勘ぐってしまう。2人きりになるためにわざわざ放課後に呼び出して一緒にデートだなんて、期待しない方がおかしい。それとも私の考えが浅はかなのか。
心臓の鼓動がどんどん高鳴ってくる。
このまま待っていれば、零君は私への想いを語ってくれるだろう。それが告白かどうかは分からないけど、確実に私たちの関係を進展させる何かにはなると思う。私が彼からの言葉を素直に受け止めれば、それで私の恋は成就する。それが零君と結ばれるための一番の近道。
でも、それで終わるのだけはイヤだ!!
私からも、ちゃんと零君に伝えたい!隣にいるだけで高鳴ってきてしまう、この想いを!!
その想いを伝える場所。
それは私が零君のことを意識し出した、あの場所しかない!
「2人きりになれるいい場所があるんですけど、よかったらその場所に行きませんか?多分人はあまりいないと思いますし、もしいたとしても大して気にならないところなので」
「そんな都合のいい場所があんのか。それじゃあ頼もうかな」
「はい。それでは早速行きましょう、こっちです」
「あ、あぁ」
私は零君の手を引く形でその場所に向かって歩き始めた。
そう言えば、こうして自分から率先して零君の手を引くのはこれが初めてかも。いつもは零君に手を引っ張ってもらったり、背中を押されてばかりだったからちょっと新鮮。
でも"恋"に関しては"待ち"状態にだけは絶対になりたくない。特に自分の想いを隠したままにして、相手の好意に甘えるのだけは絶対に。
伝えよう、私の想いを。あの場所で!
~※~
「……こ、この場所って」
「はい。私と零君の思い出の場所です」
私が零君を連れてきた場所は、文字通り私たちの思い出、そして私の人生の分岐点にもなった公園。
一見すると、いや一見しなくてもただの公園だけど、私にとっては零君との思い出が詰まった大切な場所。彼に想いを伝えるならここでと、ずっと心に決めていたんだ。
平日の夕方にも関わらず、公園内には数人の子供が遊具で遊んでいるだけだった。最近は外で遊ぶ子供自体がめっきり少なくなってるもんね。遊具も危ないから遊んじゃダメ!っていう大人も増えたみたいだし。
私たちは遊具からそこそこ離れたベンチに腰を掛けた。
"あの時"も"またあの時"も、このベンチに零君と隣同士で座ったな。そしてまたこの時が来るなんて……未来を見据えていない訳ではなかったけど、その未来がまさに今なんだよね。やっぱりこの状況になると解れていた緊張がまたしても蘇っちゃったけど、気を引き締めなきゃ!!
「雪穂とここへ来るたびに、毎回懐かしさに浸ってしまうな。まあ公園なんてこの歳になったら用事がなければ絶対に立ち寄らないから、当たり前と言えば当たり前だけどさ」
そうだ、私の心が大きく揺れて迷っている時は毎回ここに立ち寄っている。特にこの公園自体に思い入れはないけど、最初に零君に頼った場所がたまたまここだったからね。それがそのまま思い出の場所になっちゃった。
「"あの時"からもう少しで1年になるのか。そしてこの公園で雪穂と亜里沙に頼み事をされたのも……」
「そうですね。時が経つのは早いです」
全ての始まりは、お姉ちゃんたちが零君へ歪んだ愛を向けていた時のこと。あの時は亜里沙と2人で零君にお姉ちゃんたちのことを相談した。私たちでは手がつけられなくなったお姉ちゃんたちを救い出すことのできる唯一の人、零君に。
その時はまだ零君のことをあまり知らなかったから、ただの変態で女ったらしくらいの印象しかなかったんだよね。でもあの時、頼れるのはもう零君しかいなかったという切羽詰った状況だった。自分としては苦肉の策だったけど、亜里沙が『零さんなら絶対に頼りになる』と言われて渋々相談しに行ったんだっけ。
そこで私の中の零君の印象はガラリと変わった。
