教師生活にも慣れ、いつものようにAqoursの放課後練習に付き合った日の夜。俺はパソコンの前で特に何の目的もなくぼぉ~っとネットサーフィンをしていた。
性欲に満ち溢れていた高校生時代なら朝日が昇るまでエロサイトを回っていたところなのだが、大人になった今はもうそんな元気すらない。別に女の子に欲情しなくなった訳ではなく、頼めば12人の恋人たちがあれこれやってくれる関係になっているので学生時代と比べればそこまで下品ではなくなったと思う。それにAqoursという新しい目の保養要因もいるし、女の子成分に関してはむしろ有り余っているくらいだ。もちろん性欲が旺盛なのは昔と変わってないけどね。
そんなことを考えながら、俺は行き着く宛もなくとある動画サイトの生放送リストを覗いた。最近は誰もが簡単に動画を配信することができるようになったので、動画サイトでは連日素人さんたちのチャンネルで溢れかえっている。俺が眺めている生放送リストも、ただの雑談からゲーム配信などを筆頭に数千の番組が放送されていた。
その中で一際俺の目を引いたのは、『堕天使とサバトの時』という明らかに厨二臭いタイトルが付けられた放送だ。本来なら厨二病さんたち会話など耳が痛くなるので聞きたくもないのだが、来場者数もコメント数も多い上に、生主のプロフィールを見たらどうやらJKらしいので興味を唆られる。可愛い女の子が厨二病って微笑ましいじゃん? 男がやってたらドン引きだけどさ。
どんなカオスな放送をやっているのかと内心ドキドキしつつ放送の枠に入る。すると画面に放送主の部屋らしき暗い場所が映り込み、放送主の顔は黒いレース布で隠されていた。1画面だけでもおどろおどろしい雰囲気が立ち込めており、画面上部に流れる視聴者のコメントも厨二臭いものばかりで俺の場違い感が半端ではない。
そして、俺がこの放送に入って初めて放送主の口が開いた。
『今宵のサバトは地に還る者が出るであろう極めて高度な儀式。それでも我が深淵の闇の力を授かりたい者は、堕天使たる我が前に跪け!!』
やべぇ帰りたい。帰りたいのは山々だけど、この人の声を聞いてこの放送に居座り続ける理由ができてしまった。その理由は明確。
この声、俺が1年生組にセクハラをする原因を作った堕天使ちゃん、津島善子じゃね?
まだ数日の教師生活だが、その間にも彼女の厨二語録は結構聞いてきたし、堕天使モードになる時だけやけに大人びたクールな声になることも知っている。更に放送主の髪型が綺麗な黒髪をお団子にしている超特徴的なものなので、もう確信を持ってアイツだと断定できた。
「コイツ何やってんだ……」
学院では封印している自分の欲望をこれでもかというくらいに晒し、後から見たら黒歴史確定なセリフを次から次へと連発している。このような奴もある意味でリア充と言うのだろう、本人が楽しそうなら別にいいか。学院でも普通の女子高生を装っているが、発する言葉の端々に厨二病の片鱗が伺えるので普段は相当飢えているんだな。だからこの放送が彼女なりのストレス解消法だと思うと、なんだか急に可愛く思えてくる。
そうだ、ちょっとばかりこの生放送の最中にイジメてみるか。善子がどんな反応をするのか気になるし。
俺は未だに理解不能な厨二語録を連発する放送のコメントにこう打ち込んだ。
『あれ? Aqoursのメンバーの子に似てない?』
この内容で俺はコメントを流す。他の人のコメントも流れているので彼女が読んでいるのかは定かではない。ほんの遊び心だから結果はどうであってもいいのだが……。
『天より堕ちし我がリトルデーモンよ!! 数多の屈辱を闇に変え、今こそ天界に裁きを下す――――って、え゛ぇえええええええっ!?』
あっ、急に素に戻りやがった。そのタイミングは俺のコメントが丁度画面に現れた時、つまりこの動揺は俺のコメントを見たせいで間違いない。ただの身バレだけで取り乱すとは、まだまだ厨二病患者として素人だな。普段でもヨハネと呼ばずに善子って呼ぶだけで素が出るくらいだし。まあ末期患者になっていないだけマシなのかもしれないが。
よし、反応が面白いからもう少しだけ遊んでやろう。
『AqoursのPVでこの人を見た気がする』
今度はこの内容でコメントを流した。完全に確信犯だが、先程の動揺を見ればこのコメントで確実に追い討ちできるはずだ。俺のサディスティックな心が爆発しそうで、今から彼女どんな可愛い反応をするのかコメントした自分がドキドキしている。
『さあ! この結界に力を捧げよ!! 闇は増幅し、堕天使ヨハネの礎と――――ん゛っ、ゴホッ、ゴホッ!! ちょっとなによ!!』
おっ、効いてる効いてる。カッコいいセリフで役作りにのめり込んでいたがやはり自分の身バレには相当敏感らしく、レース布越しでも分かるくらい顔を真っ赤にしていた。身体もプルプルと震え、もう誰の目から見ても動揺を隠しきれていない。表情は顔が布で覆われていてあまり見えないのだが、確実に目に涙を溜めた男心をくすぐる表情をしているだろう。想像するだけでももっともっと弄りたくなってくる。
しかし彼女の仕業なのか、直後に俺がNGユーザーとして登録されてしまったため、それ以上コメントを流して弄ぶことはできなくなってしまった。
なるほど、そういうことをしちゃう子なのか……。だったら次は更に弄んでやろう。もちろん現実の世界でなぁ!!
