「な~んでこんな気持ちになっちゃったかなぁ~……」
私、神崎秋葉は1人、研究室で悩んでいた。
きっかけは、掃除中に見つけてしまった1通の手紙。私の黒歴史がふんだんに詰まっている、決して人に見られてはならないもの。だけど数ヶ月前に楓ちゃんに見つかって、物凄くからかわれた苦い過去を生み出した悲劇の手紙。
そう、彼への――――零君へ向けて書いたラブレターだ。
これを書いたのは私も彼も小学生の頃、ほんの出来心で遊びのつもりだった。小学生特有の、気になる子を困らせたくなる行動と原理は同じだと思う。その時はただ面白くて、零君の慌てる表情が見たくて書いたものだったけど、未だ手元に置いてあるということは、まだそれなりに未練が残っているのだろう。
この歳になっても気になりはする。でも多分"恋"ではない。
私の中ではそう結論を出して、それ以上の感情を生み出してしまわないように心を整理した。
彼と一緒にいてドキドキするとか、鼓動が高鳴って胸が痛いとか、そんな思春期女子のような純粋な想いは一切ない。だけど傍にはいたい、そう思っている。私の実験モルモットにして楽しみたいとか、そんな邪な気持ちじゃない。傍にいて欲しい、あるのはそんな単純な欲求だけ。
好きなんだと思う、彼のことは。もちろん"恋"ではなく家族として、姉弟としてだけどね。そうでもなければ、この私が誰かに興味を持つことなんて有り得ないんだから。
中学も高校も色々な男に告白されてきた。イケメンだったり秀才だったり、スポーツマンだったりお金持ちだったり――――もうこれ以上にないってくらいのステータスを持つ男たち。だけど、私の心にちっともその告白は響かなかった。私自身、男に興味がないからかもしれない。大学に入って自分の研究室が与えられ、そこから研究に没頭するようになってからは、男たちからの告白も減って清々している方だ。
感情に惑いが出ている理由は、今でも零君が気になっている……からだと思う。正直、自分自身この気持ちがなんなのかは理解できない。世界の頭脳と言われた私が理解不能なことがあるなんて……。
「こんな気持ちになるからイヤだったのよねぇ~彼氏を作るってのはさぁ」
ここまで迷っているなら直接本人に伝えればいい。そうすれば胸につっかえていたものも取れるかもしれない。私自身の性格上、ウジウジと悩んでいるのは性に合わないんだけど、どうしても彼に伝えられない訳がある。
理由なんて単純、彼にはμ'sがいるから。
別に彼に恋をしてはいないけど、今更この時期になって思いを伝えるのは変だし、例え愛の告白じゃなくても彼やμ'sのみんなに勘違いされちゃうかもしれない。それに彼らにまた恋沙汰で無駄に悩ませる必要なんてないしね。
「よしっ、たまには家に帰ってのんびりしますか!お母さんにも顔見せないと!」
あれこれ考えて悩むなんて私らしくないや。私と零君、μ'sのみんなとの距離感は今のままでも十分。それで楽しいんだから全然問題なし!そうだよ、悩む必要なんて全くなかったんだよね!
ないんだよ……ね?
