ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はまさかのツバサ回!
 この小説における彼女のキャラは私も大好きなので、この話もかなりのボリュームになってしましました。もちろんあんな展開やこんな展開も!?


音ノ木坂学院 ツバサ参る!

 

「ということで、今日は特別講演の講師として、スクールアイドル"A-RISE"の綺羅ツバサさんをお招きして、芸能界のお仕事についてお話して頂きましたーー!!」

「どうもありがとうございました!是非よろしければ私たちのライブ、見に来てくださいね♪」

 

 

 生徒会長である凛の締めくくりの言葉とツバサの挨拶で、講堂に拍手と歓声が巻き起こる。

 

 先程凛の紹介にもあったが、今日はあのトップスクールアイドルである"A-RISE"のツバサが直々に、音ノ木坂学院の特別講演の講師としてやって来た。実は俺たち生徒全員は今日の講演の講師が誰なのか全く知らされてはいなかったので、ツバサが舞台袖から現れた時は他の生徒の誰よりも驚いた。

 

 もちろん"A-RISE"はメディアに取り上げられるほど注目されているグループなので、この学院の生徒にも当然ファンは多い。さっきから聞こえる歓声も『ツバサちゃーーん!!』など、講演とは全く無関係な熱い声援ばかりが聞こえている。まるでさっきまでA-RISEのライブでも見ていたみたいだなコイツらのテンション……。

 

 

 そして俺の隣で講演を聞いていた穂乃果たちも、周りのテンションと何ら相違はなかった。

 

 

「まさかツバサさんが来てくれるなんて……スクールアイドルのお話もいっぱい聞けたし、ためになったね!」

「お前ずっと目輝かせてたもんな。やっぱスクールアイドル同士分かり合えるものなのか」

「それ以前に芸能界の話なんて中々聞けるものではありませんし、最近μ'sもメディアに取り上げられることはありますから、知っておいて損はないかと」

「A-RISEはもうテレビや雑誌にもたくさん出てるからね。ことりもたくさん勉強させてもらったよ」

 

 

 俺にとってはふ~んなるほどレベルの話だったが、穂乃果たちにとっては思わぬ収穫だったらしい。同じ生徒会で舞台袖に立っていた花陽なんて、目をギラギラさせながらペンとメモ帳を持って常に何かを走り書きしていたし……ツバサも光ってたが花陽も相当インパクトあったな。

 

 そしてこのことをにこが知ったら俺たち首を絞められるんじゃないか。アイツもA-RISEの大ファンだし、今晩電話で延々と今日の講演の内容を話すよう強要されそうで怖い。これは確実に寝かせてもらえそうにないな……。

 

 

 そんなこんなで拍手と歓声(というより声援)に包まれながら、講演は終了した。

 どうせならどうして音ノ木坂にまでこんな話をしに来たのか、その理由を聞きたくはあったのだが、流石に忙しいだろうしすぐに帰っちまうだろう。まあ後から電話で聞けばいいか。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「失礼しま~す」

 

 

 俺は気の抜けた声で職員室の扉を開けた。

 あの講演が終わったあと、笹原先生からの呼び出し(というよりもはや命令)でここへやって来た次第だ。

 

 また俺何かやっちまったのかと内心ビクビクしている。心当たりがないことはないけど、今日一日は割りと真っ当に生活をしていたはずだ。先生の授業でウトウトしていたこと以外、逆鱗に触れるようなことは一切ないと思ったのだが……また残虐な処刑(主に頭を殴られることによる脳細胞の死滅)が行われるのか。

 

 

 なんてビビっていると、笹原先生の隣にこの学院の制服ではない女子生徒がいることに気が付いた。

 というよりコイツは――――!!

 

 

「つ、ツバサ!?」

「あっ、零君だ!やっほ♪」

 

 

 ツバサは持ち前の笑顔で俺に手を振りながら挨拶をする。

 これが営業スマイルというやつなのかそうでないのかは別として、女の子の笑顔に簡単に惚れてしまう俺にそんな明るい表情を向けないでくれ!!μ'sという彼女がいるのにお前に靡いてしまうだろ!!

 

 ていうかトップスクールアイドルということもあってか、やっぱルックスもスタイルもいいし、何より普通に可愛いんだよなツバサって。あっ、これ別に浮気とかじゃないから!!男なら可愛い女の子に見惚れるのは当然だろ!?

