ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 小説の感想やTwitterのDMにて貰った質問に答えるコーナー

Q.サンシャインでの推しキャラは誰ですか?
A.1人に決めることができないのですが、強いて挙げるなら2年生組です。

Q.実際に付き合うならどのキャラがいいですか?
A.μ'sならことり。Aqoursなら曜。家庭的な子がいいです。

Q.実際にエッチをするならどのキャラがいいですか?
A.μ'sならことり。Aqoursなら花丸。でも正直肉付きがいい子なら誰でも……()



あっ、今回は梨子の個人回です!

※どうやら梨子ちゃんはレズキャラらしかったので、初投稿時と内容を一部変えました。


桜内梨子、恥辱の大告白

 教育実習生生活の2日目。Aqoursの顧問になった俺は、早速顧問らしい仕事を任された。

 しかしその内容はそこそこ過酷なものでして……。脅しをダシに使われているわけではないんだけど、どうしてもあの子と作業をするのは未だに緊張する。そうは言っても顧問となった今、高校生の頃のように安易にサボることは許されないので、とりあえずその子の家の前に来ているのだが……。

 

 

「また怒られまくるんだろうなぁ俺」

 

 

 表札の『桜内』の苗字を見て、思わず後ずさりしてしまうほどにはあの子に若干の恐怖を感じている。なんたって、これまでの人生で一度もバレなかった俺の素晴らしい痴漢行為を見事に取り押さえてきたんだから。それ以降、梨子からの俺の評価は底辺を辿る一方であり、昨日の放課後に行われた親睦会でもそれほど好感度を取り戻すことはできなかった。顔を合わせるたびに渋い顔されるし、どうすりゃいんだよ……。

 

 

「そんなところで何をしてるんですか……?」

「うおっ!? り、梨子……いたのか」

「人の家の前で苦い顔しながら立ち往生してるなんて、犯罪者と間違えられても仕方ないですよ。あっ、犯罪者でしたね」

「そうやってチクチク心を刺してくるのやめてくんない……?」

 

 

 結局この子と出会ってからというもの、こうやって会うたびに微量ながら俺の心にダメージを蓄積させてくる。痴漢された友達を心配に想う気持ちは分かるが、こっちもそこそこ反省しているからそろそろ許して欲しい。ていうか、この子に1年生組のセクハラがバレたらもう一生この関係は修復不可能だろう。

 

 ちなみに、Aqoursのメンバーのことは名前呼びになった。これも苗字呼びが他人行儀すぎると千歌からの提案だ。もちろん流石に名前で呼ぶのはスクールアイドル活動の間だけである。普通に授業中でも名前呼びだったら、脳内お花畑ちゃんが多い浦の星の生徒たちにどう追求されるか分かったもんじゃねぇからな。

 

 

「こんなところで怪しい行動をされて逮捕されても困りますから、早く家に入ってください」

「だからしてないって……。もういいや、お邪魔します」

「女の子の家だからって、不審な行動は謹んでくださいね」

「お前どれだけ俺のこと警戒してるんだよ……」

 

 

 家には上げてくれるあたり、好感度が底辺ながらも僅かな信用はあるのだろう。それともただ一緒に作曲作業をするために割り切っているのか。どちらにせよ門前払いをされなかっただけでもありがたい。梨子も梨子で俺を追い返したことが千歌たちに知られたら、親睦会をした以上バツが悪いんだと思う。結局、まだ俺のことはただの仕事仲間としての意識しかないってことか。寂しい!!

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「いいですか? 私は飲み物を取りに行きますけど、その間絶対に部屋のモノに手を出さないでくださいね」

「分かってるって!! 心のない人形にでもなってやるから!!」

「こんな人形不潔です……」

「いいから行ってこい!! お前の危惧してることはしないって!!」

 

 

 梨子の部屋に案内されたのはいいのだが、あまりの信用されなさっぷりに涙出そうなんだけど……。いくらドMの心得がある男でも、この気持ち悪がられ方は心に響くだろ。ちなみに一応言っておくと、俺はMじゃないからな。

 

 そんなこんなで彼女は飲み物を取りに向かい、部屋にはポツンと俺1人になった。

 その場から1ミリでも動いていたらまた怒鳴られるので、石像のように固まりながら部屋を見渡してるんだけど――――何ていうか……うん、地味だ。いつもは俺をどやしていて強気な彼女だが、教室にいる雰囲気を見てみればかなり大人しそうだった。良く言えばお淑やか、悪く言えば地味、そんな印象。それが愚直にこの部屋にも現れている。μ'sで言えば海未のような整いながらも飾りっ気のない部屋だ。もちろん馬鹿にしているわけじゃない。ただ全体が整い過ぎているせいで、アイツに注意されなくても畏まってしまう。

