夫婦の営み(健全な方)みたいな雰囲気でお届けします!
「それにしてもさぁ、お前が一番変わったよな」
「どうしたんですか藪から棒に?」
俺は梨子の部屋で我が物顔で寝そべりながら、彼女の作ってくれたサンドイッチを頬張っていた。
今日は梨子の作曲の手伝いをするために彼女の家へ訪れている。今晩は両親がいないので家に来ませんかとまさかのお誘いをしてもらい、晩飯だけでなくこうして夜食までご馳走になっているのだ。もはやそこらのカップルとなんら変わりのない日常を過ごしているが、俺としても梨子と2人きりになれるこの状況を不思議に思っていない訳ではなかった。
「2週間前は俺が家の前にいるだけでも通報しそうだったに、今やこうしてお前から誘ってくるくらいだもんなぁ」
「それはそうですよ。あの時はただの痴漢魔という認識しかなかったんですから」
「でもそんな認識だったのに、俺を家に上げたのは凄い度胸だと思うけどな」
「あの時はあの時、今は今です。2週間もあれば心境なんて180度変わりますって」
あの頃は顔を合わせるだけでも威嚇され、なんとかこうして部屋に上げてもらった時も座ったまま動くなと無茶な命令を下されるくらいには嫌われていた。そう考えると梨子から家に誘われて、こうして談笑をしているだけでも世界線が変わったように見える。自業自得とはいえ、女の子から忌み嫌われる生活は少し辛かったから。
「お前の性格が丸くなったのは事実だけど、それでも手厳しいのは変わってないよな。この前だって俺が学校で暴走した時も、やたらツンツンしてたし」
「それは学校で生徒にセクハラする先生が悪いんじゃないですか……」
「裏を返せば、学校じゃなかったらいいってことか?」
「そうやってすぐに揚げ足を取る……。やめろとは言いませんけど、時と場所を選んでくださいってことです!!」
「へぇ……」
「な、なんですかその薄ら笑いは!?」
やめろとは言いませんって、2週間前の梨子だったら絶対に口にしない言葉だぞ。それが今では時と場所を弁えればしてもいいニュアンスの発言をするなんて、わざわざ揚げ足と取らなくとも彼女の俺に対する印象が変わったことが分かる。2週間前だったら確実にその鋭い目で突き殺されていたところだ。それが今となっては顔を赤くして乙女らしく恥じらい、あの頃の強面の面影は一切なかった。
「こうして男をすんなりと自室に連れ込んで、警戒心は0な訳? 以前にここへ来た時は凍りつくほどお前も空気も冷たかったのに、今日は穏やかで暖かすぎるから」
「もちろん何をされるのか分からないので、先生と2人きりになるのは危険だと思っています」
「やっぱり……」
「でも、それ以上に先生と一緒にいる時間が何よりも大切と言いますか。楽しみだったと言いますか――――って、私何を言ってるんだろ!? も、もうっ、またそうやって私を誑かして!!」
「お前が勝手に自爆したんだろ!? 何でもかんでも俺のせいにしておけばいい理論やめろよな……」
「それは申し訳ないですけど、先生と一緒にいるといつも調子が狂っちゃうんですよ……」
梨子は気付いていないようだが、その発言は目の前の男のことが好きだって告白してるようなものだぞ。これを言ってしまうと彼女の羞恥心に火をつけて家から追い出されそうなので、とりあえずは黙っておくが。
「それにしても、男女が深夜にこうやって1つ屋根の下で、しかも同じ部屋でくつろいでるなんて恋人同士みてぇだな」
「は、はぁ!? わ、わわわ私たち、教師と生徒ですよ分かってますか!?!?」
「そんなこと百も承知だよ。だから"みたいだ"って推定の表現で言ったんだよ」
「つ、つまり冗談ってことですか……。はぁ……」
「なに? もしかして、恋人同士って言われて嬉しかった?」
「な゛ぁ!? あっ、もう、はぁ!?!?」
「ゴメン、そこまで驚くとは思ってなかったよ……」
いつも一緒にいる千歌に隠れがちだが、梨子も彼女に負けないくらい表情変化が激しい。こうして俺の言葉1つ1つに毎回違う反応を返してくれて、からかう――おっと、ただダラダラとお喋りしているだけでも飽きることはない。2週間前だったらこうした会話のキャッチボールは愚か、向こうから話しかけてくることすらなかったから。
しかし梨子が戸惑ってしまうのも無理はない。年頃の男女が深夜、親のいない家で2人きりなんて過ちを犯してくれと言わんばかりのシチュエーションだからだ。もし千歌たちに俺が梨子の家に泊まっている事実を知られたら、確実にみんなに引き込まれ各家に引っ張りだこになってしまうだろう。そんな騒ぎを容易に想定できるから、梨子にとって俺と2人きりというシチュエーションは特別なのだろう。まあ実際に過ちを犯すかと言われれば、まだ彼女たちと行き過ぎた関係にはなれないので無理だけど、彼女たちから攻めてきてくれるんだったら多少はね?
