ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 μ's編に入ってからはずっとギャグ調の話が続いていたので、今回は少し落ち着きました。

 μ'sからは真姫が登場します。


心で奏でる旋律

「ゴメンなさい。資料運びを手伝ってもらって」

「いいっていいって。女の子1人に運ばせる訳にはいかないからな」

 

 

 梨子とこうして並んで歩いているなんて、出会った頃には想像できなかった光景だ。俺を見るだけで常に威嚇するような目線を送り、ちょっとでも不可解な行動をすれば即通報するような警戒レベルだったからなぁ梨子の奴。

 

 だが今ではこうして作業を気軽に手伝えるくらいの仲となり、俺の勘違いかもしれないが多少熱い視線も感じるようになった。ここまで関係が深まったのは梨子のレズモノ好きの暴露や俺の痴漢行為の黙秘など、必然的に一蓮托生となったことに起因する。当初はお互いにお互いの弱点を知って脅迫の材料に使う予定だったのだが、普通に仲良くなった今ではそんな啀み合いはもう起こっていない。虐げられていた時はこの子と上手くやっていけるか心配だったけど、やっぱ警戒されていても積極的に絡んでみるものだ。

 

 そんな俺は梨子の資料運びを手伝い終え、Aqoursの練習のため彼女と部室へ向かっていた。

 

 

「今日も外はあっちぃけど頑張るかぁ。まあ頑張るのはお前らだけど」

「先生だってスクールアイドル時代を思い出して踊って見せてくれてもいいんですよ」

「やだね。俺が踊るとその美技に世界中の女の子たちが惚れちまう。流石に1人で何億の女の子は相手にできないから勘弁だ」

「相変わらず凄い自信――――?」

「ん? どうした?」

 

 

 梨子は突然廊下の真ん中で立ち止まると、物思いに耽るようにゆっくりと目を閉じた。

 人と会話をしているのに寝ようとしてんじゃねぇと軽いツッコミを入れようとしたが、彼女の雰囲気的に真面目なんだと感じて思い留まる。隣に俺という魅力的な男がいるのにも関わらず、梨子の意識を奪う奴……そもそも人なのかすらも分からないがとにかく何なんだ?

 

 

「聞こえる……ピアノの音。しかもとても上手……」

「え? 聞こえるかそんなの? う~ん……」

 

 

 どれだけ耳を澄ませても、俺の耳にピアノの音は入ってこない。だが梨子はその音に釣られるように廊下を歩き始める。ピアノをやっていると耳も冴えるのだろうか。俺はそもそも音楽を奏でたことは愚か、あまり興味がないので耳は音楽音痴だと思う。

 

 

「これは音楽室のピアノですね。ちょっと行ってきます!」

「お、おい! 今から練習だぞ?」

「遅れると伝えておいてください。こんな綺麗なメロディをあのピアノで出せるなんて……確かめなきゃ、誰が弾いているのか」

「全く、どうしたんだよ急に……」

 

 

 梨子がこれほどまでに強引になるのは珍しく、廊下をバタバタと走り堂々と校則を無視するのも珍しかった。俺も梨子の受信した電波が気になるので、Aqoursのグループチャットに遅れると連絡を入れ彼女の後を追いかける。

 それにしても梨子に電波キャラは似合わないと思うぞ。まさか秋葉の置いた芳香剤の効果がまだ残ってるとか……? んな訳ねぇか流石に。そんな頻繁に女の子のキャラが変わってたら、俺もうみんなとどう接していいのか分からなくなるぞ。

 

 そんな中、音楽室へ近づけば近づくほど俺にもピアノの音が聞こえてきた。梨子は何をそんなに急ぐ必要があるのか、息を切らしながら走り音楽室の前に辿り着く。

 

 

「はぁはぁ……やっぱり綺麗、このメロディ」

「そんなの、同じピアノで演奏すれば一緒じゃないのか?」

「違いますよ! このメロディには優しさ、尊さ、何より誰か大切な人に向ける大事な想いが伝わってきます」

「そんなことまで分かるのかよ……」

「正直、この学院で一番上手くピアノが弾けるのは私だと自負していました。だけどこんな演奏を聴かされたら誰でも……」

「怒ってる?」

「いえ、むしろ逆ですよ。感動しています」

 

 

 梨子は息を整えながら音楽室の扉に手を掛ける。

 俺にはこのピアノの音がいつも聞こえてくる音と全く同じにしか聞こえなかったのだが、ピアニスト同士で何か惹かれ合うものがあるのだろう。しかし浦の星でも屈指の実力を持つ彼女の心をここまで震わせるのは一体誰なんだ……?