 

 特に面白味のない部屋だと思いぼぉ~っとしていると、ふとタンスとクローゼットの間に何かが挟まっているのが見えた。散らかっている部屋なら特段気にすることもないのだが、部屋全体がキッチリとしているだけに雑に放ってあるモノには勝手に目が行ってしまう。

 

 

「なんだアレ……本か?」

 

 

 しかし、本にしてはかなりページ数が少ない気がする。それにサイズもA4くらいでそこそこ大きい。この2つの条件に当てはまる本と言えば――――

 

 いや、ないな。

 梨子は親友に降りかかった痴漢を、まるで自分のことのように怒って必死で親友を守った。つまり純情を具現化した存在だ。そんな彼女が同人界隈で名を馳せる、通称"薄い本"に手を出すはずがない。俺が千歌に痴漢をする際に梨子に手首を掴まれ阻止されたのだが、その時の彼女の顔はかなり真っ赤だった。だからそのような不純行為に耐性がないはずなんだ。

 

 

 でも――――

 

 

「一度見ちゃったら気になるよなぁ……」

 

 

 目に入ってしまった以上、正体を確かめなければずっと気になってこれからの作業も手が回らないだろう。今なら彼女もいない。一瞬だけ、たった一瞬だけでいい、手を伸ばして表紙を確認するだけ。それさえ確認できれば後は余計な邪念もなく作業に集中できるはずだ。

 

 そう考えてから行動までは早かった。石像のように固まっていた俺は呆気なく石化を解放し、タンスとクローゼットの間に素早く手を滑り込ませる。例のブツを掴んだことを確認すると、そのまま勢いよく腕を引いた。

 

 

「これさえ確認できればあとは戻すだけ……って、これは!?」

 

 

 薄い本の表紙を見た瞬間、今までの想像が見事にはち切れてしまった。表紙に写っているのは女性が2人、しかもとてつもなく美形で長身。作者の妄想が爆発したような女キャラだった。その女の1人が壁に背を付け、もう1人がその女に腕を回して――――そう、いわゆる"壁ドン"ってやつだ。

 

 しかしただの壁ドンだったら驚かない。今時の少女漫画だったらよくある展開で、もちろん薄い本界隈でも定番のシチュだからだ。問題は表紙の女キャラたち。この2人――――上半身が裸なんですけど!?!?

 

 

「ま、まさか梨子の奴……!!」

 

 

 女キャラが見えた瞬間はただの少女漫画好きだと思っていたのだが、キャラの外見を見てしまった今なら確信できる。アイツ……百合属性持ちか。世間一般では"レズ"と呼ばれる人種だ。痴漢から友達を守り欲心が小さいと思ってた子が、まさか女性同士の同性交遊を妄想するレズっ子ちゃんだっただなんて……!!

 

 

 その時、パリンとガラスのようなものが床に落ちて割れた音がした。もしやと思い振り向いてみると、そこには飲み物が入ったグラスをトレイごと落としてわなわなと震える梨子の姿があった。彼女は女の子らしからぬ恐怖に打ちひしがれた形相で、今まさに人生の転落を味わっているかような表情だ。

 

 梨子は床に零した飲み物には目もくれず、無言でどんよりとした雰囲気のまま俺の元へと近付いてくる。俺も俺でもう真実を見てしまったので今更弁解しようにもできず、彼女の禍々しいオーラに圧倒されただその場で硬直するしかなかった。

 

 

「見ましたね……」

 

 

 返事をする間もなく、梨子は俺の手から薄い本を奪うとそのまま丸めてゴミ箱の中にシュートした。薄い本は厚さが薄い割にそこそこ値段も高く、そんな簡単に捨ててしまえるほどの代物ではないはずなのだが、もう彼女はそんな判断すらできないくらい追い詰められているのだろう。

 

 

「殺します!! 絶対に殺します!!」

「お、おい待て!! ハサミ握んなマジの犯罪者になっちゃうからそれ!!」

「うるさいです!! 早くこの世界から消えてなくなってください!!」

「言い方が物騒!? どんだけ俺を粉微塵にしたいわけ!?」

「粉微塵では満足できません!! 塵1つ残しませんから!!」

 

 