いつもはおちゃらけた態度でお姉ちゃんたちを妄想の種にして変態なことばかり考えている人だと思っていたけど、その時の彼はいつになく真面目な面持ちで、お姉ちゃんたちを救い出そうという想いはまさに本物だった。あの時の零君はμ'sと出会ってまだ半年くらいしか経ってないはずなのに、どうしてあそこまでお姉ちゃんたちを救い出すことに本気になれるのか、まだ私も疑問だったな。でもその勇気と覚悟がこれでもかってくらいに伝わってきたから、私も彼にお姉ちゃんを任せることができたんだよね。
その時からだったと思う、私が少なからず零君を意識し始めたのは。μ'sを救い出すために必死となる彼のその姿に、いつの間にか惹かれていたのかもしれない。もちろんまだ恋愛感情なんて一切なかったし、そもそもそんな感情があるなんてその時の私は信じなかっただろうけど。
「そして、零君に私の悩みを聞いてもらったのもこの公園でこのベンチでしたよね」
「そうだな。あれからもまだ3ヶ月しか経ってないのか。いや、3ヶ月も経ったというべきなのか?」
「私はあの同棲生活から"ラブライブ!"まで、凄く早かった印象があります」
「確かに、そう言われてみればそうだな」
次に零君とこの公園に来たのは3ヶ月前、私たちμ'sメンバーが秋葉さんの威光により同棲生活を余儀なくされた期間内の出来事。
あの時、私は"劣等感"を抱いていた。どれだけ練習してもお姉ちゃんたちは愚か亜里沙や楓にも追いつけない、ライブの時に自分だけ笑顔を作れない、自分だけがみんなと比べて劣っている、そんな思いを抱いていたんだ。そのことを零君に気づかれて、私は一緒に買い物へ行くという名目でこの公園に誘われて相談を受けてもらった。
その時、零君に教えてもらったのはスクールアイドルの活動を"楽しむ"こと。
スクールアイドルを始めた頃の私は親友の亜里沙や廃校を救って"ラブライブ!"という大舞台で優勝したお姉ちゃんたち、そして新しい親友の楓と一緒に歌って踊れることが楽しくて、毎日がワクワクの連続だった。でもいつの間にか歌やダンスの出来や亜里沙と楓に置いていかれることばかりに気を掛けていて、楽しむなんて気持ちを忘れていたんだよね。
そんなスクールアイドルの活動を"楽しむ"ことを再度教えてくれたのが零君。
心の奥まで土足で上がり込んで来たのは驚いたけど、そのおかげで今の私がいる。今でもライブには緊張してしまうけど、それ以上に期待をワクワクが胸を躍らせるようになった。ここまでスクールアイドルを続けてこられたのは、零君のおかげ。
そう、零君の……。
私が道に迷ってしまった時、諦めてしまった時、いつも隣に彼がいた。彼はいつも笑顔で、私の進むべき道を明るく照らしくれる。そんな彼に、いつの間にか私の心は奪われていた。
繋がっているだけで安心できる、大きくて暖かい手。自分が立ち止まってしまった時は、その手に引っ張られたり背中を押してもらうだけで、ひたすら前だけを見て突き進むことができる。
その笑顔と優しい手に、私はずっと導かれてきた。
だけど。
「あのさ雪穂。実は」
「待ってください!!」
「えっ……?」
「途中で遮っちゃってすみません。でも、もう抑えられないんです!!言わせてください、私に。あなたへの想いを!!」
「雪穂…………分かった。聞かせてくれ、お前の気持ちを」
「はい、ありがとうございます」
零君も零君で私に伝えたいことがあるはずなのに、それを言う前に遮るなんて最低なことしちゃったな……。でも、もう自分の気持ちを抑えきれないの!!今にも爆発してしまいそう、零君への想いが!!
私はとりあえず一回大きく深呼吸をして零君に向き合った。零君も私の眼を真剣に見つめて、その瞳は決してブレない。
伝えよう、この想いを全て!
