前回の後書きで次回予告を忘れていましたが、今回は雪穂&亜里沙の襲来回です!
だからさ、もう幾度となく言ってるだろ? こっちに来る時はちゃんとアポを取ってくれ。でないと『休日だから明日は1日中休みだぁ~!!』って昨晩無駄に浮かれることがなくなるからさ。よくサプライズって言われるけど、俺にとってはいきなり来られても困るだけだから。これから近い将来社会人として生きていくことになる訳だし、しっかり連絡を取り合うクセを付けようね? 分かった?
なんて愚痴を心の中で零し、俺の横でニコニコしている亜里沙と、申し訳なさそうにしている雪穂に意識を戻す。そう、またしても元μ'sのメンバーがアポなしで内浦にやって来たのだ。ここまでまともにアポを取ってきた奴の方が少ねぇぞ……。
「あのさぁ、来るなら来るって一言くらい連絡入れられないの?」
「私は入れようとしたんですけど、亜里沙がダメだって……」
「突然訪れて零くんを驚かせたいと思っていたんです! 思っていたんですけど、全然ビックリしてくれなかったじゃないですかぁ……」
「そんな残念そうな顔されてもなぁ、もう穂乃果やら絵里やらで慣れちまったから」
「なんかウチの姉たちが……すいません」
「お前も苦労してんな雪穂……」
先輩たちの尻拭いを最年少の雪穂がする。これでいいのか元μ's!?
そんな訳で、俺は雪穂と亜里沙を連れ昼飯を食うために街に繰り出していた。え? 話が進むのが早いだって? もう俺だって彼女たちの襲来にいちいち驚いたりはしない。穂乃果や絵里など、まだμ'sの面々がこっちに来ると思ってなかった頃は大袈裟なリアクションをしていたが、さっきも言った通りもうサプライズには慣れた。だからまた同じ焼き増しのようなリアクションをしてもただの二番煎じになるだけだ。だったら話を進めた方が断然有意義だろう? まあ俺のビックリを期待していた亜里沙には申し訳ないけどね。
「驚かせられなかったのは残念でしたけど、久しぶりに零くんの顔を見られて元気出ちゃいました♪」
「あまり連絡できてないのは悪かったよ。こっちも色々忙しくてな」
「Aqoursのことでですか?」
「おっ、雪穂も知ってんのか?」
「お姉ちゃんたちから聞かされていましたし、それ以前にスクールアイドル好きの亜里沙が注目してますからね。それもお姉ちゃんたちから話を聞くずっと前から」
「じゃあ亜里沙はAqoursのファンってこと?」
「はいっ! これにAqoursの曲が全部入ってますから!」
亜里沙は小型の音楽プレイヤーを俺に見せつける。その画面には確かにAqoursが今までライブで披露した曲が全て詰め込まれ、しかもジャケット付きという徹底っぷりだ。もちろんだがAqoursの曲はCD化もしていないので、亜里沙は自分でPVからCDジャケットもどきを作っているのだろう。いかにもスクールアイドルガチ勢のコイツがやりそうなことだな……。
そしてこの事実をμ'sファンの千歌やダイヤに教えたら卒倒すること間違いなしだろう。憧れで伝説のスクールアイドルの1人である亜里沙に自分たちが注目されていることを知ったら……もう展開が容易に想像できる。
「それで? 亜里沙が好きなAqoursのメンバーは誰なんだ?」
「そうですねぇ、松浦果南さんが大人っぽくてカッコイイなぁと思ってます! それと小原鞠莉さんがお姉ちゃんと同じ金髪で外国の血が混じっているので、ちょっと近いものを感じるなぁっと」
「ホントに大人っぽくてカッコよさそな人が好きだよねぇ亜里沙って。今でも海未ちゃんのこと尊敬してるんでしょ?」
「当たり前だよ! それに雪穂だって黒澤ダイヤさんが誠実でいいお姉さんっぽいって言ってたでしょ?」
「だってしっかりとしてそうだもん。どこぞのズボラな姉とは違ってね……」
聞いたか小悪魔の帝王矢澤にこ? この2人こそが強者のスクールアイドルであろうとも、素人スクールアイドルを一生懸命応援して尊敬までする人間の鏡だぞ。自分のストレスのために素人をダシにして笑うとか、陰湿なことをしている奴とは大違いだ。やっぱり雪穂と亜里沙ってμ'sの初期メンバー9人の誰よりもしっかりしてる説ないか? 最年少に実権を握られそうになってるけど大丈夫か元μ's!?
