ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 これまでのAqoursの個人回は割と雰囲気が暗めだったので、今回のルビィ回は比較的明るくしてみました。それだけシリアスな場面も少なくなってしまいましたが(笑)


哀のルビィ、愛はヘビー!?

 いきなりだが、学校の中で一番興奮する場所ってどこだと思う? エキサイティングの方ではなく、男の性欲をくすぐられるムラムラとする方の興奮だ。

 答えは人それぞれ出身の学校の構造によって変わるだろうが、手堅いのはまず屋上だろう。開放的なのに誰の目も届かないのが評価点だ。あとは花丸との一件で改めてイケると実感した図書室や、エロ同人御用達の体育倉庫、マニアックな人なら普通の教室という選択肢もあるだろう。まあ中には女の子とやれればどこでもいいという奴もいるみたいだが、それは質問の意図を破綻させるので論外にしておく。あくまで1つの場所を選ぶならだ。

 

 ちなみに俺は定番中の定番である校舎裏を選ぶ。どちらかといえば告白場所としてのイメージが強いのだが、俺にとってはμ'sとの過去からレイプ現場という印象の方が深い。むしろ校舎裏での告白なんてもはや時代遅れじゃないか? エロ同人もエロゲーもネットの普及によって手を出しやすくなった今世、校舎裏の時代は今や大人の社交場だよ。

 

 ――――と、そんな安易な低俗語は置いておいて、俺が今まさに校舎裏に向かっている話でもしよう。

 

 

 簡潔に言えば、ルビィに呼び出されたのだ。普段は向こうから話しかけてくることはあまりないので、携帯に連絡が入っていた時は何事かと思った。あの内気なルビィが放課後、人影のない校舎裏に呼び出すなんてただ事ではない。見た目は幼い彼女と誰もいない校舎裏に2人きりというシチュエーションが、まさしく俺の記憶するμ'sとの過去と合致する。そのせいで妙な期待と焦燥感が湧き上がってくるのだが――――最近、俺ってこんなことばっか言ってるよな……。

 

 とにかく、可愛い教え子の頼みなら無視する訳にはいかない。少し邪な気持ちはあるけど、純粋を具現化したようなルビィが相手では間違いは起こらないだろう。俺がμ'sの一部純粋なメンバーを襲っていた事実は目を瞑ってもらうしかないが、性に溺れていた高校生の俺と今の俺は違うんだ。まだ中学生にしか見えない女の子を襲う21歳って、そもそも字面がカッコ悪くて実行にすら移せねぇよ。

 

 そんな訳で、妙な緊張感を抱えながら俺は校舎裏へと向かった。

 あんなところに呼び出して、一体何をしようって言うんだか。鞠莉の時みたいに際どい格好で逆レイプされることは……ルビィの性格を考えてもまあ有り得ないかな。少し期待しちゃってる俺もいるのが悔しいところだけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「つまり、そういうことなんです!!」

「はぁ……?」

 

 

 自身の期待とは180度どころか別ベクトル、いや別次元の話に俺は呆気に取られて聞き返すしかなかった。さっきまでちょっとでも低俗なことを考えていた自分を殴りたいとか、そんな自責すらも考えないくらいにはルビィの話はブッ飛んでいた。期待して損した気持ちと、ここからどう切り替えしたらいいのか迷う気持ちの2つが俺の中で忙しなく駆け巡っている。

 

 

「話を整理したいから、もう一度言ってくれ」

「だから、ルビィは先生に怒られたいんです!!」

「…………ドM?」

「違います」

「そこは冷静になるのか……」

 

 

 ルビィって案外冷めてるというか、たまに毒舌になりながら現実的すぎるツッコミを入れるよな。いつもはオドオドしていて頼りなさそうなのに、唐突に世界の全てを達観しているかのような雰囲気になるのが面白くもあり怖くもある。まあツッコミキャラならこれくらいはビッグでいてもらわないと、ボケが多いAqoursの統制を取るのは不可能だろう。姉のダイヤですら既にボケキャラと化しているから尚更だ。

 