「零君にはこれまで色々お世話になりました。私が道を踏み外しそうになった時、零君はいつも私の手を握って私を元の道へと連れ戻してくれた。そして、私が戻ってきたその道の先はいつも明るく照らされている。今の私がいるのは、零君のおかげなんです。そんな零君に、私はいつの間にか惹かれていました。私たちためにまるで自分のことのように必死となるその姿、私たちが困っていたら問答無用で手を差し伸べてくれるその優しさ、そして、私たちの不安を全て取り除いてくれるその笑顔……そんなあなたの魅力に、私は心を奪われてしまいました。そんなあなたが側にいるからこそ、私はいつでも前を見て進んでいくことができる」
「雪穂……」
「だけど、これからは導かれるままではなく、あなたと一緒に人生を歩んでいきたいんです!!どちらかが道を踏み外しそうになったら、どちらかが手を引いて助けてあげる、そんな関係に……。その役目にお姉ちゃんたちがいることも分かっています。ですが、この気持ちはお姉ちゃんたちにも負けません!!あなたを想う気持ちは、お姉ちゃんたちにも絶対に!!私は、私は――――」
これで最後。
胸に秘めた最後の想いを、彼に――――
「私は、あなたのことが好きです!!!!」
言っちゃった……。
でも胸の内を全て曝け出すことができて、意外にも私は零君の返事を聞く前に一瞬だけホッとしていた。だけどまだドキドキは止まらない。彼がどう答えるのか、この一瞬の間にも様々な未来を頭に浮かべる。
私たちの勝手な願いで零君たちをゲームの世界へ連れ込んだこともあった。その時はまだ現実で告白する決心がつかなかったから、バーチャルリアリティの世界での告白に踏み切ったんだ。
その時の零君の答えは"イエス"か"ノー"で言ったら、"ノー"だった。
零君自身答えを見つけていなかったみたいだし、そもそも私たちが現実世界ではなく、バーチャルリアリティの世界で告白するなんて生半可な気持ちだったのが一番の原因だったと思う。
でも、今回はちゃんと彼に想いを伝えた。自分の秘めた想いは全て。
もう嘘や偽り、誤魔化し、生半可、そんな気持ちは一切ない、私の本当の想いを、この現実世界で。
だからどんな零君からどんな返事が返って来ても、それを受け入れる覚悟がある。
「ハッ、アハハハハハハ!!」
「れ、零君?」
「いやぁ悪い悪い!相変わらず俺って情けねぇなぁって思っちゃってさ」
「情けない?」
「あぁ。俺の言いたいこと、先に雪穂に言われちゃったから」
「えっ?それじゃあ……」
「俺からも言わせてもらうよ」
零君は一旦間を置いて、再び私の眼と真剣に向き合った。
そして――――――
「好きだよ、雪穂。友達や後輩としてじゃない、1人の女性としてな」
一瞬、零君の言葉を理解しきれなかった私がいた。
私のことが好き……好き……友達としてじゃない、後輩としてでもない、1人の女性として……好き?
好きぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?
「お、おい!!お前顔メチャくちゃ赤くなってるぞ大丈夫か!?」
「ら、らいじょうぶれす……」
「呂律も回ってないぞ!?おーい戻ってこーい!!」
あぁ、なんか身体がふわふわ浮いてるみたいでとても気持ちいいよ。
まさか、零君が私の告白を素直に受け入れてくれるなんて……ということは私たち、両想いだったってことだよね?へへ、えへへ♪
「おい雪穂!!」
「うわぁ!?す、すみません!!気分が浮ついてました」
「全く、俺の話はまだ終わってないつうの」
「まだ?」
「ああ。さっきの告白も重要だけど、ここからも同じくらい重要なんだ。よく聞いてくれ」
「は、はい……」
零君は告白してもなお真剣な表情を崩していない。どうやら浮ついていたのは私だけみたい……。
零君は私の想いを全て受け止めてくれた。だったら次は私が零君の想いを全て受け止める番だ。
「単刀直入に言うと、まだお前と付き合うことはできない」
「えっ……?」
えっ……つ、付き合う!?
そ、そっか、好きな人同士だったら付き合うのが普通だよね!?ん?ふ、普通なの?でも付き合うことはできないって……えっ!?
