ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はμ'sより絵里が登場します!
 そして彼女と絡むAqoursのメンバーは皆さん予想通り――――


生徒会長とポンコツは紙一重(前編)

 よく勘違いされるのだが、俺がいくら女の子好きだからと言っても女の子に甘い訳ではない。ちょっと優しくお願いすれば言うことを聞いてくれるとか、困ったふりをすれば手を差し伸べてくれるとか、そんなあざとい行動はむしろこちらから願い下げである。俺は根っからの利己主義者、例外はあれど基本は自分の利益のために行動するのである。

 まあ俺って頭も良いし運動もできるし、女の子からもモテるしで完璧だから、何か1つくらいは欠点を作っておかないと世の中から嫉妬されてしまう。流石の俺でも世界から淘汰されるのは嫌だからな、こうしてわざわざ神様が与えてくださった欠点を全面に押し出している訳だ。押し出すことで好感度が下がる欠点なのは内緒だが……。

 

 

「先生? さっきから手が止まってますわよ」

 

 

 隣にいるダイヤが作業の手を止めず咎める。

 俺はまたしても生徒会に駆り出され、溜まっている書類整理をさせられていた。

 

 

「どうして俺がこんなことを……」

「どうしてって、これもAqoursの活動の一貫ですから」

「どこをどう見たらスクールアイドルと関係があるんですかねぇ……」

「この仕事が早く終わればそれだけ練習時間も増えます。つまり生徒会の仕事を手伝うことは、Aqoursの成長にも繋がるということです。だから文句を言わず手を動かしてください」

「なんか上手いこと丸め込まれた気がするけど、まぁいいや。今日はお前1人で大変そうだしな」

 

 

 教育実習生として活動報告書も作らないといけないため、本来は生徒会業務を手伝っている暇はないのだが、これもダイヤと仲良くなるためだ。どうも彼女からの好感度はまだまだ低いと思うんだよ。その態度も幽霊騒動をきっかけにかなり軟化してきたが、それでも多少の壁を感じることはある。だからここらでもう少し交流を深めようという訳だ。本来なら手伝わない面倒な仕事だったけど、俺の利己主義に合致するから手伝った、それだけである。

 

 それに今日はいつも生徒会を手伝っている果南も鞠莉もいない。果南は店の用事だから仕方ないのだが、問題は鞠莉だ。ダイヤによれば何の連絡もなく教室からサッと姿を消したらしい。つまりただのサボりだ。アイツは生徒会役員ではないのだが、手伝うと決めた以上しっかり責務は果たして欲しいよ。まあそのサボりのおかげでダイヤと2人きりになることができたから良しと言えば良しなのだが、納得はいかないよな。

 

 

「教育実習生と言ってもお前らの顧問だし、困ってることがあるなら言えよ。ある程度のことなら俺が解決してやる」

「…………」

「ん? どうした?」

「あっ、いえ。この前の幽霊騒動の時もそうでしたが、意外と男らしいところがあると思いまして」

「そりゃあ俺は男の中の男だからな。俺より寛大な奴なんてこの世にはいない!」

「よく言いますよ全く。でも幽霊の件も生徒会を手伝ってくれている件もどちらも助かってますわ。ありがとうございます♪」

「そ、そうだろうそうだろう……」

 

 

 ダイヤに直接お礼を言われるなんて初めてだから、声で分かるくらいに動揺してしまった。これって意外と彼女との仲はそこまで離れていない感じか? もしかしたら俺の勝手な思い込みでダイヤが離れていると錯覚していただけかもしれない。彼女は彼女なりに俺の心へと近づいてきているようだ。そう考えると何だかホッとしたよ。自分のせいとは言え、ずっと嫌われたままだと思ってたからなぁ。

 

 ちょっといい気分になって作業に戻ろうとしたその時、携帯の着信音が生徒会室に響き渡った。ただの着信ならそこまで気にしないのだが、思わず気が散ってしまった要因はその着信音だ。どこかで聞いたことのある歌だと思いながら耳を傾けてみると、この綺麗な歌声はまさにμ'sの絢瀬絵里そのものだった。これは確か、絵里のソロ曲だったかな? でもどうしてダイヤが……?