~※~
「ただいま~」
久しぶりに我が家へ帰ってきた気がする。普段は研究室に籠りっきりで、そもそも外へ出ることが嫌いな私には、この家まで辿り着くまでの距離を考えると帰宅すること自体が億劫に思えてしまう。ただ一度家に足を踏み入れてしまえば、研究室にはない安らぎを感じるんだよね。やっぱり零君や楓ちゃんがいてくれるおかげなのか、帰ってきた時に家族が出迎えてくれるとそれだけで安心しちゃうのかも。
「おかえり~って、あっ!秋葉ちゃんやっと帰ってきた!!」
「あっ、お母さん。いやぁゴメンゴメン!最近仕事で忙しくってさぁ~」
「それなら仕方ないけど、私もう明日には向こうに帰っちゃうんだから」
「そうなの!?じゃあナイスタイミングだね!」
「どこが!?ギリギリのタイミングよ全く……」
「アハハ……ゴメンゴメン」
私を出迎えてくれたお母さんは、かなりご立腹の様子。まあお母さんが日本へ帰ってくると知っていながらも、自分の研究に没頭してダラダラと日々を過ごしていた私が言える言葉なんてないんだけどね。
「ようやく秋葉ちゃんともゆっくりお話できる日が来たことだし、ほら早く入って。どうせあなたのことだから、お昼もまだなんでしょ?」
「どうせってなにどうせって。微妙に馬鹿にされているような……」
「昔から1つのことに集中すると、自分のことすらも見失っちゃうんだから秋葉ちゃんは」
「へぇ~。なんでもお見通しってわけ」
「お母さんですから!」
自慢の大きな胸を張って自らを誇示するお母さん。テレビや雑誌で見ると色気満載の女優なのに、プライベートではこういうところが子供っぽいんだよね~。でもそのおかげで逆に包容力があって、近くにいるだけでも落ち着く。なんか気まぐれで家に帰ってきたけど、来てよかったと思うよ。私の心も結構乱れちゃってたし、お母さんがいい清涼剤になってくれそう。
久しぶりの我が家は本当に相変わらずで、綺麗好きの楓ちゃんとお母さんの両方が家にいるせいか、リビングはまるで新居のように整えられていた。零君が1人暮らししていた頃とは思えない、全く別の家みたい。ここまで綺麗だと、ズボラな私にとっては結構萎縮しちゃうのよね。多少雑に散らかっていた方が居心地いいってことあるでしょ。
「そう言えばさぁ、零君と楓ちゃんは?」
「今日は部活だからって学校に行ってるよ。もうすぐ"ラブライブ!"の本戦だからって。休日なのに大変だよねぇ~」
「へぇ~そりゃあ大変だぁ~」
「秋葉ちゃん。あなた一応アイドル研究部の顧問なのよね……?」
「あぁ、そう言えばそんな肩書きもあったようななかったような……」
「顧問がこんな調子だったら、あの子たち本当に大変だぁこりゃ」
毎回「あなたは顧問でしょ」と指摘される度に、忘却の彼方から自分の立場を思い出す。でも私はμ'sが顧問不在でライブに出られなくて困っていたから名前だけを貸しただけだしぃ~!それに私がいなくたってあの子たちだけでも練習くらいできるしぃ~!それに部活の度に学院まで行くの面倒だしぃ~!
あっ、つい本音が……!!いやぁ失敬失敬♪
そうやって自分で自分にノリツッコミをしていると、突然お母さんが似合わない真面目な表情で私の顔を覗き込んできた。
「秋葉ちゃん……悩み事でもある?」
「えっ、どうしたの急に??」
「いやぁいつもハイテンションのあなたが、今日はやけに落ち着いてるなぁと思ってね」
「そう……?久しぶりに帰ってきたからじゃないかな」
「違うね。テンションが上げられない理由があるからなんじゃないの?お母さんのカンだけどね、雰囲気で分かるのよあなたたち兄妹のことは。特に秋葉ちゃんは零君や楓ちゃんと違って、心に溜め込みやすいタイプだからねぇ」
まるで心の真ん中を的確に打ち抜かれたような感覚だった。忘れようとしていた想いが、感情が、再び心の内から滲み出てくる。いつもは適当に体裁で取り繕っているせいか、こうしてド直球に射抜かれるとどうしても隠すに隠せなくなってしまう。しかも相手はお母さん、私の性格から何までお見通しか。
はぁ……仕方がない。
私はテーブルの椅子に座ると、肘を付きながら心中を吐露した。
「はいはい負け負け。そうだよ、ちょっと思うところがあってねぇ~」
「そうやって未だに自慢気に振舞っている辺り、本当にあなた素直じゃない。楓ちゃんを見習ったら?お兄ちゃんへの純粋な気持ちは、捻じ曲がってるけど素直なものだし」
「あの子をねぇ~……」
楓ちゃんは何事も直球で物事を伝えられるし、気に入らないことがあったら例え親友であっても堂々と指摘する。それが誰かの為であっても自分の我が儘であっても。そんな一長一短な彼女だけど、零君への愛の伝え方は本当に一途なのよねぇ。変態の方向にシフトするのも、それだけ愛情表現が豊かとも考えられる。そう思えば、あの一切物怖じしない態度は見習うべきなのかもしれない。
