ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 サンシャイン編が投稿話数50話を達成したので記念回。とは言ってもメインはAqoursではなく、サブタイの通り楓と高坂姉妹ですが(笑)

 今回は特にテーマはなく、3人がただダラダラとお喋りするだけの回となっております。なのにいつもより文字数が多いのは内緒()


【特別編】楓と高坂姉妹の日常

 

「おはよぉ~……」

「おはよう穂乃果」

「おはよぉ~お母さん」

「おはようございます。鈍臭寝坊助野郎の穂乃果先輩」

「おはよぉ楓ちゃ――――ん? 今なんて言ったの!?」

「おはようございます。鈍臭寝坊助ビッチ野郎の穂乃果先輩」

「絶対にさっきよりも増えてるよね!?」

 

 

 神崎零が内浦へ教育実習に行っている頃のある日、寝起きの穂乃果の目を覚まさせたのは後輩・楓の罵倒だった。いつもこの後輩に馬鹿にされているとはいえ、みすみすこのまま引き下がる穂乃果ではない。彼女に口では勝てないことくらいはここ4年以上のやり取りで分かってはいるが、だからと言ってツッコミをやめたら本当の負けだと思う穂乃果は必死に食らいつく。先輩のプライドと尊厳を守るために。

 

 

「それに穂乃果は女の子だから野郎はおかしいし、そもそもビッチと野郎って本来なら一緒に使われない単語だよね!?」

「不可能を可能にするのが穂乃果先輩でしょ? ほら、雨やめーーーーって」

「いやあれはたまたま偶然だから……」

「いいから早く準備してください。レジ番を1人でやってても暇なんですから」

「急に現実に引き戻すのやめようよ……。ずっと寝てたこっちが悪いんだけどさ」

 

 

 見れば楓は既にエプロン姿に着替えており、現在絶賛店番をしている最中のようだった。居候の身なのに自分のポジションを悠々と奪われていることに関して、もはや穂乃果に思うところはない。彼女のあらゆる能力の高さを考えれば妥当なので、もはや張り合う気も起きなかった。ただ繰り返される罵倒だけはツッコミを入れる、それが彼女の最後の、ちっぽけな、ミジンコのようなプライドだ。

 

 楓は兄の零と2人暮らしだが、生憎彼が教育実習で3週間だけ家を出てしまっている。そうなれば必然的に妹が1人となってしまうので、零は事前に楓を高坂家に居候させてもらえないかと相談をし、無事に了承を得て彼女はここに住んでいる。もちろんタダではなく、高坂家の仕事である和菓子屋を手伝うという条件付きだ。楓も1人で寂しくなるくらいならという理由で高坂家に居候していた。

 

 

「ほら穂乃果、早く顔を洗って支度してきなさい。あなたが寝ている間、楓ちゃんずっと店番をしてくれていたんだから」

「お母さん、本当に楓ちゃん贔屓凄いよね。この2週間の晩御飯も気合入りまくりだし」

「だって楓ちゃんが店番してくれるおかげで店も明るくなるし、ここ最近お客さんの評判も良くなったみたいで売上も上がったのよ。中には楓ちゃん目当てで店に来る人もいるみたいで、この前なんて和菓子が売り切れちゃいそうになったんだから。このままアルバイトとして働いて欲しいくらいだわ」

「そんな凄いことじゃないですよぉ~♪ 普通にやってるだけですから普通に♪」

「その謙虚な可愛さがお客さんを惹きつけるのよきっと!」

「いや、ただ猫被ってるだけ――――うひゃぁあああっ!!」

「どうしたの穂乃果? いきなり大声出して……?」

「な、何でもないよ……アハハ」

 

 

 母に誤魔化しを入れつつも、穂乃果は頬を染めながら楓を睨む。それもそのはず、楓の右手が穂乃果のおしりに当てられていたからだ。自分の発言を止めるとはいえここまで大胆な行動に出た後輩にも驚きだが、それ以前に今もずっと触り続けられているその屈辱に耐えざるを得ない。流石の穂乃果でも女の子におしりを触られて悦ぶ変態ではない。対して楓は何事もなかったかのような爽やかな笑顔で、そして痴漢魔の要領で巧みに触ってくるため穂乃果は声を上げないようにするだけで精一杯だった。