 

 そして梨子は音楽室の扉をゆっくりと開けた。

 扉を開けると、部屋に留まっていた空気が風となって俺たちに軽く吹き寄せる。そしてその風の中、靡くカーテンの前で優雅にピアノを弾く1人の女の子を目撃する。高身長でピアノを弾くスタイルは抜群。髪はそれほど長くないが、窓から流れ込むそよ風に綺麗な赤い髪が靡き輝いて見える。

 

 そう、彼女は俺の知りすぎるほど知っている――――

 

 

「真姫……」

「あら零。まさかこんなところで会うなんてね」

 

 

 真姫は特に驚くような様子もなく、優しい微笑みで俺を見つめる。

 

 

「お前何してんだこんなところで!?」

「あなたに会いに来たのよ。教育実習の邪魔になるといけないからあなたが帰ってくるまで待ってるつもりだったけど、穂乃果たちの話を聞いてたらどうしてもね」

「そっか。それで? アポなし訪問されるのはもう慣れたけど、みんなはこのこと知ってるのか?」

「大丈夫、さっき連絡しておいたから」

「さっきって……」

 

 

 多分真姫のことだから、誰かと一緒に付き添いで来るのは面倒だから嫌だったのだろう。特に凛は一緒に行きたいって駄々をこねるだろうし、もし凛とこっちへ来たら彼女の保護者としての役回りにさせられる可能性が高いしな。

 

 

「凄い……凄いですさっきの演奏! 私、感動しました!!」

「ありがとう。桜内梨子さん」

「えっ、私のこと知ってるんですか!?」

「えぇ。穂乃果……あぁμ'sの高坂穂乃果って知ってるでしょ? あの子から"Aqours"のことを聞いて、私もあなたたちのことを色々調べたのよ」

「まさか私の名前がこんな有名な方に……感激です!!」

 

 

 千歌が穂乃果に、ダイヤが絵里に会った時ほどのテンションの高さは感じないが、恐らく彼女の中では感動感激雨あられ状態に違いない。

 しかし梨子はスクールアイドルについては素人中の素人だと聞いている。しかも転校前は音ノ木坂学院出身のくせにμ'sを知らないときたもんだ。そんな彼女が真姫を知っていることには驚いたが、自分もスクールアイドルをやっていく以上そのトップグループくらいはマークしておいたのか。そういやある日、千歌に夜な夜なμ'sのライブ映像を永遠に視聴させられた苦い過去があるって梨子が言ってたから、その時に覚えたのか。

 

 

「零に会いに来たのも事実だけど、私は桜内さんとも会ってみたかったのよ。同じスクールアイドルのピアニストとしてね。まあ私はもうスクールアイドルじゃないんだけど」

「それでも西木野さんのスクールアイドル時代に作曲した曲は最近全部聴きました! μ'sの作曲も全部西木野さんが手掛けたんですよね?」

「そうよ。そもそも私以外の人が作曲できないから、必然的に私がやってただけだけどね」

「もうさっきから凄いとしか言えませんよ……あんなたくさんの曲を1人で」

「私も最近Aqoursの曲を聴かせてもらったけど、どの曲も心に響いてきたわ。とにかくスクールアイドルを楽しんでるって感じがして、こっちまで元気がもらえるくらいにはね」

「憧れの人にそこまで褒めてもらうなんて、感激で言葉が……」

「お前さっきから"凄い"と"感激"しか言ってねぇな」

「語彙力がなくなるくらいに感動してるんです!!」

 

 

 梨子がここまで何かに感動を覚えるのは、レズ本を読んでいる時以外に匹敵するものはないだろう。それ以前にレズは性欲を満たすための手段なのか、それとも実際にやってみたいかで感じる刺激も変わると思うのだが――――って、せっかく梨子の見せ場なのに穢すような真似はやめようやめよう。

 

 

