零君がどんな決断を下すのかは予想している方も多いと思うので、そしてそこへ至る彼の考えにも注目して頂ければと。
結局、授業中も上の空だった。
穂乃果に投げかけられた質問は予想通りと言うべきか、曖昧な答えでお茶を濁してしまった。夢や未来を決めていないならいないとはっきり言えない辺り、やはり俺は優柔不断野郎だったらしい。単に俺が穂乃果たちに夢も未来も持たないつまらない野郎だと思われたくないから答えを濁した、それすらも自分で分かっていない状況だ。
高校の数学の範囲なら余裕なので授業など無視してもいいのだが、一応担当が笹原先生なので聞いている風を装って、再び選択肢の画面で頭を悩ませていた。まあ案の定答えは出せなかったが。
そして今丁度授業が終わり、笹原先生のスパルタ受験勉強にヒーヒーと唸り悲鳴を上げていた生徒たちが羽を伸ばす。流石にこの気の抜けたほのぼのムードの中で1人空気を悪くするのは良くないと思ったので、俺は
その時、俺の後を追うように後ろから駆け足で誰かが近寄ってきた。
「零くん!」
「ことり……」
彼女はニコニコとした表情を崩さずに、まるで何かを期待しているかのようなキラキラした眼で俺の顔を眺めてくる。いつもこんな感じだけど、今日は特に近いような……主に俺とことりの身体が。あぁなるほど、今朝俺の使用済みタオルをあげると言ってしまったからか。
「で?何か用か?」
「用がなければくっついちゃいけないの?」
「お前に用はないけど俺は用を足したい」
「じゃあことりのおクチに――――」
「言わせねぇからな!!」
以前もこんなことがあったなそういや……相変わらずコイツはブレないというか、むしろブレたらそれはそれで驚きだけど。それに彼女に嘘でも『用を足す』と言ったのは完全に俺のミスだった。だってコイツなら絶対に――――
「ことりも一緒に行くね♪別にそこに意味はないけど」
そう、こうなることは確定事項だからだ。そこに意味はないとか言っているが、明らかにまた誘惑する気満々だろ。この常にニコニコした怪しい笑顔が全てを物語っている。ことりがこの状態になったら決して説得することは不可能だから、おとなしく同行させるしかなさそうだ。
そして俺とことりは隣同士で廊下を歩いている。驚いたのは、俺たちの間に一切会話がないことだ。大体ことりはマシンガンのように下ネタを連発してはあの手この手で俺とヤろうとする淫乱ちゃんなのに、今日はやけにしおらしい。ことりがこんな感じだと逆に心配になってくるな。
自分の悩みを一旦放棄してそんなことを考えていると、ことりが唐突に口を開いた。
「何かしらの悩みを持っていた人ならね、同じ悩みを持っている人の気持ちが分かるの」
「え……?」
てっきりまた下ネタが飛び出してくると思ってそっち方面の警戒を強めていたせいか、それとは全く逆の雰囲気の言葉を掛けられて俺は思わず足を止めてしまう。
そして改めて彼女の眼を見てみると、その瞳は本当に真剣だった。いつもの脳内ラブホの淫乱な彼女とはまるで別人のようだ。
「寂しさを知っている人は、誰かの寂しさに気付いてあげられる。今の零くんは、あの時のことりと同じ顔をしているから」
「あの時……もしかして、お前の留学の話か?」
「うん。あの頃の自分の顔を、毎朝鏡で見ていたから今でもはっきりと覚えてるんだ」
ことりが海未以外には内緒にして海外留学へ行こうとしていた時の話。そう言われればあの頃のことりも今の俺と同じく、頭を悩ませて授業も練習も上の空だった記憶がある。だからことりは俺の様子がおかしいことにすぐに気が付いたのか。過去の自分と同じ顔をしていたから……。
「零くんはことりたちのことを信用してくれているって信じてる。だから零くんからことりたちに話してくれないってことは、自分自身で決断しなければならない選択があるってことだよね」
「あぁ、よく分かったな」
「ことりは海未ちゃんだけには話しちゃったけど、それでも零くんと同じような悩みを抱えてたから」
もう彼女は俺の悩みの本質をそこまで理解していたのか。しかも俺は彼女に一度も悩みのことなんて相談していないのに、俺の様子を見ただけでここまで……。つまりそれだけ俺の心とことりの心が近いということだろうか。もう一年半以上も一緒にいて、同じ悩みを抱えたことのある唯一の存在として。