 梨子はトマトのように真っ赤な顔をしながら、ハサミの歯をこちらに向けブンブンと振り回す。羞恥心に心も感情も支配されているため、下手に刺激すると本当に殺されかねない。やっぱり羞恥に塗れる女の子の表情は可愛いと思いながらも、その傍らでこの場を切り抜ける策を考えるため必死に脳を回転させる。

 

 ん? そうだ、その手があった! この方法を使えば俺も梨子も両方幸せになれる、まさに夢のような解決策を思いついたぞ。

 

 

「どうせみんなにこのことをバラすんですよね!? そうなる前にあなたをこの世から消します!! 最初から存在がなかったかのように仕組んであげますから!!」

「落ち着け!! とりあえず俺の話を聞いてくれ!!」

「……遺言としてならどうぞ」

「千歌たちには絶対に今日のことはバラさない。信じてくれ、絶対にだ」

「はい……?」

 

 

 そりゃあキョトンとした反応にもなるだろう。誰だって今まで虐げてきた奴が自分の弱みを知ったとなれば、その弱点を突いて仕返しするに決まっている、そう思うのが普通だ。だからここまで相手が低姿勢だと呆気に取られてしまう気持ちも分かる。梨子の顔はまだ真っ赤のままだが、全体の雰囲気はハサミで脅してきた時よりもかなり緩和されていた。まだ俺のことが信用ならないと言っても、恐らく心のどこかでは安心感が生まれつつあるのだろう。

 

 だがしかし、俺が仕返しをしない温厚な人間だと思うか? そんなわけないだろう。ここからが俺の交渉術の真骨頂だ。

 

 

「でも1つ条件がある」

「条件……?」

「お前が俺の痴漢を黙ってくれているのと同じだよ。こっちも今のことを黙ってやる代わりに、お前に1つやってもらいたいことがある。どうだ? この話に乗ってみるか?」

「内容によります……」

 

 

 梨子もかなり切羽詰っているのか、警戒しながらも俺の話に食いついてきた。ここまで来たのならあと一歩だ。

 

 

「なぁに簡単なことだよ。昨日の痴漢の続きがしたい、ただそれだけだ」

「は……?」

「お前に千歌への痴漢を邪魔されたせいで、発散できかなった欲求が溜まりに溜まって仕方ねぇんだ。だから手伝ってくれ、俺の性欲の発散をな」

「な゛っ……な゛っ……何言ってるんですかァアあああああああ!?!?」

 

 

 そう、この世はギブアンドテイク、タダで秘密を守ってもらおうと思っているのならそれは間違いだ。そもそもこんな交渉をせずとも、痴漢の連勝記録をストップしやがった梨子にいつか復讐してみたいと思ってたんだ。だから今回こそ最高の機会。生徒と教師? 知らんな。男の第一欲求は性欲。どんな話をするにもまずはその欲求を満たしてからだ。

 

 

「何もハードなプレイを強要しているわけじゃないんだ。俺に何をされても、そのまま耐えてくれさえいればそれでいい。ちなみに言っておくと、痴漢をバラすって選択はなしだからな。俺が顧問になることでその契約は既に成立済みなんだから」

「うぅ……」

「まさに図星、それでこの状況を切り返そうと思っていたのか。残念ながら諦めて、イエスかノーで答えろ。痴漢の続きをするのかしないのか……」

 

 

 ぺたんとその場で座り込んで俯く梨子。今頃心の中ではあらゆる葛藤に(さいな)まれて、自らの身体を差し出すのか否かで迷っているのだろう。でも、彼女はもう俺から逃げられない。とてもじゃないが自分がレズだったってことなんて、周りに言い出せるものでもないしな。Aqoursのメンバーって純粋な子や堅物な子も多いから余計に。

 

 

「少し……本当に少しだけですか……?」

「あぁ、必要以上に触ったりはしないよ。お前を不快にさせたりなんか絶対にしない」

「今、この状況が非常に不快なんですが……」

「大丈夫安心しろ、紳士だからさ」

「…………少し、だけですよ」

 

 

 梨子は全身の力を抜き、女の子座りのままだらりとした体勢で俺を受け入れる準備をする。もう少し交渉術を考えていたのでここまであっさりと提案を飲んでくれるのは意外だったが、これも結果オーライとしておこう。

 