~※~
「おいっすぅ~」
「来たわね、リトルデーモン」
あんなことがあった翌日。部室へやって来ると、そこには黒マントを羽織った善子が椅子の上に立って何やら決めポーズを取っていた。恐らくそのポーズのまま誰か来るのを待っていたのだろう。そう思うと何故か痛々しく感じて自分の胸にまで痛覚が襲いかかってくる。
「あれ、お前だけか?」
「なによ、悪い?」
「いや別に。むしろ好都合っていうか」
「好都合?」
「まあこっちの話だよ。好きなだけ堕天使ごっこを続けてくれ」
「ごっこって言うな!!」
花丸から聞いた話だけど、コイツって至極普通の女子高校生になりたいんじゃなかったっけ? なるべく自分が堕天使キャラだってことは周りにバレないよう努力しているらしいけど、あまりその成果を見られた試しはない。なのに学院にまでこんな真っ黒なマントを持ち込んで、本当に厨二病を卒業しようと思ってるのかよ……。どちらにせよ、こんな調子では厨二病の更生は程遠いな。
そうだ、どうせならリアルでも昨晩の生放送のようにしっかりと堕天使キャラを保っていられるのか、それを試してやろう。たった2コメントの煽りしかしてないのに俺をブロックしやがった恨みもあるし、羞恥の意味でも堕天させてやる。
「あぁ早くルビィ来なさいよ。堕天使コスプレコンテストの写真撮らなきゃいけないのに」
「まだ言ってるのかよ。アイツ嫌がってただろ……」
「あれはあの子特有の照れ隠しなの。それにルビィなら身体小さいし、私のリトルデーモンにはピッタリじゃない」
「ふ~ん。でもその堕天使写真が世間に出回ったら、お前がAqoursのメンバーだってことバレるんじゃね? 『ほらあれ? Aqoursのメンバーの子に似てない?』ってな」
「え゛っ!? そ、それは……努力すれば大丈夫だから」
目に見えて動揺してんじゃねぇか。絶対に昨晩の生放送で俺が流したコメントが頭に過ぎってるなこりゃ。目も泳ぎに泳いで身体も震えてるし、俺が思っていた以上にあのコメントのダメージが大きかったらしい。
「いやぁ努力してもファンは気付くものだよ。だから『AqoursのPVでこの人を見た気がする』って言われるのも時間の問題かもしれないぞ」
「あ゛っ、そ、そそそそそんなこと……あるわけないじゃない……よぉ!!」
「語尾おかしくなってんぞ」
「あ、アンタがおかしなこと言うからでしょ!! 昨日の奴みたいに……」
「ん? 昨日の何だって?」
「な、なんでもないわよ!!」
これだけビビってたら俺をブロックした理由も納得だわ。ここまで心が揺らぐなら堕天使キャラなんてやめてしまえばいいのに……と言っても、自分の中で根付いたキャラって中々やめられないんだよな。思春期の間は特にそう、厨二病なんてカッコイイと思って始めたことだからなおさらだ。
「だったらもっとさ、堕天使キャラとして正々堂々振舞ったらどうだ?」
「キャラって言うな!!」
「はいはいそれそれ。お前は素を出しちゃうから身バレする可能性が高いんだよ。やるならもっと徹底しろ」
「してるつもりよこれでも。だけどAqoursの活動の時や学院にいる時くらいは普通でいたいから、そのせいでたまに通常のテンションと堕天使のテンションが混在しちゃうのよね。だから思わず素が出ちゃうのかも」
「ほぉ、案外自分のことはちゃんと分析できてるじゃん。後先構わず黒歴史を振りまくタイプじゃなかったか」
「堕天使たるもの、常に聡明でなければならないからね!!」
ドヤ顔で中途半端な胸を張る見習い堕天使 : 津島善子。聡明なことと堕天使だってことは全く繋がりはないと思うんだが……。まあいいか、とりあえず俺としてもリアルと厨二病の境界線でウジウジ悩む女の子を慰めるのは面倒なので、ここは堕天使キャラを極めさせるためにも人肌脱いでやろう。いくら厨二病であっても、リアルとの区別ができてさえすればそれでいいんだよ。コイツは冷静に自分を分析できているから、わざわざ更生させる必要もない気がする。
「俺も付き合ってやるよ、お前が真っ当な堕天使になれるようにさ。今からすぐってのは無理だけど、これからは堕天使キャラの間に取り乱して素を出さないことを目標にしていけばいいと思うんだ」