「もうμ'sの良心はお前らだけだよ――――ん?」
歩きながら感傷に浸っていると、道端に外から店の中を眺める金髪の女の子がいることに気が付いた。着ている純白の服がいかにもな高級感を漂わせており、見た目だけで人の目を惹きつけるオーラを醸し出している。その女の子は、俺が顧問をしているAqoursのメンバーの1人――――
「鞠莉!?」
「あっ、チャオ~先生♪」
怪しげに店を覗き込んでいたのは鞠莉だった。鞠莉は右手をあげて俺にいつもの挨拶をするとこちらに駆け寄ってくる。
「奇遇ね先生、こんなところで会うなんて。えぇと、後ろのラブリーな女の子たちは……?」
「も、もしかして鞠莉さん!? Aqoursの小原鞠莉さんですか!?」
「そうだけど……ということは、私のファン!?」
「はいっ! いつもライブのPV観てます!!」
「oh! まさかここまで有名になっていたなんて……!!」
これはいつもの展開とは全くの逆だ。いつもだったらμ'sの誰かしらの登場にAqoursのメンツが驚き叫ぶのだが、今回ばかりは亜里沙がAqoursのファン、特に鞠莉を推しにしていたせいで意外や意外な方向に話が進んでいた。
でも鞠莉の奴、完全に亜里沙を年下に見てるな……。まあ亜里沙は大学生とは思えないほど背が低いし、逆に鞠莉は高校生とは思えないほどのルックスとスタイルなので勘違いしても仕方はないが。そもそも鞠莉にスタイルで勝てる奴が世界に何人いるかだが。
「おい鞠莉。一応言っておくけど、コイツらはお前より年上だからな」
「えっ、そうなの!? つかぬことを伺いますが、お名前は……?」
「はい。私、絢瀬亜里沙と言います」
「高坂雪穂です」
「絢瀬亜里沙に高坂雪穂って、どっかで聞いたことがあるような……?」
「千歌やダイヤがご執心なスクールアイドルと言えば?」
「それはμ'sでしょ……ん? μ's…………? あっ……あぁああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」
鞠莉は全てを悟ったのか目を丸くして叫びだす。
やっぱ最終的にはこの展開になるのね……。
~※~
そんなこんなでお互いの自己紹介が済み、店の前で迷惑にも軽い世間話をして現在に至る。
鞠莉も過去にスクールアイドルをやっていたためかμ'sに関してはそれなりに知識はあったらしく、雪穂と亜里沙の名前を聞いてすぐに脳内記憶のアクセスに成功していた。スクールアイドルをやっていてμ'sメンバーの顔を知らないのは果南くらいだろう。
ここで全く話は変わるが、どうして鞠莉は外から店を覗くような真似をしていたんだろうか。まるで今から銀行強盗をするために中の様子を伺っている犯罪者みたいだったぞ。まあ覗いていた店は銀行でも何でもなくて、どこにでもある牛丼チェーン店なんだけどな。
「先生先生! 私と一緒にこの店に入ってくれない?」
「牛丼屋に? どうして俺が?」
「前々から行ってみたいなぁと思ってたけど、1人だとどうしても踏ん切りが付かなくて……。ほら、牛丼屋って安くて手軽に食べられるって評判でしょ?」
「そりゃそうだけど、そのために外から覗きつつ誰かが来るのを待ってたのか……」
「牛丼屋は基本男性客が多いので、女性が入りづらいというのもありますね。私も数回しか行ったことないですし」
「そんなもんなのか。気にしなくてもいいのに」
やはり牛丼屋は男飯ってイメージが強いらしく、女性に関しては特に入り難い飲食店の1つだと言える。もちろん女性客が全くいない訳ではないので気軽に入店すればいいのだが、イメージというのは中々払拭できないもの。牛丼屋以外にも飲食店なら他にも無数にあるし、頭の中に躊躇いが生まれると他の店でいいやとなって一歩が踏み出せないのは分からなくもない話だ。
そんなことを考えながらふと隣を見てみると、亜里沙が目を輝かせて牛丼屋の看板を眺めていた。もしかしてコイツも……?