「そうだ。こうして真姫が来てくれたんだし、同じスクールアイドルの作曲家として何か聞きたいことがあれば聞いてみたらいいんじゃねぇか?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろん。零がと~っても優しく面倒を見ているスクールアイドルのメンバーなんだから、私も手伝えることがあったら手伝いたいしね」

「なんかさっき含みのある言い方だったような……」

「あっ、そ、その、それだったら……でもなぁ」

 

 

 梨子は俯きながらバツが悪そうに悩んでいる。元々遠慮しがちな彼女だが、さっきのテンションを見ているとバシバシ質問を飛ばしてくると思っていたけど見当違いだったか。まあいきなり何か質問をしろと言われても咄嗟に思いつかないのはあるあるだけどな。

 

 

「聞きたいことはあるんですけど、本当に聞いてもいいのかどうか……。スクールアイドルにはほとんど関係のないことですし」

「いいわよ別に。スクールアイドル以外のことだと助けになれる保証はないけどね」

「それでも聞いてみたいことがあるんです。先生と西木野さんに」

「俺にも?」

 

 

 梨子は決心が着いたのか顔を上げ、真剣ながらも少し心配そうな目で俺たちを見つめる。

 

 

 

 

「先生ってμ'sの皆さんと仲がいいみたいですけど、誰かとお付き合いされているんですか?」

 

 

 

「「え……」」

 

 

 思いもよらないドストレートな質問に俺と真姫は目を丸くしてしまう。そんな俺たちの反応を見て梨子は一瞬聞いてはいけないことを聞いてしまったのではないかと戸惑いの色を見せたが、もう後には引き返せないと悟って再び目力を強くして俺たちを見据える。

 

 ちなみに彼女の質問についてだが、もちろん答えはイエスだ。だが12人と付き合っているという事実を隠すために、周りには俺たちはそもそも付き合ってはいないという虚偽を振りまいている。俺とμ'sの関係を知っているのはごく一部の親しい人間だけで、それも親しいがゆえにしっかりと俺たちの想いを汲み取ってくれる人に限られる。当たり前だが、12股なんて最悪最低なことをしてるなんて中々言いふらせないから。

 

 

「どうしてそう思ったんだ……?」

「千歌ちゃんから聞きました、μ'sの高坂穂乃果さんが先生に会いに来たと。そして曜ちゃんからも聞きまして、南ことりさんが先生にラブラブだって。その他にも既に何人か会いに来ているみたいですし、これじゃあ先生がただの女たらしじゃないですか」

「おい、言い方」

「そうよ。この男は好きで女性を弄んでいるの」

「お前まで何言ってんだ!?」

「いいんじゃない。この際あなたの秘密を洗いざらいにしても」

「マジかよ……」

 

 

 真姫は俺を虐めるためにここへ来たのか……不敵に微笑みやがって楽しそうだなオイ。そして梨子は出会った頃を思い出す突き刺すような細い目線で俺を刺殺してくる。やっぱ何人もの女の子に手を出すって良く思われないよなぁ。だからこの話は秘密にしたまま黙っておきたかったんだよ!!

 

 

「薄々言動から想像してましたけど、まさか本当に大勢の女性に色目を使っていたとは……」

「それは違う。俺の魅力に惚れた女の子たちが向こうから寄ってきてるだけだ」

「よく言いますね。千歌ちゃんに欲情して痴漢したくせに」

「ちょっと待て!? それは言わない約束だろ契約はどうした!?」

「へぇ~こっちでも随分と楽しんでるみたいねぇ~」

「許せ真姫。男ってのはな、みんな性欲に塗れた低欲な生き物なんだ。だから美少女という高貴な存在に惹かれるんだよ察しろ」

「つまりただの犯罪者ってことね」

「それを言われるとぐうの音も出ないんだけど……」

 

 

 相変わらず真姫の言葉は刃物と同様で人の心を突き刺すことに全く容赦がない。自分で犯罪者だってことは認識してるけど、女の子の口、しかも恋人の口からダイレクトに投げつけられるとダメージも数倍大きくなってしまう。いくらメンタルが鋼であっても、傷付くことはなけれど響くことはあるんだから大切に扱ってくれ。

 

 

「先生って、μ'sの皆さんの前でもこんなのだったんですか?」

「こんなのって……」

「もう何年も一緒にいるけど苦労の連続よ。この男がこうして生きていられるのは、私たちが菩薩のような優しさを持ってるからだしね。私たちの心がちょっとでもブレようなら今頃地下深く冷たい牢屋の中よ」