「…………」
「な、なんだよジッと睨み付けて……」
「アンタのことだから、何か裏があるんじゃないかと思って。そう安々と協力してくれるのが怪しいのよねぇ」
「そうやって人を疑って生きる人生は楽しいか?」
「何を哲学ぶってるのよ!! アンタ私たちにセクハラしたこと覚えてるの!?」
「それは半分お前のせいだろ!! さり気なく被害者ぶってんじゃねぇよ!!」
「全く、誰のおかげで成り立ってる人生なんだか……」
それは少なくともお前ではないと言いたかったのだが、これ以上食いついても埒が明かないのでここは大人の対応で沈黙する。確かにあのセクハラ事件のことは1年生たちと俺の間だけの秘密であり、教師人生を脅かす事故でもあったので黙ってくれていることには感謝している。でも元凶であるコイツの口からそれを誇示されるのはどうも癪で納得がいかない。お前が廊下でルビィを襲う奇抜なことなんてしなければ、あんなラッキースケベは起きなかったんだよ。
「まあいいわ、そんなことはもう」
「おい、どこへ行くんだ?」
「普通女の子が黙って出て行く時に行き先とか聞くぅ?」
「だってお前、普通の女の子じゃないじゃん」
「うぐぅ……ど、どうでもいいから早くそこどきなさい、急いでるんだから」
部室の扉の前に立ち塞がるように椅子に座っている俺に向かって、善子は少々頬を赤く染めながら退去を命じる。
どうしてコイツの顔はこれほど赤いのか。俺の女の子に対しての価値観はμ'sによって鍛えられたものなので、女の子の顔が赤いと発情していると真っ先に思い込んでしまう。Aqoursの子たちとはそんな関係じゃないと気付く方が遅いからな……。
それにしても、善子の様子が身バレしそうになった時の動揺とは違う。女の子が行き先を伝えることを渋り、全身ではなく脚だけをモジモジとさせ、更に忙しなくしていると来た。この動作から当てはまる女の子の恥ずかしいことと言えばやっぱり――――そう、お花を摘みに行くことだ。
「なんだお前、トイレに行きたいのか」
「ちょっ、な゛ぁ!? あ、アンタはデリカシーってものがないわけ!?」
「普通ならこんなこと言わねぇよ。でも俺ってほら、普通じゃないからさ」
「普通じゃなくても言っていいことと悪いことがあるでしょ!? いいから早くそこ通して!!」
「やだね」
「は、はぁ??」
そうだよ、俺がタダで協力すると思ったら大間違いだ。善子の反応が可愛いからもっと見たいってこともあるけど、ちょっとトイレに行くのを邪魔してやろう。もう俺の中のドS心がここぞとばかりに暴走して抑えられないんだよ。
「さっきから俺が全面的に悪いみたいな流れになってるがよく考えてみろ。天使がトイレなんていかないだろ。つまりそういうことだ」
「て、天使じゃなくて堕天使だもん……」
「変わんねぇよそんなもの。いくら堕天使だろうが天使と同じ、俺たち下界の人間から見たら尊き存在なんだ。それにお前には崇拝してくれる数多の眷属がいるんだろ? だったらイメージを打ち壊す真似なんてしたらダメだ」
「うぅ、上手いこと言ってぇ~……」
善子は少し上半身を屈め始めた。もしかしたら俺の想像以上に膀胱の限界が来ているのかもしれない。だとしたら俺と会話を始めた時からそこそこ尿意に襲われていたのだろうが、これは好都合だ。久しぶりに尿意と戦う女の子の愉快な表情が見られそうだぞ!
「キャラ付けをするためには、まず他人が持つイメージを崩しちゃいけないことなんだよ。自分がどれだけ体裁を取り繕っても、他人のイメージにそぐわなかったら意味ないからな」
「だ、だからなによ……」
「だからまずは堕天使になりきることなんだ。トイレに行くなんて言語道断。本物の堕天使になりたいのなら、まずは周りから堕天使と思われるような行動をしてみるんだ」
「そ、それはトイレに行った後でするからぁ~……」
最初からぐぅの音を上げるとかやる気あんのかコイツ? 折角人が協力してやるって言ってんのに、速攻でそれを無下にするとか堕天使とかの問題じゃなく人としてどうなの??