「なんか混乱してるみたいだな……もしかして、付き合うつもりはなかったとか?」
「い、いえ……自分の告白で精一杯で、そこまで考えが行き着いてなかったと言いますか」
「なるほど、俺が考えすぎたってことか。いや別に考えすぎが悪いことじゃないんだけど……まぁとにかく、恋人として付き合うのはもう少し待ってくれないか?お前からの告白に、俺は胸を打たれた。だったら今度は俺からお前に告白したいんだ」
「零君から私に?」
「そうだ。お前の告白に負けないくらいの、本気の告白をな。本当は今日俺からするつもりだったんだけど、まさかお前からの告白をされちまうとは思ってもなかったからな。お前の想いを胸に、また1から心の整理をして告白をしたいんだ」
「零君……」
「だから、もう少しだけ待っててくれないか?俺がお前に本気の想いを伝える、その時まで」
零君に私の想いは全て伝わっていた。そしてその想いを全て受け入れてくれた。お互いにお互いを"好き"だという感情を、遂に彼と共有することができた。今の私は、それだけでも十分に嬉しい。もうこれからこの溢れ出る彼への愛情を隠す必要なんてなくなるんだから。もう自分の気持ちを、殺さなくてもいい。
だから私の答えなんて、既に決まってる。
「待ちます!今は零君と相思相愛になれたことだけで満足ですから!!」
「はぁ~、やっぱりお前らの笑顔には敵わねぇよ。よし任せろ!お前が心がキュンキュンして気絶しそうになるくらいの告白をしてやっからよ!!」
「そんなの当たり前です!可愛い彼女を待たせてるんですから」
「急に元気になったなお前……ま、精々胸を打たれて昇天しないように心を鍛えておくんだな」
「これからはもっと零君の側にいられますから、心配ご無用です」
零君との心の距離がここまで近付いただけで、いつもの日常会話がここまで楽しくなるなんて。やっぱり思い切って告白してよかったよ。返事はまた今度になっちゃったけど、私が零君のことを好きだという気持ちは変わらない。そして零君が私のことを好きだという気持ちも……。
そうだ、最後にやっておきたいことが1つ――――――
「おっと、もうこんな時間か。日もかなり落ちかけてるし、そろそろ帰るか」
「そうですね。でもこれだけ」
「えっ……?」
夕日に照らされる公園で、私は零君の頬っぺに――――――キスをした。
「雪穂……」
「まだ恋人同士ではないので口と口ではできませんけど、これくらいならいいかなぁと思いまして。これが今、私からあなたに送ることのできる、一番の愛のカタチです♪」
零君は目を大きく開いて私の顔をジッと見つめている。
フフッ、あなたのそういう可愛い顔も大好きですよ♪零君って、表情がコロコロ変わって面白いから見ていて全然飽きないんだよね。そして何事も笑顔で馬鹿みたいに突っ走るところに、私は惚れてしまったり。
「さぁ、行きましょうか」
今度は私から零君に手を差し出す。
ずっとこの手を握って、あなたの側に……。
「よし、行こうか」
「はい!!」
私たちは夕日をバックに、2人並んで帰路に着いた。
お互いの指と指を絡ませながら、ギュッと握りしめて……。
これからもよろしくお願いします!
大好きですよ、零君♪
今回はシスターズ編の1発目、雪穂の告白回でした。
今まで『日常』から200話以上執筆してきましたが、ここまでガチ恋愛の話は初めてだったので、自分としては割と頭を回転させて執筆をしていました。ことりの淫語講座みたいに頭をカラッポにして書ける話は楽だと、この話を執筆している最中に実感しましたよ(笑)
こういった恋愛回を書いていると、別の視点でも書きたくなってくる私がいます。今回は雪穂視点だったので、零君視点も書いてみて彼がどのような想いを抱いていたのか、雪穂の告白をどのような気持ちで受け止めたのか、などなど。それは零君が本編で言っていた『本気の告白』の際に描写してみようと思います。
結局恋人同士になるのは先延ばしになってしまいましたが、お互いに相思相愛だということを認めたので、今までやりたいけどできなかった話も書けるようになりました。特に雪穂のR-17.9が解放されたのはデカイ!!(笑)
次回はシスターズ編第二弾、亜里沙回となります。また次回までに亜里沙のターニングポイントとなった回を思い出しておくといいかもしれません。
Twitter始めてみた。
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