そしてこれにてAqoursとの邂逅編は終わりです。
俺はAqoursの1年生組である国木田花丸、津島善子、黒澤ルビィと別れた後、高海に3年生組がいる生徒会室へと連れてこられた。またどんな色物が現れるのかと若干気を張っていたのだが、生徒会室に入った瞬間、俺を襲ってきたのは怒声による鉄槌だった。
「全く、あなたは教育実習生なのですから、生徒の模範となる行動をしてもらわないと困ります!!」
「どうしていきなり怒られてんだ俺……」
日本人形のような艶やかな黒髪ロングの女の子、黒澤ダイヤにいきなり上から怒声を浴びせられる。彼女の剣幕はかなりの威厳で、もうどちらが年上なのか、どちらが生徒で教師なのか分からなくなってきそうだ。釣り上がった目つきにトゲを突き刺すようなよく通る声。スクールアイドルとしては抜群の魅力なのだが、この雰囲気から伝わってくる威厳は過去に何度も下級生を震え上がらせたことだろう。相手は生徒だっていうのに、俺だって怖いもんこの子。
「まぁまぁダイヤ、先生も教育実習の1日目だから緊張してるんだよ。しかも周りが女性ばかりだから余計にね」
「それにあまりプリプリ怒ってるとシワが増えるよ。スクールアイドルなんだからもっとスマイルスマイル♪」
「果南さんも鞠莉さんも甘すぎます! 女子高だからこそ男性には節度を守ってもらわなければなりません」
「だから俺が何をしたっていうんだ……」
何をしたと言われればバスの中で高海に手を出したり、さっき廊下で1年生たちにラッキースケベという名のセクハラをしたばかりだけど……。それを全て知っている高海はこちらにジト目を送っているが、一応痴漢のことは黙っていてくれるみたいだ。まあここでバラしたらこの堅物生徒会長が発狂して、彼女自身も対処に困るからだろう。
「Oh! また呟きが更新されたよ!」
「呟き……?」
「浦の星女学院の生徒同士の呟きを、リアルタイムで見られるSNSがあるんですよ。ほとんどの生徒が利用していて、学院の話題もよくここで共有されています」
「ここにほら、先生の話題があるでしょ? まだ先生が来て1時間も経ってないのに、この勢いは今まで見たことがないくらいハイペースね♪ ほら!」
「どれどれ……」
小原鞠莉の見せてきたスマホの画面を覗き込むと、そこには生徒たちの呟きが今でもどんどんタイムラインに更新されていた。彼女の言う通り、生徒たちの話題は今日教育実習に来た俺の話で持ちきりだ。タイムライン上の会話を少し目で追っていくと――――
『【速報】神崎 零先生、イケメン!』
『男の先生って聞いて期待してたけど、思った以上にカッコよかったなぁ~♪』
『いいなぁみんな。私も早く見てみたい!!』
『どうして2年1組の副担任なんだろ。2組の副担任になってほしかったよぉおおお!!』
『教育実習の先生って、3年生のクラスにも来てくれるのでしょうか……』
『勉強苦手だからウチのクラスにも来てぇ~!!』
おおっ、すっげなぁこれ! もう少しで授業が始まるのにこの呟きの勢いはどうかと思うが、ここまでベタ褒め&期待されているのは素直に嬉しい。高海たちのクラスの女子生徒たちも凄まじい興奮具合だったが、まさか学院全体が俺に対する熱気で包まれているとは……これは本当に学園ハーレムを築けるんじゃないか??
