ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回は千歌ちゃん回です!そしてAqours編に入って初めての真面目なお話回でもあります。とりあえず今までちょっとした伏線の回収も兼ねていたり。


脅迫の真実とハーレムへの入口

 

 Aqoursの女の子たちと親交を深めつつある今日、俺はそのメンバーの1人である高海千歌に呼び出され、彼女の自宅でもある旅館『十千万(とちまん)』へとやって来た。外見はかなり古風で東京育ちの俺からしてみれば古臭いというのが一先ずの感想なのだが、今の時代ここまで日本古来の趣で経営している旅館は珍しい。妙に立て付けが悪そうなのも、ある意味で風情を感じる。台風や地震が来てペシャンコになりそうな怖さはあるけど、今の今までこの外観を保ち続けてきたのだから昔の建築技術って凄いと思う。

 

 そんな旅館批評はさて置き、俺がここに来た理由について話そうか。理由と言っても千歌が一緒に次のライブで使う歌の歌詞を考えてくれとせがまれたからなのだが、俺には彼女に1つ聞きたいことがあった。言っておくけどそこそこ真面目な話題だからね? 性の目覚めの時期とか初オナニーのオナネタとかも気になるけど、それ以上に彼女の口から話してもらいたいことがあるのだ。

 

 

「あっ、先生遅いですよぉ~!!」

「指定時間の3分前だ。余裕でセーフだろうが」

「女の子との約束は男性の方が先に来るものですよ!」

「あのさ、この旅館はお前の自宅なのにどうすれば俺の方が早く来れるんだよ……」

 

 

 旅館の入口に辿り着くやいなや、千歌が意味不明な冗談で俺を迎えてくれた。ていうか冗談じゃなかったらこの子の頭がちょっとイっちゃってるってことに……いや、元々かなり頭がおかしい子だってことは知ってるけどね。教師の立場上、生徒にこんなことを間違っても口に出せないが。

 

 

「でもちゃんと私との約束を守ってくれただけでも嬉しいです♪ それじゃあ早速行きましょう!」

「へ? 行くってどこに?」

「どこって、私の部屋に決まってるじゃないですか。ロビーだとお客さんの邪魔になりますし」

「そ、そうか……」

 

 

 いくら邪魔になるからと言っても、自分の部屋に教師を連れ込むなんて普通に考えてみればタダ事ではない。しかも相手は異性であり、歳は離れてはいるけど他の教師と比べれば俺と千歌の年齢は格段に近い。なのにコイツは無警戒で男を女の部屋に上がらせようとしている。もし間違いが起こる想定は全くしていないということか? だったら男として舐められてるみたいで少々腹が立ってきたぞ。

 

 ちなみに今日の千歌の服装は袖のないシャツにホットパンツ。つまり腋や太ももを丸出しにしているのだ。そんな服で男を迎えるとか、どう考えても誘っているようにしか見えねぇだろ。しかもシャツの隙間から白の下着がチラチラ見えているのも俺の欲求を大いに刺激する。コイツはもっと自分がリアルJKであることを自覚すべきだよな……。

 

 

 

「こっちですよ! ほら行きましょう!」

「あ、あぁ……」

 

 

 そしていきなり千歌に手を取られ、半ば引っ張られる形で彼女の部屋へと向かった。

 よく分かんねぇけど、やたらテンションが高くないかコイツ? しかも何の躊躇いもなく俺の手を取るとは、やはり1人の男として認識されていないのだろうか。そもそも教師としての立場が強くて、恋愛方面に一切思考が傾いていないのかもしれない。まああの千歌だし何も考えてない可能性が高いだろうけど、仮にも容姿が整った可愛い女の子にいきなり手を掴まれるとか、いくら彼女持ちだと言えどもドキっとせざるを得ない。あざとい子よりも無自覚にこういったことをしてくる子の方が心を掴まれるよなぁ。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ジャーン!! ここが私の部屋です! 女の子の部屋に入ってドキドキしてますか?」