「なあ亜里沙、お前牛丼屋に来るのは初めてか?」
「はいっ! 人生で一度も来たことないので、いつか行ってみたいと思ってたんですよ!」
「来たことがないとは、随分庶民とは掛け離れたお嬢さんだ」
「亜里沙の家って真姫ちゃんの家ほどじゃないですけど、相当なお金持ちですよ」
「だろうな知ってる」
「老舗和菓子店のおんぼろ高坂家とは違うので、亜里沙とはもう何年も価値観の違いを痛感してますよ」
「自分でおんぼろ言うんかい……」
雪穂はクールに、そしてナチュラルに誰かをディスるのはよくあることだが、自分の家系に文句を言うほどにまで言葉の鋭さに磨きがかかっていたとは。親父さんが聞いたら泣いちまうぞ……。
「よしっ! 亜里沙さんも食べる気満々みたいだから、今日の昼食は牛丼で決定ね♪」
「ほら行きましょう零くん! 雪穂も早く!」
「わ、分かったから引っ張らないで!!」
たかが牛丼屋でここまでテンションの上がっている女の子は、世界のどこを探してもコイツらだけだろう。まさに庶民の食事を物珍しさで見るお嬢様の構図だ。
そして俺は鞠莉に、雪穂は亜里沙に腕を引かれ牛丼屋に入店した。ここで5年前に亜里沙、絵里、真姫と回転寿司に行ったことを思い出すが、今回はあの時以上に騒がしくなりそう……。
~※~
「シャイニー☆」
「い、いらっしゃいませ……」
いきなり訳分かんねぇ挨拶するから店員さん驚いてるだろ……。
てな訳で俺たちは牛丼屋に入った。店内には牛丼屋特有のファンキーな匂いが立ち込め、俺の腹の虫も活発になっている。鞠莉や亜里沙ほどではないが、俺も久々のジャンクフードに心が踊っていた。
「ご注文はこちらでお願いします!」
おっ、いい笑顔の女性店員さんじゃねぇか。女の子の一番の魅力は笑顔と宣っている俺からしたら、もうこの場で彼女を恋人にしたいくらいだ。歳は高校生くらいなのでバイト戦士なんだろうが、きびきび働いて俺を楽にさせてくれる女の子なら大歓迎だぞ!
そんな冗談はいいとして、この牛丼チェーン店は食券ではなくレジで注文をして、牛丼が出来上がったら取りに来るパターンの注文方法である。食券とは違って実際にレジ前に立つ訳だから、来客ピーク時は後ろの客を気にしてしまってあまり悩めないのがポイントだ。だからこの牛丼チェーン店に来る際は、あらかじめ食べたいモノを決めておくといいぞ。
「牛丼って、思ったより種類があるんですね。普通盛りとか大盛りだけかと思ってました」
「高菜とか明太とか、チーズなんて牛丼に合うの? なんかシャイ煮みたいな組み合わせね面白い♪」
「いやお前の公開闇鍋と一緒にすんな……。言っておくけどな、どれも美味いから」
どの牛丼チェーン店にも言えることだが、牛丼屋だからと言ってただの牛丼だけを出すほど世間に遅れを取っていない。回転寿司のカルビ寿司などと同様に、メニューはバリエーション豊かに揃っている。
例えば高菜と明太を合わせた牛丼だったり、大根おろしとポン酢を組み合わせたもの、チーズを乗せたちょっと風変わりものまで様々だ。もちろんどれもジャンクフードマニアの俺が味の保証するから問題ない。もちろん鞠莉のシャイ煮よりかはよっぽどな。
「皆さん悩んでいるのなら私からいいですか? 牛丼の並盛りをお願いします」
「それじゃあ俺は牛丼とん汁おしんこセット並盛りのつゆだくで」