 話が横道に逸れたが、本題は何故かルビィは俺に怒られたがっている件である。さっきその辺の事情をまとめて聞いたのだが、あまりにもマシンガントーク過ぎて一部聞き取れなかったので情報整理も兼ねてもう一度話してもらおう。

 

 

「先生は千歌さんにはよく怒るじゃないですか?」

「そりゃあアイツの性格を見れば分かるだろ。宿題を忘れてくるわ、教室でも無自覚に抱きついてくるわ、レポートを書いている横で嬉しそうに邪魔してくるわ、挙げたらキリがねぇぞ」

「善子ちゃんや鞠莉さんにだって」

「アイツらに関しても、性格を考慮すれば大体察しはつくだろ?」

「梨子さんやお姉ちゃんにだって、大きな声でツッコミを入れたり喧嘩してますよね?」

「喧嘩は語弊があるけど、アイツらとは自然と憎まれ口を叩く仲だからもうそれが日常になっているんだよ」

「そこですよ!!」

「なんだよさっきから大声出して……」

 

 

 みんなと一緒にいる時は借りてきた猫のように物静かなのに、こうして2人きりで話し始めると割と饒舌になるのが最近のルビィである。しかもいきなり俺に怒られたいだなんて……あれ? なんか4年前にも同じような展開を経験したような気がするが、デジャヴ??

 

 

「単刀直入に言えば、先生ってルビィだけには優しすぎじゃないですか?」

「言われてもみれば……そうかも」

「ルビィの記憶が正しければ、過去に怒られたことは愚か憎まれ口を叩かれたこともありません!」

「いやいや、そもそもない方がいいだろそんなもの! それに怒らないのはルビィを叱りつける理由がないからであってだな」

「じゃあ怒られるようなことをすればいいんですね?」

「いいんですねって言われても……」

 

 

 なんだろう、今日のルビィはやけに強気だ。彼女は俺の出会った女の子の中でもトップクラスの内気で、教師として彼女の学校生活を見る限りでもそこまで目立つ様子はない。だが目の前のルビィはまるで別人かのように目が燃えていて、下手をしたらスクールアイドルに熱中している時よりも熱くなっている。明らかに努力の方向を間違っているけどな……。

 

 そして女の子がいきなり粋った行動を取る時は、決まって理由が2つある。1つは単純に馬鹿なだけ。もう1つは心境に大きく変化が起こった時だ。穂乃果や千歌じゃあるまいし、ルビィに関しては後者と捉えていいだろう。だとすれば、ここまで俺に熱を向ける理由が何かあるはずだ。そう考えたら急に彼女の愛が重く感じてきたぞ……。

 

 ここで意識を再びルビィに戻してみると、さっきまでの勢いは何処へやら、俯きながら顔を紅く染めてモジモジとしていた。燃えるような熱さは気づかぬ間に鎮火して、いつもの内気な彼女に戻っている。恥ずかしがりながらチラチラとこちらを見つめたり見つめなかったり。さっきからテンションの高低差が半端ねぇなぁオイ。

 

 

「どうした? いきなり黙られても困るんだけど……」

「ご、ゴメンなさい!! いざとなったら度胸がなくて……。先生に怒らせるようなことをするのは……」

「ほら見ろ、お前みたいな優しい奴がそんなことできっこねぇって」

「でもルビィは決めたんです!! 絶対に先生を怒らせて――――!?!?」

「そこで目を背けられても……」

 

 

 ルビィは俯いていた顔を上げて俺と目が合うと、すぐさま顔を沸騰させてそっぽを向いてしまう。ダイヤの話では彼女は男性が苦手らしいので、このような反応をしてしまうのは分からなくもない。だけど仮にも2週間以上一緒に活動してきた仲間なんだから、そろそろ慣れて欲しいものだ。

 

 それとも目を合わせられない羞恥心は、慣れていないのではなくて別の理由かもしれない。ルビィの抱いている想いがこれまでの曜や果南、花丸や善子、それに鞠莉と同じならば、俺と目を合わせただけで顔が熱くなる理由も頷ける。まさかルビィも……?