「だからね、ことりからは何も聞かない。零くんなら自分の進むべき道を自分で決断できるって信じてるから。迷いに迷って、自分の本当にやりたいことが分かっていたはずなのに正直になれなかったことりよりも、いつもμ'sのみんなを真っ直ぐに突き動かしてきた零くんなら絶対に……」
また意外だった。話の流れで自分の悩みを打ち明けなければいけない、そんな気がしたから余計に。特にことりから助言された訳でも、励まされた訳でもない。恐らく彼女もそんなつもりで言ったとは一切思ってないだろう。
だけど、心がスッと軽くなったような気がした。自分の胸の内を曝け出した訳でもないのに何故か。その理由も自分自身の悩みも解決していないのに、俺の心に掛かっていた
「それに誰かに甘えないってことは、誰かに頼ってはいけないってことじゃないんだよ」
「ことり……」
「まあ、最終的に答えを出すのは零くんだから、もうことりはこれ以上何も言わない」
「そっか……ありがとな。そして心配掛けて悪かった」
「心配は掛けるものでしょ。それにことりと零くんはほら、恋人同士なんだから♪」
ことりはそう言うと俺の返答を聞かずに、その場でUターンをして教室へと戻っていった。
本当に俺に言葉を掛けるためだけに、わざわざいつもの雰囲気を装って俺についてきたのか。そもそもトイレに行くこと自体嘘だったんだけどな……。
でもことりのおかげでさっきまで真っ暗な迷宮を彷徨っていた俺に、少しばかり光が差し込んだような気がした。
~※~
結局その日の授業の内容はほとんど覚えていない。大体自分の進路について考えていたか、考えすぎて頭が疲れて爆睡していたかのどちらかだ。あそこで寝るという選択肢が取れたのも、ことりが言葉を掛けてくれたからかもしれない。
そして今はところ変わって、空き教室を海未と2人で掃除中。普段ならそこまで話題が途切れることなく喋り続けられるのだが、今日はどうも会話が続かない。明日提出の進路届けまでに自分の進路を決めなければならないという、若干の焦りがあるからだろうか。
するとここで、海未が口を開いた。
「珍しいですね、零が真面目に黙々と掃除をするなんて」
「そうか?いつもそれなりにやってるぞ」
「いつもは喋ってばかりで、それなりにもやってないでしょう……」
「そ、そうだっけ……?」
確かに言われてみれば……うん、口ばかりで手を一切動かしていないような気がしなくもない。そのたびに毎回海未に怒られるのがテンプレになっているんだよな。お前は俺のオカンかよ。
でも今日はそこまで饒舌にぺちゃくちゃ喋るテンションにもなれないし、たまには真面目になってもいいかな。そうすれば心もまた落ち着くかもしれないし、頭も一旦整理できる。
そして俺が再び手を動かし始めようとした時、海未が続けて口を開く。
「今日は結構、いや、かなりおとなしかったですね」
「まあそういう時もあるさ。俺って意外とナイーブだから」
「それは嘘として、何か考え込んでいることがあるならば、煮詰めすぎは良くないと思いますよ」
「海未……」
薄々勘づいてはいたのだが、やっぱり海未も俺の様子が普段と違うこと、そして俺が何かに悩んでいることに気付いていたか。彼女はμ'sのメンバーからも特に相談相手として選ばれることが多いため、相手の心情の変化には敏感なのだろう。
「俺ってそんなに分かりやすい?」
「はい、μ'sのメンバーの誰よりも。あなたは考えていること思っていることが顔や行動にすぐ出ますから」
「ほ、ホントに……?」
「試しに皆さんにも聞いてみたらいかがですか?全員同じ答えだと思いますけど」
えっ、海未だけじゃなくて他のみんなもそう思ってんのか。それにまた自分で自分自身のことが分かっていなかったと改めて実感した。そんな奴がビシッと未来を決断できる訳ねぇよな。もう今日一日中迷ってばかりだし……。
「自分のことって難しいよな」
「そうですね。そもそも自分のことを完全に理解している人なんていないと思いますよ。自分は自分にしか分からない側面もありますし、相手にしか分からない側面もある。だから自分のことが分からないからといって、そこでずっと悩み続けるのはお門違いだと思うんですよね」
「そんなもんなのか」
「私個人の意見なので、一概に正解とは言えませんが。そもそも正解なんてあるのかすらも分かりません」
海未の話を聞いて俺は、なんだか未来のことについて考えていたのに、その前段階のところで足踏みをしているように感じた。どうも俺はこういった真面目な話になると深くまで考え過ぎてしまうようだ。もちろんそれが悪くはないのだが、それで問題の本質を見失ってしまったら本末転倒だよな。