「つ、つゆだく……? そんなのメニューにありましたっけ?」
「牛丼屋では基本どこでも言えば牛丼つゆを多めに入れてもらえるんだよ。そっちの方が味も濃くなるしな」
つゆだくにすれば牛丼の飯本来の甘さは少し下がるが、その分ジューシーな味を堪能することができる。無難につゆ少なめにするか、欲張ってつゆだくにするかはその人次第だ――――って、段々ステマになってきてるような……。
「"つゆだく"以上の"つゆだくだく"というものもあるそうですね」
「だくだくってことはもっとつゆを入れるってことだよね? お茶漬けみたいになりそう……」
「お茶漬けみたい……? つゆをたくさん入れてゴテゴテで、味が最強に濃くなった牛丼……ゴクリ」
「やべ、鞠莉の変なスイッチが入り始めてるぞ!?」
鞠莉はシャイ煮なんていう闇鍋を作り上げて、しかもそれを美味しいと思っちゃうほどの味覚バカだ。だから牛丼をつゆだくだく、いやそれ以上に牛丼のお椀をつゆで満たすくらい平気でやりそうなんだが!! 正直やるのは勝手だけど、一緒の席を囲んで食う俺たちの目にそれが映るのが怖い!! もうリアルお茶漬けレベルだからなそれ!?
「なら私はキムチ牛丼のつゆだくだくだくで!!」
「"だく"が一個多い!! せめて見た目的にも"つゆだくだく"までにしてくれ頼むから!! お茶漬けになってる牛丼なんて見たら食欲なくすから!!」
「えぇ~先生わがままボーイだね。仕方ない、じゃあそれで」
「なんとか地獄は回避したぞ、雪穂」
「地獄……?」
「そっか、お前は知らないもんな……」
正直に言うと、キムチのつゆだくだくも相当に味がカオスなことになりそうな組み合わせだ。キムチはもちろん辛く、牛丼つゆは甘味がある方なので味覚が相反する。まあゲテモノ好きな鞠莉にしてみればこれほど最高な組み合わせはないんだろうが……。
ちなみに参考までに、"つゆだく"みたいにメニューにはない牛丼の注文の仕方として以下がある。
・頭の大盛り(肉大盛り、ご飯少なめ)
・肉下(肉の上にご飯を盛る、つまり普通と盛り方が逆)
・つめしろ(ご飯の温度を下げる)
・とろだく(肉の脂身多め)
マイナーだが知っておいて損はない……と思う。
ちなみに亜里沙は初めての牛丼屋なので、無難に普通の牛丼並盛りを注文した。
そして今思ったのだが、鞠莉ってキムチ苦手なんじゃなかったっけ? 苦手なものすらも食いたくなるほどに鞠莉は興奮しているのだろうか。むしろ苦手だからこそ牛丼と一緒に食べれば克服できると思っているのか。どちらにせよ牛丼のキムチは全然辛くないから彼女でも平気で食べられるだろう。それで苦手が克服できればなお良しだ。
「キムチ牛丼並盛り450円、牛丼並盛り350円になります!」
「450円……? 450円!? や、安くない!? それに普通のに至っては350円って……」
「私もビックリしました!! こんなにたくさんお肉を使ってるのに、それだけでお店やっていけるんですかね!?」
「やっていけるから経営してんだろうが。ていうか今までいくらだと思ってたんだ?」
「上質な肉といえば米沢牛だから、一杯3000円くらいかと」
「仙台牛だったら2000円くらいですかね」
「どれもブランド牛ばかりじゃねぇか高過ぎるわ!! 牛丼屋は手軽に食べられるのがウリなのに、そんな高かったら恐れ多すぎて誰も近づけねぇって!!」