「本題に戻るけど、確か次の曲って恋愛がテーマなんだっけ? だったらお前が今抱いている気持ちをそのまま作曲に込めればいいんじゃないか? 俺自身作曲の心得がないから、曖昧なことしか言えないけどさ」
「それはそうですけど……。できるならもっと、そのようなシチュエーションにならないと分からないというか……」
「つまりもっとイチャイチャしたいと、この俺と」
「だ、だからいつも直球すぎるんですよ先生は!!」
「女の子を手に入れるのに、奥手だったらどうしようもないだろ。それに俺は二兎追う者は二兎とも取る理論の貪欲な人間だ。だから常に受け手に回るなんて消極的な行動は絶対にしねぇよ。まあ過度な男女交友、言ってしまえばセックスにまでもつれ込むと話は別だけどな。その場合は女の子から攻めてきてもらうシチュエーションもありっちゃありだ」
「せ、セック!?――――や、やっぱり今日はそれが目的で!?」
「俺の話を聞いてたかお前……」
不純異性交友を本気で拒絶している人ほど、本当は心のどこかで期待しているという俺の解析したデータがある。もちろんμ'sから収集したデータなので一般女子相手には当てはまらないかもしれないけど、そもそも女の子へのセクハラ経験のある俺を誘ってきた時点でお察しだ。つまり彼女が取り乱しているのは俺と2人きりの空間が苦なのではなく、むしろ緊張や期待で高ぶっているということだ。その照れ隠しために拒絶したり驚いているふりを無意識にしてしまっているのだろう。ここまでが俺がここ数年で調べ上げた、自分の周りにいる女の子の特徴だ。
「作曲作りの為だ、せっかくなら2人きりのこの場をもっと活かそうじゃないか」
「活かすって……ま、まさか本当にエッチを!?」
「お前も大概脳内がピンク色だよな……。よくそれで昔の俺をくどくどと説教できたもんだ」
「女の子同士に多少の興味がある点では確かに否定できませんが、先生の変態さには流石に負けますよ」
「マジで? それじゃあ千歌や曜にムラムラしたことはないのか?」
「あ・り・ま・せ・ん!! 2人は親友ですし、そもそも3次元の女の子を無粋な目で見るのは申し訳ないじゃないですか」
「へぇ、意外と2次元で生きる人間だったのかお前。部屋を見る限りそうは思えないけど、案外オタク女子に近いのかもな」
「オタク女子と言わればその部類かもしれませんね。私はその自覚全くないですけど」
梨子は微量なレズ属性を持っているせいでオタク同人界隈に詳しく、更にピアニストでスクールアイドルでもあるリア充だ。内気な性格ながらもオタクともリア充とも話を合わせられるって、今思えば桜内梨子という女の子は物凄い優良物件ではないだろうか。彼女自身コミュ力のある方ではないが、今まで男性経験皆無なのが不思議なくらいだ。そもそも梨子が積極的ではない性格なので、世の中の男たちには彼女の魅力が伝わってなかっただけなのかもしれない。
だったらやることは1つ。こんな魅力的な梨子を自分のモノにする。そのために俺が人生でやってみたいことリストの中から1つ、コイツに託すとしよう。
「話が二転三転しちゃったけど、2人きりのこの場をもっと活かそうじゃないかって話だ。そのためにはお前にやってもらいたいことがある」
「やってもらいたこと……? まさか、とうとうヤられちゃうの……!?」
「何を想像しているのか大体分かるけど、そんな興奮するほどのことでもねぇよ。ほら」
「えっ、あっ……っと、これは?」
梨子は俺の投げた木製の細い棒、通称"耳かき"を両手で受け止める。
どうしてこんなモノが自分に渡されたのか、梨子は頭に"?"マークを浮かべていた。
「それが俺の夢の1つだ。女の子に耳掃除をしてもらいたい、ただ純粋な欲求だよ」
「言いたいことは分かりましたけど、まさかこのために耳かきを持ってきたんですか……?」
「あぁ。作曲のインスピレーションを口実に、お前に耳掃除をしてもらいたかったんだ。もうチャンスは今晩しかないと思ってな」
「口実だったらそう安々と漏らさないでくださいよ……。まあいいですけど」
「えっ、いいのか!?」
「だって先生がやりたいって言うから……。それに、私も興味がないわけじゃないので」