 

 

「お前その曲って――――」

「ち、違いますわ!! いつもはマナーモードにしているのですが仕事中は集中しているためか携帯が震えても無視してしまうことが多く着信に気づかないので仕方なくマナーモードを解除しているだけですから!!」

「早口でどうも……。てか俺はそんなことを聞いてるんじゃなくて、その曲について聞いてるんだよ」

「も、もしかして先生も絢瀬絵里のファンなのですか!?」

「ファンと言われればファンだけどさ……とりあえず電話出ろよ」

「あっ、しかもルビィからですわ!?」

 

 

 ダイヤは慌ててポケットから携帯を取り出し電話に出る。

 コイツって普段は品行方正だけど、ふとしたことで抜けてるよな。ハキハキとした鋭い口調と丁寧な言葉遣いも相まって堅物のお嬢様と言っても謙遜はないが、その実どこかおっちょこちょいである。話を勝手に1人で進め勝手に勘違いしたりとか、考え事をしていたせいで机や椅子にぶつかって資料をぶちまける光景も何度か見たことがある。まあいつも毅然とした態度を取っているからこそそんな些細なミスが可愛く見えるんだけどね。

 

 

「もしもしルビィ。一体どうしたのです――――」

『た、たたたたたたたた大変だよお姉ちゃん!!』

「ルビィ!? 何か事件でもあったのですか!?」

『あああああああああある意味で事件だよ!! ま、ままままさかあの人がここにいるなんてぇええええええええええええ!!』

「あの人って誰ですの? もしかして不審者が学院内に!?」

 

 

 ここでダイヤがチラリと俺の方を見る。何とも失礼な目線どころか、さっきからずっと一緒にいたのに不審者扱いとはどういうことだよ。俺の本当の実体はここにはなくて、精神だけが1人歩きして女の子に手を出してるとか? そんな夢みたいな能力があったらこの学院だけでなく世界中の女性を襲ってるっつうの。

 

 まあそんなことはさて置き、ルビィの声が大きすぎて電話越しなのに俺にまでその叫び声が聞こえてくる。彼女はその性格上取り乱すことは多いのだが、ここまで声を荒げるは珍しい。息も絶え絶えでかなり興奮しているような気も……。もしかして電話しながら誰かに襲われてんじゃねぇだろうな? 俺の可愛い可愛いルビィに手を出す奴は男でも女でも許せんぞ。アイツの華奢な身体を触っていいのは俺だけだ。

 

 そして再びルビィの話に耳を傾けようと思ったその直後、生徒会室の扉が勢いよく開かれた。

 

 

「お、お姉ちゃん!!」

「うぉっ、ビックリした!?」

「る、ルビィ!?」

 

 

 生徒会にルビィが目を回して駆け込んできた。本当に不審者が来てるかってくらいの慌ただしいテンションで、傍から見てもびっしょりと汗をかいているのが分かる。電話越しで聞くよりも息遣いが激しいため、ここに来るまでずっと興奮しっぱなしだったのだろう。もう何があったのか全く想像できねぇなこれ。

 

 

「き、来てます……!!」

「来てる? 誰が?」

「誰がって、あのあ、あああああ絢瀬――――」

 

 

 ルビィが誰かの名前を言いかけた直後、彼女の後ろから女性の人影が現れた。

 まず目を惹かれるのは煌びやかに靡く金髪だ。決して染物ではない天然の髪色で、本人が歩いて髪が靡くたびに輝きを放つ。そしてその美貌。透き通るようなサファイアの瞳からクォーターの綺麗な顔立ち、男の欲情を唆る胸のボリュームに背の高いモデル体型のようなスタイル。そんな外見完璧な奴の名は――――

 

 

「絵里!?」

「こんにちは零、会いに来たわよ♪」

 

 

 絵里はサプライズが成功して嬉しかったようで俺にウインクをする。

 まさかこんなところで絵里と出会うなんて……いや向こうが秘密にしてたみたいだから出会うもクソもないのだが。しかも穂乃果と同じくアポなし訪問だったから尚更驚いたぞ。

 

 

「お前どうしてここに……?」

「穂乃果が私たちに隠れて零に会いに行ったことがバレちゃってね。それで穂乃果が抜け駆けしたなら私もいいかなぁって」

「どんな理論だよそれ……」

 

 

 しっかりしてそうでひょんなところで適当なのは大人になっても相変わらずである。それに『私も』って言ってたから、コイツもみんなに内緒でここへ来たってことか。まだみんなからの連絡はないので何とも言えないが、多分穂乃果の奴みんなに勝手に抜け駆けしたことをどやされたな。俺の教育実習を邪魔しないよう勝手に訪問しないというμ's内での取り決めがあったんだけど、穂乃果がその壁を壊しちまったせいでもしかしたら絵里だけでなくみんな押し寄せてくるぞ。穂乃果と千歌とのデートの時みたいにあることないこと全てバレなければいいのだが……。

 

 そしてふと隣にいるダイヤを見てみると、もう既に気絶一歩手前レベルまで顔に熱を帯びていた。目も白目を剥きそうになってるし、整った顔が台無しだな。

 そういやルビィから聞いたけど、ダイヤは絵里のファンなんだっけか。生徒会長でスクールアイドルという共通点を持ち、そのクールさに魅せられ大ファンになったと言う。穂乃果の大ファンである千歌ですら本物を見た時に気絶しなかったのに、ダイヤのこの様子を見ると相当ショッキングだったみたいだ。信じられないものを見たような顔をして、もう口から魂が抜けていきそうだぞ。しかし幽霊を目撃した時よりも何百倍も驚いてるのはどうなんだ……?