 

 

「どうした神崎、さっきから頭を振って」

「い、いやなんでもないです……それより、どうして俺をここへ?まさかツバサの前で俺を公開処刑ですか?相当ドSですね先生も」

「そうか、お望みとあらばそうしてやってもいいが」

「やだなぁ~冗談ですよ先生!だから教科書の角を振り上げるのやめてもらていいですかねぇ!!」

 

 

 ほ~らすぐに暴力に走る!!まあ先生は秋葉が在学していた頃に彼女の副担任だったみたいだし、俺たちとの因縁は相当深い。つまり先生は"神崎"に対してストレスを抱いている訳で、こうなるのも仕方がないのか。俺が卒業しても、あと2年間妹がお世話になります先生!

 

 

 でもまぁ今はそんなことよりも――――

 

 

「そ、それで、俺に用とは……?」

「お前には彼女の案内役をやってもらう。この学院のな」

「えっ、俺が!?だったら生徒会の凛とかにやらせれば……」

「アイツらはアイツらで他に生徒会業務があるんだ。それに引き換えどうせお前は暇だろ?ならば案内してやれ」

「ひでぇ言われようだ……」

 

 

 いくらなんでも俺たち"神崎"に溜め込んだヘイトを解放し過ぎじゃないですかねぇ……。

 それにさっきからツバサはやけにニコニコしてるし、そんなに俺が虐められる現場が楽しいのか?彼女も中々小悪魔的なところがあるし、人の不幸は蜜の味ってか、あぁ?全くいい性格してやがる。

 

 

「よろしくね、零君♪」

 

 

 そして勝手に決まってるっていうね。

 俺も聞きたいことがあったから別にいいんだけど、またなんで俺なんだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「外から何回か見たことはあるけど、こうして校舎内を歩くのは初めてだなぁ~。私たちの高校とは随分違うのね」

「お前なぁ、あんな最先端技術が詰め込まれたUTXと、こんなオンボロの音ノ木坂を比べんじゃねぇよ。勝負どころか、こっちは初めから土俵すら上がれねぇよ」

「あはは!でも私は好きだよ、この学院の雰囲気」

 

 

 職員室を出た俺たちは、とりあえず適当に校舎内をブラブラと適当に歩く。いくら歴史が深い学院だと言っても、特段よそからやって来た人様に紹介するような施設や教室がある訳ではない。だから何故コイツが学院の案内を頼んだできたのかが謎なのだが、彼女が楽しそうならばそれはそれでよかったのだろう。

 

 

「この学院からは活気が伝わってくるっていうのかな。先生たちも生徒たちも楽しそうなんだよね」

「そうなのか?全然分からないけど」

「零君はここの生徒だから、自分の身近な雰囲気って案外気付かないものなんだよ。でも外から来た私にはよく分かる、この学院の暖かくて元気な雰囲気が。これもμ'sのおかげだね!」

「ふ~ん、そんなものなのか」

「あーー!!興味ないって顔してる!零君顔にすぐ出るんだからぁ~」

「興味ない以前に俺には分からないからな。そしてそれ、前に穂乃果たちにも言われた」

 

 

 どうやら俺の機嫌やテンションは穂乃果と同じくらい、もしくはそれ以上に表情に出やすいらしい。なんか心の中を読まれているみたいで少し恥ずかしいんだよな。だがそれはもう今更のことだし、別に治そうとは思わない。好きなだけ俺のイケメンな顔を見るがいいさ!

 

 

「でも笹原先生はどうして俺をお前の案内役に任命したんだろうな?凛たちは生徒会で忙しいし楓たちはまだお前との付き合いが短いから無理だとしても、穂乃果たちでも良さそうなのに」

「それはね、零君に案内役をお願いしたいって、私が笹原先生に頼んだからだよ♪」

「えっ、どうして俺?」

「う~ん、ただ単に私が零君とお話したかったからかな。最近忙しくてロクに電話もしてなかったし」

 

 

 なんかこの会話だけ聞くと、遠距離恋愛をしている恋人同士の話に聞こえるな。しかも最近電話していないって、確実に破局が訪れる展開のパターンだこれ。もちろん俺とコイツは恋人同士でもなんでもないから関係のない話だけど。

 

 

「そ、それに……」

「それに?」

 

 

 すると、急にツバサは俺から顔を背けてしまった。あれ、もしかしてさっきの言葉口に出ちゃってた?いやそんなことはないだろう。そして心なしか、彼女の頬がほんの少しだけ染まっているようないないような……気のせい?

