ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 お待たせしました、いるのか分からないアライザーとツバサ推しの皆さん!


A-RISEと恋とアニマルパーティ

「おーい零くーん!こっちこっちーーっ!!」

「そんな大声で呼ぶなよな……」

 

 

 とある冬の休日、俺はA-RISEの優木あんじゅと統堂英玲奈に呼び出されて隣町まで来ていた。

 

 駅の改札を抜けると、明るい茶髪のゆるふわ系の女の子が俺に手を振っているのが見える。そしてその隣には、存在を激しく自己主張する友人に呆れた目線を送る、紫ロングのクール美人の姿もあった。

 周りにあまり人がいないとは言え、不特定多数の人混みの中で名前を大声で叫ばれると恥ずかしいものがある。しかも俺なんかよりもコイツらの方がよっぽど有名人なのに、そんなに目立って大丈夫なのか……?

 

 

「久しぶりだね零くん!元気にしてた~?」

「あぁ久しぶり。いつもながらダラダラとした生活ばっか送ってるよ」

「フフッ、予想通り相変わらずだな君は」

「誰にも邪魔されないマイペースな生活を送るのがモットーなんでね」

 

 

 優木あんじゅと統堂英玲奈。共にμ'sと双璧をなすスクールアイドル"A-RISE"のメンバーであり、今なお雑誌やテレビで取り上げられる回数で言えばスクールアイドルの中でもトップを誇る超有名人。そんな彼女たちとこのようにごく普通に遊びに行けるなんて、我ながら中々いいポジションを確立できたと思う。まあごく普通と言っても、面と向かって会うこと自体が久々なんだけども。

 

 A-RISEの面々とはそこまで頻繁に交流をしている訳ではなく、たまに携帯で多少お話をしたりするだけだ。だからと言って別に付き合いが疎遠になってはおらず、単にあの名門UTXに通う彼女たちが忙しいだけだろう。俺たちと同じくもうすぐで卒業だし、それに名門となれば難関大学へ行くだろうから、その受験勉強の邪魔もしたくないしな。

 

 

「そういや、俺は何の用で呼び出されたんだ?いきなり集合日時と場所を伝えられて、予定合わせるの大変だったんだぞ」

「絶対嘘!どうせ零くん休日暇してるでしょ?」

「ぐっ、そ、そうだけどさ……。それよりお前らは受験勉強大丈夫なのかよ?」

「たまには息抜きも重要さ。それに日々スクールアイドルの練習と受験勉強で疲れが溜まっているから、ちょうど癒しも欲しいと思っていたところだしな」

「癒し……?」

「そう。可愛いもの好きの零くんなら、絶対に楽しめると思うよ!」

 

 

 可愛いものと言えば、やっぱり女の子だよな。それじゃああんじゅや英玲奈は俺と可愛い女の子を合わせようとしているのか?可愛い女の子がたくさんいるところ、例えばメイド喫茶とか女性客にも人気だし行き先としてはありえそう。メイド喫茶は行きたいとは思うんだけど男1人では中々入りづらいから、こうして女性と一緒に行けば周りの目を気にしなくていいな。

 

 おおっ!そう考えるとなんだかテンションが上がってきたぞ!!

 

 

「よしっ!こんなトコで道草食ってないで、早速行こうぜ!」

「そうだな。ほらあんじゅ、君が案内してくれるんだろ?」

「ん?お前も行き先知らないのか?」

「あぁ、私も君と同じくあんじゅに突然呼び出されたクチだから。練習や勉強の休憩がてらに癒しを求めてみない、ってな」

「あんじゅ…………なんか企んでる?」

「よ~しっ、それじゃあしゅっぱ~つ!!」

「はぐらかしやがったコイツ!?」

 

 

