3連続の一発目は雪穂からです。それではどうぞ!
12月23日。クリスマスイブの直前だけあってか、もう既に街はクリスマスムード一色だ。電飾やライトアップのせいで、夜だというのにこの明るさは尋常じゃない。下手をしたら昼と間違えそうなくらいだ。
街を練り歩く人たちは大半が家族やカップル、友達などのグループで、この人混みを見ているだけで非リア充は卒倒してしまいそうだ。まだクリスマスイブの前日だっていうのに、この盛り上がり具合は異常だな。俺は人混みが嫌いだから、クリスマスが近付いてくると家に引き籠もるのだが、クリスマスってのは毎年こうなのか?来年からは大人しく非リア充な生活を送りたいもんだ。
既にクリスマス気分の連中に不平を漏らしている俺が、こうしてその人混みに混じって街に繰り出している理由はたった1つ。
――――――告白。
前々からこの時期に1年生の3人に想いを伝えようと決めていた。秋の始まり頃には3人の方から告白をしてもらったため、今度は俺の番って訳だ。そして折角想いを伝えるのなら、多少なりともこうしてムードがあった方がいい。だからクリスマスの時期まで俺から返事は引っ張ってきたのだ。そのせいでアイツらを無意味に待たせることになっちまったけど……。
結局この前から唸りながらも悩んでいたプレゼントや告白文などは一切考えないことにした。穂乃果たちからそう促されたってのもそうだけど、やっぱ告白するなら自然出てきた想いを伝えるべきだよな。穂乃果たちへの告白の時はそんなこと一切迷うどころか考えもしなかったのに、今はあーでもないこーでもないと無駄に思考を巡らせるようになってしまった。まあそれは悪いことではないが、穂乃果たちと付き合い始めて決断力は鈍ったと感じる。でもそれだけ女の子の気持ちを考えるようになったと思えばプラスかな。
「思ったより人が多いな。これは待ち合わせ場所しくじったか?」
まだ彼女との待ち合わせ場所へ向かう途中なのだが、すれ違う人、横切る人、俺と同じ波に乗って歩いている人、どれを取っても人がごった返していている。世間ではこんなにリア充がいたのかと実感すると共に、ちゃんと
そして待ち合わせ場所へと差し掛かったのだが、案の定人でいっぱいだった。定番の待ち合わせスポットは人が多いから敢えて避けたのだが、みんな考えることは一緒だったか。仕方ないので周りを見渡しながらアイツを散策することにする。
「これだけ人がいたら、探すのも大変だな。これから待ち合わせをするなら、大人しく人がいなさそうな公園とかの方が――――いやいや、クリスマスシーズンの夜の公園なんて想像したくもねぇ。どう考えてもヤり場だろうし……」
"聖夜"は"性夜"と解釈もできる。ここで先日ことりに『零くんなら"聖夜"を"性夜"に変えてしまいそう』と言われたことを思い出し、速攻で脳内からデリートした。今の俺ならこのムードに当てられてマジで変えてしまいそうで怖い。人の気配がしないところには行かない方がいいかもな……。
そんなこんなで探し回っていると、ようやく俺が求めていた彼女の姿を見つけた。
「おーい!」
「あっ、零君!」
「悪い!待たせたな、雪穂」
俺は街灯にもたれ掛かっていた雪穂の元に走り寄る。
彼女はブラウンでショート丈のダッフルコートを着用し、下はボルドーでミディアム丈のフレアスカートだ。何だか色のチョイスが彼女らしい落ち着いたコーディネイトだな。いつもファッション誌を読んでいる彼女のこと、自分に合った色彩を理解しているようだ。まあ、ファッションセンス皆無の俺が上から目線で言うべきことではないが。
しかし、俺はそこで驚いたことがある。
「お前がスカートなんて珍しいな。寒くないのか?」
「そりゃあ寒いです。猛烈に寒いです。でも零君がスカートを穿いている女の子が好きだとお姉ちゃんから聞いたもので、今日は頑張っちゃいました♪」
「マジかよ……」
わざわざ俺のために、寒いのを我慢してスカートを穿いてきてくれたってことなのか。雪穂は普段私服でスカートを着用することは少ない、いや、ないと言ってもいい。スカートを持っているのかどうかすら怪しかったのだが、俺とのデートのために俺好みのファッションをしてきてくれるなんて……なんていい彼女なんだ!!あっ、まだ恋人ではないか。
「お前の私服でスカート姿なんて初めて見たけど、やっぱ普段からファッションに気を使っていることだけはあるな。可愛いよ」
「あ、ありがとうございます……!!いつもは着ない服ばかりだったので、零君に喜んでもらえるのか不安でしたけど……」
「もっと自信を持て!こんなに可愛かったら、誰かにナンパされそうだぞ」
「それは零君が守ってくれるんですよね?」
「当たり前だ。お前は俺のモノだ、どの男にも渡さないし指一本触れさせたりもしねぇよ」
「そ、そそそんなこと急に……!!」
あ、あれ?急に雪穂が顔を真っ赤にして俯いてしまった。もしかしてさっきのが告白だと捉えられてたり……?だとしたら、なんという俺様系の告白だよ!?だが俺も結構俺様系の性格だし、そんな告白でもあり――――じゃねぇよ!!これだけで俺の想いを伝えたなんて思われたくない!!