「できるだけの範囲でいいから、とりあえず話してみたら?」
「……零君のこと。それだけ」
「なるほどね、大方理解した」
「はやっ!?」
いくら親子の関係だからと言って、彼の名前を聞いただけで人の悩み分かる普通!?もしかして、私の顔にそう書いてあるとか……?なんか久しぶりに調子を狂わされているような気がする。あぁやりづらい。
ここでお母さんが、私の座っている席の反対側の席についた。こちらをジッと見つめて、さっき言葉で私の心を突き刺したのに、今度は目線でも私を刺し殺そうとするのか。流石メディアに引っ張りだこの女優さん、常に人の目を見て話すことを心掛けているみたい。全く、やりづらい。
でももうどう足掻いても逃げられないので、仕方なくお母さんの話に耳を傾けることにした。
「気にしなくてもいいんじゃない?零君だったら特に。12人も彼女を作っちゃう子だし、実の妹すらも恋人にするくらいなんだから」
「本当に悩みの細部までお見通しって訳か。まぁ、私も零君のことだからそうだとは思うんだけどねぇ~」
「何か他に心配事でも?」
「あるよ。もうこれ以上、零君とμ'sのみんなを恋愛関係で悩ませたくはないってこと。実の姉が弟に告白……ってほどじゃないけど、今更になって複雑な話を持ち込んだら彼も困っちゃうでしょ」
何回も言うけど、私は別に彼の恋人になりたい訳じゃない。もちろん恋愛感情もない。私の願いはただ1つ――――彼の側にいたいだけ。零君と一緒にいるのは実験にしろ日常にしろ、色んな意味で楽しい。たったそれだけ。
だけど、今までμ'sとの恋愛騒動で"死"に近い出来事まで経験してきた彼だったら、例え恋愛感情のない私の告白でもいい意味では真剣に、悪い意味では重く受け止めるだろう。だったらこのままの関係でもいい。結局は今の関係を維持したいってだけなんだから、わざわざこの想いを伝える必要もないよね。
「それができないから悩んでるんでしょ?」
「ま、また心の中を勝手に……ま、そうだけどね」
「大丈夫、零君の心はあなたが思っているよりも弱くなんかない」
「そうかな……」
「あの子から去年の話を色々聞いたけど、私はそう思うな。それにね、あなたも弱くない。いつもの自信満々のあなたはどこへ行ったの?」
「!? そっか、そうだねぇ~」
なんだろう、お母さんの言葉で急に自分が戻ってきた気がした。今まで路頭に迷っていた私が帰ってきたみたいに。あなたはどこへ行ったの……か。
そっか、そうだよね。しどろもどろばかりしてたら私らしくないや。なんでさっきまであんなに迷ってたんだろう。私は神崎秋葉。1000年に1人の才女で、その気があれば世界を動かす発明だってできちゃう超天才。そんな私が誰に臆する必要なんてある?そんなのある訳ないじゃん!!
「ちょっとウジウジし過ぎたかもしれないね。悩んで迷って逆に零君に心配を掛けるくらいだったら、直接伝えてみようかな。あの子への想いを」
「そうそう。あなたたち姉弟はそうやって自信満々に生きていくのが一番!」
「だよね~♪よしっ、それじゃあ零君の部屋に待機しておこうかな。話し合うなら2人きりの方がいいし」
「零君にくっつく楓ちゃんは、私が捕まえておくから安心して」
「ありがとお母さん!元気出た!」
身も心も軽くなった私は、軽やかな足取りでリビングを飛び出し彼の部屋で帰宅待ちをすることにした。
ラブレターとか悩み事とか、もうそんないざこざには全部決着をつけよう。
そして、私がいなくなったリビングで1人、お母さんは――――――
「全く、零君も秋葉ちゃんも普段は自分のことばかりしか考えていないのに、恋愛方面になると途端に自分を見失うほど相手の気持ちばかり考えるんだから。でもμ'sのみんなはそんな零君に惹かれたのかもしれないし、零君もなんだかんだ秋葉ちゃんと縁を切らないのは、お互いにそういう優しい面があるからなのかもね」
やはり私たちのことは、お母さんに全てお見通しだったみたい。
「でも、これで私もスッキリと向こうへ帰れそう。我が子たちが、ちゃんと自分たちの未来を選択できたからね」
~※~
「で?どうして俺の部屋にいるんだ?てかいつ帰ってきたんだお前」
「も~う!零君毎回質問多すぎ!」
そりゃあ姉弟とは言え勝手に人の部屋に上がり込んで、ベッドの上に寝転んでたらそんな反応にもなるよね~。
私は零君の帰宅を待つために彼の部屋で待機していたんだけど、なんか妙に居ても立ってもいられない気持ちになっちゃったから、思わずベッドに飛び乗ってしまった。勘違いしないで欲しいのは、楓ちゃんみたいに枕をクンカクンカしたりする変態行為はしてないってこと!ただ寝てただけなんだからね!!