 

 

「あぁなるほど。だからルビィがこんなに興奮してたのか」

「そうなのよ。学院前でたまたまルビィちゃんに出会って、零のことを知ってるって言うからここまで案内してもらったんだけど、その途中でもずっと緊張しっぱなしで」

「そりゃあ緊張しちゃいますよ!! だってあの絢瀬絵里さんですよ!? お姉ちゃんだって、ほら」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「壊れたレコードみたいに同じことしか言ってねぇな……」

 

 

 そういや千歌からも聞いたことがある。『ダイヤさんは私よりもμ'sの大ファンで熱心な研究科』だと。その中でも特に尊敬しているのが絵里のようで、その憧れが目の前に現れたら舞い上がってしまうのも仕方ない。それどころか舞い上がりすぎて気絶しかかってるけど大丈夫かな……? さっきからルビィがクリアファイルでパタパタと風送って仰いでいるが全然反応しないし。

 

 

「えぇと、この方は大丈夫なのかしら……」

「お前のせいで大丈夫ではないな」

「私のせいなの!?」

「そりゃあそうだろ。もっと自分が有名人だってことを認識した方がいいぞ」

 

 

 これは絵里だけの問題ではなく、μ'sメンバーのほとんどがそうである。にこや楓は自画自賛が激しいので周りに己の立場を振りまいているが、他のメンバーはイマイチ自分が一世代を築き上げた人間であるのにそうでないと謙遜する。あれだけ雑誌やポスターに掲載されて自分が有名人でないと言い張る方がおかしな話だ。

 

 

「まあそんなことよりも今はコイツを起こすところからだな」

「お姉ちゃ~ん……しっかりしてぇ~」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「こんなに面白い反応をされるとこっちも嬉しくなっちゃうわね♪」

「いや相手が気絶しかかってることお分かり……?」

 

 

 しっかりしてそうでたまにちょっと抜けているところがあるのが絵里の可愛い一面でもある。そういやダイヤも同じような性格をしているし、生徒会長は堅物な性格とお茶目な一面を両方持ち合わせないといけない決まりでもあるのかよ。

 

 

「せんせぇ~どうしましょぅ……」

「心配する必要はない。気絶した人を目覚めさせる手段は昔から決まっている。そう、ショック療法だ」

「ショック療法!? それって安全なんですか……?」

「何事も完璧なこの俺が治療するんだぞ、起きない訳がないだろ。王子様が眠れる美女の目を覚まさせてやるよ」

「王子様云々の話はいいけど相手は女の子、変なことはしないようにね」

「いちいち言われなくても分かってるって!」

 

 

 流石俺の彼女だ。絵里も完璧に俺の性格を理解しているな。普通だったら眠っている無防備な女の子を見たら手を出さない男がいないように、周りに人がいなかったら確実に俺の毒牙がダイヤに向けられていただろう。まあ今から毒牙とまではいかないけど毒針くらいは刺しちゃうんだけどね。

 

 

「ダイヤ、聞こえるか?」

「あ、あぁぁ……あぁ……あぁぁ……」

「ほら早く起きろ。でないとまた前みたいにおっぱい触るぞ」

「~~~~~~ッ!?!?!?!? な、ななななななななにをいきなり!?!?」

「あっ、お姉ちゃん起きた!!」

「どうだ、これが精神ショック療法だ」

「あなたって人はまた私を下衆な目で……!!」

 

 

 ダイヤは涙目になりながら腕を組んで、自分の胸を隠すように抑える。

 せっかく昇天しそうになっていた魂を現実に取り戻してやったのに、その言い草は流石に酷すぎるだろ。でもこんなことをやってるからダイヤの好感度が上がらないんだろうなぁとしみじみ感じた。

 

 