 

 

「今だけ……今だけ大胆になれれば……」

「おいルビィ?」

「脳内シュミレーションは完璧だったはず…………恥ずかしかったけど、先生が好きそうな言葉も覚えてきた…………」

「聞いてねぇし! それにやっぱり努力が斜め上じゃないか!? その言葉を聞くのが怖いんだけど!?」

「お姉ちゃんにもお母さんにもお父さんにも内緒で…………え、えっちなこともちょっとくらいは………」

「おーい!! 戻ってこーーい!!」

「最悪靡かなくても、執拗に男へ粘着すればいいってネットに書いてた…………特に小さい身体でマスコット的ポジションの女の子なら大丈夫って…………」

「段々話が重くなってきてるんですけど!? 歪んだ知識ばかり蓄えてんじゃねぇ!!」

 

 

 親友の花丸とは違って、その手の知識をネットから手に入れるタイプだったらしい。タイプと言っても今の時代だと花丸のタイプの方が珍しい訳だが、そこは話の論点ではないから置いておこう。

 

 もう周知の事実だが、ネットで仕入れる知識ほど危ないものはない。特にその手のアダルト知識が簡単に手に入るご時世なので、ルビィのような純粋っ子がこれほどまでに黒く染まるのも珍しくはない訳だ。彼女は元々そっち系の知識はあると思っていたが、まさか俺のために自ら欲という沼に浸かりに行ったとは。俺を想ってくれての行動だから嬉しいけど、あのルビィがネットでコソコソとその手の言葉を調べているところを想像すると……なんか唆らない? やっぱ最近のJKは色々進んでるわ。

 

 

「せ、先生!!」

「はいはい」

「わ、私まだそういうことには全然慣れてなくて初めてですけど、精一杯頑張りますので!! 先生に満足してもらえるなら、私はどうなっても……ど、どどどうなっても!!」

「何の話だ!? それに目を回すくらい恥ずかしいなら言うなよ!!」

「だ、だってぇ~……うゅ~……」

「おい大丈夫か? おーーいっ!!」

 

 

 勝手に暴走して勝手に気絶しそうになるなんて、結局何がしたかったんだコイツは? わざわざ校舎裏まで呼び出すくらいだから目的はあるのだろうが、やることやることが全て空回りで自分の首を絞めている。逐一仕草は可愛いから見ていて飽きないんだけど、これでは日が暮れるどころか暮れても話が一歩も前へ進みそうにない。

 

 そして、遂にルビィは本当に気絶して俺の胸に倒れ込んできた。頭から湯気を発し、目を回しながらコミカルに。全く、慣れないことするからだよ……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 俺は校舎裏に何故か設置してあったベンチに腰を掛け、膝を枕にしてルビィを介抱していた。女の子の膝枕なら絵面的に需要はあるけど、男が女の子を膝枕する光景なんて誰が求めてるんだって話だ。本来なら保健室に連れて行くべきなのだろうが、ルビィの小さく気持ちよさそうな寝息を聞いているとどうしても起こすに起こせなかった。もちろんすぐにでもさっき暴れていた理由は聞きたいのだが、そこまで話を急ぐ必要もない。今はこの幼い寝顔を写真に収め、後からネタにして弄ってやるのが当面の目標だ。

 

 まあそんなことは嘘で、俺はこの間にもどうしてルビィが俺に怒られたがっていたのかを考えていた。彼女は普段取り乱すことは多くても自発的ではない。だからこうして自ら俺に迫り、しかも本来なら苦手であろう低俗な話題を振ってくるなんて普通では考えられないのだ。さっきも言ったけど、やっぱり心境が大きく変化したのかねぇ。他のみんなによる俺への動向を踏まえると、ルビィも本心ではみんなと同じ想いの可能性は高い。まあ生憎持ち前の内気さのせいで空回りしまくってるけど、力みすぎてしまうほど本気だってことだろう。

 

 

「ん……」

 

 

 可愛い吐息と共に、ルビィの目がゆっくりと開かれていく。膝の上に女の子を乗せて、しかもその子の目覚めの瞬間を見られるなんて彼女のお父さんになった気分だ。

 しかし、ほっこりとしているのは俺だけだった。寝起きのルビィは視界がぼやけて状況を把握しづらかったのだろう、俺の膝の上から徐々に頭を上げていく。だがその過程で視界がはっきりとしてきたのか突然俺と目がバッチリと合い、またしても彼女の顔が熱に包まれていくのが分かった。