正直ダメ元で耳かきを持ってきたのだが、まさかこんなにあっさり承諾してくれるとは。いつかやろうやろうと思って思い出した頃には耳かきが手元になく、時間が経つとそのうち忘れてしまうため、μ'sの彼女たちにやってもらおうと思っても今まで実現できなかったのだ。
男なら誰でも夢を見たことがあるだろう、好きな女の子に耳掃除をされる夫婦の営み(健全な方)を。特に興奮することも性欲が滾ることもないが、女の子の手によって耳掃除をされているという現状に満足感を得る、俺もとうとうその時がやってきたんだ! 女の子から耳掃除を誘ってきてくれる展開もいいけど、年下の女の子に『やれやれ仕方ないなぁ』みたいな感じで耳掃除されるのもシチュエーション的には全然OK!! 二十歳を超えてもまだこんなことでテンションが上がるって、俺の精神もまだまだ子供なんだと思うよ。
「そうは言っても作曲もありますし、やるなら早くやりましょう。はい、ここに頭を置いてください」
「………………は?」
「えっ、横になってもらわないと耳掃除できないんですけど……」
「違う違うそういうことじゃない! どうして俺の頭をクッションへ誘導しようとしてるんだ!? 男女で耳掃除って言ったら、女の子の膝枕って相場が決まってるから!!」
「ひ、膝枕って……そんな夫婦みたいなこと!!」
「梨子、俺がただお前に耳掃除を頼むと思うか? この俺が何の考えも何の欲望もなしに……」
「どうせそんなことだろうとは思っていましたけど……」
どうせ女の子に耳掃除をされるなら、膝枕でその子の温もりを感じながらされたいというのが男の欲望でもあり性でもある。むしろ膝枕とセットでなければ耳掃除をされる意味ってほとんどないと思うのだが考えすぎ? ともかく、女の子に耳掃除処女を奪ってもらうのに最高のシチュエーションでないのは俺が許さないから。
「分かりました。先生のことですから強引にでも拝み倒してくるでしょうし、引き受けます」
「俺をおもちゃを買ってもらえない駄々っ子みたいに言うなよ……。でもありがとな」
文句を垂れつつも何だかんだ俺のワガママを受け入れてくれるのがいかにも梨子らしい。この俺に身体を許すなんて並大抵の度胸ではできないが、やはりそれだけ心を許してくれているってことだろう。
梨子は改めてその場で正座をして座りなおす。女の子に耳掃除される想像はこれまで何度もしてきたが、実際にされるとなると俺も緊張してきた。彼女は正座をしたままこちらを恥ずかし気な面持ちで見つめてくるので、恐らくもう準備OKの合図なのだろう。俺はゆっくりと梨子に近付くと、彼女の身体とは反対方向を向いて膝に頭を乗せた。
普通の枕と比べたら、膝枕の寝心地がいいとはお世辞にも言えない。だが女の子の膝枕は寝心地がいいとか、そんな次元の問題ではないのだ。女の子の膝に頭を乗せて見守られるように寝ることで、その子の母性を感じる。そして膝の上を占領することで、その子を独り占めしているという快感を味わう。その2つの愉悦こそが膝枕の醍醐味なのだ。
「大丈夫か? その体勢が辛くなったらいつでも言っていいからな」
「平気です。先生こそ寝心地はどうですか?」
「お前を独占してるって感覚で震えそうだよ」
「ま、またそんな恥ずかしいことを……もうっ」
「恥ずかしがるなら今のうちにたくさん恥ずかしがっておけよ。耳掃除の途中に手元がブレたら、俺の鼓膜がプッツリ逝きかねないから。耳掃除の処女を破ってもいいけど、鼓膜をぶち抜くのだけはやめてくれ」
「どうしていつもいつも一言表現が余計なんですか……」
「諦めろ。これが俺なんだ」
「はぁ……。でも安心してください、先生の耳が聞こえなくなっちゃったら、誰が私のピアノの演奏を聴いてくれるんですか? この世で一番ピアノを聴かせたい人の耳ですから、どんなことがあってもお守りしますよ♪」
梨子の奴、人には恥ずかしいセリフを吐くだの何だの言ってくるくせに、自分だって相当クサいセリフ放ってんじゃねぇか……。しかもちょっとドキッとしちゃったのが一生の不覚だ。2週間前だったら絶対にこんな関係になっておらず、ここまで心を開いてくれた彼女の発言だと思うとセリフの威力が格段に増す。