「ま、いいや。お前がそんなに改まってるのなんて珍しいし、俺に用事でもあんのか?」
「改まってるって……そう見える?」
「なんて言うかなぁ~。お前いつも口角上げて人を小馬鹿にするような笑顔してるじゃん。でも今日はそんな雰囲気じゃないからなんとなく」
「相当私の印象悪いみたいねぇ……」
普段から実験モルモットに仕立て上げられて遊ばれていたら、そんな印象になるのも無理ないか。私も分かってやってるから、今更それを払拭しようとは思わないけど。
しかし零君も一瞬で私の心中を察した辺り、あのお母さんの息子だなって思うよ。だけどそのおかげかな、話を切り出しやすくなって変に緊張する必要がないから、その点は嬉しいことだけどね。
机にカバンを置き、中から教科書やノートを取り出しながらの零君の背に向かって、私は口を開く。
「零君はさぁ、私があなたの隣にずっといたいって言ったら……どう思う?」
「…………いいんじゃねぇの」
「へ……?えっ!?」
あっさりと。ワンテンポくらいは考えたみたいだけど、返答は迷わずあっさりだった。なんかこう、もっとシリアスな雰囲気になりμ'sの彼女たちも雪崩込んできて、修羅場展開はっせーいっ!――みたいになると思ってたんだけど……予想外なことに、この場の空気は一切変わっていなかった。
もしかして、冗談だと思われてるのかな?今まで私が彼にしてきた数々の悪行を思い出せば、そう思われても仕方ないけどさぁ。
「楓のせいで兄妹の距離感があやふやになっちまったんだよな。だからもう来るもの拒まず!お前にどんな思惑や感情があるのかは知らないけど、もう受け入れちまった方が話も早いよ」
「聞きようによれば最低な返答じゃないそれ。私じゃなかったら、確実にフラられてるわよきっと」
「だろうな。お前だからこそ言ったんだ」
「来るもの拒まずって、どこまでハーレム拡大させれば気が済むのよ……」
「はいはい褒め言葉褒め言葉」
昔は恋愛に対して鈍感な奥手野郎だったくせに、今では年上の女性相手にもこの余裕。確かにお母さんの言う通り、思った以上に零君強くなってるよ。心の強さもそうだけど、常識外れの言動にも着々と耐性が付いている。楓ちゃんが音ノ木坂に入学する前は、妹との恋愛なんてクソくらえだった彼がねぇ~。
「ちなみにだけど、別に私はあなたに恋愛感情がある訳じゃない。そこのところ勘違いしないように」
「それは俺も一緒だよ。だけどなんとなくお前とずっと一緒にいたい、そんな気がするんだ」
「小さい頃から嫌々言いながらも私の遊びに付き合ってくれて、今でも縁を切らずにこうして受け入れてくれる。1人で研究や実験をしている時も、この研究結果をあなたにどう試してやろうとか、どんな反応をしてくれるだろうとか、とにかく零君ばかり思い浮かべてたんだ。そのせいかもね、こんな気持ちになっちゃったのは」
「なるほど。まあ俺も、なんだかんだ言ってお前と絡めるのは楽しかったりするしな。お互い様じゃねぇの」
多分こんな結論に至る時点で、私たちは普通の姉弟ではないのだろう。実の妹を含む12人の彼女持ちの男の側にいたいだなんて、私も零君のことを言えないほど相当変人だと思う。でも、
「弟としては大好きだよ、零君のこと」
「だったら俺は姉として好きだ、秋葉のこと」
聞く人によっては盛大な勘違いをされそうなセリフを平気で交わす私たち。もう世界から切り離されたどこか別の場所へ隔離した方が、世間体的にも私たち的にも幸せになれるってくらいには。あからさまに常識外れなことをしているのに、私の心は無事に想いを打ち明けられて軽くなっていた。
するとさっきまでこっちに背を向けていて零君が、突然振り向いて私が寝転んでいるベッドまで近付いてきた。なんせいきなりだったため、私も思わず息を呑む。いつになく真剣な眼差しで私を見下げる彼。そんな彼に対し、ちょっとカッコいいと思ってしまったのは内緒。弟にそんな感情を抱くなんて、やっぱ私末期だなぁ~。
それにしても、零君は一体なにを――――――
「俺がさっきまで背を向けていた理由、分かるか?」
「えっ……い、いや」
「ベッドの上に女の子が寝転んでいると、どうも興奮に等しい感情が湧き上がってくるんだよ。いつも俺のベッドを昼寝に使っている楓はもう見飽きたけど、他の女の子、特にいつもそんなことをやらないような奴が寝転んでいるとな……」