「別に普通に俺を歓迎する呟きばかりで、怒られる要素なんて1つもないと思うんだけど……」
「さっきから色々な噂が出回っているのですが、それでもまだ無実を証明できます?」
「噂……?」
「これです。さっきのタイムラインを少し進めるとこんな呟きがいくつか」
「何か見るの怖いんだが……」
今度は松浦果南のスマホの画面を渋々覗かせてもらう。するとそこには先程までの歓迎ムードの勢いがそのままに、明らかに話題が飛躍した呟きが乱立していて俺は目を見張った。
『神崎先生ってかなりのヤり手なんだって!』
『やっぱりね。先生カッコイイから女性経験多そうだもん』
『私たちみたいな高校生でも相手にしてくれるかな??』
『歳の差は8歳……私は全然イケる!!』
『私も遂に春が来た!! 女子高だから一生出会いがないと思ってたからね!!』
『いいホテル知ってる人いない??』
「こ、これは……」
この学院の女子たちは脳内お花畑ちゃんばかりかよ!? 外から男が1人来ただけで盛り上がりすぎだっつうの!! しかもさっきのタイムラインを見る限り、まだ俺を見たこともない奴も絶対この中に混じってるだろ。ここまでよいしょされるのは嫌いではないけど、これから健全な教師生活を送っていけるのか本気で心配になってきた。しかもなんだよホテルって、ヤる気満々じゃねぇか援交かよ……。
「学院の生徒たちをここまで
「誤解だって!! 俺はまだこの学院に来て1日目だぞ? ほとんどの生徒たちに出会えてすらいない状況で手なんて出せるかよ!!」
「言質を取りました。今さっき言いましたね、生徒に手を出していないって……」
「あ、あぁそうだよ……」
「そうですよぉ~。こんなに生徒から慕われる素晴らしい神崎先生が、女の子に手を出すわけないじゃないですかぁ~。ねぇ~せんせぇ~♪」
「お、お前……」
高海の奴、事あるごとに俺を煽らないと生きていけないのかよ……。しかも脅迫されている都合上、こちらから何も言い返せないのがむず痒い。いつか徹底的に恥辱に塗れた調教をしてやるからそう思え。
しかし今はそんなことよりも、生徒会長:黒澤ダイヤが何やら切り札を出そうとしていることに俺はもう戦慄を感じている。さっきの呟きは思春期女子の会話とはいえ相当な内容だったが、あれだけで俺が怒られるのは理不尽ってものだろう。だって俺、あの子たちに対しては悪いことしてないじゃん? もう何でも神崎零のせいにしておけって風潮が流行り過ぎなんだよ。
「先生、この呟きの真実を聞きたいですわ」
「今度はなんだよ……」
黒澤ダイヤからスマホを受け取った俺は、画面に映し出されている呟きの数々を見る。それから俺の目が飛び出たのは同時だった。
『なんとっ! あの神崎先生が女の子の胸を触ってたんだって!!』
『嘘でしょ!? やっぱり女性経験豊富な人は違うなぁ~』
『噂によれば、3人の女の子を廊下に押し倒してたらしいよ』
『3人!? 学院に来て早々もう3人も堕としちゃったの!?』
『しかもパンツまで脱がしちゃったっていう情報も……』
『私も頼めば触ってもらえるかな……?』
『大胆すぎるのも素敵だよね♪』
こ、これは……まさに数分前に起きたラッキースケベの現場そのものじゃねぇか!! 何故その情報が全校生徒に拡散されているんだ……? あんなドタバタとした状況だったけど、セクハラ紛いなことをするならと一応周りの目がないことは確認していたはず。もちろん自分で事実を拡散するバカなことはしてないから、犯人は残り4人。1年生の3人は被害者なので自分からセクハラされたと呟くことはしないだろう。そうなると、必然的に犯人は1人に絞られる気が……。
「フフッ、どうしましたぁ~せんせ♪」
コイツ……いつか絶対に教師と生徒の立場とか関係なく
「先程から生徒たちの呟きがこの話題で持ちきりなのですが、何か心当たりは?」
「あ、あるわけないだろそんなの……」
「ダイヤの考え過ぎだって。教育実習に来た初日でこんなことをする人なんていないよ」
「果南さん、この人のことを庇うんですの? まあ言っていることは一理ありますが……」
「この学院の生徒さんはみんなアグレッシブだから、若い男性が来てみんなハイテンションになってるだけだよ!」