 

 

「まあいいや!そういえば零君は休日とか何してるの?」

「急に話題変わったな……俺インドア派だし、休日は家にいるよ。そもそも遅くまで寝ていることが大半で、起きてもPC弄ったりゲームしたりするくらいかな」

「ふむふむ、休みは暇ってことね」

「俺は暇じゃないんだが……」

「世間ではそれを暇って言うの」

 

 

 さっきまではしおらしかったのに、今はやけに嬉しそうな表情をしてやがる。見た目でここまで態度があからさまなくせに俺を馬鹿にしてたのか……お前も大概だっつうの。

 

 

 するとここで俺の隣を歩いていたツバサが、突然俺と向かい合った。そして俺の元へと近付いてくると、下から俺の顔を覗き込むように上目遣いで見つめてくる。トップスクールアイドルだからだとか、そんなものは関係なく、俺はただ綺羅ツバサという1人の女の子の顔を間近で見てこう思った。

 

 

 綺麗で可愛いと。

 

 

 そして――――

 

 

「じゃあさ、今度の休みに私とデートでもしてみない?」

「へ……」

 

 

 な、なにコレ……俺、誘われてる?あのトップスクールアイドルのA-RISEのリーダーで、もはやメディアにも取り上げられるほどの魅力を持った彼女に俺、誘われてる……?ま、マジで……!?それ以前にこんなに綺麗な女の子からデートのお誘い……?う、嘘ぉ!?

 

 

「お前、い、いきなりそんな!?」

「あはは!慌てすぎ慌てすぎ!」

「そりゃああんな風に誘われたら、男なら誰でも動揺するって……」

「私がこんな風に誘うのは零君だけだから……」

「へ……!?」

 

 

 なになになになになになに!?!?もしかして逆ナンですか!?それ以上に脈アリみたいなこの言動、本当に勘違いしてしまうぞ……。それにさっきから周りの目線が痛いよ!ただでさえ一緒に歩いていて目立つのに、こんな恋愛ドラマみたいなことをされたら余計に目立つって!!

 

 ツバサは俺をからかっているのか思っていたのだが、本人も顔を赤くしたままその場を動こうとしない。これって本気?それとも演技!?冗談なら冗談と早く言ってくれ!!俺の心臓が破裂する前に!!

 

 

「それじゃあ次はどこを案内してくれるの?」

 

 

 えぇっ!?さっきの話題終わり!?俺のこの高ぶった心はどう発散すればいいんだよ!?でも周りの目もあるし、ツバサは意図的にこの話題を終わらせてきたみたいだから、これ以上さっきのことに触れるのは場違いだろう。うぅ~でも気になるぅ~!!電話でも聞きにくい内容だし……。

 

 

 その時、周りの目線が更に増えたことに気が付いた。ツバサが帰らないで校内に残っていることをどこからか聞きつけたのか、俺たちの周りに生徒たちがゾロゾロと集まってくる。もう放課後なのにまだこんなに生徒が残っていたのかよ。大方ツバサファンだから講演が終わったあとも彼女の話にうつつを抜かしていたんだろうが、まさかこんなことになるなんて……。

 

 

「す、すみませんサイン貰えますか?」

「僕も!僕もお願いします!!」

「私も私も!!」

「お、おい勝手にそんな!!」

 

 

 ツバサのファンの人たちが一斉にツバサに群がった。俺が何とか静止しようとするも人の波が押し寄せて、俺一人ではただ後ろに流されてしまうだけだ。更にこの騒ぎを聞きつけた奴らも現れたみたいで、どうやら彼女のサインを貰えるというデマが拡散しているらしい。全くコイツら、獲物を狙うハイエナみたいに群がりやがって……!!