「しねぇよ別に。普通の部屋じゃねぇか」

 

 

 前言撤回、コイツは俺を脅すくらい陰湿な奴だったってことを忘れてた。さっき少しでもコイツに乙女さを期待していた俺がバカだったよ……。

 

 女の子の部屋にお邪魔するなんて日常茶飯事だった俺からしてみれば、いちいち女性の部屋に上がり込んだだけでたじろぐことはない。女の子経験が薄いウブな男子だったら、女の子の部屋に入った瞬間女子の独特の甘い匂いやその子がいつも就寝しているベッドなどでドキドキするのだろうが、残念ながらμ'sで精神を鍛え上げられた俺にそんなものは通用しない。千歌は自分の部屋に俺を上がり込ませることでドギマギさせようとしていたみたいだが、先生の女性経験の豊富さを舐めていたようだな。

 

 部屋をぐるっと見渡して分かったのだが、壁にμ'sのポスターが貼られている。千歌がμ'sの大ファンで穂乃果たちの触発されてスクールアイドルを始めたってことも聞いたのだが、まさかここまでのファンだったとは。棚にもμ'sが出演していた頃のラブライブのDVDもあるし、相当彼女たちに入れ込んでいるらしい。自分が手塩にかけて育ててきたμ'sにここまで熱狂的なファンがいると、何故だか俺まで嬉しくなってくるな。

 

 それにしても、自分の恋人たちがこうしてスクールアイドルの象徴のようにポスターに写っているのを見ると、身近な存在でありつつも別人に見える。逆に言うと、ありのままの彼女たちを知っているのは俺だけってことになるから地味な優越感を感じていたり。

 

 μ'sのポスターを見ながら丸テーブルに座ると、その対面に腰を掛けた千歌に話しかけられる。

 

 

「あれ? 先生もμ's好きなんでしたっけ?」

「えっ、どうして?」

「いやずっとμ'sのポスターを見てたから……」

「あぁ好きだよ。5年前からずっとな」

「本当ですか!? まさか先生と共通の話題ができるなんて思ってもいませんでした!! それじゃあ早速第三回のラブライブ本戦のDVDを一緒に観ましょう!! A-RISE一強時代を見事に打ち崩した感動のシーンを!!」

「待て待て! 今日は作詞をするんじゃなかったのか!?」

「同胞と出会ってこのμ's熱を抑えることができるでしょうか? いいやできません!!」

「同胞って……」

 

 

 1つ言っておくが、俺と千歌の『μ'sが好き』はニュアンスが違ってくる。千歌はファンとして、そして同じスクールアイドルの憧れとしてμ'sが好きと言っているのだろうが、俺の場合は人生を共に歩んでいくパートナーとしてだからな。もちろんμ'sのファンかと言われれば、地球上のどの生命体よりも俺は彼女たちの一番のファンと名乗れる自信はある。

 

 

「作詞が遅れるとまた梨子に怒られるぞ。それに『先生が付いていながら』みたいな感じで文句言われて俺にまで飛び火してきそうだし……」

「それは毎回LI○Eのスタンプで誤魔化してるから大丈夫ですよ♪ 梨子ちゃんも目が引きつったスタンプで返してくれるし!」

「どう考えても怒ってるだろそれ!!」

 

 

 類は友を呼ぶとはまさにこのことか。穂乃果に憧れてるのが穂乃果と同じ頭を持った人間だとは……。以前梨子が千歌の作詞スピードが遅いと散々愚痴を垂れていた理由が分かったよ。

 

 

「そうだ! だったらμ'sのライブ映像を観ながら作詞しましょうよ! μ'sの曲からヒントを得られるかもしれないですし!」

「いやいや、お前のことだからどうせテレビに没頭して作詞が進まないのは目に見えている!! だからダメだ」

「ぶ~ぶ~!!」

「可愛く捻くれたってダメ」

 

 