「鞠莉さんまで……。本当なんですか?」
「だ、だからそう言ってるだろ」
この疑い深さ……この生徒会長、デキる!! 見た目の風格も相まって、もし真実を知られた時の制裁を想像するだけでも恐ろしい。ここまで何とか誤魔化せてはいるが、学内SNSが発達している以上詳しく調査されたらバレるのは時間の問題かもしれない。これも全部隣にいる高海千歌って奴が悪いんだ。痴漢は黙っているけどセクハラを黙っている契約は交わしてませ~んみたいな顔しやがって……。
「Aqoursの顧問を快く引き受けてくれた人だし、信じてあげようよ」
「ダイヤも熱くならずにクールにね♪ これから一緒に活動をする仲間なんだから!」
「松浦も小原も優しいんだな。心に染みるよ色んな意味で……」
「鞠莉の言う通り顧問と言えども私たちの仲間なんですから、
「先生は私たちの前に現れた救世主、まさにエンジェルなんだから期待してますよ♪」
「アハハ、頑張るよ……」
痛い痛い痛い痛い!! 2人の優しさで良心が実際の痛覚を感じるほどに痛い!! 2人はここまで俺のことを信じてくれているのだが、その男の実態はバスの中での痴漢に学院内でのセクハラ行為、もはや教師失格の悪行を2度も犯してしまっている。だからこそ俺に期待を仰いでいる2人に対して非常に申し訳なく、その期待を裏切りたくもないからもう苦笑いしか浮かばねぇ……。
「分かりました。皆さんがそう仰るのなら私も信じましょう」
「あぁ、ありがとな――――って、俺がお礼を言うところなのか……?」
「あなたを認めはしましたが、ここは由緒正しき女子高です。いくらあなたが生徒から人気があるとはいえ、不埒な行為をしたら教師や顧問の身分関係なく生徒会で然るべき対処をしますから」
「オーケー。肝に銘じておくよ」
これで完全に逃げ場を封鎖されてしまった。下手なことをすればこの高海千歌とかいう悪魔がSNSで呟くだろうし、1年生の3人もセクハラされたって事実を切り札にできる。つまり、俺の人生が尽くAqoursのメンバーの手によって支配されてしまっているのだ。まさかバスの中での一時の小さな欲望が、これほどまでの事態に膨れ上がるとは思ってもいなかった。やはり田舎の情報網は伝達も早ければ共有も早い。正直ナメくさっていたよ、浦の星女学院。音ノ木坂のように淫らな行為をした事実はそう簡単に消えてくれないか。
「よーしっ、それじゃあ先生にもっとこの学院をエンジョイしてもらうためにも、今日の放課後は先生の歓迎会をやらない?」
「あっ、鞠莉さんそれいいですね! 先生との仲を深めるためにも絶対にやりましょう!! そう、仲を深めるためにも……ね♪」
「高海、どうしてこっちを見るんだ……」
「でも放課後は練習がありますのに……」
「最近は結構煮詰めて練習していたし、今日くらいは羽を伸ばしてもいいんじゃない? それに私も先生のことをもっと知りたいしね」
「決まりね! 小原家の特性フルコースで、先生にショッキングな歓迎をしてあげるわ♪」
「全くもう、皆さんすぐにはしゃぎたがるんですから……」
Aqoursのメンバーに会って1つ思ったのは、仲間同士の結び付きが強いってところだ。積極的に人との仲を深めようとしていたり、これまでのメンバー同士の会話を聞いていても、学年関係なくみんなの仲の良さが感じ取れる。みんながここまで分け隔てなく信頼できるということは、恐らくグループ結成からここに来るまでにそれなりの修羅場を乗り越えてきたのだろう。そんな中に俺が入ってもいいのかと少し心配ではあるが、そんな彼女たちだからこそいつか俺も自然に打ち解けられる日が来ると思っている。
まあそれもこれも、俺の犯してきた所業がバレなければの話だが……。
そして、無事(?)にAqoursのメンバーとの邂逅は終了した。どいつもこいつもμ'sと同様にキャラが濃い連中ばかりで、ある意味では印象に残りやすい。脅迫と成り行きで顧問になったけど、案外この女子高生活を楽しめそうだ。もちろんこのワクワク感は淫らなことじゃないから勘違いしないように。
ちなみに、またしても俺の携帯に女の子たちの連絡先が追加されたのだが、これって売ったらいくらになるんだろう……?