 改めて彼女を全身を舐めまわすように見回してみる。地味な外見だが、細くスレンダーな身体は女性にとっては理想的だろう。制服のスカートからはみ出る引き締まった脚には目移りせざるを得ない。胸はバストサイズで語ればそこそこなのだろうが、身体が細いことも相まってバストの数値以上の大きさに見える。顔は可愛いというより美人と評されるか。切れ目がちで気が強いこともあって少々近寄り難くはあるのだが、そんな子ほど攻めて攻めて攻めて倒して興奮に緩む表情が見たいというサディスティックな心が働く。

 

 そのせいか、俺は不意に梨子を抱きかかえていた。

 

 

「きゃっ!」

「このくらいで奇声を上げるなんて、薄い本の知識はあっても経験は全然なんだな」

「男性経験は一度もありませんから……」

「そうか。なら俺が一番最初の男ってことね……なるほどなるほど」

 

 

 抱きかかえた梨子を壁際に運び、背を壁に寄りかからせる形で座らせる。そして俺は右腕を壁に着き、左手で彼女の顎を上げ――――つまり"壁ドン"と"顎クイ"を同時に実行した。

 

 

「あ、あ、あのぉ……」

「好きなんだろ、こんなシチュエーション」

「あっ、あぁ……は、はい……」

 

 

 俺の顔と梨子の顔は、少しでも動いたら触れ合いそうな距離にまで詰まっていた。そのせいで彼女の顔から暖かい熱気が伝わってくる。この熱気はさっきまでの怒りによる興奮とは違う。女の心を焚きつけられたかのような、別の何かな気がした。

 

 俺を消そうとしていた梨子に目を真っ直ぐ見つめられ、俺が彼女を追い詰めているつもりが逆に彼女の琥珀色の瞳に囚われそうになっていた。加えて女の子特有の香りで段々と正常な判断ができなくなってきた俺は、左手を彼女の顎から離すと今度は胸部へと手を伸ばす。

 

 

「あぁ……んっ!」

 

 

 男性経験のない彼女のこと、自分の胸を触らせたのは俺が初めてだったに違いない。胸を触った瞬間に伝わってきた、心臓の激しい鼓動。そこそこ敏感なので自分でも弄ったことがあるのだろうか。あんな本を持っているんだからその可能性は十分にある。それに一切抵抗の色を見せないので、緊張しながらも俺のことは受け入れてくれているらしい。もしかしたら、彼女自身も楽しんでいるのかもしれない。

 

 制服の上から胸を鷲掴みにし、契約に反しないよう優しく揉みまわす。成長したμ'sの女の子たちと比べたらもちろん小さいのだが、女子高校生らしい発展途上の張りの良さは制服越しでも明らかだ。俺は指を触手のように卑しく蠢かせて、彼女の胸を執拗に攻めてみる。

 

 

「はぁ、んっ……あ、んっ」

 

 

 段々と淫猥な吐息が漏れ出し、頬を赤くして蕩けた表情のまま俺の寵愛を一身に受け入れている。身体を預けられるほどには俺のことを信用してくれたのだろうか、いつの間にか背中に彼女の腕が巻き付いていた。目も焦点が上手く合わずぼやけているみたいで、初めて異性に触られて感じる電流のような快感に、何も考えず身を任せているようだ。

 

 

「梨子……?」

「本当に……うぅ、あ、んっ……優しくしてくれるなんて……はぁ……思っていませんでした……」

「言っただろ紳士だって。それにな、俺は女の子が本気で嫌がることはしないから」

「優しいんですね、意外と……」

「意外とは余計だ」

 

 

 傍から見れば無理矢理言いくるめて襲っているように見えるが、これも彼女が望んでいたことを実行してあげたんだから文句を言われる筋合いはない。本気で嫌だったら今頃俺は突き飛ばされて通報されているだろうし。

 

 さっきからずっと梨子の左胸を触っていたので、今度は右胸にシフトする。同じ胸を触られているのに、場所が変わっただけで彼女は再び淫声を漏らし始めた。はぁはぁと徐々に激しくなってきた吐息が、眼前にいる俺の顔面にぶち当たる。そんな彼女の興奮具合に触発されなかったのは自分にとって奇跡だった。ここで勢いに任せて手を激しく動かしたら、ようやくこちらに傾けることができた彼女の心がまた遠く離れてしまう。この胸を掴む手は彼女の心を掴む手と同義。ゆっくりと、じっくりと、梨子をその心ごと抱きしめるように近付いた。

 

 