 Aqoursのメンバーはよくこんな奴を作詞担当にしたもんだ。μ'sの作詞担当は超真面目ちゃんの海未だったから、同じく超真面目ちゃんである真姫とのコンビで作詞作曲作業についてはほとんど滞ったことはない。だが見てみろ目の前のみかん少女を。もう既に俺の意見を無視してμ'sのライブDVDを手に取ってやがる。ていうか梨子もよく我慢してるよな。もし梨子が海未だったら雷どころの災害じゃ済まないぞ……。

 

 

「あ~あ、折角μ'sの良さを分かり合える同志に出会えたのになぁ~」

「梨子や曜とは一緒に観てないのか? どうせ付き合わせているんだろ?」

「失礼ですね……ま、まぁ何度か誘ってμ'sの良さを布教しようとしましたけど」

「ほら見ろ。そういや黒澤姉妹もμ'sだし、アイツらとは話合うんじゃないのか?」

「そうですけど、身近に話が合う人が欲しかったんです!!」

「同じAqoursのメンバーは身近じゃなくて、顧問の俺は身近なのか……」

「先生は私のクラスの副担任でもありますから!」

 

 

 副担任って言われる方が身近に感じないんだがそれは……。

 ともかく、このままではμ'sのライブ映像を夜通しで観る勢いになりかねない。もう死ぬほどアイツらのライブを見てきた俺にとってそんなもの苦痛でしかないので、何とかしてμ's中毒の千歌に作詞作業をやらせないと。

 

 その時、千歌の身体がいつの間にか俺にほぼ寄り添う形で接近していることに気が付いた。最初俺たちは丸テーブルを囲うように対面で座っていたのだが、気付かぬ間に千歌が俺の身体に密着しそうな距離にまで詰め寄ってきていたのだ。μ'sの話に熱中していたからだろうか? それにしても女性が男にここまで無防備に近寄ってくるなんて……。あまりにも自然に近寄られていたので、俺の中で戸惑いが生まれていた。

 

 

「おい、ちょっと近くないか……?」

「そ、そうですよね! すみません……」

 

 

 突然、空気が変わった。

 

 千歌は借りてきた猫のように身を縮こませたまま俺の対面へと戻る。

 おかしい……明らかにさっきμ'sの話で盛り上がっていた時のテンションとは違う。それに『そうですよね』という発言は、自分から意図して俺に近付いてきたという証明でもある。彼女にどんな思惑があるのかは知らない。また脅迫紛いなことを要求されるのかと思ったが、しおらしい彼女を見ているとそんな雰囲気ではないことが分かる。以前プールで曜を追い詰めた時と全く同じ反応。まさか……まさかコイツも身体を触って欲しいとか淫乱ちゃんみたいなことを言ったりするのか!?

 

 

「あ、あの!!」

「な、なんだ?」

「…………」

「なんなんだよ一体……?」

 

 

 千歌は身を縮こませながら不安げな目で俺を見つめる。もしかして、作詞作業を催促する言葉が強すぎて怖がらせちゃったとか? でも彼女はそんな些細なことでビビる子じゃないし、そもそも俺への脅迫材料(痴漢騒動の件)を握っている時点で彼女の方が俺より立場が上だ。うん、自分で言って惨めになってきたぞ……。

 

 俺の立場はどうでもよくて、千歌がここまで畏まっているのは何か別の理由があるかもって話だ。曜に引き続いてまたしてもこの展開、リアルJKが頬を染めてそわそわしている仕草はいつ見ても心が揺れ動く。しかもギャップ萌えと言うのだろうか、特に千歌は普段の活気とは違って全く真逆の乙女な雰囲気を見せつけてくるのでいい意味で心臓に悪い。あまり健全な男子の心を揺さぶるなよな……。

 

 

「1つ……1つ聞きたいことがあるんですけど……」

「聞きたいこと?」

「はい……。先生って、スクールアイドルをやっていたこと、ありますよね……?」

「え……? あ、あるけど……」

 

 