それにしても、『この世で一番ピアノを聴かせたい人の耳』と来たか。もう完全に告白だよなこれ……。本人は気付いているのか、それとも自然と口に出してしまったのかは知らないけど、後者だったとしたら普段から相当俺のことを意識してくれているってことだ。
「それでは失礼します」
「あ、あぁ……」
そして遂に、俺の穴に棒が挿入――もとい、
そうしている間にも、耳掃除が本格的に開始された。元々耳掃除は体感的に気持ちよくなってしまうものだが、梨子にされているという相乗効果もあっていつも以上の快楽に襲われそうだ。しかも彼女の膝を枕に寝転がっているせいか、徐々に睡魔が……。
「耳掃除をしろと言われましたけど、先生の耳綺麗じゃないですか」
「こんなことになると分かっていれば、数週間前から掃除せずに耳垢大量に溜め込んでいたけどなぁ……」
「掃除する身からしてみれば、それはそれであまり見たくない光景ですよ……。まあ実際に誰かの耳掃除をするなんて初めてですし、もしかしたらこれでも溜まっている方なのかもしれませんけど」
「なるほど。つまり梨子は俺の初めてを奪い、同時に俺も梨子の初めてを奪ったってことか」
「だから余計な一言が多すぎるんですよ先生は!! 私の手元が狂って耳が聞こえない状態になってもしりませんよ全く……」
「だけど全力で守ってくれるんだろ、俺の耳」
「あまりふざけていると気が変わっちゃうかもしれませんけどね」
怖いよ梨子さん……。そういや海で合宿した時も、千歌たちに引っ付かれている俺を見て病み成分を大いに発揮してたっけ。普段から俺の放つ発言も容赦がないように、下手なことをすれば耳をプッツリと逝かれてしまうかもしれない。確かに俺の耳は今梨子の手の内にあるから、その聴覚を生かすも殺すも彼女次第ってことだ。稀にヤンデレちゃんになることを考えると、梨子に弱みを握られるのだけはヤバイと思うよ……。
しかし言葉とは裏腹に、梨子は丁寧に耳掃除をしてくれている。その手捌きは初めてとは思えず、的確に俺の気持ちよくなるところを耳かきで優しく刺激していた。その快感で俺が少し頭を動かしてしまっても彼女は動じることなく、むしろ俺の動きに合わせて膝を整えたり耳かきを動きを変える。そのおかげで俺は彼女からの耳奉仕を気兼ねなく体感することができた。
こうして見ると、梨子の耳掃除の仕方や気遣いが熟達した人妻力に匹敵すると言っても過言ではない。俺もう、一生梨子の膝の上で生活してもいいかも……。
「こちら耳の掃除は終わりましたので、次は反対の耳ですね」
「こうでいい?」
「な゛っ!? ど、どうしてこっち向きに……!?」
どうしてと言われても、反対の耳を見せろと言われたから
「脚を反対側に向ければわざわざこっちを向く必要なんてないのに……」
「わざわざ脚を反対に向ける方が面倒だろ。顔をお前の腹に向けるだけでいいのに」
「でもこの体勢だと、耳掃除をしている時に先生の顔が見えてしまって気が散ってしまうと言いますか……」
「俺は耳掃除をする梨子の真剣な顔が見られて嬉しいけどね」
「そ、そんなことしなくてもいいですから!! 目を瞑ってください目を!! でなきゃ耳掃除してあげません!!」
「はいはい……」
そんなに顔を赤くして命令しなくても、鼓膜を人質に取られているお前に従うしかないってのに。まあ目を瞑っていようがいまいが、俺はこの状況さえ楽しめれば何でもいいけどね。むしろこうして梨子の腹に顔を向けていることで彼女の香りが漂ってきて、さっきよりも心地よい気持ちよさと眠気に誘われるから目を瞑ろうが関係なかった。
そして再び耳かきが俺の耳の中へ進行する。数秒前は顔を真っ赤にして戸惑っていたのに、相変わらず耳掃除だけは丁寧で安定していた。迷走神経を耳かきで優しく刺激され、襲ってくる眠気の勢力が更に増す。頭も程よくぼぉっとしてきて、意識の半分は既に夢世界へと旅立っていた。
そんな俺の状態を知ってか知らずか、梨子は耳掃除をしながら一人言のように小さな声で喋りだした。
「先生と出会った頃は、本当に近付くのも嫌でした。言動も軽々しかったので、私たちのことをセクハラの対象にしか見ていないと思ってましたから」