「はぁ、あぁ……変ですよね……」

「何がだ?」

「あんな趣味を……んっ、持っているなんて……」

「そんなことないさ」

「そう、ですか……?」

「あぁ。俺だってこんな性格だろ? 別に自分に趣味なんだから好きにすればいいんだよ。もちろん人には言えないけど、だからと言って好きなことを諦める理由にはならない。だから俺は貫くさ。女の子好きだってことも、女の子とこういうことをするのが好きだってことも」

「先生……。やっぱり最低ですね♪」

「笑顔で言うなよ……」

 

 

 しかし、梨子が初めて笑顔を向けてくれた。それだけで俺も笑みが零れる。

 どうやら彼女の中で1つ(わだかま)りが解消され、悩みも吹っ切れたみたいだ。数分前の鬼の形相と比べると優しく穏やかになっている。俺から見た彼女と言えば怒っている顔や蔑んでいる顔ばかりで、昨日の親睦会でも笑っているところなんて見たことがなかった。教師と生徒が絡み合っているこんな状況だけど、梨子との距離が一気に縮まったような気がして俺の心も落ち着いてきた。俺も彼女と(いが)み合う関係ではなく、もっと仲良くなりたいと焦っていたからな。

 

 

 俺は胸を揉む手を止め、梨子の目をじっと見つめていた。彼女も同じく、壁ドンされたまま俺と目線を交錯させる。最初抱きかかえた時は身体が僅かに震えていたのだが、今はその怯えも消え、興奮によって荒んだ息を整えている。

 顔が近い。身体同士が密着しているせいで火照った身体の体温がお互いにも伝わり、心臓の鼓動も同期している。シチュエーションだけで言えば、もう恋人同士のよう。少しでもお互いが前に動けばキスが成立するこの状況で、俺たちの身体は緊張でより熱くなった。朱に染まった彼女の頬。俺が何をしても動くなと言ったのだが、彼女はこの状況すらも受け入れるのだろうか……?

 

 

 どうする……? いや、どうするもこうするも、考える必要はないか。

 

 

「そろそろ始めようか、作曲」

「あっ、は、はい……そうですね」

 

 

 俺は壁から腕を離すと、後ずさりして梨子を拘束から解放する。一瞬彼女がシュンとした様子になったのだが、もしかして本当にこの子……うん、流石にそれはないか。

 

 

「あ、あの!!」

 

 

 俺が立ち上がって机に向かおうとしていた時、梨子から声を掛けられる。振り向いてみると、彼女は恥ずかしそうに身体をもじもじとさせていた。今まで凶暴な性格の彼女しか見てこなかっただけにしおらしい彼女は新鮮だ。

 

 

「なんだ?」

「あの……もしこれからもよろしければ、作曲を手伝ってくれませんか?」

 

 

 俺は思わず驚いてしまう。あれだけギスギスした関係だったのに、まさか彼女から誘ってくれるとは……。

 もちろん、俺の答えは決まっている。

 

 

「あぁ、俺でよければ手伝わせてくれ」

「ありがとうございます!!」

 

 

 ここで俺は、今までで一番の彼女の笑顔を見た。あまりに綺麗な笑顔だったので、さっきの驚きに追撃される形で心を打たれる。スクールアイドルだとか教師生徒の付き合いだからとか一切関係ない、彼女の本当の笑顔が見られたことが何よりも嬉しかった。

 

 女の子の笑顔ってやっぱりいいよな。笑顔こそその子の魅力が一番良く伝わってくる表情だと思っている。だから梨子以外のAqoursのメンバーとも仲良くなりたい。彼女たちがどんな魅力を秘めているのか、今から楽しみになってきたぞ。

 

 

「先生! 作曲始めますよ!」

「おう。でもとりあえず、割れたグラスとか零したジュースとか片付けないか?」

「あっ……」

「もしかしてお前、案外抜けてる……?」

「そ、そんなことありません!!……た、多分」

「結構面白い奴だったんだな、お前」

「わ、笑わないでください!!」

 




 零君視点だと女の子側の心情を描くのが難しいので悩みどころです。梨子の心情が上手く読者さんに伝わっていればいいのですが……。

 サンシャイン編に入って今まで掲載していなかったのですが、Twitterにて更新予告と報告をしています。
⇒ @CamelliaDahlia
URL: https://twitter.com/CamelliaDahlia

前書きの質問コーナーは感想やTwitterに寄せられた質問で何度か聞かれたことのあるものをピックアップしただけなので、今後もやるかは不明です。また質問が溜まってきたらやるかも……?

次回は花丸とルビィがメインの予定です。

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