 

 

「おい、サインだってよ!」

「えっ、もらっていいの!?」

「お、俺もください!」

「私も!」

 

 

 そしてさっきよりも多くのファンの大群が押し寄せてきたことで、俺はその波から押し出され、ツバサは廊下の隅にまで追い込まれて俺たちは離れ離れになってしまう。いくら大勢のファンに囲まれることに慣れている彼女といっても、これだけ大挙として押し寄せられたら敵わないだろう。現に今、彼女はファンたちに押し潰されそうになっている。

 

 

「ツバサ!!」

 

 

 人の波の隙間から彼女の息苦しそうな表情を見て俺は、反射的に身体が動いていた。

 

 

「やめろお前ら!!」

 

 

 俺は人の波を掻き分け、ツバサに向かって右腕を伸ばす。ツバサは驚いたような目で俺を見つめた後、ゆっくりとその手を伸ばしてくれた。俺も必死に彼女の手を目掛けて自分の手を伸ばし、遂に俺の彼女の手が――――ギュッと握られた。

 

 実は彼女の手を握ったのはこれが初めてだったりするし、そもそも俺は女の子と手を握ること自体緊張するウブ野郎なのだが、今は彼女を助けることに夢中でそんなもの考えてすらいなかった。

 

 俺はツバサの手を握り締めた後、やや乱暴に彼女をファンたちの波から引き抜く。その勢いでファンの大群は大きくバランスを崩すが俺にとってはどうでもいい。しかしこのままだとまた後からきたファンに彼女が狙われかねないので、俺は荒波から引き抜いた彼女を自分の身体に抱き寄せ、そのまま彼女を抱きかかえその場から逃げるように走った。

 

 傍から見たらただのお姫様抱っこなのだが、もちろん今の俺はそんなことで羞恥を感じている余裕すらなく、頭の中はツバサを無事にこの場から退散させること、ただそれだけだ。

 

 

 だからその時、彼女の顔が真っ赤に染め上がっていたことにも全く気付くことはなかった……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「はぁ、はぁ……」

「ご、ゴメンね零君!私のせいなのに助けてもらっちゃって……」

「なんで何もやってないお前が謝るんだよ」

「だって私のファンのみんなが迷惑掛けちゃったし……」

「むしろ一番迷惑してたのはお前だろ。だから謝られる言われはねぇよ」

「そ、そう、ありがと」

「どういたしまして。でもあの大群に見つからずこの学院から去るのは無理そうだな……」

 

 

 結局あの後、俺たちは空き教室に逃げ込んだ。鍵が空いていたのは幸いだが、それは同時にあの大群もこの教室に入って来られるのと同義。アイツら変に目の色が変わっていたし、熱狂的なファンもいたようだから今頃血眼になってツバサを探し回っているだろう。そうなればこの教室からのこのこ出ていくのは得策ではない。見つからないことを祈って、嵐が静まるまで待機するのが正解か。

 

 

 すると教室の外から足音が聞こえてきた。それも1人や2人じゃない、結構な数の足音が聞こえる。もうここまで来たのか……?あれだけ数がいれば、それほど広くないこの校内を探し回るのは屁でもないってことかよ!

 

 しかしこの教室は空き教室のため机の数も少ないし、隠れることのできる場所がない。つまり教室の窓を覗かれた時点でアウトだ。どうする……。

 

 

 ――――ん?そうだ、そういえばあそこなら!!

 

 

 この前、海未とこの教室を掃除した時に分かったことなのだが、この教室の掃除用具箱の中身はすっからかんだったな。だからあの時はわざわざ他の教室から箒を持ってきたんだ。ということは、今もこの掃除用具箱の中は――――

 

 

「ビンゴ、やっぱり何も入ってないな。ツバサ、悪いけどちょっとこの中に隠れていてくれないか?」

「えっ、掃除用具箱に!?」

「お前の体型なら余裕で収まるだろうし、あの大群をやり過ごすまでの間だけだ。頼む」

「それはいいけど、零君はどうするの?」

「ま、まぁ何とかするさ……」

 

 

 その瞬間、ツバサが俺の手首を掴んだ。彼女の真剣な表情を見るに、恐らく俺が何の考えもなしにあの大群の相手をすることがバレているのだろう。

 

 

「零君も一緒に隠れよ。でなきゃみんなに追い詰められちゃうよ。ファンの中には結構熱狂的な人もいるから……」

「で、でも俺と一緒に隠れるなんて!!」

「えぇい!!もうみんなが来ちゃうよ!!早く!!」

「お、おい!!」

 

 

 ツバサは俺の手首を掴んだまま俺の身体を無理矢理引っ張る。そして俺を掃除用具箱に押し込んだあと彼女も俺に抱きつくように入ってくると、そのまま片手で掃除用具箱の扉を――――完全に閉めた。

 

 