 

 

「ひゃ、ひゃあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!?!?」

「そんな叫び方すんな!! 痴漢魔か何かと勘違いされるだろうが!!」

「ど、どどどうして先生が……って、ルビィ、先生の膝の上に!? あわわわわわわわわ……!!」

「お前が勝手に騒いで気絶するだからだろ……。そしてもう気絶するなよ。また介抱して目覚めて気絶する無限ループに陥るから」

「いきなり膝枕は卑怯すぎますよぉ……」

「そんなこと言ったって、地面に寝かせてただ見てるだけの方が絵面的にマズイだろ」

 

 

 ルビィのような幼子を地面に寝かせ、俺は座りながらその様子を見ているそんな光景。傍から見たらヤり捨てた女の子をまじまじと観察する変態にしか見えねぇから。しかも外見だけは小柄な彼女だから、それこそロリコンのレッテルを貼られかねない。そもそも校舎裏で膝枕をしている時点で誰かに見つかりでもしたら、お盛んな子が多い浦女では速攻で噂になり学内SNSのトップニュースになるだろう。ただ介抱してるだけなのに、女の子たちから無駄な質問攻めに合うのだけは勘弁して欲しい。教師として生徒の体調を伺っているだけだと言っても、アイツら絶対に信じないだろうなぁ。

 

 ルビィの様態が先程よりもほんの少しだけ良くなったので、彼女の頭と肩を持って俺の隣に座らせてやる。一応本人のことを思っての行動だったのだが、ルビィはちょっと名残惜しそうな表情だった。

 

 

「本当ならルビィが先生に凄いことをして、その流れで怒られるはずだったのに……」

「凄いことってエロいこと?」

「え、えろってそんな……!! ル、ルビィなんかが先生の相手なんて……でも――――」

「もう分かった! 話を逸らせたのは悪かったからもう暴走すんな!」

 

 

 あれ? ルビィって意外と面倒臭い? 一見あどけないように見えて、想いの人に対する執着は中々に重い。他の女の子たちも俺に対して色々思うことはあったけれど、その気持ちをここまで真っ向からぶつけてきた奴はいない。正直Aqours9人の中ではルビィの心が一番開きにくいと思っていたから、まさかこんな結果になるとは驚きだった。もちろん判断はここまで積極的に暴走にしている理由を聞いてからだが。

 

 

「なぁ、どうしてそこまで俺に怒られたいんだ? いくらなんでも無茶しすぎだと思うけど」

「それは……単純にルビィのことを見て欲しかったから」

「え? いつも見てるぞ、変な意味じゃなくてさ」

「それってマスコットみたいなルビィを見て微笑ましいとか、可愛らしいとか思ってるだけなんじゃないですか?」

「マスコット……か」

 

 

 ここでようやくルビィの主張がハッキリと分かった気がする。そうか、彼女は俺に自分自身じゃなくてマスコットとしてのキャラを見られていると思っていたのか。でも言われてみれば完全に否定できる訳じゃなく、小柄で声色も幼気のある少女なので必然的に愛くるしいキャラに見えてしまう。そしてそう思っているのは俺だけではなく他のAqoursのメンバーもそうだろう。

 

 

「やっぱり、そうなんですね……」

「あぁ。ちょっと考えてみたけど、きっぱり否定することはできないよ」

「分かってました。皆さんの目もそうですし、本当の自分を見てくれるのは付き合いが古い花丸ちゃんとかお姉ちゃんくらいです。もちろんルビィ自身が内気なせいで、周りに自分を出せないというのが最大の理由なんですけど……」

「なるほどなぁ。申し訳ないけど、それは考えたこともなかった」

「ルビィもそこまで深刻に悩んでいる訳ではありませんから。でも、先生にはルビィの本当の気持ちを知って欲しくて……」

「それで俺を怒らせようとしたり、変態地味た行動を取ろうとしたのか。いつもとは違う自分を俺に見せつけるために」

 