 どんな質問が飛んでくるのか全然予想できなかったのだが、その範疇さえ超えた質問を投げつけられ俺の方が(ども)ってしまった。

 ちなみに俺がスクールアイドルをやっていたのは紛れもない事実だ。だがその期間は僅か数日で、μ'sとのいざこざがあってやめたんだったな。そう思えば千歌から質問されるまで自分がスクールアイドル経験者だってことをすっかり忘れていた。だからこそ返答に躓いてしまったのだが、自分の周りにあんな可愛いスクールアイドルたちがいるんだから仕方がないだろ。自分のことでもたった数日間のスクールアイドルの記憶なんて忘れちまうって。

 

 

「あぁ~言いたいことはそんなことじゃないのにぃ~!!」

「お、おいどうしたんだよ……」

「ゴメンなさい! 少し深呼吸いいですか?」

「あぁどうぞ」

 

 

 千歌は短い間隔で何度か深呼吸を繰り返した。しかし少々乱雑な深呼吸からかなり緊張していることが伺える。もう出会って数日、毎日顔を合わせては世間話や冗談を言い合ったりしているのにどうして今更緊張する必要があるのか。ただの緊張ではないってことくらいは想像できるけど、だとしたら一体……。

 

 数回の深呼吸を終えた千歌は、うるうると揺れる瞳をこちらへ向けながら再び俺と対面する。いつになく真剣な表情なので、さっきまで崩していた自分の姿勢をきっちりと正す。

 

 

「実はですね、今日先生をここに呼んだのは作詞をするためじゃないんです」

「え? じゃあ何のために……?」

「単純に一緒にいたかったから……じゃダメですかね?」

「一緒にいたいって……まだ話が見えねぇんだけど」

「ですよね。それじゃあ単刀直入に言います!」

 

 

 いきなり千歌に勢いが出てきて俺は思わず唾を飲み込む。何らかの迷いが吹っ切れたのだろう、今度は俺の方に緊張が回ってきやがった。

 

 そして、その緊張はまもなく最高潮を迎えようとしていた。

 

 

 

 

「好きです、先生のことが!!」

 

 

 

 

「は……??」

 

 

 意味が分からなかった。いや言っている意味は分かるのだが、千歌が俺のどこに惚れる要素があるのか、そこが分からない。さっきから千歌の言動が予想外すぎて何度衝撃を受けたことか。それが今まさにピークを迎え、自分でも珍しく頭の中がぐちゃぐちゃに混乱していた。とにかく、千歌に何かフラグを立てた覚えは一切ない。なのに突然の告白展開とかもう訳わかんねぇよ!! 女の子12人に告白された経験を持つ俺ですら意識が現実から離反している。

 

 

「いきなりこんなことを言われても困りますよね……」

「こ、困るってよりどうして俺のことなんか……。バスの中でのこと、忘れてないだろ?」

「もちろんです。忘れられる訳ありませんよ、あんな体験」

「だったらどうして……」

 

 

 自分ではどう足掻いてもパニックを抑えられないので、ここは冷静に千歌の話に耳を傾けることにした。一応これでも女心を少しは勉強してきた身、こういう時はまず女性の気持ちを聞き入れることが先決だ。

 

 

「4年前、たまたま先生がスクールアイドルとして活動している映像を見ました。ありきたりな感想ですけど、先生のスクールアイドル姿はとてもカッコよくて、当時はスクールアイドルのことなんてμ'sくらいしか知らない私の目を釘付けにされちゃったんです。私は周りの友達に比べると平凡で何の特徴もない人間でしたから、ここまで輝ける先生に憧れて、そして見惚れちゃいました」

「そ、それはありがとう――――って、じゃあお前、痴漢事件の時から俺のことを知ってたのか!?」

「はい。一目見た時は寝ぼけていて人違いかなと思ったんですけど、よく顔を見てみたら憧れの人で思わずジッと見つめちゃいましたよ。まさか実際に会えるとは想像もしていなかったので、あの時は痴漢をされたことなんて忘れてただドキドキしちゃって……」

 

 