「それはもう刑務所じゃなくて監獄だろ。てかそこまで俺の罪って重いの!?」

「自覚し過ぎてるからこそ重いのよ」

 

 

 だってさ、よくアニメやラノベにいる無自覚系主人公より女の子に敏感な方が全然良くね? 優柔不断で考えもあべこべで、話数が積み重なっても結局同じ展開を繰り返してばかりの鈍感主人公よりイケイケ系の方が清々しいじゃん!! まあハーレム主人公なんてどう動こうが罪作りな奴と思われるのは仕方ないけどさ……。

 

 

「話を聞くに、桜内さんは零に何かされたの? 先生の前だからって気にする必要はないわ」

「いやだから俺は何もしてないって……」

「友達が痴漢に遭った後、私にも同じことをさせろと部屋の隅まで追い詰められたことがありました」

「クズね。ただのクズ」

「もう悪口が100%純度の悪意しかないんだけど……。それに梨子、そのことは2人だけの秘密だったはずだろ!?」

「だって先生がどんなことでも相談していいって言ったんですよ♪」

「楽しそうだなお前……」

「いつも先生に弄られてばかりですから、たまには優位に立ちたいのです!」

 

 

 なになにこんなにSっ気強かったの梨子って!? いつもは澄ました顔をしてるくせに、ここぞとばかりに真姫に便乗して攻め込んできやがる。これは初対面の人に対してはめちゃくちゃ警戒するけど、仲良くなればなるほどお茶目な一面が見られるにこのようなタイプだ。

 

 

「でもそんなことを聞いてくるなんて、もしかして桜内さん――――零のことが好きなの?」

「はぁ!?」

「あ゛っ、そ、それはそのぉ、なんと言いますか……」

 

 

 急に話の矛先が自分に向いて肩をビクつかせた梨子は顔を耳まで真っ赤に燃え上がらせ、手を前で組んでモジモジとし始める。こんな少女漫画のような分かりやすい反応……マジかよ!?

 

 

「一応注意しておくけど、この男は女たらしの痴漢野郎で、傲慢で自意識過剰の変態よ?」

「もうね、罵倒は慣れたよ……」

「分かってます。分かってますけど、いいところもたくさんあるって知ってますから」

「例えば?」

「授業もスクールアイドルの練習も熱心に指導してくれますし、今もこうして私が先生の悪口を言ってもいざというときは親身になってくれます。それにお化け騒動があった時に、先生が私のしょ――――!!」

「しょ……?」

「い、いえ! 守ってくれましたから!!」

 

 

 梨子の奴、お化け騒動で俺の放ったあの一言を思い出したのだろう。それにしても今思い返せば相当クサかったかもしれないなぁ、みんなの処女は俺のモノ発言。よくよく考えれば生徒の前で大胆告白をしてしまった気がするが、本気でそう思ってんだから仕方ないだろ。処女を貫いてこそその子を自分のモノにできたという征服感もあるしね。あぁ、相当気持ち悪いこと言ってんな俺……。

 

 

「そ、それよりも私の質問ですよ! 先生はμ'sの誰かとお付き合いされているんですか?!」

「付き合ってない付き合ってない。なぁ真姫?」

「そうね。精々親友以上恋人未満ってところかしら」

 

 

 迷いもなくマジの恋人に恋人未満と口に出されると結構心に突き刺さるなこれ……。でもさっきの暴露大会の流れに乗らず、しっかりと秘密を守り通してくれたことには感謝すべきだろう。まあそもそも12股掛けてるって事実を伝えても信じてもらえないだろうけどさ。

 

 

「あっ、もうすぐ5時か。俺ちょっと山内先生に呼ばれてるから、一旦抜けるぞ」

「そうなの? それじゃあまた後で家にお邪魔するわ」

「あぁ。梨子も練習遅れんなよ」

「はい。それではまた」

 

 

 ここからは俺が抜け、音楽室には梨子と真姫が2人きりとなる。

 しばしの沈黙の後、梨子がゆっくりと口を開いた。

 

 