 

 自分が羞恥心で怖気づく性格だから、みんなのように俺に胸を押し付けるなど激しく迫る行動はできないと踏んだのだろう。だから遠まわしに普段の自分とは違う姿を俺に見せつけ、そこでマスコットではない本当の自分を見つけて欲しかったんだと思う。俺であれば自分の様子がいつもと違うことはすぐに見抜けると、神崎零という人間の能力を考慮した行動だ。正直に言って回りくどい方法だが、それほどまでに俺に本当の自分を知って欲しかったという裏返しにもなる。まあ結局言われるまで確信に至るまで気付けなかった訳だが、だからこそ彼女の努力と本気に答えてやる義務がある。

 

 

「不安だったんです。先生ってルビィを全然怒らないし、いつも笑顔ばかり向けてくれる。だからこそ先生は本当にルビィと向き合ってくれているのかなって。みんなとは違って自分だけが表面上で可愛がられている、そんな気がしたんです……」

 

 

 またしても『そんなことはない』と否定はできなかった。否定するどころかむしろ、そんなことを考えてすらいなかったという方が正しい。これまで他のみんなの悩みをいくつか聞いてきたが、ここまで俺が認識できていない悩みを持ち出されるのは初めてだ。

 

 だがしかし、答えは一瞬で出た。もっと相手の気持ちを汲み取って考察しろと言われるかもしれないが、最初のインスピレーションこそが自分の本当の気持ちと言えなくもない。自分が認識していない問題だったからこそ、考え込むことなく最初に浮かんできた気持ちが重要だと考えたんだ。

 

 

「お前の言うことは全部合ってるよ。ここで悪あがきみたいな言い訳はしない」

「ですよね……」

「でも完全に肯定もしないよ。確かにマスコットっぽくて可愛いと思うことはあるけど、俺が怒らない理由とは直接関係ないから」

「え、そうなんですか?」

「あぁ。何事も一生懸命なお前を怒ることなんて、そもそもできっこないからな。スクールアイドルの練習でも他のことでも、自分の実力が足りないことを自覚してお前は頑張ってる。ちょっとドジったりしたら周りからは可愛いと言われちゃうけど、それでもお前はいつも本気なんだろ? 見ていれば分かるから、お前が人一倍努力してるってことくらいさ」

 

 

 こう言っては申し訳ないが、ルビィに特筆するような目立った才能はない。ダンスも歌も、運動も体力も、勉強も成績も、どれを取ってもAqoursには彼女より上の子たちがいる。他の奴らが特別すぎるという見方もあるが、それを加味してでも彼女には特別尖っている点はないのだ。

 

 だが、ないならないで諦めないのがルビィである。運動音痴だし体力もないが、それでもみんなとの練習には絶対について行く熱い気概があるし、スクールアイドルに注ぐ情熱も桁違いだ。どうやら休日も軽く自主トレをしているらしく、自分に才能がないならないなりの努力を誰よりも惜しんでいないのだ。勉強でも放課後、個人的に俺へ質問して知識の不足を補おうとする勤勉な面が見られる。

 

 ただの頑張り屋さんと言ってしまえばそれまでだが、世間にその頑張り屋さんが何人いるか。ほとんどの人がちょっとくらいは手を抜いていいと思っているはずだ。

 だけどルビィは違う。何事も手を抜かず、どんなことでも頑張る。当たり前のことが当たり前のことにできる人はそうそういない。もしかしたら、彼女の尖った部分はそこなのかもしれないな。

 

 

「頑張り屋さんとか人一倍努力してるとか、言うだけなら簡単だよ。でも実際にお前は実行に移してる。それだけでも凄いことなんだ」

「それが、先生がルビィに怒らない理由……?」

「そうそう。千歌に怒るのは宿題を当然のように忘れてくるからだし、梨子や善子に怒るのは憎まれ口を叩き合う仲で、そもそもその2人に関しては本気で怒ってないしな」

「そこまでルビィのこと、見ていたんですね……」

「それみんなにも言われてる……。俺はお前らの教師で顧問だぞ? それこそ当たり前だよ」

「だったらルビィの心配は杞憂だった訳ですね。なんだか一気に腰が抜けちゃった……」

 