 

 やがて穂乃果の母がレジから去ると、ようやく楓は穂乃果のおしりから手を離した。その時おしりの谷間に軽く指を入れられ、卑しい声を上げてしまいそうになったのは内緒だ。

 

 

「もう楓ちゃん! いきなり何するの!?」

「余計なこと言わなくてもいいんですよ。それとも同性にお尻を触られて興奮しちゃった……とか?」

「してないよ!! 穂乃果、楓ちゃんみたいに変態さんじゃないもん」

「私が変態になるのはお兄ちゃんに対してだけですから。それも一途な愛なので、これほど純真な変態もいませんよ?」

「ビッチと野郎の時も言ったけど、純真と変態は相容れないから!」

「そうやって一見不可能そうなことを見たままで不可能と決め付けるから、穂乃果先輩はずっとおバカキャラなんですよ。もっと広い視野を持ちましょうね」

「バカなのは認めるけど、それを楓ちゃんから言われるとぐぅの音も出ないというか……」

 

 

 2人の歳は2つ離れているが、実際に穂乃果と楓の学力の差は歴然である。高校時代は1年から3年まで全国トップ成績の楓と、全国のビリ争いに駒を置く穂乃果の差。そして大学では同じ講義を受け単位を取ったとしても、トップクラスの成績である『秀』の評価をもらう楓と並程度の合格である『可』の穂乃果の差。成績以外でも頭の回転速度や効率の良さ、生活態度など明らかに穂乃果が楓に勝る点はなかった。

 

 穂乃果は溜息をしながら巾着を着ける。この生意気な後輩とは4年以上も一緒にいる上に、既に2週間のお泊まりによってもはや腐れ縁もいいところである。もちろんマシンガンのように悪口を放つ彼女に幻滅していたらここまでの仲にはなっていないので、穂乃果は何だかんだ言っても楓とこのやり取りを楽しみにしていた。

 そしてそれは楓も同じである。ここまで毒を吐こうが憎まれ口を叩こうが、適当にあしらわず自分と真っ向からお喋りしてくれる存在が嬉しくもあり楽しみでもあった。それに楓は穂乃果の欠点を言葉で惜しみなく突き刺すが、もちろん先輩のいいところもたくさん知っている。4年以上の腐れ縁なので、敢えて今更口に出して伝える方が恥ずかしいのだろう。

 

 

「プッ! 穂乃果先輩の巾着姿、噂には聞いてましたけど給食当番みたいですねぇ……くくっ、笑いが!!」

「あ~あ、言っちゃったね……。この世で一番言ってはいけないことを言っちゃったね。気付いてる? 楓ちゃんはパンドラの箱を開けちゃったんだよ? 穂乃果が世にも恐ろしい呪いを振りかけてあげるよ……」

「残念でした。私に振りかけていいのは、お兄ちゃんのおち○ぽミルクだけですから」

「ちょっと何言ってんの!? ここお店だからレジだから!! お客さん来るから!!」

「今は誰もいないからいいじゃないですか。あぁ~早くお兄ちゃんとエッチしたい」

「だから!! ここレジ!! 店の奥にお母さんもお父さんもいるから!!」

「うるさいですよ先輩。脳震盪を引き起こしたら先輩のせいですから」

「誰のせいだと思って……」

 

 

 寝起きなのに無駄な体力を使わされ、午前中のレジ当番だけでダウンする勢いの穂乃果。楓の淫猥発言は聞きなれているのだが、流石に店の中で放たれると売上に関わる。ここまで穂むらに多大な売上をもたらしてきた楓だが、ここへ来てまさかの裏切りかと懸念する穂乃果の神経は休まることがない。

 

 すると店の奥から、穂乃果と同じ巾着を被った妹の雪穂が店に顔を出した。

 

 