 な、何なんだこの状況は!?あの綺羅ツバサと2人きりで、しかも抱き合いながら掃除用具箱に押し込められるなんて、一体どんなご褒美!?さっきまで走って少し汗をかいていたためか、女の子特有の甘い熱気が掃除用具箱内に充満している。

 

 それに正面から抱き合っているせいで、俺たちの胸と胸がピタッと密着している。もちろん彼女の胸が俺の胸で形を変える感触が直に伝わってくる訳で、こんな状況にも関わらず興奮が高まってきてしまう。

 

 女の子にしても小柄な体格の彼女だが、こうして密着するとその胸が意外と大きいことがよく分かる。俺の手にマッチする、穂乃果や真姫の大きさと同じくらいだ。身体に押し付けられる胸のこの柔らかさこの弾力。これが穂乃果たちだったらもう既に俺の手が伸びているだろう。今でさえ触ってみたいと思うくらいなんだから……。

 

 

 ふと掃除用具箱の扉の隙間から教室の窓を見てみると、丁度ツバサのファンの大群がこの教室を横切るところだった。ここで下手に音を立ててはツバサの好意も全て水の泡と化してしまう。ここは何とか耐えないと!!

 

 

「は、あっ!」

「つ、ツバサ……?」

「零君、あまり動かないで……」

「そう言われても、お前が後ろに倒れたらここから飛び出してしまうし……」

「で、でも足が……んんっ!」

 

 

 よく見てみると、俺の足が丁度ツバサの脚と脚の間に挟み込まれている。そして俺の膝上の部分が彼女の大切なところをグイグイと押し込んでいることに今気付いた。できるなら離れてやりたいけど、この狭い掃除用具箱の中ではまともに身動きすら取ることはできない。

 

 

「ひゃっ!れ、零くぅん……」

「そ、そんな声出すなよ!」

「だって零君が動くから……あっ、そこはダメ……!!」

 

 

 俺も男だ、ツバサような可愛い女の子のこんな声を聞かされては勝手に身体が熱くなってくる。もうそれほど彼女に興奮してしまっているのだ。そしてそれは彼女も同じことらしい。ずっと抱きしめ合っているから分かるのだが、彼女の身体も段々と熱を帯びてきている。同時に肌も汗で濡れてきて、お互いにその肌が触れ合いぐっしょりと密着するのが物凄く淫らに感じる。

 

 

「はぁはぁ、零君……」

 

 

 何故かツバサは俺の首に腕を回して更に密着してきた。この状況で吐息を漏らして更に自分の名前をそんな色っぽく呼ばれると、例え目の前の女の子が自分の彼女でなくても、このまま掃除用具箱の扉を突き破って押し倒したくなる衝動に駆られる。

 

 だがもしこの姿を誰かに見つかってしまえば、彼女自身のスキャンダルにも関わる。ここは何とか耐え凌ぎたいが、押し付けられる彼女の肌、吐息、香り、そして胸――――その全てが俺の理性に襲いかかる。

 

 彼女はギュッと俺を抱きしめてくるので、俺からも抱きしめ返さないと身体のバランスを崩しそうなのだが、イマイチ彼女のどの部分を触って抱きつけばいいのかが分からない。胸元辺りを触っても腰を触っても、どちらも彼女から色っぽい嬌声が漏れ出して俺自身が欲求をそそられてしまう。

 

 だからといって太もも辺りを触る訳にはいかないし、結局軽く背中に手を回しているだけだけど、俺が軽く抱きついている分彼女は思いっきり俺に詰め寄ってくる。

 

 ど、どうしてコイツはこんなに積極的なんだ……!?彼女も強烈な熱さを感じているはずなのに、何故ここまで俺に抱きつく?熱い……だけど軽く抱きついていても分かる彼女のカラダの柔らかさ。熱いけど抱き付いていたい――――ん、そうか、もしかして彼女も同じ感覚を共有しているのかも……?