 うわぁ一気に胡散臭くなってきたぞ今日のデート。あんじゅの口角が微妙に上がっていたことから、まだ何かを隠していることは間違いなさそうだ。彼女の不敵な笑みから察するに、俺のことを財布と見てんじゃねぇだろうな……。最近練習やら勉強やらで忙しいって言ってたから、ここでドカーンと甘いものをバカ食いしたり、高級な服を大人買いなど豪遊してストレスの発散をするかもしれない。さっき可愛いものが見られると言ったのは俺を帰らせないようにするための罠か?でもいくら相手が美人だからって、下手に貢ぐほど俺は男が腐っちゃいないから。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「そういや、今日ツバサは来ないのか?」

 

 

 そこまで人がいない歩道を歩きながら、俺はあの生意気デコ娘がいないことに気が付いた。さっきはあんじゅの思惑を詮索しようと必死だっただけで、決して存在を忘れていたとかそんなことないから!アイツの背が低いから、もしかしたら俺が存在確認できてないと思っただけだから!!

 

 

「ツバサちゃんはバイトだから来ないよ」

「バイト?あのA-RISEのリーダーたるものが?もう芸能人並みにガッポガッポ儲けてそうなイメージだけど」

「まだ私たちはただの高校生だ。スクールアイドルも部活の領域を出ないし、メディアへの出演料の大半はA-RISEの活動資金に当てているから、儲けるだなんて文字通り夢物語だよ」

「へぇ~割と真面目にやってんだなぁ」

「そうそう、だからお小遣いを稼ぐにはアルバイトも必要だって訳」

「だったら、ツバサのバイトが休みの日に遊べばよかったんじゃないか?」

「ダメダメ!今日じゃないと私の計…………画が」

「おい早速ボロ出てんぞ」

 

 

 思わず口走ってしまい言葉を濁そうとしたあんじゅだが、もうはっきりと聞こえてしまった。どうやら俺と英玲奈は彼女のご遊戯に付き合わされているらしい。本人もバレてしまったから隠すつもりはないのか、()()()()()()()で俺たちの前を歩いている。ことりもそうなんだけど、どうしてゆるふわ系の女の子はここまで腹黒いのだろうか。表向きでは体裁を取り繕って、裏では底知れぬ闇を抱えている、そんな感じがする。怖い……女の子って怖い。

 

 

「まあまあそんなに警戒する必要はないよ。このお店を見れば分かってもらえるから!」

「えっ、もう着いたのか――――って、アニマルカフェ?」

「アニマルカフェって、最近流行りの喫茶店の中に動物がいると噂の?」

「イエス!」

「お前が来たかったのってここ?案外普通っていうか、もっと財布の中身が搾り取られるところに行くかと思った……」

「どうやら私に対してかなりの偏見を持ってるみたいだけど、私ってとっても純情ガールなんだから!」

 

 

 もう最近誰の口から純情って言葉を聞いても全然信用ならなくなっていた。主にμ'sのせいで……。

 そんなことよりも意外や意外、連れてこられれたのはいかにもメルヘン全開なアニマルカフェだった。店の周りに置かれている動物の置物がかなりアニメのキャラクター調なので、純粋に動物を楽しむと同時におとぎ話のような雰囲気も味わえそうだ。

 

 俺はあまりこのようなところには来ないのだが、テレビで見る限りでは癒しを求める空間として最近男女問わず人気があると聞いて気になってはいた。中には家でペットを飼えない人も多いだろうから、人懐っこい子犬や子猫と戯れることができ、しかも一緒に食事もできるのだからかなりの需要はあるのだろう。俺たちがこうして店の前で突っ立っている間にも、後から来た何人かお客さんが入店していた。

 

 

「まあ今日は勉強も何かも忘れてパーっと楽しもうよ!!」

「お前は別の意味で楽しんでそうだけど……まあいいや、いつまでも立ってたら邪魔だし、早く入ろう」

 

 