「そもそも正解の道を探すのではなく、自分の選んだ道を正解にするのが正しいのではないでしょうか。今この時点で将来のことが予言できる訳ではないですし。だったら自分が後悔しないように生きるのが普通のことだと、私はそう思うんですよね」
「そうだな、俺もそう思ってる。でもどっちの道も恐らく間違いはない。だから迷ってるんだ。俺ってほら、優柔不断だから」
すると今まで掃除をしながら口を動かしていた海未がその手を止め、俺の目を真剣な眼差しで見つめた。しかしその表情は優しく柔らかく、見ているだけで心が落ち着きそうだ。
「あなたは揺るがぬ強い信念を持っています。信念がない人なら、迷いなんてせずにただ流されるだけでしょうから。迷うのはあなたの中に正しいと信じる何かがあるから。それがあなたの誠実さへと繋がっている。だから思いっきり悩んだっていいんです」
「そう、なのか……」
「迷ったり悩んだりすること自体に更に迷ったり悩んだりするのは、それこそ自分のことを考えることと一緒で、中々抜け出せないと思いますよ」
そっか、俺は未来の選択肢で悩んでいたんじゃなくて、自分が迷ったり悩んでいることについて迷って悩んでいたのか。そりゃあいくら考えても選択肢を選べない訳だよ。そう考えると、道しるべとして示されていたけど先は見通せなかった理由も簡単に分かる。単純に俺がその道を見ていなかっただけだ。
要するに難しく考えすぎていたってことかな。思い返せばここまで遠回りをしてきた。
だが、それでもまだスタートラインに立っただけ。本当の選択はここからだ。
「もう掃除も終わりの時間ですね。早いところ仕上げてしまいましょう」
「そうだな。今日は真面目にやったし、こうなったら徹底的に綺麗にしてやるか!」
「ようやくいつもの調子が戻ってきましたね」
「まあ、心境の変化ってやつかな」
結局まだ自分の未来の選択はできていない。
だけど今の俺なら明日までにはちゃんと決断できるような気がする。あるのはそんな曖昧な自信だけだけど、それが何より俺の足を未来の道へ動かす原動力になるんだ。
~※~
μ'sの練習を終え、俺たちはいつも通り全員で帰宅しながら1人、また1人と別れ、遂に俺と穂乃果の2人だけになった。ちなみに雪穂と楓は、楓が半ば雪穂を強引に連れて行く形で買い物に行ってしまったので、取り残された俺たち兄と姉だけでの帰宅となっている。
穂乃果とは相変わらずたわいもない話をしながら歩いているのだが、どうも会話のペースが掴みにくいというか、穂乃果が別の話題を振りたそうでならない様子だ。恐らくその機会を伺っているが中々切り出せないのだろう。
こうやって他の人、特に穂乃果たちのことならよ~く分かるんだけどな。よし、どうせなら俺から切り込んでやるか。
「なあ穂乃果、何か言いたいことでもあるのか?」
「ふえっ!?そ、そうだけど……どうして分かったの?」
「お前顔に全部出てるんだよ」
「ほ、ホントに……?」
「ホントに」
穂乃果の反応、俺が海未にした反応と全く同じだな。大体穂乃果は表情を見ているだけで今のテンションが丸分かりだから、良くも悪くも分かりやすくていい。
「穂乃果のことはいいとして、穂乃果が話したかったのは今日の零君のことだよ。なぁ~んかずっと機嫌が悪かったみたいだし」
「別に機嫌はいつも通りだったよ。ちょっと悩んでいただけだ」
「へぇ~、零君でも悩む時があるんだ~」
「どう言う意味だよそれ。まぁ、天真爛漫なお前よりはよく考えて行動してるけどな」
「むぅ~、それはそこはかとなく馬鹿にされているような……」
馬鹿にしてなんていないさ。だって穂乃果はまだ
「でもよかった!零君元気そうで!」
「元気?そうかな?」
「昼間の時と比べたら全然違うもん。あの時は穂乃果が話し掛けてもすごく淡々としてたし」
「確かに今思い返してみればそうだったな。でも今はある程度心の整理もできたから、もう大丈夫だ」
ことりと海未の言葉を受け、心の中に溜まっていた