「…………」
「だから私の秘密が先生にバレた時は、人生が終わっちゃったなぁ思いましたよ。普段から先生に厳しい態度を取っていた私です、先生は報復も兼ねて千歌ちゃんたちにその秘密をバラすだろうと考えていたんです」
「…………」
「でも先生は私の秘密を守り抜いてくれた。あれだけ先生にヒドイ態度を取っていた私を守ってくれたんです。そして幽霊騒動の時も幽霊さんから私たちを本気で庇ってくれて、その時にようやく分かりました。先生は真剣に私たちと向き合おうとしている……と」
「…………」
「その事実を知ってからですかね。今まで先生と一緒にいる時間が辛かったのに、いつの間にか楽しくなっていました。一緒にお喋りするだけでも、ただ隣にいるだけでも……」
「…………」
「実は先生のことが頭から離れずモヤモヤしていた時期がありました。しかし西木野真姫さんに悩みを相談して、ようやく気持ちの整理がついたんです。私は……」
「先生のことが、好きだって……」
………………
………………
「あ、あれ? 先生??――――って、寝てる!?」
………………
「全然反応がなかったから、もしかしたらとは思ってたけど……なんだかなぁ。でも今思い返してみれば聞かれてなくてよかったかも。恥ずかしさで手元が狂って、先生の耳をダメにしちゃいそうだったから……」
………………
………………
「あっ、先生のここ……膨らんでる? もしかして、私の膝枕と耳掃除で興奮しちゃったのかな? フフッ、本当に変態さんですね」
………………
………………
「…………ゴメンなさい先生。私、先生のことを散々変態だの痴漢魔だの言いましたけど。私も……同じみたいです。先生のを見て、私……」
………………
………………
「先生……寝てますよね?」
………………
………………
「こんなことで先生に恩返しが出来るとは思えませんが、先生だったら一番喜びそうなことなので……。耳掃除もそうですがこんなことをするのも初めてなので、気持ちよくさせて挙げられるか分かりませんが、精一杯ご奉仕頑張りますね。私の今の気持ち、たっぷり受け取ってください」
………………
………………
「それでは、失礼します」
………………
………………
………………
………………
~※~
「んっ……う~ん……あ、あれ……」
「あっ、目が覚めましたか?」
「あぁ……悪い、寝ちゃってた」
「いえいえ。可愛かったですよ、先生の寝顔♪」
「男に可愛いって言うのはよせ……」
どうやら梨子の膝枕と耳掃除が気持ちよすぎて、いつの間にか寝ちゃったみたいだ。こんなに気持ちがいいのなら、毎晩俺とベッドを共にして欲しいくらいだよ。毎晩女の子たちが代わる代わる膝枕をしてくれる展開も全然アリ。これでまた1つ俺に夢が出来てしまったぞ。
「もう深夜の1時か。作曲の手伝いに来たのに、このザマはねぇよなぁ……。」
「私は今からでも全然元気に作業できますよ」
「眠くないのか?」
「はい。先生のおかげでバッチリ目が覚めましたから……」
「ふ~ん、俺のおかげね……。それじゃあ今から作曲するか」
「はい!」
「よしっ。でもその前にトイレだけ借りてもいいか?」
「どうぞ。部屋を出て右手にありますので」
敢えて何も語らないつもりだったけど、梨子の冷静さを見てたら気が変わった。
俺は部屋の入口で立ち止まると、その場で彼女の方へと振り向いた。
「初めてにしては上手かったぞ。耳掃除も……あっちの方もな」
「へ……? あっ……あ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁああああああああああああああああああああああああ!?!?」
たっぷりと受け取らせてもらったよ、お前の気持ち。
そしてその気持ちには、いつか絶対に答えてやるから。
個人回にしては珍しく女の子側の葛藤が描かれなかった分、今回は夫婦度増し増しでお送りしました! こんなやりとりをしているのにまだ付き合っていないとか、作者の自分でさえにわかには信じられません(笑)
次回はAqoursの個人回ラスト! 最後の1人であるあの子で締めくくります!