 先に着いたのに、後から来た客に席を取られて待ち時間を過ごすのは馬鹿らしい。俺は初めて足を踏み入れる空間に少し緊張しながらも、扉の取っ手を掴んでゆっくりと開ける。

 

 すると、目の前に俺の性癖をくすぐる華やかな光景が飛び込んできた。

 

 

 

 

「「「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」」」

 

 

 

 

 ご、ご主人様だ……と?主従プレイが好きな俺のこと、可愛い子から"ご主人様"と呼ばれてしまうと一瞬の内に己のドS精神を掻き乱される。身体が震えるほどゾクゾクとした高揚感に、俺は出迎えてくれた4人メイドさんたちを食い入るように見つめていた。

 

 ただのメイドさんなら俺もここまでは胸が熱くはならない。だがこのように血沸き肉踊っている理由は1つ、メイドさんたちが動物のコスプレをしているからだ。この喫茶店共通の衣装として肩を露出させたえんじ色の和服に、上から白のエプロン、頭には純白のカチューシャが施されている。そしてメイドさん各々に特徴を与えるかの如く、犬や猫、ウサギやクマといった動物の耳としっぽが装着されていた。

 

 なんだよなんだよ!あんじゅに騙されているかもと想って少し落胆してたところだから、こんなお出迎えをされると逆にいつも以上に地に足がつかない気分になっちまうよ!メイドさんの見た目はみんな高校生から大学生くらいの女性で、幼気から色気まで様々なオーラも兼ね備えている子たちばかりだ。あまりの容姿レベルの高さに、このまま全員をハーレムインさせてしまいそう……。

 

 

「ほ~ら、零くんやっぱり喜んだ♪」

「お前が言ってた可愛いものって、動物とメイドさんのことだったのか。可愛いもの2つが融合すれば、もうそれ最強じゃん……」

「零、さっきから目がずっと犯罪者だぞ。いつものことだが自重したほうがいい」

「失礼な奴だな。今まで逮捕されてないんだから、俺は俺のままでいいんだよ」

「それは周りの女性たちの善意で成り立っていることに感謝するんだな……」

「お前らは動物と戯れていろ!俺はメイドさんたちとしっぽりと……」

「はいはい。早く席行くよ~」

 

 

 

 あれぇ~??メイドさんについてまだ語ることが2時間ほどあったっていうのにコイツら……。

 2人に腕を掴まれ、強制的に席へと連行されてしまった。いつか絶対にメイドさんを語るだけで話終わらせてやるから覚悟しておけよ!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「あぁ~この猫ちゃん可愛い~♪」

「私も初めてここに来たけど、うん、悪くない」

 

 

 あんじゅは子猫、英玲奈は子犬を膝に置いて撫で回しながらメニューを眺める。あの猫と犬、まだ子供の分際で中々に羨ましい状況に身を委ねてるじゃねぇか。あのA-RISEの膝の上に座れるなんて、全国の男たちが大金を積んででも争いそうだな。だからこそそのポジションで、しっかりと彼女たちの匂いと膝上の柔らかさを噛み締めておくんだぞ。

 

 

「2人も似合うと思うんだよね、動物のコスプレ」

「どうせ変態的な目線でしか私たちを見ないくせによく言うよ」

「それはまぁ……男だから仕方がないだろ」

「零くんが変態さんなのは知ってるけど、このお店の衣装が可愛いことは事実だし、一度は着てみたいかな♪」

「ただ着るだけで済めばいいけど」

「100%済まないな」

「絶対に着ないぞ……」

 

 

 とりあえずだ!まず目の前に犬と猫のコスプレをした女の子たちがいたとしよう。その子たちは抜群に可愛く、しかも自分にしっぽを振り、しかも太陽のような笑顔で「お帰りなさいませ、ご主人様」と出迎えてくれるのだ。そんなメイドさん兼ペットな彼女たちを、何の劣情も抱かずにいられるだろうか。いや、できない。つまりそういうことなんだよ。

 