「そ、それってもしかして……」
「なんだ?お前だってちょっとは期待してたから、ベッドに寝てたんじゃないのか」
零君が、迫ってくる。
話によればまだμ'sのみんなとは一線を超えていないみたいだけど、裏でコソコソと手を出しているという噂もある。今の彼は完全に女の扱い知った手練。彼から伝わってくるオーラも、経験豊富なホストみたいで無駄に色気付いてるし……って、このままじゃ襲われる!?何故か私は意味不明な恐怖心に駆られていた。
零君は私の身体に手を伸ばす。しかし私は動揺しているせいか、反応がワンテンポ遅れてしまった。
迫り来る魔の手。私の顔が引きつる。
そして、私の胸に――――――
「だ、ダメぇっ!!」
「えっ――――ぐあ゛ぁああっ!?」
「あっ……!!」
私は両手で零君の身体を勢いよく後ろに突き飛ばしてしまった。反射的に手を出してしまったので、自分でもこの突拍子もない行動に驚いている。何故ここまで大胆に拒絶したのか、その訳も分からぬままお互いにしばらく見つめ合っていた。
そして、なにより私よりも彼の方が驚いているだろう。後ろに倒れた反動でおしりや背中にそこそこ衝撃が走っているはずなのに、まるでその痛みを感じていないと言わんばかりに彼は目を丸くして口をポカーンとさせていた。
「お前……まさか……」
ここで私も分かってしまった。自分の盲点、自分の弱点を――――
「秋葉……お前まさか、エロいこと苦手なのか?」
「~~~~っ!!!!」
私の顔が燃えるように熱くなる。
ま、まさかこの歳にもなって卑猥なことに耐性がないだなんて……。思い返せば今まではこっちから攻めるばかりで、相手から攻められた展開はなかった。これまでの人生を振り返ってみても、エッチな気分になる薬を作ったり発明品を開発したりはしたけど、それはいつも試す側、自分が被験者になったことは一度もない。
だから知らなかった。まさか私が淫行にここまで奥手で臆病になるだなんて。零君の手が迫ってくる時に感じていた、あの理解不能な恐怖心の正体は自分の心の弱さだったのだ。羞恥心に負けている、その一言に尽きる。
顔が熱い。鏡なんて見なくても分かる。今の私の顔は真っ赤に染め上がり、思春期真っ盛りの乙女のような顔をしているのだろう。大学生にもなって恋愛経験が一切なかったことがこんなところで響いてくるなんて……。
そして逆に零君はここぞとばかりに私を攻められると思ったのか、口角を上げどこぞの悪魔みたいな不敵な笑みで私に顔を近付けてきた。
「なんだなんだ、男からエロいことをされるのは恥ずかしいってか。随分と可愛い奴だな秋葉」
「う、うぅ……まさかこんなことになるなんて……」
「なぁに、これから俺の傍にいれば勝手に慣れていくって。でもあの秋葉が、まさかここまで純情だったとはねぇ~。弱い奴はその弱さを隠すために強気でいるって言うし、お前も同じだったみたいだな」
「うぅ~!ぜ、絶対に虐めてやる!!これから一生実験動物にしてやるぅうううううううううううううううう!!」
「はいはい、純情乙女の秋葉ちゃん!可愛いですねぇ~」
「くっ……!!」
私は襲い来る羞恥に耐えられず、咄嗟に毛布を掴んでそのまま全身に被った。
こ、この私がここまで馬鹿にされるなんて……1000年に1度の才女で、世界も動かせる頭脳と力を持つこの私にこんな弱点があっただなんてぇええええええええええええええええ!!
「く、屈辱……」
私は毛布にくるまりながら苦い心中を漏らした。
このまま零君の側にいてみんなと付き合っていかなくちゃいけないのかぁ。前途多難になりそう……うぅ……。
「いやぁ可愛いなお前!」
「うるさいっ!!」
秋葉さんの話はこれにて決着。最終的に恋人にはならなかったのですが、零君と彼女はこれくらいの距離感が一番似合っていると思いました。え?秋葉さんのガチ恋愛が見たい?それは自分で執筆して私に送ってください(笑) 私も見てみたいので!
そして最後に秋葉さんの思わぬ弱点も露呈してしまいました。これで秋葉さん好きの方がたくさん増えてくれると……いいなぁ。
次回は亜里沙の個人回となります!ここからシスターズの回が続くかも……?
新たに☆10評価をくださった
ブルーキャットさん
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