 なるほど、ようやく気になっていたことの辻褄が合ってきた。バスでうたた寝をしている千歌に痴漢をしてしまって梨子に捕まり、浦の星の最寄りの停留所で始めて彼女と対面した時、千歌がやたら俺を見つめてくるなと思っていたんだ。その時の彼女の目は輝いており、どう考えても痴漢犯罪者を見るような目ではなかった。俺はずっとあの時の千歌の反応が気になっていたのだが、まさかそんな理由があったとはな……。

 

 

「言うなればアレです、一目惚れってやつです。先生のスクールアイドル姿を動画で見てから、胸がチクチクっとするようになりまして……。それでも最初はただの憧れの面が強くて、ほら、女性ファンが男性アイドルに熱中するみたいな、そんな感じだと思っていたんですよ」

「思っていたってことは、実際には違ったのか?」

「初対面は憧れの面の方が強かったですね。ですが先生と毎日世間話をしたり冗談を言い合ったりしている内に、憧れとしてではなく1人の男性として見るようになっていたんです。やる気なさそうな雰囲気をしながらも、勉強で分からないところは優しく丁寧に教えてくれますし、スクールアイドルの活動に関しては先生の指導のおかげでAqoursとしても個人としても目に見えるほどスキルアップしたと実感できました。まだ出会って数日ですけど、先生のことが"好き"だと認識してからはもう4年も経っているんですよ」

 

 

 史上初の男性スクールアイドル登場から女性ファンの急増、そして数年後突如してファンの1人の女性と出会い告白をされる――――あまりにも非現実的で出来すぎたシナリオだが、今まさに目の前でそのシナリオが展開されている以上現実逃避はできない。

 まさか千歌がここまで俺を想っていたなんて……相変わらず女性の心情変化には疎いというか、そもそも彼女を生徒としてしか見ていなかったので仕方ないのかもしれない。しかしその想いを伝えられてしまった以上、もうこれまでの関係のままではいられなくなったのは事実だ。

 

 とりあえず頭の整理をする時間確保のために、もう少しで紐解けそうな謎を敢えて千歌にぶつけてみる。

 

 

「それじゃあもしかしてだけど、俺を痴漢の罪で脅迫して、Aqoursの顧問になれって命令したのも……」

「はい、多分先生の予想通りです。一緒にいたかったんです、先生と。本当なら脅迫なんて汚い手を使うのは卑怯だと思ったんですが、憧れで一目惚れをした先生を前に慌てちゃって、咄嗟に思いついたのが痴漢されたことを利用する方法だったんです」

「なるほど、ようやく謎が解決したよ」

「落ち着いたら本当のことを伝えようとしていたんですけど、いざ言い出そうと思うとドキドキしちゃって、結局痴漢騒動を盾に意地悪な態度を取ってしまうはめに……ゴメンなさい!!」

「なんでお前が謝るんだよ! 悪いのは勝手に手を出した俺の方だろ?」

「いや、別に私は全然気にしていないので。むしろもっと触ってくれてもよかったのに……」

 

 

 千歌の声が小さすぎて後半の部分が聞き取れなかった。なんか不穏な言葉を言っていた気もするが、ここはスルーしておこう。

 千歌が犯罪者の俺に対して全く嫌悪感を抱いていない。俺はずっとそのことが気になっていたのだが、まさか一目惚れした相手だからその甘美で嫌悪感を塗りつぶしていたとは。そう考えると千歌が俺にやたら意地悪そうにしてきた理由も全て納得がいく。嫌悪感を抱くどころか、むしろ俺に振り向いて欲しいから意地悪をしていたと。発想がまさに子供のそれだが、普段から感情を前向きに押し出している彼女だからこそ可愛い一面を感じられた。

 

 しかしここでだ。千歌が『好きです』と告白してきた以上、俺はその言葉に返答する義務がある。さっきからの超展開で返事をなあなあにしてきたが、千歌の想いが俺と共有できたからにはもう避けては通れないだろう。

 

 