 仮にそれがA-RISEの面々と来たら最後、俺はファンに殺されてしまうほどに彼女たちを美味しく頂いてしまうかもしれない。まあそれもこれも羞恥心を捨てメンタルが強くないと、とてもじゃないが動物コスプレなんて着てられないだろうけど――――

 

 

 

 その時だった。床に白銀のトレイが落ち、店内に大きくその音が響いたのは。どうやら俺たちのテーブルに注文を取りに来るはずだったメイドさんの1人が落としてしまったらしいのだが、そんなことはどうでもよかった。俺はそのメイドさんの顔を見て愕然とする。彼女も俺たちの顔を見て、全身が恐怖に襲われているかの如く震えていた。

 

 

「な゛ぁ……な゛なななななななんでみんながここに!?ていうか零くんまで……!!」

「つ、ツバサ……!?」

「驚いた。まさか君がここにいるとは……でもその格好」

「あぁ……あ゛ぁぁぁ……!!」

 

 

 謎の奇声を発しながら、わなわなと身震いするツバサ。まるで全裸でも見られたかのように顔を真っ赤にし、落としたトレイも拾おうとせずに俯きながら俺たちのテーブルへと近付いてきた。

 

 彼女の格好は他のメイドさんと同じく肩を露出させた和服エプロンを身に纏い、頭には白のカチューシャと犬の垂れ耳という最強の組み合わせでコーディネイトされている。他のメイドさんと違って一際可愛く見えるのは、普段からスクールアイドルの活動で自信を磨き上げているからだろうか、俺は思わず口を開きながら目を奪われてしまった。いつもはどちらかといえばクールなイメージを抱く彼女だが、今の彼女は子犬。そんな格好のおかげで幼く感じてしまうほどだ。

 

 ツバサは俺の元までやってくると、突然腕を伸ばして胸ぐらを掴んだ。そしてその華奢な身体のどこにそんな力があるのか、椅子ごと俺を引き寄せた。

 

 

「どうしてこんなところにいるのよ!?変態さんだから!?メイドさん目当てで鼻の下伸ばしに来たって訳!?変態変態変態!!」

「まだ何も言ってねぇだろ!!てか揺らすな苦しぃいいいいいいい!!」

「ツバサちゃん、私たちはお客様であなたはご主人様のペットなんだよ。そこのところOK?」

「うっ、うぅ……」

 

 

 俺の身体を揺らしていたツバサの手が止まる。

 動物のコスプレをしているってことは、やっぱり彼女はここでアルバイトをしているってことだよな……?つまり、俺がツバサのご主人様ってことじゃん!!そうかそうかご主人様かぁ~。あのメディアにも引っ張りだこの超絶美人スクールアイドルが俺のご主人様かぁ~なるほどなるほど。

 

 よぉーーーーしっ!!また血が滾ってきたぞ!!

 

 

「あらあら、零くんがまた犯罪者の顔になっちゃった♪」

「それは君のせいだろあんじゅ。それに、ツバサがここにいると知っていて零をここへ連れてきたんだな」

「その通り!いやぁツバサちゃんの可愛い表情が見られるかなぁと思ってたんだけど、予想以上の反応で私はもう満足だよ♪」

「悪魔か君は……」

「ホントに!!バレないようにわざわざ隣町でバイトしてたのに、どうして来ちゃうのよ!?しかもこんな変態野郎を連れてきて!!」

「先日たまたまこっちに用事があったからこの辺をぶらついてたんだけど、その時見かけちゃったんだよ、ツバサちゃんがこの店に入っていくのをね。そして外から中を覗いてみたらさぁビックリ!まさかツバサちゃんがご主人様に向かってしっぽを嬉しそうに振る犬耳メイドさんになっていたとは!!」

「それでツバサと私たちの反応を同時に見るために、行き先まで内緒にしてたってことか。本当に、君って奴は……」

「悪魔!!鬼!!うわぁあああああああああああああああああああああああんっ!!」

 