「この世に存在する全ての美女美少女のおっぱいは俺のためにある。だから素直に差し出せ。なぁに、おっぱいは宝だ。大切に扱ってやる」

「最低の下の下ですわね!!」

「こんなにカッコよくて性格もイケメンな俺に触ってもらえるんだからむしろご褒美だろ。なぁルビィ?」

「きゃっ!?」

「ちょっ!? ルビィを抱き寄せて……彼女を人質に取ってどうするのです!?」

「失礼だな。至って普通のスキンシップだ」

「あうぅぅ……」

 

 

 俺はルビィの背中に手を回して無理矢理抱き寄せたのだが、彼女は特に嫌そうな顔をしていない。それどころか頬を赤く染めたまま俺のなされるがままとなっていた。これぞ男としての魅力。男ってのは突然女の子を抱き寄せても一瞬でその子を懐柔する能力が必要な訳だよ。

 

 そして俺の隣では絵里が頭に手を当てて呆れてますよアピールをしている。そのあと彼女は俺の背後に立つと首根っこに手を伸ばした。

 

 

「零、そろそろ離してあげなさい」

「うぐっ!! 急に首絞めんな死ぬだろ!!」

「そうやってすぐに女の子に手を出すくらいなら、一度天に昇って裁判してもらった方がいいかもね」

「ひでぇなお前……。本当に俺のこと愛してる?」

「もちろん愛してるに決まってるじゃない。だからこれも愛情よ♪」

「さいですか……」

 

 

 苦痛を与えることが愛情だなんて、それってどこのヤンデレちゃん? Cutie Pantherなんて歌ってるからヤンデレ思考になるんだよ!!

 

 絵里に咎められたことで抱き寄せていたルビィを解放し、俺もダイヤの非難の目から解放された。そこでルビィの若干残念そうな顔を見逃さなかったが、彼女との話はまたの機会にさせてもらおう。アポなしと言えども折角絵里が来てくれたんだから、彼女の大ファンであるダイヤと話をするきっかけでも作ってやるか。

 

 

「お前らに改めて紹介するよ。元μ'sメンバーの絢瀬絵里だ」

「あ、ああああ絢瀬絵里ィイイいいいいいいいいいいいいいいいい!?!?」

「まだ驚き足りないのかよ!! 全然話進まねぇからちょっと黙ってろ!!」

「これが黙っていられますか!! だってあの絢瀬絵里さんですよ!? 憧れのμ'sのメンバーの1人、しかも私が最も尊敬してる方が目の前に……!!」

「お姉ちゃんがここまでハイテンションになるの初めて見ました……」

 

 

 穂乃果と出会った千歌と全く同じ反応をするダイヤ。もしかしてこれからもμ'sメンバーが襲来した時にいちいちこの反応を見せつけられるのか、面倒だなオイ!!

 

 

「は、初めまして黒澤ダイヤと申します! こちらは妹のルビィです!!」

「よ、よろしくお願いします!!」

「こちらこそよろしくね! そして零がいつも迷惑かけてばかりでゴメンなさい」

「おい、いつもってどういうことだ? ん??」

「はいそれはいつもいつも迷惑を被ってばかりで、生徒会長の私としても課題が山積みなのです……」

「私も生徒会長時代はこの問題児の対処だけでどれだけの時間を費やされたか……」

「その気持ち、痛すぎるくらいに分かりますわ……」

「俺を邪険に扱ってシンパシー感じないでくれる!?」

 

 

 絵里もダイヤも同じ生徒会長で同じおっちょこちょいな性格で、しかも同じ相手をダシにしてお互いに共感し合っている。逆に言えば高校生でも教育実習生でも女の子にしか手を出してない俺って相当ブレてないよな? むしろその一貫した態度を長年保ち続けていることを褒めて欲しいくらいだ。

 

 

「でも意外ね、ダイヤさんってAqoursのPVを見る限りではとてもクールなイメージがあったんだけど。私を見て気絶しちゃうなんて案外可愛いところもあるのね♪」

「わ、私たちのことをご存知なのですか!?」

「穂乃果から聞いて私もあなたたちのことを調べたりライブの動画を見たのよ。メンバー紹介が個性的で面白かったわ」

「ど、どどどしましょうルビィ!! こんなことならメンバー紹介欄を千歌さんに任せるべきではありませんでした!! 変なこと書いてないか心配になってきましたわ!?」

「大丈夫だよお姉ちゃん! 私が見た限りでは普通の自己紹介だった……はず」

 

 

 自信ないんかい!! そもそもあの千歌に大勢の人に見せる文章を書かせたのが間違いだろ。

 そういや穂乃果は本当にあらいざらいみんなに内浦での出来事を喋ったんだな。ということは俺の悪行もみんなに広まっている訳で……。あぁ、身体が震え出しそう。

 