「熱い……スカートなのに一瞬で身体が熱くなってきました……」
「意外とメンタル脆いのな。とりあえず落ち着け」
「こんなクリスマスムードの中であんなことを言われたら、そりゃあドキッとしますよ!私も一応女の子なんですから……」
「一応ってなんだ一応って。完全完璧に女の子だろうが……」
心が乱れ過ぎているせいか、もはや彼女の言っていることの意味も分からなくなっていた。サラッと口に出した言葉だけで身体が熱くなるなんて、雪穂もしっかりと恋する乙女なんだな。いつもが大人びた雰囲気だから、何故か安心してしまう。そしてまたそのギャップが可愛いんだよ!
「そういやまだ連絡した集合時間より10分も早いのに、お前いつからここにいたんだ?」
「に、20分前からいました……た、楽しみだったんです悪いですか!?」
「そ、そうか……でもむしろ嬉しいよ。本当は男の俺が先に来るべきだったんだろうけどな」
「私が勝手に盛り上がっていただけなので、それは別にいいですよ。でもその分、待ち時間で冷えてしまった身体、零君が暖めてくださいね♪」
「ああ、もちろん。身体だけでなく、さっきみたいに心も燃えるように暖めてやるよ」
そこで俺は左手で雪穂の右手をギュッと握る。手袋もしていないせいか、彼女の手はかなり冷たい。でも手袋をしてないのは、こうしてお互いの手と手で人肌を感じるためだろう。俺もそうするために手袋は外してきた。冬は厚着になるせいで必然的に人肌に触れることは少なくなるから、こうして想いの人と少しでも触れ合っていたい。そう思っていたのはお互い様だったようだ。
雪穂の手を握った瞬間から、周りにたくさん人がいるのにも関わらず、ここが俺たち2人だけの世界のように感じた。身も凍るような冬の夜、幾多の人混みを掻き分けて、ようやく彼女に出会えて繋がることのできた喜び。手を握った直後の彼女の手はかなり冷たかったが、今は唯一の拠り所のように暖かい。
「どうだ?暖まってきただろ?」
「はい。手を握ってるだけなのに、全身も心もポカポカしてきました」
「俺もだよ。いい感じに暖もとれたし、別の場所に移動すっか。流石にここだと人が多過ぎるから」
「そうですね。でもどこへ?」
「そうだな、なるべく人がいなさそうなところ……」
「え゛っ!?」
「……ん?お、おいおい!変な妄想するなよ!?俺はお前と2人きりになれるところを真剣に考えてただけだ!!」
「い、一応分かってます!!全く、変な妄想をするようになったのも、零君の日頃の行いのせいです」
「俺のせいかよ……ん~俺のせいか」
でも人がいなさそうと言っただけで卑猥な妄想をしてしまう辺り、雪穂も相当俺に毒されてるな。俺だけでなくあんな姉と姉の幼馴染を持っていれば、流石にそうもなるか。
しかしさっきまでいいムードだったのに、雪穂のせい(俺のせい?)で崩れちまったじゃねぇか。まあ俺たちにとっては、楽しげなムードの方が性に合ってるのかもしれないが。
「とにかく移動するぞ。一応言っておくけど、変な期待はしないように」
「しません!」
そこで俺たちは改めてお互いの顔を見合わすと、自然と笑みが溢れた。これは雪穂だけに限ったじゃないけど、μ'sのメンツとはこうして冗談を言って馬鹿やり合ったりしているのが楽しい。それができるってことは、心の距離が隣り合わせという証明にもなる。
もちろん、やるべきことはしっかりと成し遂げる。今日はそのためのデートなんだから。
「それじゃあ行こうか」
「はいっ!」
俺たちはお互いの手を更に強く握り、2人並んで歩き始めた。
~※~
「結局ここへ来ちゃいましたね」
「どこへ行くか迷っている間に、勝手に足がこの公園へ向いちまったんだ。仕方がない」
俺と雪穂は街で待ち合わせしていたのにも関わらず、気付けばいつの間にか2人の思い出の公園へとやって来ていた。ここは同棲生活中に雪穂の悩みを受けたり、そして秋に彼女から告白されたりと、俺たち2人だけの思い出がたっぷりと詰まっている場所だ。
周りを見渡してみると人影は一切ない。やはりクリスマス前夜に、こんなちっぽけな公園に来る奴なんていないか。とりあえず俺が危惧していた、"性夜"の行為が行われていなさそうで安心した。しかし街灯が多いとは言えないので、場所によってはかなり真っ暗なところもある。もしかするともしかするかもしれないから、暗いところには近付かない方がいいだろう。男女の野外の営みを見たくなければな……。