 

 これ、下手したら友情崩壊に繋がりかねないけど大丈夫か……?新聞記事で『あのA-RISEが解散!?原因は内輪揉め!?』みたいな報道になってみろ、その場にいた俺に罪悪感が降りかかるだろうが。

 

 しかし、あんじゅがツバサをからかいたい気持ちも分からなくはない。だって――――こんなに可愛いんだから!!犬耳だぞしっぽだぞ!?しかもあのスーパースクールアイドルのツバサが、肩を丸出しにした和服を来てるんだぞ!?今にも舐め回したくなる、露出した白い肌。そして涙目で恥じる純情乙女。そんな子を何もせずただ見守ってるだけなんて、この俺ができるはずなかろう!!

 

 

「ほらツバサ!早く注文取って!!」

「い、いやよ!!変態さんは早く帰ってちょうだい!!」

「何言ってんだ?ここでの俺はお前のご主人様で、お前は俺のペットなんだぞ?」

「う、ぐっ……お、お帰りくださいませ!ご主人様!!」

「おうおう、そんな態度でいいのかなぁ~?ほらほら、あのメイドさんたちみたいに注文を取る時のセリフがあるんだろぉ~?」

「こんのぉ~……うぅ……こ、こんにちはご主人様。ペットにご注文をください……ワン」

 

 

 いいねいいねぇ~!やっぱり女の子からご主人様と呼ばれるのは、全身に悪意が漲る感じがして堪らない。しかもそのセリフをあのツバサが言ってくれてるんだから、なおさら奮い立ってしまう。だったらもっともっと可愛がってあげないと!ここは一応メイド喫茶の部類だろうから、恐らくメニューを確認すれば――――おっ、あったあったこれにしてみるか!

 

 

「これこれ!この和風オムレツwithアニマルメイドさんからのメッセージ入りと、ご主人様への愛を囁きながら最初の一口あ~んサービス1980円で!」

「はぁ!?オプション全部乗せ!?そ、そんなの私やったことない……」

「そうかなるほど、俺が最初のご指名ってことなんだな。だったらみっちり仕込んでやるよ、ご主人様への忠誠って奴をなぁ!!」

「は、はぁぁぁああああああああああ!?!?」

「文句あるのか?さっきも言ったけど、ここでのお前はご主人様に仕えるペット。ご主人様の前では常に笑顔でいなきゃダメだろ」

「うっ……」

 

 

 痛いところを突かれまくっているからか、ツバサの表情がどんどん険しくなっていく。チクチクと攻めて徐々に追い詰められていく女の子を見るのは楽しいなぁ!特にその子が顔を染めて涙目になっている時はね!!

 

 

「か、かしこまりました……ワン……」

「ん?」

「ご、ご、ご主人様のために頑張るワン!!ワンワンわーーーーーーーーーーんっ!!!!」

「お、おいツバサ!?行っちゃった……」

 

 

 ツバサは明らかに羞恥心を捨てた、造形な笑顔を俺へ向けて走り去ってしまった。最後の"ワン"の部分だけは普通に泣いていたような気がするが……まあ女の子の涙は宝石と言われるくらいだし、風情があっていいんじゃないか?俺としても普段はクールで高貴な気品の煽るる彼女が、ここまでキャラ崩壊した姿を晒しているところを見られて大いに満足だけどな!

 

 

「いやぁやっぱり動物ってのは癒されるからいいねぇ~」

「君も大概悪魔だな……ツバサに同情するくらいには」

「私も思惑通りツバサちゃんの可愛いところと、零くんの暴走する姿が同時に見られてとても面白かったけどね♪」

 

 

 流石癒しを大々的に売りにしているアニマルカフェ、俺の心を超スカッとさせてもらったぞ!これからこの喫茶店に通うのもアリだな。毎回毎回ツバサをご指名すれば、そのうち専属メイドとしての根性が身に付いてくれるかも!?