「先生はどう思っていますか、私のこと……」

「どう思ってるって言われても、教師と生徒の関係としか見られないよ。でもまあ俺もありきたりな感想を言うけど、可愛いとは思ってる」

「そう、ですよね……だったら!!」

「お、おいっ!?!?」

 

 

 千歌に一大の決心が着いたのか、彼女は俺の横に移動してまたしても寄り添う形で密着してきた。しかも今度は胸に飛び込んで来るやいなや、そのまま俺の身体に抱きついてくる。大胆すぎる行動にようやく落ち着いてきた俺の頭が再びヒートアップしてきた。そしてこれだよこれ、女の子の髪から醸し出されるこの甘い匂い。もうこれだけで判断力が鈍りそうだ……。

 

 

「先生は女の子の身体が好きなんですよね?」

「そ、それは……」

「隠さなくても知ってますよ。見ず知らずの私に痴漢するくらいですから」

「うぐぅ……」

「先生、あの時の続きをしません? 私、一切抵抗しませんから……」

「なんだって……!?」

 

 

 千歌は更に俺の胸に身体を寄り添わせ、抱きつく力も強くする。彼女が何を考えてるのかは分からないが、それ以上に俺の方がパニックになっていた。いきなり告白され、そして痴漢の続きをしようと言われたら誰であってもそうなるだろ普通!!

 

 

「先生が満足するまで私を好きにしていいですから。それで私、高海千歌を先生に知ってもらうことができれば……」

「千歌……」

 

 

 女性が男性に身体を差し出すとか、それはもう生半可な覚悟じゃできないことだぞ。つまりそれだけ千歌は本気ってことだ。俺の胸に顔を埋めているせいで彼女の表情は見えないが、耳が異様に真っ赤になっているので顔面も相当熟しているだろう。圧倒的な羞恥心すら乗り越え行動に移したのだから、ここは俺も相応の決断をしなければならない。そう、己の信念に従ってな……。

 

 

 

 

「できないよ、俺には」

 

 

 

 

「へ……?」

 

 

 

 千歌が素っ頓狂な声を上げ、同時に顔も上げた。恐らく自分の想像と俺の返答が違っていたからなのだろう、キョトンとした面持ちで俺を見つめる。

 

 

「できないよ、そんなことは」

「ど、どうしてですか!? 先生は変態さんで痴漢魔さんでセクハラ魔さんなのに、どうして私から誘ったら拒否するんですか!? 男性にとって女性を好きにしていいって最高の言葉じゃないんですか!? 私は先生のことをもっと知りたくて、一緒にいたくて、一緒に触れ合いたくて、4年前からずっと好きで、ようやく会えて私は!!」

「落ち着け!!」

「!?」

 

 

 俺の一喝で目に涙を溜めて暴走していた千歌のテンションが鎮まる。俺は彼女と会ってまだ数日だ。だけど彼女にとって俺は4年もの間ずっと待ち続けてきた想いの人。周りからはたかが一目惚れと言われるかもしれないが、彼女にとっては本気の恋なんだ。だからこそ、俺は――――

 

 

「俺のことをそこまで大切に想ってくれる子に、そんなことはできないよ。確かに女の子は好きだ。女の子の身体も大好きだ。だけどな、俺がもっと好きなのは女の子の笑顔なんだ。だから千歌にも笑っていて欲しい」

「先生……」

「だから身体で釣ろうなんて考えるな。俺って優柔不断だからまだ告白への返事はできないけど、お前の笑顔を見ていればきっと心の整理もできるはずだ。だからそんな泣きそうな表情をするな、悩んで苦しそうな表情もするな。ずっと笑顔でいてくれ。そうすればきっといつかお前の想いに応えられる日が来る」

「笑顔……か」

「あぁ。俺が女の子の表情で一番好きな顔だ」

 

 