俺たちはこれまで何度か座ったことのあるベンチに腰を掛ける。その間もずっとお互いの手を握ったままだ。意図的に握ったままというよりも、もう繋がっていること自体が自然となって特に意識はしていない。俺たちは本能的に相手と1つになりたいと思っているのだろう。
「このベンチに座るのも何回目だろうな」
「そうですね。ここで色々なことがありました、本当に色々と……」
雪穂とはあまり交流のなかった頃からここで合っている。こうして親しげに会話するようになったのは彼女が音ノ木坂学院に入学してからだが、彼女との思い出はそれ以上に長い。ここで何度もお互いの人生の壁や岐路に立ち、手を取り合って共に歩んできた。
こうして思い出の感傷に浸っていると、雪穂への想いも同時に心から溢れ出してくる。そして彼女から告白されたことも――――――
「雪穂」
「は、はい!」
これから俺が口に出す言葉を察したのか、雪穂は改まった態度で俺と向き合った。彼女の翠色の瞳は、さっきまで見てきた街の電飾やライトアップなんかよりも遥かに輝いている。思わず彼女に見蕩れてしまったが、すぐに意識を取り戻して俺も改めて彼女と向かい合った。
「もう結論から先に言う。俺は
――――――お前が好きだ」
その瞬間、雪穂は目を大きく見開いた。そう言われることは分かっていたとしても、実際に口に出して直接言われると衝撃が大きかったのだろう。
「お前は思っていることを押し殺してしまう面倒な奴だから、同棲生活中に悩みを相談してきた時は単純に放っておけない奴だと思ってたんだよ。そう、初めは雪穂を守ってあげたいってだけの想いだった」
「そうだったんですか。それじゃあその時は……」
「ああ。恋愛感情はあったかもしれないけど、全然認識はしてなかったな」
あの時は雪穂が俺の想像以上に弱くて、心に悩みを溜め込んでしまいやすい面倒な性格だから、俺が守ってやろうと思ったんだ。それは恋愛感情ではなく、悪く言ってしまえば俺の我が儘だった。
「だけど、ゲームの世界で雪穂が俺のことが好きだと知った。そこからお前の見方が変わったんだ。そしてこの前の告白。そこでお前の想いを受け取った。あの時はまさか告白されるとは思ってもなかったから驚いたけど、こんな俺を好きになってくれて嬉しかったよ」
「あれは私の想いを素直にぶつけただけですから。思い返してみれば、今ではもっともっと伝えたいことがあります。もう抑えられず心から溢れ出ちゃいそうです」
「俺もだよ。このままお前への想いを吐き出し続けたら朝になっちまいそうだ」
でもまあそれもそれで悪くはない。後で思い出して羞恥で悶えることになりそうだが……。ダラダラと喋り続けてもう雪穂を待たせる真似はしたくない。ここは掻い摘んで、彼女の心に想いをぶつけよう。
「普段のお前は冷めてるけど、時々見せてくれる優しい表情に心を打たれたんだ。こんな先輩でも慕ってくれて、一緒に隣にいてくれるところとか、お前の何気ない仕草や行動に俺は惚れた。いつしか隣にいることが当たり前になって、顔を思い浮かべては一緒に喋りたい、出掛けたい、なんなら傍にいるだけでもいい、そう思い始めている」
一般用語ではないが、雪穂はクーデレ(クール+デレ)な性格だ。俺の冗談も何食わぬ顔でサラッと流すことも多いが、決して俺から離反したりはしない。渋い顔をしながらも俺に付き合ってくれて、時には優しく微笑んでくれたり、時には彼女から冗談で返してきたりと、もう彼女が隣にいること自体が当たり前になってきている。姉の穂乃果のように馬鹿騒ぎはしないものの、雪穂とはゆったりと話しているだけでも楽しい。俺はいつの間にか、彼女の何気ないたくさんの小さな魅力に惚れ込んでいたんだ。
「それくらいお前は俺の心の中を支配してしまっている。お前の存在が膨れ上がってきてるんだ。俺が好きになった雪穂の魅力の1つ1つは小さいけれど、それが集まればどんなに大きい魅力よりも勝る。その魅力が俺の心から飛び出してしまいそうだ。だからもう、お前のいない人生なんて考えられない。ずっと傍にいて欲しい……」
「零君……」
雪穂と同じだ。いざ告白すると自分の気持ちが抑えきれなくなる。このまま変に暴走するより、ここで俺の想いを一気に伝えてやる。
俺はまたしても改めて雪穂に向き直り、彼女の輝く瞳を真っ直ぐ見つめる。彼女もそれに応えるように、そして期待するかのように、俺と目線を一寸のブレもなく合わせてくれた。俺は軽く深呼吸をする。