 

 ルビィは張っていた気が緩んだのか、ベンチに浅く腰を掛けてゆったりとした格好で座る。

 俺の前ではいつも緊張しがちな彼女がここまでリラックスしているのは中々見られるものではない。さっきまでの暴走によほど体力を奪われたのだろう、膝枕で寝ていたのにも関わらずまだ疲れは取れてないようだ。まあ心の重荷が大きく軽減されたから、精神的疲労はほとんど吹き飛んだと思うがな。

 

 

「そこまで気にすることはないってこった。さっきお前が暴走する姿を見て、怒るどころかむしろ唖然とすることしかできなかったから」

「やっぱり慣れないことはしない方がいいですねぇ……」

「でもマスコットみたいで可愛かったよ」

「な゛ぁ!? だ、だからそのマスコットみたいというのはやめてくださいって言ったじゃないですか!! またそうやってからかって……!! って、ルビィが怒る立場になってる!? そ、そして可愛いってそんな安易に言われると……うぅ」

「相変わらず怒ったり恥ずかしがったり忙しい奴……」

 

 

 そうやって空回りしたりコロコロと表情変化が可愛かったりするからマスコットって言われるんだよ。もうそのキャラはルビィに紐付いて、未来永劫解けることはないだろう。それにマスコットでも別によくね? 当然のことを当然にように頑張るのは誰にでもできることじゃないが、マスコット扱いされるのも同じく誰にでもできることじゃない。むしろルビィにはいつまでも周りから愛される愛嬌を持ち続けて欲しいものだ。

 

 

「よしっ!!」

「うぉっ、どうしたいきなり意気込んで……」

「いつまでも内気だからマスコットと言われるんです。だから今日からルビィはもっと積極的になります!」

「はぁ。で、具体的には?」

「そ、それは先生にもっと自分をアピールするとか、先生にもっとアプローチするとか、先生に悦んでもらうことをするとか、先生にご奉仕するとか……うぅ、言ってて恥ずかしくなってきました……」

「言ったそばから自爆かよ……。それに後半から段々と言動が怪しくなってきたし、そもそもどうして相手が俺ばかりなんだ? 積極的になるなら何も俺だけを相手にしなくてもいいだろ?」

「あっ、そう言われてみればそうですね。自然と気持ちが先生に向いちゃってました」

 

 

 やっぱりさ、ルビィの愛って案外重くね?? 思い返せば怒られることだって、その相手は俺である必要はなかったはずだ。そしてさっきルビィが掲げていた行動の相手は全て俺であり、しかも本人は意識せず俺を対象にしているときた。好意を向けてくれるのは嬉しいが、万が一付き合った場合に彼女を少しでも放っておいたら病みそうで怖い。それはもう愛が重いどころか、逆にドロドロに溶けているかもしれないが……。

 

 

「決めました! もっと先生に振り向いてもらえるような女の子になります! 具体的にはそうですね――――――」

 

 

 そしてルビィの一人語りは、ここから30分くらい続いた。

 やっぱ重いよ、ルビィの愛!!

 




 個人回のあとにあるエッチをする描写はどうしたって? 話の雰囲気を明るくするため+ルビィの純粋さを考えると、そこまでの描写はできませんでした(笑) そもそも花丸や善子の個人回も無難に終わっていたので、何もご奉仕の描写が絶対にある訳ではないのでご了承を!

 次回は元々1年生のハーレム回の予定でしたが、3年生のハーレム話の方が先に思い浮かんできたので、次回は『いつの間にかAqoursハーレム(3年生編)』になります。



 ちなみに、この小説のAqours編もあと10話前後で完結となる予定です。(完結時期:6月下旬~7月上旬あたり)
最後の追い込みもあって最近は個人回で雰囲気が重めの展開も続きますが、それも最終章へ向けての下準備なので、今は笑うところは笑いながらも千歌たちの心情をしっかりと受け止めてあげてください。




新たに☆10評価をくださった

紫翠@クニマさん

ありがとうございます!

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