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「もうっ、いきなり来るなんて本当に驚いたわよ……」

「俺はお前のコスプレ姿が貴重すぎて驚いたけどな。あぁ~やっちまった!写真撮っておけばよかったぁ!!」

「残念ながら、あそこは撮影禁止だから」

「盗撮ならお手の物だ!」

「やっぱり一度逮捕されてみる?」

 

 

 ツバサからバイトが午前中で終わると連絡が来たため、俺たちは店の外で彼女を待つことになった。そして現在、前にあんじゅと英玲奈、その後ろに俺とツバサが並んで歩道を練り歩いている。

 

 もちろん彼女はご機嫌斜めで、このあとどんな報復が待ち受けているのか想像したくもなかったのだが、話してみると意外と普通に会話をしてくれて安心した。冷たくあしらわれてしまうけど、一応無視はされていないみたいでよかったよ。

 

 そして前を歩く2人は、俺たちの聞こえないようにこんな会話を繰り広げていた。

 

 

「ツバサちゃん、案外満更でもないみたい」

「思ったより根に持ってないみたいだし、君も恨まれずに済むんじゃないか。それにしても、ツバサがアニマルカフェでバイトをしていたのってやはり……」

「多分英玲奈ちゃんの想像で合ってると思うよ。ホントに、健気で可愛いところあるんだからあの子は♪」

「フフッ、そうだな」

 

 

「あの2人、こっち見ながら笑って何の話してんだろ」

「あなたがいつ逮捕されるのか、賭けでもしてるんじゃない」

「いやだからゴメンって言ってるじゃん!そろそろ許してくれよ……」

 

 

 口を聞いてはくれるけど、ご立腹なことには間違いないようだ。店を出てからというもの、俺への悪意なき罵倒が絶え間なく続いている。前々から思っていたのだが、案外彼女は根に持つタイプのようで、それこそ危惧していた甘いものをバカ食いしたり、高級な服を大人買いをしたりなどの豪遊に財布として付き合わされるかもしれない……。

 

 まあそんな危機感よりも気になっていることがあるから、俺は彼女に質問を投げかける。

 

 

「なぁ、どうしてアニマルカフェでバイトしてたんだ?やっぱそういう趣味があったとか……?」

「しゅ、趣味ってそんな……可愛いとは思ってるわよ!でも目的は別、自分自身の魅力を磨くためよ」

「えっ、まだそんなことする必要あんのか?今でも十分魅力的だと思うけど」

「~~~~っっ!?!?あ、あなたいつも突然すぎるのよ……ずるいわ全く」

「な、なにが……?」

 

 

 ツバサは喫茶店で俺たちに会った時以上に顔を赤くして、表情を悟られないようにするためかそっぽを向いてしまった。ただ率直に褒めただけなのに、ここまで効果が抜群だとは思わなかったぞ。多少小生意気なところはあるが、意外とツバサも純情乙女なのかもしれない。俺に惚れてるってことは……うん、流石にないかな?

 

 

「私が今まで磨いてきた魅力っていうのは、あくまでスクールアイドルとしての私だけ。つまり、スクールアイドルの肩書きを背負った綺羅ツバサなのよ。でもそれじゃあダメなの。私自身、1人の女性としての魅力を磨かなきゃね」

「なるほど、そうやってお前をやる気にさせるほどの何かがあるって訳か」

「そう……ね。その人に私の本当の魅力を見てもらうまで、ずっとあそこで働き続けるわ。ま、もうみんなにはバレちゃったけどね。1人修行するために、わざわざ隣町の喫茶店を選んだのに」

「文句はあんじゅに言ってくれ……。それにしてもすごいんだな、お前をそこまで奮い立たせる奴は」

「そうだね、すごいよ。それにその人は可愛い子が大大大好きだから、今でもちょっと恥ずかしいけどあの喫茶店で働いて、今よりももっと可愛い女の子を目指すために勉強しているの」