 

 

「私がここに来た理由はね……」

「つ、ツバサ?」

 

 

 ここで唐突にツバサが口を開く。それもさっきみたいな嬌声ではなく、普通に俺に語り掛けてきた。

 

 

「零君に会いたかったからなの。最近は忙しくて電話もしてなかったし、久しぶりに零君の姿を見て声を聞きたいなぁと思って……」

「そ、そうなのか……」

「ねぇ、最近私の声を聞いてなくて寂しいなぁとか、思ったりした?」

 

 

 な、なんだよその質問は……?なんだろう、適当に答えてはいけない、そんな気がする。

 ツバサは俺の目を真っ直ぐ見つめたまま一切逸らそうとしない。この状況を少しでも忘れたいからという苦し紛れの会話ではなく、コイツは本気だ。本気で俺に問いかけている。

 

 

 だったら俺も素直な気持ちで――――――

 

 

「寂しかったっていう気持ちはないけど、声を聞きたいとは思ったよ。でもお前ら忙しそうだし、無理にこっちから電話をするのはよくないかなぁって。だから突然だったけど、こうしてまた会って話ができて楽しかったよ」

「そう……そっか」

 

 

 ツバサは優しく微笑むと、俺の首に回していた腕を解く。そして背中で押し出すように、掃除用具箱の扉を開け放った。その瞬間に冷たい空気が一気に掃除用具箱の中に流れ込んできて、さっきまで汗をかいていたせいか大きく身震いしてしまう。

 

 

「おぉ~涼しい~♪」

「お前、さっきの質問……」

「もう廊下には誰もいないみたいだね。ならそろそろ帰ろっかな」

「そ、そうか……なら一応念のため穂乃果たちを頼んで先生を連れてきてもらうか。一応な」

「うん、ありがと♪」

 

 

 質問の意図を聞こうとしたけど途中で遮られてしまった……恐らく彼女にとってはこれ以上触れたくない話題なんだろう。もしかして、答え方を間違えた?でも自分の素直な気持ちを言葉にしただけだし、そもそも感の鋭い彼女に嘘偽りの言葉なんて通用しないだろうしな。

 

 

 その後、穂乃果たちが先生を呼んできてくれたので俺の出番はここで終了。裏口からこっそり帰宅するツバサを見届けた。やけに満足そうな表情をして去る、彼女の背中を。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 翌日、UTXにて。

 

 

「どうだったツバサちゃん、講演会の方は。いやむしろツバサちゃんの目的は零くんだったかぁ~♪」

「も、もうっあんじゅ!それは言わないでよ!!」

「でも合ってるだろ?昨日の君のテンションを見ていたら、普段とは尋常じゃないくらい高かったからな」

「英玲奈まで……ま、まぁ楽しかったよ!久々に零君とも話せたし。行ってよかったぁ♪」

「ツバサちゃんが楽しそうでなによりだねぇ~」

「ただ零と話しただけではなさそうだな。彼女の"心"をくすぐる何かがあったのだろう」

 

 

 

 

 ――――と、A-RISEの間でこんな会話があったそうな。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 そして――――

 

 

「零君はツバサさんと空き教室で何をやっていたのかな?かな?」

「まさか手を出したりはしてないでしょうね……」

「零くんとツバサさんが空き教室で……なんてエッチな響き!!」

「とりあえず落ち着けお前ら!!」

 

 

 

 

 ――――と、何故か俺が責められる展開もあったそうな……って、なんでやねん!!

 




 もう既にフラグがビンビンに……


 そんな訳で、今回はツバサ回でした!
 本当はA-RISEのメンバーを3人共メインで出したかったのですが、今回は私が密かに好きなツバサさんに重点を置きました。アニメでは大物感漂う先輩キャラにしか見えないのですが、こうして友達関係になると平気で冗談交じりの発言をしてきそうですよね。そこが可愛いところなのですが。

 そしてあからさまにフラグを立てていますが、これが回収される日は来るのだろうか……?自分でも定かではないというね(笑)

ちなみに現時点でのフラグの状況はというと――――

穂乃果:回収済み(恋人)
ことり:回収済み(恋人)
海未:回収済み(恋人)
花陽:回収済み(恋人)
凛:回収済み(恋人)
真姫:回収済み(恋人)
絵里:回収済み(恋人)
希:回収済み(恋人)
にこ:回収済み(恋人)
雪穂:回収一歩手前(恋人候補)
亜里沙:回収一歩手前(恋人候補)
楓:回収一歩手前(恋人候補、実妹)
ツバサ:フラグ建設
英玲奈:なし
あんじゅ:なし
こころ:フラグ建設?(中学性)
ここあ:フラグ建設?(小学生)
秋葉:???(実姉)

こんな感じです。こうして見ると、零君のハーレム具合が一発で実感できますね(笑)


次回は……あのことりちゃんの講座の上級編です。遂に来てしまったのか……


新たに高評価をくださった

凄まじき戦士さん

ありがとうございました!


Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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