 

「私は普段からこんな慌てん坊ではありませんよ!! 突然絵里さんが現れたからこうなって――――」

「お、おいそれ以上後ろに下がると……」

 

 

 ダイヤは身体の前で両手を横に振りながら、恥ずかしさを隠すためなのかズルズルと後ずさりをする。自分の頭が段々背後にある棚の角に近づいているとも知らないで――――

 

 

「もうさっきから調子が――――って、いったァああああああああああああああああああああああ!!」

「ほら言わんこっちゃない……」

「今日は全然調子が出てないねお姉ちゃん……」

 

 

 ダイヤは後頭部を抑えてその場でしゃがみ込んだ。もう誰もが見据えられていた未来なので特に心配はしていないが、さっきから声を荒げて騒いだり自ら不幸に突っ込んだりと、いつもは稀に抜けているところを見せているのが今日はかなり顕著になっている。あまりこの言葉を使いたくはないが、ポンコツの片鱗が見え始めているぞ。いつもが品行方正に見えるから尚更目立つんだよな。

 

 

「やっぱりダイヤさんって、どこか抜けてるところがあるわよね。でもクールな人がいきなり天然っぽくなるのが可愛いんだけど♪」

「絵里、お前が言うな。ブーメラン跳ね返ってきてるぞ」

「へ? 私はそんなことないわよ?」

「もうその反応が物語ってるっつうの!!」

「ん……?」

「その『お前一体何言ってんの?』みたいなキョトンとした顔やめてくれない? 俺が間違ってるように見えるからさ」

 

 

 絵里の凄いところは自分もたまに抜けていると自覚していないところだ。もし自覚をしていてもこの歳になっても全然治っていないため多分気にしてすらいないだろう。今もこうして首を傾げて不思議そうな顔でこちらを見つめているが、もうその反応からしてちょっと抜けていることが分かる。言ってしまえば少し天然、つまり微天然だな。ここまで人に言われているのに無自覚だと怖いわ……。

 

 

「絵里さんってずっと真面目なお姉さんキャラだと思っていましたが、意外とそのような一面もあったのですね」

「みんながそう言ってるだけで、実際はそんなことないわよ?」

「いやいやいやいや、おかしいから。何もかもがおかしい」

「そんなことを言ったらお姉ちゃんだって生徒会長ですけどおっちょこちょいなところはたくさんありますよ! 学院でもそうですけどプライベートでも!」

「ちょっとルビィ!! あなた余計なことを!!」

「あっ、それ私も知りたいわ! せっかく同じスクールアイドルのお友達に出会えたんだし、相手のことをもっと知って仲良くなりたいもの」

「だったら俺は絵里のポンコ――――可愛い部分をみんなに教えてやるかな」

「だから私はそんな部分ないって言ってるでしょ」

「だからあるって言ってるだろ」

 

 

 ここで言い争っても無自覚ちゃんの絵里には全くこちらの主張は通用しないので、仕方なく俺の方から折れて諦める。俺の言ってることは事実なんだけど、終わらない戦いに身を投じるほど馬鹿ではない。口争いは天然な性格な奴の方が強いと思うんだ。

 

 そして気付くとルビィがホワイトボードに『絢瀬絵里と黒澤ダイヤの可愛い一面探し』という題目で表を作っていた。その目に闘志を燃やしているが、それも大好きなお姉ちゃんと憧れのμ'sメンバーとの話題なので心底興奮しているんだろう。今日の黒澤姉妹のテンションがいつもと違いすぎて別人に見えるな……。

 

 

「お姉ちゃんと絵里さんの仲を深めるために、お互いの可愛い一面を教え合いましょう!!」

「だから私は抜けてるところなんてないわよ」

「あぁもういいからいいから!!」

 

 

 珍しくテンションの上がったルビィが発案した、絵里とダイヤの可愛い一面探し(ポンコツさアピール大会)が始まった。この結果を公に公開したら、2人の印象がガラリと変わっちまいそうだけどいいのかな……?

 

 

To Be Continued……

 




 絵里やダイヤは普段は真面目でも、その合間に見せるちょっと抜けた一面がとてつもなく可愛かったりするんですよね! しかしこの小説はギャグ成分が多いので、その抜けている一面が前面に押し出されて全然合間ではないのですが(笑)

 次回は絵里とダイヤの羞恥話暴露大会後半戦。今回が導入だったので後半戦というより次が本編みたいなものです。


新たに☆10評価をくださった

夏白菊さん、真数千手さん、nekomimi0304さん、悪魔っぽい堕天使さん、町の工場屋さん

ありがとうございます!
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