「これがお金持ちと私たち庶民の格差ですよ……」
雪穂は鞠莉と亜里沙の爆弾発言に唖然とする俺の肩に手を置いて、庶民代表として同志の契を結ぶ。
この2人がここまでの世間知らずとは知らなかったから怖い……もう怖い。牛丼屋なんて庶民ホイホイの店なのに、一杯2000円や3000円もしたら庶民バイバイになっちまうだろ……。
そして注文して間もなく、俺たちは牛丼を受け取り席に着いた。
もうさっきから亜里沙と鞠莉のお嬢様特有の天然さ具合に、俺たちだけではなくて店員さんもタジタジになっている。ここまでギャーギャー騒ぐと他のお客さんにも迷惑が掛かるし……なんかすんません。
「これが……これが夢にまで見た牛丼!! もう一生お目にかかれないと思ってたから感激!!」
「そこまで感動してくれると、牛丼の肉として使われている牛もさぞ喜んでいるだろうよ……」
「見て見て先生! このギトギトでこってりとしたつゆだく!!」
「見せんでいい!! 目に入るだけで胸焼けしそうだから!!」
今回って牛丼屋のステマなのに、鞠莉がゴテゴテの牛丼を注文するもんだから逆に見栄えが悪くなっちまってるじゃねぇか。テンションは上がっているが落ち着いて牛丼並盛りを頼んだ亜里沙を少しは見習って――――
「ねぇねぇ雪穂! 牛丼ってどうやって食べればいいのかな?? 割り箸で掴むべきお肉とご飯の比率とかあるの?? おつゆはどれだけ漬ければいいのかな??」
「そんなのないから自由に食べなって! それにあまり大きな声出さないでお店に迷惑でしょ!」
見習うどころか、またしても雪穂は亜里沙の世間知らずっぷりに振り回されていた。どうやら亜里沙は出会った中学時代からこんな感じだったらしいから、雪穂は最低でも6年以上は苦労の絶えない道を歩んでいることになる。そう思うと急にいたたまれない気分になってきたので、今度雪穂と一緒に酒でも飲んで愚痴を聞いてやろう。あっ、まだコイツ未成年だったわ……。
そういや今気付いたんだけど、いいトコ育ちの亜里沙と鞠莉にとっては牛丼屋で使われる肉なんてまさに庶民の食べ物だ。もしかしたら口に合わないなんてこともありえるかもしれない。しかもコイツらは頭に浮かんだ感想をすぐに口に出しやがるから、もちろん店の迷惑など気にしてもいないだろう。仕方ない、ここは隠れ牛丼マニアの俺が擁護の言葉を考えておくか。
しかしそんな間もなく、鞠莉は肉(キムチ込み)とご飯を1:1の比率で口に運ぶ。そしてしばらく無言で咀嚼してからゴクンと飲み込む。いくら鞠莉が温厚だとは言え、下々の俺たちが食べているような肉を食わされたら――――
「歯ごたえも良く、女性の小さな口にも合う小さくも甘めな牛肉、つゆが染み込んでいるのにシャキシャキ感が残っている野菜に、甘い牛肉と相反しながらも絶妙な辛さで絡み合うキムチ、つゆにどっぷりと溶け込んだ、甘味を感じるご飯――――こんなに美味しい組み合わせがこの世にあっただなんて!! Wonderful!!」
あっ、よかったしっかりとお嬢様のお口にも合ったみたいで。これで『あぁ? なんだこの残飯に廃棄するような肉は? こんなゴミ食わせんじゃねぇ!!』って言われたら、もう鞠莉の首根っこを掴んで早急に店を出るしか方法がなかったからな。そしてどうでもいいが、鞠莉って食レポ上手くね?