「西木野さんは、先生のことをどう思っているんですか?」

「私? そうね。さっきは散々言ったけど、何だかんだ言って私が世界で一番頼りにしている人よ。女たらしなのにその実中身はとても誠実で、自分の信念を決して曲げない。さっきもあなたが言ってた通り、普段は軽薄な態度だけどいざという時はしっかりと私たちを守ってくれる。たまにセクハラ紛いなこともされるけど、それが彼なりの愛情の伝え方なのよ。ああ見えて少し不器用なところもあるから、零って」

 

 

 俺がいなくなった途端に"デレ"が全開となるツンデレの鏡のような真姫。しかもデレを見せながらもところどころ皮肉を込めた言い方なのも彼女らしい。どうせならぎこちないデレでもいいから本人がいる前でデレて欲しいもんだ。

 

 

「2人きりだしもう一度聞くわ。好きなんでしょ、零のこと」

「ま、また!? えぇと…………は、はい……」

「だったら今までよりもっと自分をアピールすることね。彼は女性好きだけど、恋愛が絡むと話は別。過去に恋愛関係でいざこざがあって以来、女の子の恋愛感情に対して特に警戒してるから。だから零が女性好きだからって、軽い気持ちでは絶対に彼の心は揺れ動かない。女の子を守りたいという責任感が強いから、桜内さんもその責任を感じてもらえるような女性にならないとね――――って、言い過ぎたかしら。ゴメンなさい」

「いえ、むしろその言葉でようやく自分の心と向き合えたような気がします」

「でも既に守ってあげる宣言をしてもらっているみたいだし、あなたもAqoursのメンバーもそこらの女性よりも彼に愛されていると思うわ。それに零が痴漢やセクハラで手を出す女の子は、大体その女の子に少なからず好意を抱いてるってことだから。男子小学生が好きな女の子に手を出す理論と同じね」

「そう考えるとカッコいい一面もあれば可愛い一面もたくさんありますね、先生って♪」

「そうね。だから夢中になっているのかも、私たちμ'sは」

 

 

 恋人や教え子から可愛いと言われるのは釈然としないが、それも俺の魅力の1つだと肯定的に受け取っておくか。そんな俺の魅力に靡く女の子がいれば儲けものだし、現にここで1人の乙女が己の恋心を自覚し始めた。もちろん当の本人はこの場にいないので、梨子のそんな気持ちを明確に許容するのは先の話になるが……。

 

 それにしても真姫は俺のことをよく知っていらっしゃる。神崎零の自己紹介をするなら自分でするよりμ'sのみんなにやってもらった方が伝えられる情報量も多いかもしれない。ただ一部俺のプライベートなことを知りすぎている人もいるため、どんなことを喋るのか想像もしたくない奴らが何人かいるけど……。気を抜いたら盗撮や盗難、その他諸々に遭っているから慰めてくれ。

 

 

「そうだ、もう1つ相談いいですか?」

「えぇ、どうぞ」

「もう練習まであまり時間はないのですが、少しだけピアノのレッスンをお願いできますか? どうしてでしょう、今までよりも綺麗に演奏できる自信があります」

「音楽は心で弾くもの。その心の中にいる大切な人の存在が大きくなったからこそ生まれた自信なのかもね。それじゃあ聴かせてもらおうかしら」

「はいっ!」

 

 

 μ'sのみんなが内浦に来るたびに、Aqoursのみんなに何かしらの影響を残していく。それもスクールアイドルの在り方や根性というよりも、その子の恋愛感情を引き立たせるような何かを。そもそもAqoursをスクールアイドルとして会いに来た奴なんて未だに1人もいないけどね。それでも俺とAqoursの仲が深まっていくのはμ'sに感謝すべきだろう。そのあと彼女たちの気持ちとどう折り合いを付けるかは完全に俺に委ねられているが、1つ言っておくと俺は彼女たちの想いを絶対に無下にしない。いいじゃないか、また恋人が増えようとも!!

 

 とにかく、千歌に続いてまた1人新たな恋が芽生えたから、明日からはまた今までとは違った日常になりそうだ。

 




 そもそもAqours編はどれだけ続くか未定なので、恋愛沙汰はやれる時にやっておく理論です。
 今回は他のμ's襲来編に比べるとゆったりとしていましたが、真姫のツンツンしつつも大人な部分を見られたり梨子の恋も進展したりと、中身は濃密だったと思います。


 次回は連続でμ's襲来編で、今度は海未の出番!


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