~※~
Aqoursとの親睦会が終わり、教師生活の1日目も終了しようとしていた。
夜、俺はベッドの上に転がり、今日起こった出来事を思い出す。バスの中で痴漢し、顧問になれと脅迫され、廊下で3人まとめてセクハラをし、学院全体では俺がヤリチンだと噂が広まり、生徒会長からは疑われ――――なんかロクな1日じゃないような気がしてきたぞ。まあスクールアイドルの卵である可愛い女の子たちと知り合えただけでも良しとしよう。みんな相当ウブそうだったから、顧問になったこれを機に調教……いやいや、しっかりと指導していかなきゃな。
今日1日の内容は相当濃かったが、実は第二幕があることにお気づきだろうか? 教育実習生と言えども一応社会人として働くわけだから、ずっと携帯の電源は切っていた。Aqoursのメンバーと連絡先を交換する際に見えてしまった、
鬱陶しいから連絡してくんなと言えればいいのだが、そんな可哀想なことできるはずもない。だからと言ってこの量はどうしたものか……。毎日毎日律儀に返信するこっちの身にもなってくれよ。しかも今日はずっと電源を切っていたせいで日中全く返信できていないから、アイツら激おこだろうなぁ。どんな
恐る恐る1000件の通知が来ているアプリを開いてみる――――
『ほの: 零君から全然返信来ないよぉおおおおお!!』
『うみ: 今日から教育実習ですし、忙しいのでしょう』
『えり: そうね。だから日中はあまり連絡しない方が良さそう』
『ゆき: 確か浦の星女学院でしたっけ? 零君が働いてるところ』
『あり: あそこって女子高なんだよね』
『にこ: ま、まさか零! 女子高の女の子をはべらせてるから連絡して来ないんじゃないの!!』
『のぞ: にこっち、話聞いてた……?』
『こと: は……? いや、は……?』
『りん: ことりちゃんの口調が……怖いにゃ』
『かえ: お兄ちゃんす~ぐハーレム作っちゃうんだから。次会った時にこれ以上周りに女の子が増えてたら……フフフッ♪』
『はな: 楓ちゃん今日ずっと同じこと言ってるよね……』
『こと: 零くんを誑かす女の子……? そんな子たち、みんなことりのおやつに……いやもうコロ(不適切な表現のためブロックしました)』
『まき: 一体なんて送信しようとしてたのよ……』
案の定俺が女子高に行くことによって一部のメンバーのヤンデレ化が進行していた。ここへ返信をしてしまうと、多分寝る間もなく今日のことを追求されるだろうから見なかったふりをしておこう。現地で女の子たちと仲良くなって、しかもスクールアイドルの顧問になるまで親しくなったと知られたら……。想像するだけで首を絞められそうだから考えるのはやめようか。
そこで携帯が鳴る。どうやらさっきの会話がまだ続いているようだ。
『ほの: ねぇ零君!! そっちで女の子作ってないよね!? 零君は穂乃果たちがいればそれで満足だよね!?』
『にこ: なんか匂いで分かるのよね。アンタが女の子作ってそうなこと……』
『こと: ことり、零くんのことずっと信じてるから。零くんはことりのこと裏切ったりしないよね?ねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇねぇ!?!?』
『かえ: やっぱりお兄ちゃんの手首には手錠が似合うと思うんだよね♪ うぅん、別に他意はないから……♪』
『あり: 私も信じてます!! あんなに愛してくれたんですから!!』
『ゆき: ちょっと亜里沙!? 何言ってるの!?』
俺はここで携帯の電源を閉じて充電ケーブルを挿した。こんな混沌とした会場に足を踏み入れろって言う方が無理だろ!!
そんな感じで俺の教育実習生としての生活がスタートした。これから一体俺にどんな驚異が降りかかるのか、さっきの会話を見ていて心配になってきたんだけど……。俺の人生を支配しているAqoursとの関係はもちろん、μ'sからの束縛も断ち切れそうにない……。
アニメよりも千歌ちゃんのキャラが濃いので、メインである3年生よりも目立っちゃったかも。今のところ千歌ちゃんくらいしかキャラを前面に押し出せていないので、これから他のキャラももっともっと可愛くエロく掘り下げて行きたいと思います。まだ零君との仲がギクシャクしている子たちもいますので、早く話数を重ねてどんどん仲良くしていきたい!
今回でAqoursとの邂逅編は終了で、次回からはμ's編と同じく1話完結の短編方式で執筆していきます。
新たに☆10評価をくださった
優雅さん、飯テロさん、神憑さん、ライミさん、kiyosukeさん、普通怪獣ようちさん
ありがとうございます!
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