「多分零君は、自分だけで考えなければならない重要なことで悩んでいるんだよね。穂乃果には零君がどんなことで悩んでいるのかまでは分からないけど、それが嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「うん。夏にも言ったんだけど、零君はいつも穂乃果たちのために尽くしてくれた。穂乃果たちを抱きしめてくれた、守ってくれた、笑顔をくれた。いつも穂乃果たちμ'sの未来を支えてくれていたんだよね。でも今の零君は自分のために自分のことを考えている。自分自身の未来を見つけるために……穂乃果はそれが何よりも嬉しいんだ」
そういや夏祭りに行く途中だったっけか、その言葉を聞いたのは。
自分のためか……俺が穂乃果たちμ'sを支えてきたのも自己満足なんだよな。ただ彼女たちに好かれたかったから、構ってもらいたかったから、助けたかったから、他にも様々な感情があるけど、結局は俺の自己満足。
しかし自己満足だからと言って、相手の好意や感謝を無下にする権利はない。穂乃果もことりも海未も、敢えて俺の心には踏み込まず俺を支えてくれた。そのことにはむしろこちらから感謝したいくらいだ。穂乃果たちがいなかったら、もしかしたら迷いと悩みの迷宮から抜け出せなかったかもしれない。
「もう一年半も零君と一緒にいるから、零君がどんなことで悩んでどう迷うのか、穂乃果は分かってるつもり。恋人同士になってからも何度か
「穂乃果らしいよ。本当にお前らしい安心するくらいだ」
「あっ、また馬鹿にしてるね!!」
「してねぇって!むしろ言いたいことをビシッと言えるお前の性格が羨ましいよ」
「零君も言いたいことを何でも言ってるような気がするんだけどなぁ」
「どうでもいいことならスラスラ口に出せるんだけどな。真面目な話題になるとどうも考え込んでしまうんだ」
でも、考え込むのはもう終わりだ。穂乃果たちの会話の中で自分がどの道を選ぶべきなのか、俺の中で明確になった。多分その道を選んだ理由を聞いたら誰もが落胆するかもしれないけど、それが俺の進みたい道なんだ仕方がないだろう。
「あっ、もうここでお別れだね」
「そうだな。今日はありがとう」
「れ、零君が素直にお礼を言うなんて……地球の明日が心配だよ!!」
「お前も馬鹿にしてるだろ!!とにかく、心の整理ができたのは穂乃果と、そしてことりと海未のおかげなんだ」
「穂乃果は言いたいことを言っただけだけどね」
「それでも俺にとっては感謝なんだって」
俺はこれまで以上に穂乃果たちに支えられてきたことを実感したことはない。穂乃果たち以外のメンバーも、俺の気付かないところで俺を支えてくれていたりするのかな。きっとそうだろう。
「それじゃあな」
「うん、また明日!ばいばーい!!」
笑顔の穂乃果を見届け、俺は1人帰路についた。
迷いに迷って、悩みに悩んで決めた、1つの決断と共に――――――
そしてこれは後から分かったことなんだけど、穂乃果が1人で帰宅途中にこんな話があったそうな。
「もう楓ちゃん、後ろからついてくるなら零君に直接何か言えばよかったじゃん」
電信柱に隠れていた楓が姿を現して、穂乃果の横に並ぶ。
「妹の私からは何も言うことないですよ。お兄ちゃんがどんな選択をしようとも、私は一生お兄ちゃんの側にいるだけですから」
「ブレないね楓ちゃんも……」
「全くお兄ちゃんも、嘘をつくならもっと誤魔化さないと。お父さんが近況報告だけをするために、わざわざエアメールなんて送ってくる訳ないのに」
「確かにそうだよねぇ。でも楓ちゃんにはびっくりしたよ、穂乃果が零君に言いたいことがあると練習中に察知して、雪穂まで誘って穂乃果と零君を2人きりにさせてくれたんだもん」
「まあ妹なりの優しさってやつですよ。穂乃果先輩と同じくらい、私もお兄ちゃんのことは分かっていますから」
楓は朝食の時点でもう俺の様子の異変に気付いていたのだ。
流石我が妹……と思ったけど、俺の言動を見ていれば誰でも分かるか。楓にも後からお礼を言っておかないとな。
~※~
夜。
俺は自室で椅子に深く腰を掛けながら、携帯を持ってある人へと電話を掛けた。
もちろん相手は――――――
『もしもし。意外と早かったな』
「明日が進路希望調査だから。今時間あるか、父さん」
『あぁ、今日は休みだからいくらでも』
「そりゃあ丁度よかった。決めたんだ、自分の道を」
『そうか。なら聞かせてくれ』
俺は大きく息を吸い込んで、一旦深呼吸をする。
遂に俺が一日をかけて決断した道を、父さんに示す時だ。緊張はしない。むしろ自分の未来を誰かに話すのはこれが初めてなので、自然と意気が上がる。
「俺、
そう、これが俺が悩んだ末に辿り着いた、俺自身の決断。穂乃果たちに支えてもらったりはしたけど、自分で選んだ選択肢なのは間違いない。