そして――――――
「お前が好きだ。俺と――――――付き合ってくれ」
もう応えは決まっている。雪穂はそのように微笑む。
「はいっ!よろしくお願いします!!」
雪穂はそう言った瞬間、俺の胸へ飛び込んできた。溢れる想いが我慢できなかったのは雪穂も同じだったようだ。多分俺たちの心は全く同じ、遂にお互いの想いを受け止め合って、そして結ばれた喜びでいっぱいだろう。俺も冷静そうに見えるが、実は今にも舞い上がってしまいそうなのだ。
冬の寒さなど微塵も感じない。感じられるのは、雪穂を抱きしめながら伝わってくる彼女の温もりだけだ。
そこで俺は両手で彼女の頬に優しく触れると、俺の胸に埋めていた彼女の顔を俺の顔と向き合うように持ち上げる。彼女の翠色の瞳は、今日一番輝いていた。
「いいか……?」
「はい……」
俺は僅かに頬が染まって蕩け気味の雪穂の表情に釣られるように、彼女の唇に自分の唇を――――――そっと押し当てた。
穂乃果たちとは幾度となくキスをしてきた。だがそれだけのキスを経験してきても、雪穂とのキスは全く別の味がする。今までに味わったことのない、やさしくて穏やかで、そして暖かくて親密な気分になる。そのことを何かのかたちで残しておきたいと無意識に考えていたのだろう、お互いの唇を求め、だけど激しくならないように、俺たちは沈黙のまま口付けを続ける。周りの世界が切り離され、俺たちだけの世界が形成されている雰囲気だ。
口付けの最中にお互いの目が合う。この時、俺たちは恋人同士になったんだと実感できた。
そして、たっぷりお互いに自分の愛を注ぎあった後、俺は彼女の唇から自分の唇を話した。若干引いている糸が夜の闇に光って非常に艶かしい。
「恋人同士になったんですね、私と零君。これまで今日という今日の日を夢見てきたんです。零君とこうして抱き合えること、そして唇同士で繋がること――――――もう嬉しさで何が何だか分からなくなってます」
「俺もだ。いつかはこうなるって分かっていたのに、いざやってみると現実か疑ってしまいそうだな。でもこれは現実。もう俺とお前は恋人同士、もうこの事実は覆らない」
「本当に結ばれたんですよね…………零君!!」
「おっと!また急に抱きついてきてどうした……?」
「これからもずっとずぅ~っと一緒ですよ?約束ですからね?」
「雪穂……あぁ、当たり前だ!」
俺たちは抱きしめ合いながら、再びお互いの手を握る。もう一生この手を離さない。これからはずっと一緒だぞ、雪穂。
純愛モノが久々すぎて、普通にイチャイチャさせる方法を忘れれたの巻()
今回は告白回の第一発目、雪穂回でした。
雪穂と次回の亜里沙は何気に『非日常』時代からフラグを立てていたので、これまでの話数を総計すると、180話越しに結ばれたことになります。そう考えると引っ張りすぎたかなぁと思っちゃいます(笑)
しかしこれまでにしっかりと雪穂の気持ちを描写できていたので、私としては作戦通りに進んでいます。
雪穂からの告白回では"手を繋ぐことで1つになる"という題材をメインにしていたので、今回も2人が手を繋ぐ描写を目立つようにしてみたのですが、気付いた読者さんはいらっしゃるかな……?
次回はさっきネタバレをしてしまいましたが亜里沙回です。
そしてここからは今までの宣伝のラストを。
以前から告知していたラブライブ!サンシャイン!!の企画小説"ラブライブ!サンシャイン!!アンソロジー『夏――待ちわびて』"が、5月1日より始動し、先日すべての投稿が終了しました。
私は最後に投稿されている、『奴隷告白~Aqoursハーレムの主になった~』というサブタイトルで執筆しました。よろしければあちらの小説に是非ご感想をよろしくお願いします!
―小説のURL―
https://novel.syosetu.org/84310/
新たに高評価をくださった
りんりんお燐さん、特三型さん、炒飯大盛りさん、てぃーのよしさん
ありがとうございました!
先日、☆10評価が100件を達成しました。気付けばハーメルン内の全作品で一番平均評価が高い小説となっており、それを知ったときは目玉が飛び出そうでした(笑)
これからもこの小説をご贔屓に、評価を付けたことないよという方は是非付けてくれると嬉しいです!
Twitter始めてみた。
https://twitter.com/CamelliaDahlia