「お姉ちゃん、やっと起きたと思ったらレジで大声出して……仕事場にまで聞こえてたよ」

「雪穂これはね、穂むらを潰そうとする楓ちゃんの巧妙な策略なんだよ」

「あぁ確かに、楓ってそういうの得意そうだもんねぇ」

「大丈夫、雪穂もグルだから」

「えっ!?」

「そんな訳ないでしょ……。お姉ちゃん何でも簡単に信じ込みすぎ」

「だからからかいたくなるんだよねぇ穂乃果先輩は♪」

「年下2人に蔑まれてる!? 一応この中では最年長だよね穂乃果!?」

 

 

 最年長なら年上の威厳をもっと見せつけろよ、と楓と雪穂は心の中で同時にツッコミを入れた。そもそもμ'sには先輩禁止という仲良しごっこ同盟が規約されているので、今更穂乃果を年上と見ろという方が無理な話だ。雪穂にとっては姉であり、楓にとっては腐れ縁の親友みたいな感じなのである。

 ちなみに楓はその同盟を守らず、穂乃果たちに出会った当初からずっと彼女たちを先輩呼びしている。これは生意気な後輩から先輩呼びで弄ばれる恐怖を知って欲しいという、楓のただの悪ふざけだ。しかし穂乃果もみんなも彼女のその呼び方に慣れてしまっているため、今更咎めたりはしない。

 

 

「お姉ちゃんが起きてきたことだし、私は休憩しようかな」

「えっ? まだ午前中だよ?」

「寝坊しておいて、人に時間を迫れる立場なの? 私は元々休みだったのに、お姉ちゃんが寝坊するからこうして駆り出されたんだよ!?」

「それは面目ない。昨日夜遅くまで楓ちゃんとずっとゲームしてから―――――あれ? どうして楓ちゃんはちゃんと起きられてるの!?」

「私ほどのレベルになると、1徹くらいは余裕で起きていられますよ」

「す、凄い!!」

「まあ嘘ですけどね」

「あっ!! また騙したなぁああああああああああ!!」

 

 

 これほど簡単に騙されてくれると、楓も多大なる満足感で満たされ自然と黒い笑みが溢れる。そしてその2人のやり取りを見ていた雪穂は、相変わらずいいコンビだと苦笑した。普段からイキイキとして騒がしい2人だが、周りの空気を和やかにさせてくれることには変わりない。もしかしたらこの2人がいたから穂むらが繁盛しているのかもと、雪穂は巾着を脱ぐ片手間にそう考えていた。

 

 

「それじゃあ私も休憩にしよっと」

「えっ、楓ちゃんまで行っちゃうの!?」

「イっちゃうとか、あまりそんなこと言わない方がいいですよお店ですし。お客さんに聞かれたらどうするんですかぁ?」

「穂乃果の部屋から子供の頃作ったブーメラン持ってきていい? 楓ちゃんに向かって投げちゃっていいよね??」

「…………」

「今さっき穂乃果の発言からえっちな言葉がないか考えてたよね!? もう長い付き合いだから考えてることくらいすぐ分かっちゃうから!!」

「うわぁ、穂乃果先輩ごときに…………」

「ごときに……なに? どうして黙っちゃった――――あっ」

 

 

 突然会話をやめた楓を追求しようとした矢先、穂乃果は自分の後ろから怒りのオーラをプンプン感じた。恐る恐る振り返ってみると、そこには笑顔で(こめ)かみに怒りマークを浮かべている我が母親が仁王立ちで佇んでいた。穂乃果は事の概要を一瞬で把握すると、頬に一筋の冷汗が流れる。

 

 

「穂乃果……ただでさえ寝坊してるのに、厨房に聞こえるまで大声を出して遊んでるってどういうことかしら……?」

「い、いやこれは楓ちゃんが穂乃果をネチネチ突っついてくるからいけないのであって……」

「そんな訳ないでしょ、こんなにいい子なのに……ねぇ?」

「ですよねぇ!! 私は慣れないレジバイトを頑張っているというのに、穂乃果先輩が邪魔をしてくるばっかりに……」

「だから、仮面被るのやめよう――――うびゃぁああああああっ!!」

「穂乃果?」

「な、なんでもないよなんでも!! 寝坊した分、きっちりレジ番するから……アハハ」

 

 

 穂乃果は母が店の奥に去っていくのを見届けると、またしても涙目+鋭い目付きで楓を睨みつける。寝起きの時と同じく、楓は自分の言葉を遮るためにおしりを揉んでいた。しかも今回は5本の指を触手のように動かし、明らかに自分に淫靡な声を上げさせるつもりだと悟った。同性に痴漢され屈辱に塗れながらも、穂乃果は口を抑えて必死に耐え抜く。

 

 

「あ~あ、触っただけでおしりがこんなに広がっちゃうなんて、さぞお兄ちゃんに開発されたんだろうなぁ~」

「そ、そこはされてないよ!!」

「ん~? 今そこはって言いましたぁ? じゃあどこが開発されてるのかなぁ♪」

「あっ……また嵌めたなぁ!!」

「ハメるとかやめてくださいよぉ~。穂むらが卑しいお店に見えちゃいますよぉ?」

「万が一そうなったら、楓ちゃんに全責任を負ってもらうからね!!」

「えぇ~他の男と寝るなんて死んでも無理です」

「どうしてそういう発想にしかならないかなぁ!?」

 

 

 実はμ'sの中では穂乃果も楓と同じ部類なのだが、近親相姦願望持ちの彼女とのレベル差は明らかに歴然である。だからこうしてツッコミを入れるばかりで、自分からそのような発言をしようと思ってもできないのだ。ただ穂乃果はことりや楓のように計算高くはないため、元から狙って低俗発言をしている訳ではない。その点は楓と比べればまだマシな方だが、『どうしてそういう発想にしかならない』というのは完全にブーメランなことに彼女は気づく由もなかった。今まで零のパンツを盗んだりディルドをやり取りしていた少女とは到底思えない発言だ。

 

 

「店の中で何やってんだか……。プリンでも食べよ」

「プリン!? 雪穂、それどうしたの!?」

「お母さんが休憩中のおやつに食べなさいって渡してきたの」

「それじゃあ今からおやつタイムだね。私もちょうど休憩の時間だし」

「いやぁ和菓子の囲まれながらのプリンって最高に贅沢だねぇ~。穂乃果、自然とテンションも上がっちゃうよ♪」

「穂乃果先輩、極めて重要なことを見落としてますよ?」

「えっ? プリンを嗜むことが最優先なのに、それ以上に重要なことなんて――――」

「いやいや、お姉ちゃんは今からレジ番でしょ? 休憩じゃないじゃん」

「あっ……!!」

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

「ねぇ~雪穂ぉ~楓ちゃ~ん……」

「うんっ、美味しい! やっぱり美味しいプリンはカラメルの甘さが違うね」

「お姉ちゃんじゃないけど、久々におやつに洋菓子を食べられて感動しちゃってるよ私」

「流石にそれは大袈裟でしょ……」

「楓が思っている以上に和菓子屋の娘は過酷な人生なんだよ。洋菓子や洋食が憧れすぎて、普通のファミレスでも喜んじゃうくらいだもん。だからこうしておやつでプリンを食べられるだけでも感動なの」

「想像以上に苦労してた……。まあそんな逸話がなくても、単純に美味しいと思うけどねこれ」

「ちょっと!! 何も穂乃果がレジをやっている前で食べなくてもいいじゃん!! 穂乃果への当て付けなのそうなんだよね!?」

 

 

 楓と雪穂はレジの傍、店の中の飲食スペースを陣取ってプリンを食べていた。実は今日は平日で客足もほとんどないため、大学の講義がない彼女たちがのんびりするのには最適な空間なのだ。満足にのんびり出来ていない者が1人いることはさて置き……。

 

 穂乃果はレジからスプーンで突っつかれプルンと揺れるプリンを見つめ、その艶と魅惑からもう喉から手が出そうなくらいにまで飢えていた。雪穂以上に和菓子屋という呪縛に捕われている期間が長い彼女は、まるで女性の艶やかな太ももを視姦するエロオヤジのような熱い視線をプリンに送っている。

 

 

「そんなアイドルオタクみたいな熱狂的な目線を向けたら、プリンが照れちゃいますよ」

「むしろもっと熟して美味しくなるから!! 零君が言ってたよ。女の子に出会ってすぐ襲うより、少し仲が進展して相手の心が熟し始めた頃が一番美味しいって」

「いやプリンは熟しちゃダメでしょ……。冷えてるから美味しいのに」

「まあ先輩がどれだけ物欲しそうな目をしても、レジ番という呪縛からは逃れられないので仕方ないですね。一歩でもレジから動いたら即座に通報しますので」

「今まで生きてきた中で、ここまでレジ番を憎く思ったことはないよ……」

 

 

 穂乃果はレジの机に肘を付き不貞腐れる。目の前で生意気な後輩と妹が自分に見せつけるかのようにゆっくりプリンを食べているので、楓に馬鹿にされている時よりもフラストレーションの溜まりが半端ではない。彼女はお菓子のことになれば多大な執着を見せ、ことりが自作のお菓子を学校に持ってきたら、その匂いだけでどんなお菓子を作ってきたのか分かる犬並の嗅覚を持ち合わせている。それほどまでに和菓子以外のお菓子やスイーツには敏感で、そして大好物なのである。したがって自分だけ好物にありつけず、目の前で我先にプリンを堪能している後輩と妹を見るのは穂乃果にとって生き地獄なのだ。

 

 

「あぁ~久々に穂乃果キレちゃおっかなぁ!! 普段は仏の穂乃果って言われてるけど怒ったら凄いんだから!! 世界中のお菓子やスイーツを全部食べ尽くしちゃうくらいにね!!」

「やることが可愛すぎですよ、先輩」

「でも実際に困るでしょ? 世界中からお菓子が消えて一生食べられなくなったら」

「そんなことをしたらまた太って、海未ちゃんに叱られるよ?」

「いきなり現実的なこと言わないでよ。ようやくプリンのためにレジ番頑張ろうと思ってたのに、一気に冷めちゃったじゃん……」

 

 

 お菓子の食べ過ぎで体重が増え、海未に食事管理をされる生活は大学生になった今でも続いていた。しかも既にスクールアイドルをやめているのにも関わらずである。一度やり始めたら最後までとことんやり抜く海未の性格上、穂乃果は定期的に体重計に乗せられているのだ。しかしその"最後"というのがいつになるのか全く先が見えないので、ことりに励まされつつも穂乃果は自分の人生の一端を諦めようとしていた。親友に捧げる人生と言えば聞こえはいいが……。

 

 

「こうして食事をしていると、お兄ちゃん毎食しっかり食べてるかなぁっていつも心配になるよ」

「秋葉さんが炊事をしてるんでしょ? それに楓、自分の料理スキルを秋葉さんに叩き込んだって言ってたじゃん。それでも心配なの?」

「だってあのお姉ちゃんだよ? 作る料理に何を入れてるのか分かったものじゃないよ」

「まぁ確かに……。でも零君からそんな連絡はないんでしょ?」

「それが子犬にされたとか何とか言ってた……」

「あぁ、いつものことで逆に安心できるよねそれ……」

 

 

 これまで零とμ'sを陥れた秋葉の所業を考えれば、同棲している時点で彼の命が危険と隣り合わせなのは火を見るよりも明らかだった。そもそも自分の弟ですら実験の被検体に利用するくらいのマッドサイエンティストと一緒に暮らしていて、この2週間大した事件が起こらなかったのは単純に凄い。ある意味で奇跡だが、普通の日常を奇跡と呼んでいる時点で彼の人生は常に前途多難なのがお分かりいただけるだろう。

 

 

「まああのAqoursとかいう連中と仲良くやってるみたいだし、ちょっとくらいお姉ちゃんの犠牲になってもいいんじゃない。幸福度的にはそれで釣り合いが取れるよ」

「連中って、零君と仲がいいだけでそこまで目の敵にしなくても……」

「雪穂は知らないんだよ、あの子たちがどれだけ雌になっているかがね。私は浦の星に行った時に全て察したよ。あの学校、お兄ちゃんに支配されてるって」

「そんな大袈裟な……」

「絶対にそう。もう女子生徒たちの目がね、お兄ちゃんにしか向いていなかったの。そしてその中で一際熱い視線を送っていたのはAqoursのメンバーだったんだよ。しかも既に少々エッチなことはしてるみたいな雰囲気だったし」

「えぇ、でも楓があっちに行ったのはつい最近でしょ? つまり零君とAqoursのみんなが出会って2週間しか経ってないのに、もうそんな変な関係になるかなぁ――――って、よく考えてみたらなりそう……」

「雪穂もお兄ちゃんの手際の良さは知ってるよね。正直な話、お兄ちゃんなら2週間とは言わず1日あれば女の子を篭絡できる能力があるよ。いや、1日どころか一目惚れさせられるかも……」

 

 

 昼ドラの姑と化している楓は、持ち前の観察力で兄の能力とその能力によって堕とされた浦の星について語る。特にAqoursの2年生組に関しては自分で探りを入れたので事実もまかり通っていた。

 

 そしてレジから2人の会話を耳に挟んでいた穂乃果が口を挟む。

 

 

「でもAqoursのみんな可愛いから、零君がお熱になるのも仕方ないよ。いつか東京に来てくれたら、千歌ちゃん以外ともお友達になりたいなぁ」

「そんな呑気でいいんですか先輩。もしお兄ちゃんがAqours全員を恋人にして帰ってきたとしたら、それこそ私たちが愛してもらう時間がなくなっちゃいますよ」

「ただでさえ12人もいるのに、それ以上なんて――――あぁ、零君ならありえるかも」

「でしょ? お兄ちゃんは謂わばハーレムの王ですよ。誰も悲しませず、女の子たち同士の関係も良好に築き保ち続けるスキル持ち。そんな絶対的な王が、自分に愛を向けるAqoursの子たちを放っておくと思います?」

「連れて帰ってくるのは別としても、恋人一歩手前くらいまでは進展しそうだね……」

 

 

 自分たちの彼氏は所構わず女の子にフラグを立て、しかもそのフラグをしっかり回収する責任感まで持ち合わせている。そのせいで少しでも彼と関係を持ってしまったら最後、ガッチリと心を掴まれ恋に落とされるのを覚悟した方がいいと穂乃果たちは結論付けていた。女心を決して無下に扱わず真摯に向き合うその態度は嬉しく思っているが、そのせいで高校でも大学でも恋人まではいかないが彼と親しくなった女の子はたくさんいる。そう考えるとAqoursの子たちが彼の毒牙に掛かって堕とされていないか、むしろ零より彼女たちの方が心配になってくるくらいだ。

 

 しかし、穂乃果たちは知らないが実際のところ千歌たちは見事に零に心を掴まれており、現在絶賛個々のメンバーが零にアプローチを仕掛けている最中である。μ'sを手に入れているのにも関わらずAqoursまで手に入れようとする貪欲さを見習うべきなのか、それともただのハーレム野郎と呆れるのかは人それぞれだろう。

 

 

「あっ、重要なことに気付いっちゃった……。もし仮にですよ? お兄ちゃんがAqoursの子たちを連れて帰ってきたら、それだけエッチの時間も減っちゃうってことです!! 雪穂も困るでしょ?」

「いや別に私はそんな――――」

「うん、一大事かも」

「お姉ちゃんまで!?」

「だってさ雪穂、考えてもみなよ。私たちは12人だからお兄ちゃんとのエッチが12日ごとのサイクルだとすると、ほぼ2週間に1回しか自分の番が回ってこないんだよ? そこにAqoursが入ってきたら、21日のサイクルで3週間に1回しかお兄ちゃんとエッチできなくなるじゃん!! そんなことになったら欲求不満で私たち死んじゃうよ!?」

「そもそも実際にそのサイクルでやってないから大丈夫でしょ……」

 

 

 ご奉仕担当のサイクルが12人の時点でツッコミどころは満載だが、それが21人ともなれば圧巻で息苦しいと彼女たちは感じていた。サイクルの周期を考えると、月の初めに彼と交わらない限りはほぼ月1でしか夜を共にできない計算となる。ただでさえ性欲の強い穂乃果と楓にとっては12人のサイクルですら耐え難いのに、21人もなったら性欲が爆発して零を逆レイプすることは目に見えていた。だが雪穂の言っていた通り、実際にはそんなサイクルすら存在していないので心配も杞憂に終わりそうではあるが……。