まぁそんな冗談は置いておいて、善子はさっきよりも上半身を前屈みにする角度が大きくなった。2つの太ももを引っ付けて震わせているのが色っぽく、触ったら絶対にその衝撃で聖水が漏れ出すだろうと妄想するだけでゾクリと背徳感が駆け巡る。
「なぁ、お前もスクールアイドルなら知ってるだろ? μ'sの高坂穂乃果って奴」
「り、リーダーのでしょ? 知ってるけどそれがどうしたっていうの……」
「みんなの憧れの的であり大人気スクールアイドルのリーダーでもある高坂穂乃果が、身体の穢れを放出するためにトイレに行くと思うか? アイドルなんだからトイレになんて行かねぇよ」
「それはそう言われているだけで、裏ではしっかりトイレに籠ってバンバン穢れを放出してるわよ!!」
「お前、夢ってものがねぇよなぁ」
まあこの話をするとみんなの夢を壊してしまうかもしれないが、穂乃果のことについては引き合いに出しただけでアイツはしっかりとトイレに行ってるぞ。一緒にトイレに入ったこともあるんだ間違いない。
「アイドルに夢なんて見てんじゃないわよ!! だから早くそこを通して!!」
「堕天使を目指している奴がそれを言うか……」
「もう天使とか堕天使とかアイドルとかどうでもいいから、早く早く!!」
「尿意を我慢してる女の子っていいよな」
「アンタ、教師としてとか関係なく人として最低ね!!」
「あっ、それ俺もさっき同じこと思ってたぞ」
「うるさい!!」
善子は相当切羽詰っているようで、扉の前に椅子を置いて座り込む俺に迫ってきた。ちょっとでも動いたら漏らしてしまいそうなはずなのにそれでも無理矢理俺を引っ張ろうとしているので、もう一切後がないのだろう。流石にこれ以上イジメたら可哀想だし、最後にボディタッチだけしてお花を摘みに行かせてやるか。
「分かった分かった! 邪魔して悪かったから早く行って……来い!!」
「ひゃあぁああああああぅ!!」
「そこまで叫ぶようなことか!? も、もしかして……」
「う、うぅ……」
善子は目をギュッと瞑り、手を股に当て必死に膀胱ダムの欠落を抑えている。その行動からまだ漏らしてないことは確定だが、身体にもうワンタッチして刺激を加えれば途端にダムから聖水がドバドバと流れ出してしまうだろう。お漏らしプレイに興味がないわけではないのでどうなるか試してみたいが、実行に移せば確実に彼女からの信頼はゼロになるに違いない。一応教師としては生徒と仲良くなる術は残しておきたいので、今日はここら辺で我慢してやろう。
「ほら、もう触んねぇから行け。男にお漏らし処理なんてされたくないだろ?」
「誰のせいよ誰の!! もういいわ、行ってくる!!」
ようやく天国(トイレ)への道が開通され、善子は部室を出て行った。その道で間違っても膀胱だけは開通させんなよ。ふぅやれやれ、厨二病になりきれない女の子を教育するのも楽じゃねぇな。途中からは堕天使になる特訓とか全く関係なく己の欲望を吐き出していたような気もしたのだが、まあ気にしない気にしない。
「如何せん弄りがいがあるなアイツは」
「そうですよねー可愛いですよねー」
「そうそう尿意に襲われる女の子は可愛いんだよ――――って、え゛!? ち、千歌!?」
「えへへ♪」
外から意地悪そうな声で俺の天敵 : 高海千歌が部室へ入ってきた。彼女の顔は悪魔そのもので、バックに秋葉と同じ邪悪な念を感じてしまうほどだ。いつものように明らかに何か企んでますよ的な顔をしているので、もう俺の中ではダイヤよりも恐ろしい存在となっている。ダイヤの場合は説教を軽く聞き流しておくだけでいいのだが、コイツの場合は何度もネチネチと過去の所業をネタにしてイジってくるからな。
「ま~た私に貸し1つですよ、せんせ♪」
いつか俺が千歌の呪縛から抜け出せる日が来るのだろうか。その日が来るのを今か今かと待ち続ける日々がまた始まりそう……。
厨二病のセリフは考えるのが難しい以前に面倒なので、ヨハネは基本的に今回のような損な役回りになりそう。まあそっちの方が読者さん的には美味しい展開かもしれませんが(笑)
次回はまだ未定。思いつき次第Twitterで告知します。
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