そして俺のこの言葉を聞いて、父さんはどんな反応をするのかと身構えていたのだが。父さんが口に出した言葉は――――
『そうか』
この一言だった。だがその一言に残念そうな気持ちとか、憤りを込めた気持ちとか、そんなものは一切含まれていない。それとは逆にどこか安心したような、もう既に納得がいっているような気持ちが感じられた。電話越しだから恐らくだけど、父さんは笑みを零しているんじゃないか、そう思う。
『お前が選んだ道だ、私から何も言うべきことはない。だが1つだけ聞かせてくれ』
「なんだ?」
『どうしてその道を選んだんだ?お前の性格だから、相当迷いに迷ったんだろう?』
ご名答。例え遠く離れていても、息子のことは何でもお見通しって訳か。
そしてこの質問は絶対に飛んでくると予測していた。道を選択するだけなら誰でもできる。だから重要なのは、その未来に掛ける想いと、その先の展望だ。
「他人に聞かせたら盛大に呆れられる理由なんだけどな。俺は――――」
そう、これが俺がこの道を選んだ最大の理由。
「俺はただ、穂乃果たちとずっと一緒にいたかったから。それだけだよ」
呆れてもらっても構わない、笑ってもらっても構わない。誰もが単純にして簡素な理由だと思うだろう。
でも俺にとってはこれが全てなんだ。穂乃果たちと、自分の恋人たちとずっと離れず一緒にいたい。ただこれだけの理由。
今日穂乃果たちと話して1つ分かったことがある。それは俺の人生がもう俺だけの人生ではないということ。俺の隣には常にμ'sがいて、俺がアイツらに告白した時点でもう同じ道を歩んでいるんだ。
ことりは言っていた、誰かに甘えないことは誰かに頼ってはいけないことではないと。
海未は言っていた、正解の道を選ぶのではなくて自分の選んだ道を正解にしろと。
穂乃果は言っていた、
その時、俺は思い出したんだ。俺は穂乃果たちと一緒に未来を歩み、例え途中で障害があったとしても、取り合って共に乗り越えていくって誓ったことを。頼る、ひたすらに彼女たちを。そして彼女たちと共に選んだ道を幸福だと思えるように、これからも突き進む。これが俺の考えだ。
そもそもの話、自分1人で人生を歩もうなんて考える必要さえなかったんだ。もしまた自分の未来を決断する時があったら、その時は彼女たちと一緒に迷えばいい。だってもうこれからずっと一緒にいるって決めたんだから。
『実にお前らしい理由だ。その言葉だけで納得したよ』
「父さん……悪い。父さんの示してくれた道も魅力的だった。だけど、俺はそれ以上に穂乃果たちの傍にいたいんだ。考えが浅はかで子供かもしれないけど、俺はこの未来以外有り得ないと思ってる」
『謝ることはない。お前が選んだ道なら、私はどんな道でも期待しているよ。その代わり彼女たちを、ずっと笑顔にしてやるんだぞ』
「あぁ、もちろん!!」
もう選択した。もう戻れない。戻るつもりもない。俺はずっと、彼女たちの隣にいると決めたんだ。他の誰かの人生を自分に重ねる。それに何の抵抗もない。だって俺たちはもう人生を共に歩むと決めた、
新たな一歩を踏み出した俺は、彼女たちの笑顔を1人1人想像しながら、更なる決意を固めた。
どうでしたでしょうか久々のクソド真面目な回は(笑)
そもそもこの話が物語にガッツリと絡むというわけではないのです。自分がただ真面目な回、真面目な文章を書きたかったからという至極単純な理由でした(笑)
元々今回は零君の葛藤について書きたかったのですが、成長した穂乃果たちを書きたかったという側面もあります。今まで救う側だった零君が、今度は穂乃果たちに救われる……なんていい展開!!
そして何より、今の零君と穂乃果たちの絆の強さを書きたかったのです。本当はμ's全員を出したかったのですが、それをしてしまうと4、5話平気で使ってしまうので、今回は零君と同級生で一番一緒にいる時間が長い幼馴染組に頑張ってもらいました。当の本人たちは自分の言いたいことを言っているだけで、頑張っているなんてさらさら思ってないでしょうが(笑)
次回は穂乃果と凛回の予定。テーマは中二病!?
新たに高評価を下さった
シグナル!さん、レイン0012さん、Re:A-RISEさん、Dronesさん、マメちさん
ありがとうございました!
Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia