ラブライブ!~蓮ノ空との新たなる日常~   作:薮椿

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 今回はダイヤさん回です!
 そして彼にもしっかりと見せ場があったり……


ジェラシー・ダイヤモンド

 こんなことが起こったのはつい最近なのだが、Aqoursの子たちからやたら連絡が来る。連絡と言っても業務連絡ではなく、普通に日常的な会話や雑談が大半を占めていた。ただでさえμ'sのみんなからも連絡が来るのに彼女たちからもメッセージが飛んでくると返信が大変なのだが、でもそれだけ俺のことを心から許している存在だということなので嬉しくはある。千歌や曜からのメッセージは今に始まったことではないが、あのルビィや果南までが雑談を仕掛けてくるのは正直驚いた。2人共積極的になるとは言っていたけど、まさかここまでとはねぇ……。

 

 だがルビィや果南が進展を見せる中、Aqoursで唯一1人だけそのような関係になっていない子がいる。そして俺は今まさしくその彼女と会う予定なのだが、時間帯は何故か夜。しかも浦の星女学院の校門前で待ち合わせという、一種の肝試しに強制参加させられている気分だ。数十分前にいきなり電話を掛けて来て校門前に来いだなんて、不良がパシリをパシらせるかのごとく強引で無茶な要求だった。

 

 夜の呼び出しと言えば鞠莉の件が記憶に新しいが、あのダイヤが鞠莉と同じ目的とは到底思えない。そもそも他のみんなと比べてフラグというフラグが立っているのかすらも疑問だ。Aqoursの中でも屈指のツンデレだってことは把握しているため、もしかしたらツンツンし過ぎて旗を隠しているのかもしれない。まあ夜の学校に呼び出す時点で、まともな用事でないことは確かだろう。

 

 そんなことを考えながら学院前に到着すると、既にダイヤが校門の石柱に背中を預けて待っていた。

 

 

「よぉ、もう来てたのか」

「ひっ……!!」

「自分から呼び出しておいて、そこまで驚くことはねぇだろ」

「よ、夜道で突然声を掛けられれば誰でも驚きますわ!!」

「一応言っておくけど、不審者じゃないからな。それにあまり大声を出さないでくれ。誰もいないとは思うが誰かいたら事案だからさ……」

 

 

 ダイヤはどこか焦っている様子で、俺と会話をしている最中もそわそわと周りを気にしている。よほど誰かに見つかりたくない秘密のお誘いごとなのか。そう考えると夜のホテルならぬ夜の学校も同様にアダルティなイメージが沸き立つので、これまで一部のAqoursメンバーに奉仕してもらった過去を踏まえるとそのような展開も……あったり? だがさっきも言ったが、あのダイヤが男を誘って自らそのような淫行に手を染めるとも思えない。だったらどうして焦ってんだコイツ……?

 

 

「なぁ、どうして俺は呼び出されたんだ? ここまで来て理由次第で帰ることはないから教えてくれよ」

「それは……。生徒会室の扉に鍵を掛けるのを忘れてしまっただけです……」

「はぁ!? そんなことで俺を呼び出したのかよ!?」

「そ、そんなことと簡単に片付けられるものではありません!! 生徒会室には学外には持ち出せない重要な書類もありますので、鍵を掛け忘れたとなれば生徒会長の名誉に関わります!!」

「つまり俺は、お前の威厳と名声を守るためにこんな深夜に呼び出されたって訳ね」

「言い方に悪意はありますが、概要はそんな感じですわ……」

 

 

 これまた迷惑な事情に巻き込まれたものだ。確かにその理由だったら、連絡してきた時点では言うことできないわな。俺の性格上、面倒事は避けるとダイヤも分かっているはずだから。

 

 

「でもお前って名誉とか気にしないタチだと思ってたけど、案外誇りにしてたのか。わざわざ夜の学院に忍び込もうってくらいなんだから」

「そ、それは……あのエリーチカのような由緒正しき生徒会長ですから!!」

「あぁ、アイツは真面目で威厳もあったいい生徒会長だったよ。生徒会長としてはな……」

「どういう意味です?」

「お前が知る必要もないことだ。ていうか絶対に知らない方がいい」

 

 

 俺が高校2年生の夏頃までは、絵里の威厳が最高潮に達していた。誰も寄せ付けないアイスエイジで、デレすら一切ないクーツン属性を具現化したような存在だ。一悶着あってμ'sに加入した後は態度が軟化したが、それでもグループ内で頼りになるお姉さんポジションを確立するくらいだった。

 だが、そのアイスエイジの氷は徐々に溶け始めることになる。秋くらいからその片鱗を見せ始め、グループに馴染んでいた影響でハメを外すようになったのか、本来の性格である抜けっぽさが前面に押し出されてきた。そこから次第に溶けていない部分の氷も割れ始め今では――――ここからもう語る必要はあるまい。そして絵里に憧れを抱くダイヤに、この黒歴史を伝えるのはあまりにも酷だろう。

 

 それに今は絵里のことよりも、ダイヤの用事をとっとと終わらせて帰ることに専念するか。

 

 

「とりあえず行こう。どうやって施錠された校門を通るかは考えないといけないけど」

「よじ登って超えていけばいいでしょう」

「意外とアグレッシブなんだなお前……。お前がいいならそれでいいけどさぁ」

「これでも決死の覚悟なのです! さぁ行きましょう!」

「決死って、命を賭けるほど生徒会長の名誉が欲しいのかよ……」

「そ、そうですけどなにか!?!?」

「そこまで怒らなくても……。わかったわかった、協力してやるから」

 

 

 どうしてそこまで取り乱しているのかは分からないが、ここで騒いでいても目的は達成できない。とにかく学院に忍び込むため、先に俺が校門を乗り越え、続いて俺に手を引かれながらダイヤも乗り越えた。堅物な真面目ちゃんだと思っていたが、夜の学校に潜入したり強行突破したりとやんちゃな面もあるとは。今晩だけでもダイヤの新しい一面をたくさん見られている気がするぞ。見られていい性格と聞かれれば微妙だけど……。

 

 

 

 

~※~

 

 

 

 

 まんまと深夜の学院に侵入した俺たちは、下駄箱で上履きに履き替えて生徒会室へと向かう。ちなみに校舎内への潜入は、ダイヤが鍵の開いていた窓を見つけたのでそこから入らせてもらった。彼女曰く、この学院は地方がゆえ過去に不審者が入り込んだことはないらしく、そのせいでセキュリティが杜撰だと言う。だからといってここまで管理がガバガバなのは女子高としてどうなんだ……。

 

 そして、そのセキュリティホールを突いて堂々と侵入を工作するダイヤもダイヤだ。ただでさえ夜の学院に忍び込むだけでもアクティブなのに、ここの警備員の管理の甘さすらも考慮に入れているとは計算高いのかずる賢いのか。そういやAqoursの合宿など、イベント行事は彼女の提案だった。それを踏まえれば彼女が行動派の理由も分かる気がする。

 

 

「それにしても、夜の廊下ってのも風情があるよな。いつも見てる場所とはまた違う、パラレルワールドみたいだ」

「そ、そんなことを言わないでください! 私はいつもの学院だと思い込ませているのですから!!」

「思い込ませてって誰に? 自分に?」

「それ以外に誰がいますの……」

「はぁ~なるほどな。怖いのか、お前」

「ぐっ……!!」

 

 

 ダイヤは自然だったかもしれないが、校舎に入り込んだ時から俺の服の裾を摘みながら歩いていた。その何気ない仕草を見てもしかしてとは思っていたが、まさか本当にビビってたとは。地味に身体を震わせながら、俺に自分の心が読まれギョッとしている表情を見れば丸分かりだ。

 

 

「暗いところが怖いって、まさに絵里と一緒じゃねぇか」

「そんなところが同じでも素直に喜べないと言いますか……」

「でもお前、お化け騒動で深夜の裏山に登った時は普通だったじゃん。どうして今日に限ってビビってんだ? ホラー番組でも見たのか?」

「怖い話を聞いてトイレに行けなくなる子供ではないのですが……。それにあの時は周りに皆さんがいてくれたから耐えられたのであって、今回は本来1人だったので……」

「だから俺を無理矢理召喚したのか」

 

 

 生徒会室の扉の鍵を掛けるだけなら、わざわざ俺を連れ出す必要はない。むしろ自分の犯したミスを俺に知られてしまうことになるのでマイナスにしか働かなかったはずだ。だがそのリスクを被ってまで俺を呼び出したということは、やはりそれだけ生徒会長としての誇りを保ちたいのだろうか。そこまでして自分の名声に拘る子だとは思えないんだけどなぁ……。もしかしたらだけど、まだ別の理由があるのかもしれない。

 

 それにしてもダイヤの奴、やけにくっついてくるんだけど……気にしたら負け? どうせ言及してもいつものツンデレセリフを飛ばされるだけで、まともな返答が来るとは思えない。下手に騒いで足を止めてしまうよりも、女の子に密着されている状況を堪能するべきかも。

 

 まあ、気になるから聞いちゃうんですけどね!

 

 

「怖いのは分かるけど、そこまで引っ付かれると歩きづらいんだが……」

「し、仕方ないではありませんか!! 怖いのですから……」

「素直に理由を吐いてくれたことには感謝するけど、怖いんだったら明日の朝に来て鍵を閉めれば良かったんじゃねぇの? 先生もあまり来ていない朝の早い時間にさ」

「警備員さんや用務員さんは先生たちよりも早く来るので、それでもし生徒会室の鍵が開いていると知られたら終わりではないですか」

「確かにな。そもそも施錠を生徒に一任する学院の方針もどうかと思うけど」

 

 

 田舎の学校だと馬鹿にするつもりは毛頭ないのだが、こういった管理の緩さは地方独特だろう。創立以来目立った事件が起きていないなら、そりゃ気付かぬ間に杜撰にもなっていくわな。真面目な話をするなら、人件費を削減できる点で必ずしもマイナス面ばかりではないが、今はそんなことを長々と語っても仕方ないのでこの話題はここらで終わっておこう。

 

 しばらくの間、ダイヤに裾を摘まれながらもゆっくりと廊下を進んでいく。

 そして遂に、目的地である生徒会室の前へと辿り着いた。そこで俺はダイヤに鍵を掛けるよう促すが、彼女は俯いたまま動かない。ここで扉を施錠するだけで後は帰宅だけ、つまり彼女にとっても怖い場所から抜け出せるのだ。それなのに俺の服の裾を掴んだまま、鍵を取り出す様子もなくその場で佇んでいた。

 

 彼女の考えがよく分からないながらも、俺は何の気なしに生徒会室の扉の取っ手を持ってみる。すると、そこそこ力を入れたのにも関わらず扉はビクとも動かなかった。

 

 

「おいダイヤどういうことだ? どこからどう見ても鍵が掛かってるぞ?」

「…………」

「ダイヤ……?」

 

 

 今回のミッションは生徒会室の扉を施錠することだったはずだ。だけど既にミッションはコンプリートされており、もしかしたらいつもは怠慢な警備員が今日に限って本気を出したのかもしれない。そう思っていたが、ダイヤは申し訳なさそうな顔をしていて落ち着きがない。その様子から察するに、事前にこの展開に陥ることを知っていたかのようだ。

 

 しばしの沈黙。やがてダイヤは恐る恐る小さく口を開いた。

 

 

「申し訳ありません。騙すような真似をしてしまって……」

「やっぱり知ってたのか、元々扉の鍵が掛かっていること」

「はい……」

 

 

 そもそも生徒会室の扉に鍵を掛けたいから俺を呼び出すって、その時点でおかしいとは思っていた。それにダイヤは自分の名誉を掲げて威厳を振りまく性格ではないので、いくら責任感が強いと言っても夜の学校に忍び込んでまで払拭するようなミスではないはずだ。そう疑問に思って暗闇の廊下を歩いていたのだが、やはり予想通りだったか。

 

 

「でもどうしてこんなことを? わざわざ嘘を付いてまで呼び出さなくても、普通に電話なり何なりで言ってくれればいいだろ?」

「それは……し、失礼します!!」

「お前なにを――――ちょっ、うわっ!?」

 

 

 ダイヤは俺の身体を180度回転させ、間髪入れずに両肩を掴み扉に押し付ける。女の子がこのような突発的な行動に出る理由、そしてこの光景は今までに何度も見てきた。なるほど、彼女の本当の目的はこっちだったってことね。思い出してみれば、最初はこの暗い校舎を怖がっていたダイヤだが、廊下を黙々と歩いている時は至って普通だった。つまり怖がってたから声が震えていたのではなく、この展開を見据えて緊張していたってことだ。

 

 突然女の子に襲われる展開は幾度となく経験しているのだが、決して慣れることはない。毎回別の女の子という女垂らし展開ということもあるが、今回はAqoursの中でも一番誠実で堅実なダイヤが相手なのだ。だからそんな彼女に夜の学校でいきなり壁ドンされたら、誰でも取り乱しちゃうだろ普通は。

 

 月明かりも差し込まない暗闇の中で、お互いにじっと見つめ合う。近くにいるはずなのに暗すぎてダイヤの表情が微妙に伺いにくいが、多分この状況も自分の緊張を悟られにくくするように彼女が狙ったことだろう。つまりここまでの展開もシチュエーションも彼女の狙い通りだってことか。

 

 壁ドンされながら黙って見つめ合っていた俺たちだが、ここで止まっていた時が動き出す。ダイヤは肩に当てている手に力をいれ、俺の背中を扉伝いに滑らせそのまま廊下に座らせる。そして彼女自身もその場で身を屈ませて、また俺の肩に手を当て徐々にこちらへと接近してきた。ダイヤとここまで顔を近付けるのは初めてだが、これまでの一連の流れを見るに彼女は初めてだとは思えない手練だ。男付き合いなんて皆無だったダイヤが、ここまで見事なシチュエーションを作り上げるなんて想像もしていなかった。

 

 そしてお互いの顔が更に近付き、とうとう暗闇の中でもダイヤの表情が認識できる距離まで詰め寄られてしまった。

 そこで分かったのだが、先程の俺の予想は大きく外れていた。男を扱いの手練だと思っていたが、彼女の顔を見てみると目がうっすらと潤いを帯びており、頬を紅く染め、口元も緩んで何かを我慢しているような感じだ。俺の肩を掴む手も小刻みに震えていることが分かった。

 

 その直後、ダイヤは震える手で俺の肩をギュッと強く握る。

 

 

「や、やっぱり無理ですぅうううううううううううううううううううううううううっ!!」

「はぁ……?」

 

 

 叫び声も束の間、ダイヤは両手で自分の顔を覆って表情を隠してしまった。その反応を見る限りどうやら相当羞恥心にムチを打っていたらしいが、とうとう我慢の限界が来てしまったらしい。ご丁寧に俺の前で正座で座り込みながら、さっきまでの淫靡なムードを全てブチ壊す嘆き声を上げる。

 

 

「先生の顔が……顔があれほど近くに……!!」

「恥ずかしいならどうしてこんなことを仕組んだんだよ。お前にはハードルが高いって、自分でも分かってるはずだろ?」

「しかし、皆さんが先生と仲がいいのを見て、私も置いていかれないようにと思いまして……」

「気持ちは分かるけど、だからって無茶しなくても」

「焦ってしまいますよ。先日先生とお泊まりした時に、鞠莉さんと果南さんが先生とただならぬ関係だということは察しがつきましたから」

「え゛っ……!?」

 

 

 ただならぬ関係って、つまり俺が鞠莉や果南にご奉仕された事実をダイヤは知ってるってことか!? 確かに彼女の家に泊まった時にバレそうにはなったが、あの時のダイヤはアルコール入りのチョコを食って盛大に酔っ払っていたはずだ。しかし彼女の記憶にはしっかりこびり付いていたようで、だからこうした突発的な行動に出たのだろう。俺としては社外秘並の秘密が何故バレたのかが気がかりでならないのだが、恐らく酔っ払った鞠莉の影響だと思われる。余計な爪痕を残しやがってアイツぅううううううううう!!

 

 

「本当なのですか……? 鞠莉さんや果南さんとその、交わられたというのは……」

「そこまでバレてるんだったら隠す必要もないか」

「やはり……そうでしたか」

「交わったというのは語弊があるな。向こうから奉仕してくれただけだよ。こっちからは一切手を出してないし、大切な純潔を奪ったりもしていない」

「そう、ですか……てっきりもう男女の関係になられているのかと」

「肝心なところで手を出さない、それが俺のせめてもの責任だから。まあ相手の好意を受け入れて身を任せている時点で、言えたセリフじゃないかもしれないけど」

 

 

 真っ暗な廊下に座り込んで男女の営みの話をしているこの光景はシュールだが、ダイヤにとってはよほど重要なことのようで、俺と鞠莉、果南が交わっていないと知った時はどこかホッとした表情を浮かべていた。しかしダイヤは低俗な行為を嫌っているはずで、この2週間で幾度となく俺を叱りつけている。それほどまでに純真な彼女が生徒のご奉仕を受け入れる俺を叱らず、逆に安心するなんてどのような心境の変化があったのだろうか。

 

 

「なあダイヤ、どうしてこんなことを?」

「…………私の知らない間に先生と皆さんの関係が進んでしまっていることに、大きな危機感を抱いていたのです。酔った鞠莉さんが先生をホテルに連れ込んだ話を聞いて、そして果南さんも意味ありげに恥ずかしがっていたので……。鞠莉さんはともかく、果南さんがあそこまで女々しくなるのは先生絡みの時だけですから」

「焦り……ね。それにしても、かなり察しがいいんだなお前って」

「分かりますよそれくらい。最近ルビィが先生に懐くようになったことも知ってますから」

「マジかよ。周りには悟られないようにしてるつもりだったけど、バレる時はやっぱバレちゃうか」

「他の方がどうかは分かりませんが、少なくとも私はここ1週間で皆さんの雰囲気が大きく変わったことは目に見えて明らかだと思っています。だからこそ焦ってしまって、このような強行手段に出てしまったのですが……」

 

 

 その強硬手段から鞠莉や果南みたいなご奉仕活動に勤しもうと思ったが、緊張と羞恥に苛まれて行動に移せなかったのが真相か。本来なら男に触れることすら躊躇うダイヤが、この俺と2人きりのシチュエーションを作っただけでも相当勇気のある行動だと思うけどね。だが本人はそれで満足しておらず、Aqoursのみんなが自分よりも先に進んでいると信じ込んでならないらしい。全く早とちりと言うか、勘違いして先走っちゃうのはどこぞの生徒会長と全く同じだな。

 

 

「気になることは色々あるけど、1つだけ。俺のこと、許してくれたんだな」

「許す……とは?」

「だってお前、正直俺のこと嫌ってただろ? 特に俺が教育実習生として浦の星に着任した時、明らかに敵意を剥き出しにしてたじゃねぇか」

「あの時は先生がいきなり生徒たちに猥褻な行為をするからいけないのです!! それに目を見張る行動はあれど、それと同じくらいに私たちを大切に思ってくれている、その気持ちが伝わってきますから」

「ほぅ……」

「な、なんですかその珍しそうなモノを見る目は!?」

「いやまさしくその通りだよ。お前がここまでデレてくれるとは思ってなかったからさ」

「それはただ……心境の変化ですわ。お化け騒動のような特別な出来事もあったり、普段から一緒にいて楽しい存在として、私の中での先生の認識が大きくなりましたから。でも私は知っての通り面倒な性格なので、中々素直にはなれませんけど……」

 

 

 俺のことは気になる存在ではあった。だけど自分の不器用な性格が邪魔をして、思うように好意を伝えられなかったということか。しかもその間にAqoursのみんながみるみる俺に急接近をして、更に親友の鞠莉や果南が俺と微弱ながらの肉体関係を持っていることを知ったから焦りがより沸騰してしまったんだ。自分だけ想いを伝えられず、同じく不器用な善子や果南ですら俺との仲をどんどん進展させているんだから。そりゃあダイヤじゃなくても焦るよ。

 

 

「でも嬉しいよ、俺のことを好きでいてくれたなんて」

「す、好き!? そ、そんな直球な……!? 間違いではありませんが、まだそこまでの関係には至ってないと言いますか……あぁ、あぁぁぁ……!!」

「動揺しすぎだろ……。まあ女の子の可愛い姿を見られるのは悪くないけどな」

「か、かわっ……!! あなたはまたそうやって人を弄んで!!」

「弄んではねぇよ。からかってるだけさ」

「一緒です!! 全く、女心を心得ているんだかそうでないのだか……」

 

 

 そう言われてみれば、俺としてもどっちなのか未だに分かってない気がする。女の子の恋心に敏感になったのはAqoursとの関係で明らかだけど、恋心以外のことに関してはデリカシーに欠ける部分も多い。たくさんの女の子に囲まれた生活が長すぎて、女心とかいちいち考えなくなったのが一番の要因だろう。だからハーレム野郎だけど鈍感って言われ続けるんだろうなぁ……。

 

 そしてこの一連の会話で、緊張で張り詰めていたダイヤの雰囲気が少し緩んでいた。ツンデレは弄べば弄ぶほどいい表情をしてくれるし、乱れた心を治すのにはうってつけの方法だったりする。一応これ、長年女の子に囲まれてきた俺の経験談ね。

 

 

「お前は鞠莉や果南、Aqoursのみんなと比べて自分は出遅れているって言ったけど、そもそも先行して何の意味があるんだ?」

「意味……?」

「あぁ。血生臭い昼ドラ展開をご所望ならまだしも、お前たちの中での主役は俺だ。こんな寛容な男は世界中を探しても俺だけだぞ?」

「どういうことです?」

「神崎零って人間はな、女の子を1人に選ばねぇんだよ。誰かが悲しむなら全員を手に入れる。女の子を誰も泣かせない。つまり、出遅れてるからって焦る必要はないんだ。俺は全員と向き合って、そして答えを出すから安心しろ」

 

 

 最低だと言われてもいいさ。俺は俺のことを好きになってくれる女の子だけを愛せば、それでいいから。逆に言えば、俺を受け入れてくれる女の子はみんな受け入れてやるってことだ。もちろん軽い気持ちではなく、お互いの心の内を全て知り尽くした関係にまでならないといけないけどな。

 

 

「本当、何もかもが滅茶苦茶な人ですね。でもそんなあなたのこと、嫌いではありません」

「俺のことを嫌いではないって言う奴は、大抵俺のことが好きなんだけどね。ツンデレの性格くらいもう分かりきってるから」

「言っておきますけど、私はそのツンデレとやらではありません! Aqoursの常識人として、至極真っ当な意見を主張しているだけですわ!」

「…………ポンコツめ」

「今なんと仰いました!? 聞き捨てならない言葉が聞こえてきたのですが!?」

 

 

 自分の性格を素直に認めないところや、まだ自分を常識人だと信じ込んでいるところがまさしくあの生徒会長にそっくりだ。もう既視感しか感じず、だからこそ弄んだりからかいたくなっちゃうんだよ。

 

 でも、またこうしていつものダイヤが戻ってきてくれて嬉しかったりもする。どうやって俺を襲おうか画策して悶えていた時の彼女も可愛かったけど、弄ばれている時の顔を真っ赤にして反抗してくるその態度も可愛いよ。そう本人に言ったら、得意のツン属性を発揮して悶えてくれるだろうなぁと苦笑しながら思っていた。

 

 

「そういやダイヤ、俺にご奉仕してくれる手筈じゃなかったっけ?」

「な、なななななんのことでしょうか!?」

「お前から誘ってきたんだろ、夜の学校っていうホラームードの中で。あっ、分かった! お前廃墟でのプレイとか、ちょっと禍々しい場所でやるのが好きなんだろ?」

「変な性格を付け加えないでください!! 私は至って普通に、それも自分の部屋でとかホテルとかロマンチックな場所で――――って、何を言わせるのですか!! だからいつまで経っても変態の汚名を外せないのですよ!?」

「今のは完全に自爆だろ……」

 

 

 いつものように大声でツッコミを入れられるってことは、当初の緊張も解れたってことだろう。残念ながら奉仕される展開にはならなかったものの、こうしてお互いの距離が縮まっていけばいくほど、これから俺たちが身体的に交わる未来もある……かもしれない。

 

 

「お前が酔った時は浴衣が着崩れして、今にも脱ぎだしそうになってたのになぁ~」

「その時は通報します。先生にいつ襲われてもいいように、迅速に110番へ掛ける練習をしてますから」

「いつも俺に襲われる妄想をしてるって、それやっぱり――――」

「言わせませんよ!! それにあなたのことなんて想ってないですから! 自己防衛のためです!!」

「フッ、はいはい。もう帰るぞ」

「何故笑うのです!? ちょっ、ちょっと待ちなさい!!」

 




 今回の見所はツンデレながらも自分の想いを伝えるダイヤ――――もそうなのですが、意外と零君にも活躍の場があった回だと思っています。特にダイヤの悩み事を解決するために伝えたハーレム主人公のお手本のような発言は、この小説を象徴するセリフとしていつか彼に言わせてみたかったものです。そのセリフはただ数十話しか時が経過していない主人公に言わせても意味がないと思っており、300話以上の積み重ねでμ'sとも4年以上一緒にいる彼だからこそ意味の通るセリフになっていると思います。


 次回は秋葉さん、内浦で最後の大仕事編! ちなみに彼女の出番はAqours編ではこれで見納め……かも?



新たに☆10評価をくださった

そだいごみさん

ありがとうございます!

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