 女の子が好きなことは否定しない、女の子の身体に興奮しちゃうことも否定しない。正直さっき千歌に身体を差し出された時、俺のいつもの欲望が目を醒まそうとしていたしな。だけど大切な子と身体だけの関係にはなりたくない。そんなセフレみたいな関係は本当に愛し合っていると言えるのかどうか微妙なところだから。千歌は本気で俺に想いを伝えてきた。だからここで彼女の誘惑に乗ってしまったら、その本気を潰してしまうことになる。よって否定した。まだ千歌のことを教師と生徒の関係としか見られない俺だが、いつかその関係が変わる時が来るかもしれない。そう思ったんだ。

 

 

「意外と真面目だったんですね、先生って」

「意外とは余計だ。って言いたいけど、今まで悪行を思い返すと全然説得力ねぇな」

「それでも親身になって勉強を教えてくれますし、Aqoursの練習指導も熱心ですからみんな感謝してるんですよ」

「マジ? 初耳なんだけど」

「はいっ! 以前より効率よく練習できるようになったとか、体調管理の仕方とか、本当に色々感謝するべきことがあります」

「そっか。そう思われてると嬉しいな」

「えへへ♪」

 

 

 千歌に笑顔が戻った。彼女の中でどのような心境の変化があったのか俺には分からない。だけど表情が緩やかになっていることから、今まで心をガチガチに取り囲んでいた様々な柵を取り去ることができたのだろう。

 

 千歌は俺の身体から離れると、腕を大きく上げて伸びをした。袖なしシャツでそのポーズをされると胸の膨らみがこれでもかってくらい強調されるからやめて欲しい。折角カッコいいセリフで決めたところなのにもう女の子の身体に興味津々とかこの男、ダメすぎる!!

 

 

「あっ、今おっぱいをってみたいと思いましたね??」

「はぁ!? そ、そんなこと……」

「知ってます? 女の子って男性の卑しい目線を感じ取れるものなんですよ」

「あ、そう……」

「あぁ~そんな態度でいいんですかぁ~?? みんなにバラしますよ痴漢のこと!!」

「おいそれは契約違反だろ!! ていうかさっきのやり取りでバラさないといけない要素あったっけ!?」

「バラすかバラさないかは私の裁量によって決まりますので♪」

「悪女だ……本物の悪女がいる!!」

 

 

 いつにも増して意地悪さMAXだが、これぞ俺の知る高海千歌って感じでどこか安心していた。脅迫されているとかどうであれ、やっぱり女の子は笑っている姿が一番だよ。この意地悪そうな笑みも含めてね。

 

 

「あっ、これでも先生の気を引くことは諦めていませんから。先生の心を掴むまでどんな手を使ってでも攻め続けます。だからこれからも、私の脅迫にたくさん怯えちゃってくださいね♪」

「怖いこと言うなよ……。でもまぁ、受けて立ってやるよ」

 

 

 どうやら千歌との関係はいい方向に崩れ去ったようだ。そしてこれからは今まで以上の覚悟を決めないといけない。そうでなきゃ一瞬で惚れちゃいそうだから。あぁ、チョロいな俺って……。

 




 今まで告白と言えば相当な話数を掛けてフラグを立ててきたものばかりだったので、たまにはこういった一目惚れの高速超展開でもいいかなぁと思いました。まあAqours編は全体の話数が少なめになる予定なので、サクサク進めないと話が進まないという未来を見越してのことですが(笑)

 千歌ちゃんのエロい描写はまだかって? 大丈夫ですもうすぐです(多分)


 これにてAqoursのメンバーごとの話は一周したので、次回はハーレム小説らしく全員出演させてみようと思います。


先日、この小説の平均評価が☆9.80に到達しました!
ハーメルンに投稿している人でないと分かりにくいのですが、評価の最高が☆10なのでほぼMAXに近い値を叩き出したことに私自身驚いています(笑) ちなみにハーメルン全体の小説でもトップの平均評価なので、やっぱりハーレムは王道にして偉大だなぁと思います(笑)

新たに高評価をくださった

roxas013さん、文才皆無。さん

ありがとうございます!



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https://twitter.com/CamelliaDahlia

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