 

 

 ようやく全ての謎が1つに繋がった。巷で流行りのアニマルカフェなら、いちいち隣町まで来なくても俺たちの地域にいくつかありそうなものだと思っていたのだが、れっきとした、それでいて健気な理由があったんだ。大切な人のために、スクールアイドルの練習や受験勉強の合間を縫って彼女にここまでさせるとは、相当罪な奴だなツバサの想い人は。

 

 

「その人は女の子に敏感なように見えて鈍感だから、苦労するのよ私も」

「女の子に鈍感とか、俺とは正反対な奴で大変だなお前も」

「はぁ~……」

「な、なんだよその蔑んだ目は……!?」

「べっつに~」

 

 

 あらら、なんか怒ってらっしゃいますかツバサさん。今までよりも明らかに態度が氷点下並みに下がったような気がするんだが……。俺を置いて一歩前を歩いちゃってるし、また変なこと言っちゃったかな~?恋人が12人もいる俺だけど、女心を読むのはやっぱ難しいよ。

 だから上手く言えないんだけど、純粋に努力する彼女を見ていると陰ながらでも応援したくなってくる。人の恋愛に口は出せないけど、せめて俺とμ'sみたいに歪んだ方向へ捻じ曲がることだけは避けて欲しいものだ。でもまあツバサだったら大丈夫だと、なんとなくそう思った。

 

 

「振り向いてくれるといいな、その人」

「そうね。絶対に振り向かせてみせるから!」

 

 

 その時、こちらを振り返ったツバサの明るい笑顔に、俺は取り憑かれたように見蕩れてしまう。喫茶店で見せてくれた営業スマイルなんかよりも格別な、スクールアイドルの彼女とも違う、綺羅ツバサ本来の笑顔を見た気がした。大切な人へ向けた、1人の女性としての魅力を心から感じる。

 

 ツバサがここまで頑張って、しかもこんなに心を打たれる笑顔まで見られるなんて、お相手さんに嫉妬するレベルで羨ましいよ。

 

 

「その人の周りにはたくさん女の子がいるから、今までよりもっともっと自分を磨かないとね!」

「じゃあライバルがいるってことか。それにたくさんとか、女ったらしかよソイツ」

「はぁ~……バカな人」

「だからなんで溜め息!?それにさりげなく罵倒するのやめてもらえる!?」

 

 

 どうして呆れられてんのかは分かんないけど乗りかかった船だ、ツバサの恋、全力で応援してあげますか!俺が馬鹿にされた理由は知らないけど、もしかして俺……鈍い??

 

 

「全く、君は本当にバカな男だよ」

「そうそう、零くんってばおバカさん♪」

「な゛っ、なんだよお前らまで!!」

 

 

 ツバサに続き英玲奈とあんじゅにも馬鹿にされる始末。そして今日一日、俺への罵倒は留まることを知らなかった。

 

 な、なんでぇ!?!?

 




 ツバサとの恋愛の決着は、彼女がもっともっと自分の魅力を磨き上げてからのお楽しみってことで一旦幕を下ろしました。個人的にはフられるところは描写したくなかったので、とりあえず私の戦いはこれからだエンドにしてみましたがいかがだったでしょうか?私としてはツバサの可愛い面や健気な面を同時に描写できて、今回は満足しています!

 特にアライザーやツバサ推しの人がいたら感想が欲しかったり……!


 次回はμ'sの個人回もいよいよラスト、楓ちゃん回となります!
 彼女のことが大好きだと言ってくれる方も多いので、俄然気合が入ります!


新たに☆10評価をくださった

黒川 雄さん、竜也53さん

ありがとうございます!
もう少しで投票者200人になりそう……




Twitter始めてみた。
 https://twitter.com/CamelliaDahlia

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