「鞠莉さん食べるの早すぎじゃないですか……」
「だって美味しいんだもん! これからAqoursの作戦会議は牛丼を食べながらやりましょ♪」
「そんなことをしたら男気溢れるスクールアイドルになっちまうぞ……」
「でもここって有名な牛丼チェーン店なんでしょ? だから今人気上昇中スクールアイドルである私たちとタイアップすることで、お互いにお互いを宣伝し合えていいと思うんだけどなぁ」
「言ってることが理にかなってるから上手く言い返せない……」
最近はコンビニを始めとしてアニメなどとのコラボが流行っているから、その流れに便乗するのは悪くない手だと思う。牛丼屋は男性客が多いから、男性ファンの多いスクールアイドルは目を向けてくれ易いだろうし。まあでもそれでファンが殺到して、手軽に食べられるのがウリな牛丼屋に入りづらくなるのはやや懸念事項ではあるが……。
するとここで、亜里沙がチラチラと壁を見ていることに気がつく。そこには現在タイアップ中の宣伝ポスターが貼られており、デフォルメされた可愛い動物たちのキーホルダーのリストが掲載されていた。亜里沙は牛丼を手に目を輝かせながらそのポスターを眺めている。
「おい雪穂、亜里沙って小さいキーホルダーとかおもちゃとか好きなんだっけ?」
「はい。道端でお気に入りのガチャガチャがあったら、躊躇いもなく何回か回すくらいには好きですね」
「そうか、見た目だけじゃなく趣味も可愛い……ん? なんか以前にもこんなことがあったような……?」
俺の記憶の底から亜里沙たちと回転寿司に行った思い出が蘇る。確かあの時は寿司の皿5枚でキーホルダーのガチャガチャを引けると知った亜里沙が、そのキーホルダー欲しさに俺に無理矢理寿司を食わせて皿を稼がせようとした苦い事件があった。自分が食えないからと男の俺に食わせるその理不尽さは普段の優しい彼女とは思えないほど怖かったが、今回もそれと同じ匂いがプンプンしてきたぞ……。
もしかしてと思い壁に貼られているポスターをよく見てみると、そこには牛丼一杯につきスタンプを1個進呈、3つ貯まるごとに1つキーホルダーが貰えるというシステムらしい。今4杯食ったからスタンプは4個でキーホルダーは1つ。キーホルダーは全部で6種類。つまり全種コンプリートするためには18杯も牛丼を食わなければならないのだ。
そして俺の全身に、冷汗が滝のように流れる。
恐る恐る亜里沙を見てみると、彼女はもう既に目を輝かせながら俺の顔を見つめていた。俺の脳裏に一抹どころではない不安が過る。本当なら亜里沙の輝く目は芸術の域に達するほど見惚れてしまうものなのだが、今のコイツは俺にとってただの悪魔だ。
「零くんお腹空いてるって言ってましたよね? ほらどんどん食べましょう!!」
「やっぱりか!! いや流石に一杯で腹満たされたから!!」
「零くんは牛丼一杯ごときで満足するような小さい人間じゃないはずです!! いつも言ってるじゃないですか、俺は世界中の美女美少女を恋人にしてハーレムを作るって!! そんな大きな夢を持っている人が牛丼一杯で満足するような人とは思えません!! 思いたくもありません!!」
「それとこれとは関係ねぇだろ!? ゆ、雪穂なんとかしてくれ!!」
「ごちそうさまでした」
「悠々と完食してんじゃねぇよ!! なに自分だけ牛丼楽しんじゃってるの!?」
雪穂は俺と亜里沙の戦いの最中にのんびりと牛丼を完食していた。多分亜里沙の暴走に巻き込まれたくないのだろう、そそくさと席を立って牛丼のお椀とトレイを返却口に戻しに行く。俺たちって庶民派の同志じゃなかったのかよ裏切りか!!
「それじゃあ小原グループがこの牛丼チェーン店を買収すれば万事解決じゃない? プリティなキーホルダーたちも全部私たちのものだよ!」
「非現実だけどお前だと現実的な解決方法でもう笑えねぇよ!! これだから金持ちは……」
決めた! もうこれからお嬢様とはジャンクフード店に絶対来ない!!
ちなみに私は高菜+明太マヨの牛丼とチーズ牛丼が好きで、大体某牛丼屋に行った時はその2つしか食べません(笑)
零君たちが行った某牛丼屋以外にも私は牛丼チェーン店に精通しているので、是非皆さんの好きな牛丼を熱く語ってください。そしてとりあえず皆さんの明日の昼飯は牛丼確定ですよね?
そしてまだAqoursとコラボしていないμ'sは残り3人。
次回はμ'sの中でも最も甘々な、あの仲良し2人組の出番です!
新たに☆10評価をくださった
イチゴ侍さん
ありがとうございます!