 

 

「そこまで冷静でいられるってことは、雪穂は今の状態でも満足してるってことだよね」

「ま、満足しているかと言われたら……それはしてるよ」

「そう言えばさぁ、零君と雪穂ってどんなエッチしてるの? 悪いようにはしないから、親友の私に教えてくれない?」

「都合のいい時だけ親友を強調しても無駄だから!! それにその悪魔みたいな笑顔、絶対に悪いようにしかしないじゃん!!」

「それじゃあお姉ちゃんだけに教えて? 普段はクールぶってるけどベッドの上では案外ノリノリだとか、1から10までリードされるのが好きだとか、奴隷のように振舞われるのが好きだとか……」

「どれも違うよ普通だよ普通!! …………あっ!!」

 

 

 この瞬間、雪穂は悟った。まさかおバカな姉に発言を誘導されるとは一生の不覚だと……。

 顔を真っ赤にして"普通"と告白した雪穂に対し、穂乃果と楓は口角を上げてニヤケている。いくらプレイの内容が普通であっても、自らの性技のスタイルを暴露してしまったことには変わりない。雪穂は自らの夜の性癖を明かしてしまったことで、自分の顔が蒸気を吹き出すくらい熱くなっていくのが分かった。自分では口が堅い方だと思っていたのだが、穂乃果と楓の連携プレーにより羞恥心が乱れに乱れていた。

 

 

「いやぁゴメンね雪穂♪ 私もそんなつもりじゃなかったんだけどさぁ~♪」

「だったらその嬉しそうな口調はなに!? 顔もさっきからずっと笑顔だし!!」

「雪穂もあっさり騙されやすい性格なんだね♪ あれ、それって穂乃果と同じじゃない?」

「お姉ちゃんと一緒の性格だなんて絶対にヤダ。人生やり直すレベルだよ」

「まぁまぁ、エッチのスタイルがバレたところで誰も咎めないって! むしろお姉ちゃんとして、妹が健全に育ってくれたことが嬉しいよ♪」

「だったらどうして笑いそうになってるの!?!?」

 

 

 楓はいつもどおりの煽りで、穂乃果はこれまでの報復を兼ねての攻撃に雪穂のツッコミ体制も万全となっていた。普段のクールっぷりはどこへやらだが、一度心を掻き乱されると羞恥を表情に出しながら自然と声を荒げてしまうのが雪穂の可愛いところでもある。もちろんそうなればいつもの冷静な判断ができなくなり、姉譲りの突発的な行動にも出ちゃう訳で――――

 

 

「いいもん、もうお姉ちゃんのプリン食べちゃうからね!!」

「あ゛ぁあああああああああああああっ!! 人の嫌がることをしちゃいけないって習わなかったの!? 雪穂には人間の心ってものがないの!?」

「どの口が言ってんの!? 胸に手を当てて考えてみなよ!!」

「胸に手を当てても雪穂より大きいおっぱいしかないよ!!」

「うっ、わ、私はまだこれからだから!!」

 

 

 仲睦まじい姉妹喧嘩が勃発したが、これがいつもの日常なので楓も今更止めることはしない。それどころかのほほんとしながら残ったプリンを食していた。

 

 

「うん、相変わらず平和だ」

「「どこが!?」」

「うん、やっぱり似てるよ2人共♪」

 

 

 3週間とはいえお兄ちゃんと離れて生活するのは苦行だと思っていたが、たまにはこんな生活も悪くないと自然に笑みが溢れる楓であった。

 




 μ'sの中でカップリングは数あれど、私は穂乃果と楓の掛け合いが一番執筆しやすかったりします。μ's編や超短編小説でもコンビを組むことがあっただけ、4年後の今でも仲の良さは健在でした!

 そして久々に雪穂の可愛い姿を描写できたのが、今回私が一番満足している場面です(笑)



 次回はダイヤお姉ちゃんの個人回です!




新たに☆10評価をくださった

カットさん

ありがとうございます!

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